「韓国政府が韓国国内の表現の自由を弾圧しない限り大使を戻さない」というのが日本政府の意思なら大使を戻す必要は無いと思う。

2週間前にアップしそびれていた記事をアップ。
日本では表現の自由は大して価値のないもの、あるいは漫画やポルノの自由と同義と考えられていますが、先進国では表現の自由は守るべき大事な権利であると認識されています。

日本「少女像撤去の動きがなければ大使の帰任はない」

ハンギョレ新聞 2/27(月) 6:53配信
 日本政府が「平和の少女像」をめぐって韓国を全方向から圧迫している。
 韓国外交部が釜山の日本領事館前に設置された少女像移転のための議論の必要性を盛り込んだ公文書を釜山市に送ったこととと関連して、日本外務省はこれが実際に撤去に向けた動きにつながるかを確認した後に駐韓日本大使を帰任させるか否かを判断する方針だと、NHKなどが26日伝えた。韓国政府が釜山の日本領事館前の少女像を撤去するための直接的動きを見せなければ、先月9日に一時帰国させた長嶺安政大使の帰任措置はないという話だ。
 韓国外交部は最近、釜山市東区に対して少女像移転のための議論が必要だという公文書を送った。岸田文雄日本外相は24日、これについて「プラスの動きだが、(日本が)願うのは日韓合意の履行であり、その水準には到達していない」と話した。
(略)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170227-00026630-hankyoreh-kr&pos=5

何度も指摘してきた通り、少女像の設置がウィーン条約に抵触するという日本側の主張はかなり無理がありますし(参考:ウィーン条約及び国内法に関するいくつかの判例)、韓国の国内法的にも“行政による撤去”という措置を正当化する法的根拠は極めて薄く(参考:日本の法制でも強制撤去は難しいのに、韓国では簡単にできると思ってる根拠は何なのかと)、事実上、韓国政府には少女像を撤去するための法的根拠が存在しません。
2015年の日韓政府間合意でも、それを理解していた韓国政府は“少女像を撤去・移転する”といった内容で合意せず、ただ「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する」*1とだけ合意したわけです。

民間団体が設置した物を、それも表現の自由に関わるものを公権力が容易に撤去・移転できないのは民主主義国家においては常識のはずですが、日本においてはそれが常識ではなく、特に韓国・中国が関わる本事案については顕著にそれが現れています。
今の日本社会では政府権力と自らを同化して考える傾向が強いため、自らの権利が直接侵害されない限り政府権力を行使する行政代執行や基地建設工事の強行などに対して、程度の差はあれ、歓迎・容認する人がほとんどです。生活保護受給者や沖縄県民、朝鮮学校など在日外国人に対する公権力行使に対し不当性を感じるどころか、内心“よくぞ言ってくれた”とばかり、沈黙という容認を示しているのはその現われといえます。

日本政府は少女像の撤去を要求し、日本社会もそれに同調しました。韓国政府が日本政府・日本社会の要求に応えるためには、法の支配と表現の自由と財産権の尊重を無視した強権発動によって市民団体を弾圧する形で実行するしかありません。
これは明らかに民主主義という価値観に反する行為ですが、日本政府・日本社会はそれを韓国政府に求めています。
韓国社会が持っている民主主義という価値観を、今の日本社会は共有していない、という他ありません。

私は以前、こう書きました。

2015年の日韓政府間合意については、文言としては悪くないとも思っています。日本政府には先の記事で言及した対応をし、韓国政府には関連団体と協議して日本政府・関連団体共に了承できる形での少女像のあり方を韓国政府仲介の下で考え実施する、という方向も文言上はあり得る話でした。
あり得る形としては、韓国の財団からの出資で慰安婦記念館を作り、そこに少女像を移転し、移転にあたって日本大使レベル以上の高官が元慰安婦や関連団体の代表を前に謝罪と癒やしの言を述べて今後の和解を求める形式をとること、等が考えられます。
これは合意中の「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」に相当し、その結果として日本政府の希望通り少女像が移転されるわけで、しかも「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて」という合意文言にも適合します。「適切に解決される」努力というにふさわしいでしょう。
むしろ韓国政府が強引に少女像を撤去・移転することは「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて」とある合意に反します。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20170113/1484261043

「韓国の財団からの出資で慰安婦記念館を作り、そこに少女像を移転し、移転にあたって日本大使レベル以上の高官が元慰安婦や関連団体の代表を前に謝罪と癒やしの言を述べて今後の和解を求める形式をとること、等」といった措置で、日韓外交上の慰安婦問題はおそらくこれで収束しただろうと思っています。

ですが日本政府には、というより安倍政権にはそれができませんでした。その少なくない部分で安倍晋三個人の思想信条が、上記のような形式での解決の邪魔をしたわけです。安倍晋三個人の思想信条上は、“慰安婦問題において日本には一切の責任がない韓国側の捏造であり、はした金を恵んでやるから黙ってろ”という日本側の態度に韓国側は従うべき、という認識でしょう。ですから、安倍氏の自分の言葉で元慰安婦らに謝罪の言を述べることができなかったのですし、韓国政府に対して韓国市民団体を弾圧するよう圧力をかけ、日本国内には韓国での弾圧煽動行為に同調するように印象操作を行っているわけです。

個人的には日韓間に限らず、外交関係を良好・友好的に回復・維持することが重要だと考えていますので、日韓関係も改善してほしいと思いはしますが、関係改善の条件として相手国内における人権弾圧を強いるような日本政府のやり方には全く賛同できませんし、韓国側もそれに応じるべきとは思いません。

「少女像撤去の動きがなければ大使の帰任はない」と日本政府が言うのならば、韓国側には“日本政府が少女像の撤去を大使帰任の条件だとするのなら、大使帰任は不要である”と主張してくれることを望みます。

個人的に期待の持てるニュースだと感じたのが以下の2つです。
鍾路日本大使館前の少女像「公共造形物」として管理…法的管理下へ(中央日報日本語版 2/28(火) 9:07配信 )
警察が禁じた釜山総領事館周辺での集会 地裁が許可=韓国(聯合ニュース 2/27(月) 19:25配信)

道路法上の道路管理者である自治体が少女像を「公共造形物」として管理する条例が成立すれば、韓国国内法上全く問題のない設置物となります。つまり、日本側の論者が少女像を“不法だ不法だ”と騒いできた根拠が消滅することになるわけです。これは朴政権が弱体化しているためでもありますが、何よりも日本政府が露骨に日韓政府間合意に明記されてない“撤去”を執拗に要求したことによる韓国社会での反発が原因と言えるでしょう。
韓国政府は、道路の管理者たる自治体の判断に介入することは原則としてできません。日本では中央政府が自治体に圧力をかけるなど普通に行われ、日本社会もそれに何の不思議も感じないほど鈍感になっていますが、韓国ではそうではないことに希望が持てますね。