(2018年12月13日は南京事件発生から81年)毎日新聞による「南京条例」報道記事に関する件

南京事件は1937年12月13日の南京陥落前後から始まっており、その12月13日が南京事件の記念日とされています。
で、その日に施行される条例について以下のような報道がありました。

「南京条例」13日に施行 日本の軍国主義連想行為など禁止

12/10(月) 18:24配信 毎日新聞
 【北京・浦松丈二】日中戦争中の1937年に中国・南京を占領した旧日本軍が多くの中国人を殺害した南京大虐殺から81年になる13日、日本の軍国主義を連想させる行為を禁じ、追悼行事を厳粛に行うための条例「南京市国家公式追悼保障条例」が施行される。
 中国では、日本の軍国主義スタイルを崇拝する一部マニアが「精神日本人(精日)」と呼ばれている。今回施行される条例は「精日」を処罰するための根拠法になると期待されている。
 条例は南京市のある江蘇省の人民代表大会(地方議会)が11月23日に採択。追悼施設や戦場跡地などで日本の軍国主義を象徴する軍服や旗、マークなどを使った写真、ビデオ撮影を行ったり、ネットで拡散したりすることを禁じている。
 条例はまた、追悼行事に合わせ、市民に1分間の黙とうや通行車両はクラクションを鳴らすことを義務づけている。規定に違反した場合は、公共秩序を乱したなどとみなされ、関連法に基づき処罰される。
 南京市では今年2月、軍服マニアを名乗る中国の若者2人が日の丸の旗を持ち、旧日本軍をイメージした軍服を着た写真をネットに拡散する騒動が起きていた。
 ネットでの炎上を狙った、この種の騒ぎは中国各地で散発的に発生しており、「精日」の投稿を発見し、投稿者を特定する「抗日」ブログも人気を集めている。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181210-00000025-mai-cn

まあ、追悼施設の周辺で配慮に欠けた行動を規制すること自体は理解できるのですが、黙祷とかの義務付けはどうなのかとは思いますね。まるで昭和天皇死去の時の日本みたいな自粛を求めてるようで。

ただ、条例の原文を確認してみると、罰則をもって黙祷を強制しているような感じではないようです。
南京市国家公祭保障条例

 条例はまた、追悼行事に合わせ、市民に1分間の黙とうや通行車両はクラクションを鳴らすことを義務づけている。規定に違反した場合は、公共秩序を乱したなどとみなされ、関連法に基づき処罰される。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181210-00000025-mai-cn

毎日記事の上記部分に対応する条文は第12条で、以下のような内容です。

第十二条 举行国家公祭仪式鸣放警报时,除了正在执行紧急任务的特种车辆、正在从事特种作业的人员以外,机动车、火车、船舶和其他人员应当遵守下列规定:
  (一)在主城区道路上行驶的机动车停驶鸣笛致哀一分钟,火车、船舶同时鸣笛致哀;
  (二)道路上的行人、公共场所的所有人员就地默哀一分钟;
  (三)机关、企事业单位和人民团体工作人员、在校师生就地默哀一分钟。

http://www.jsrd.gov.cn/zyfb/dffg1/201811/t20181128_508756.shtml

広島や長崎での原爆記念日の際の黙祷を参考にしているように思いますが、条例で制定するような性質のものかという違和感は拭えません。
まあ、それはともかく、この12条違反に罰則があるのかというと、この条例には12条違反に対する罰則は規程されていません。第六章に法律責任として、罰則などが規定されているのですが、この中には12条に対する明示規定がありません。

第六章 法律责任
  第四十条 违反本条例第二十一条规定,在国家公祭场所管理区实施禁止性行为的,由国家公祭场所管理区综合管理机构责令改正,并依法予以处罚。
  第四十一条 违反本条例第二十八条、第二十九条规定,侮辱、诽谤他人,寻衅滋事、扰乱公共秩序,宣扬、美化侵略战争和侵略行为,构成违反治安管理行为的,由公安机关依法给予治安管理处罚;构成犯罪的,依法追究刑事责任。
  第四十二条 违反本条例第三十条规定,侵害南京大屠杀死难者、幸存者的姓名、肖像、名誉等合法权益的,应当依法承担民事责任。
  南京大屠杀死难者的近亲属、南京大屠杀幸存者向人民法院提起诉讼的,市、区人民政府确定的法律援助机构应当无偿提供法律服务。
  第四十三条 违反本条例关于国家公祭保障工作、国家公祭设施保护和管理以及其他相关规定,构成违反治安管理行为的,由公安机关依法给予治安管理处罚;构成犯罪的,依法追究刑事责任。
  第四十四条 市、区有关行政主管部门、国家公祭设施保护和管理单位的工作人员不履行本条例规定的职责,有玩忽职守、滥用职权、徇私舞弊行为的,由相关单位或者监察机关依法给予处分;构成犯罪的,依法追究刑事责任。

http://www.jsrd.gov.cn/zyfb/dffg1/201811/t20181128_508756.shtml

強いて言えば43条が相当しそうな気がしますが、「市民に1分間の黙とうや通行車両はクラクションを鳴らすことを義務づけている」に関連した罰則という解釈はちょっと無理がありそうに思います。もちろん、中国の公安が条例をどのように運用するのかは別の問題として存在はしますが、条例条文だけを見る限り、“黙祷しなければ処罰される”かのような毎日記事の記載は不適切な気がします。

ちなみに罰則規定の主な対象は、第28条から第30条の違反行為に対するもので、その内容はこんな感じです。

  第二十八条 禁止任何单位和个人歪曲、否认南京大屠杀史实,侮辱、诽谤南京大屠杀死难者、幸存者,编造、传播含有上述内容的有损国家和民族尊严、伤害人民感情的言论或者信息。
  第二十九条 禁止在国家公祭设施、抗战遗址和抗战纪念馆等地使用具有日本军国主义象征意义的军服、旗帜、图标或者相关道具,拍照、录制视频或者通过网络对上述行为公开传播。
  第三十条 禁止任何单位和个人侵害南京大屠杀死难者、幸存者的姓名、肖像、名誉等合法权益。
  第三十一条 任何单位和个人都有权对违反第二十八条、第二十九条、第三十条的行为进行批评、劝阻和制止,并向有关单位举报。

http://www.jsrd.gov.cn/zyfb/dffg1/201811/t20181128_508756.shtml

第28条は、南京事件を否定する歴史修正主義言説や被害者・生存者に対する侮辱・誹謗を禁止する規定で、違反した場合は第41条に基づき刑事責任を問われます。第29条は、追悼施設などで旧日本軍のコスプレとかすんな、という規定で、違反した場合はこれも第41条に基づき刑事責任を問われます。
第30条は、被害者・生存者の名誉や合法的な権利を毀損・侵害を禁止する規定で、違反した場合は第42条に基づき民事責任を問われます。
第31条は、第28条から第30条までの違反行為を見つけたら通報してね、という規定ですね。

個人的には第28条~第30条までの規定は、そりゃまあ罰則付きで禁止されてもしょうがないところがあるよね、と思いますので、あまり問題とは思えません。ですが、第12条については、文言上、義務規定なのか、あるいは推奨程度の内容なのか、その辺のニュアンスはよくわからないのですが*1、いずれにしてもちょっとどうかなと思いました。

毎日記事で評価できる部分

(略)日中戦争中の1937年に中国・南京を占領した旧日本軍が多くの中国人を殺害した南京大虐殺から81年になる13日(略)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181210-00000025-mai-cn

「とされる」とか「いわゆる」とかいう文言を使わずに南京大虐殺について記載している点については評価できます。



*1:そもそも中国の法律体系をよく知りませんし。