北海道、東京、神奈川、千葉、愛知、三重、奈良、和歌山、京都、大阪、沖縄を封鎖すべきと主張する人がいるだろうか

感染症拡大を防ぐために「中国全土からの外国人入国禁止を断行」しろとか言ってる連中がいますけど、すでに日本国内でも感染者が出ている以上、彼らは感染者のいる北海道、東京、神奈川、千葉、愛知、三重、奈良、和歌山、京都、大阪、沖縄*1の封鎖も主張しないとダブスタなんじゃないですかね。

言うまでもないですが、感染症対策として「中国全土からの外国人入国禁止を断行」なんて無意味ですし、同様に都道府県レベルで感染地域の隔離なんてのも同じで、上記は皮肉です。武漢のように大流行している地域を旧正月前に封鎖したのは拡大阻止・遅延という意味で効果はありますけどね。

潜伏期間が2週間以上でその間にも感染能力があるという時点で完全封じ込めは不可能なので、水際ではある程度のスクリーニングをやりつつ、国内では感染者が重症化する前にピックアップして治療につなげる体制を作る以外にないわけで、自らの差別感情を満足させるために感染症対策を装ったヘイトをまき散らさないでほしいですね。



赤十字の例の件

以前書いた例の赤十字のポスターの件。

前回と違って今回は、男女のキャラクターが示されており、公的広報のガイドライン内閣府の「男女共同参画の視点からの公的広報の手引き」(PDF))に抵触しないと思います。
ガイドライン中で私が注目した点は「5-1 女性を飾り物として使っていませんか?」という箇所で、その点で見る限り、前回は女性キャラをアイキャッチャーとして使用していたといえますが、今回はそうなっていないといえるでしょう。
まあ、歩行者が通りすがりに見るポスターと配布された者がじっくり見れるクリアファイルとでは、媒体の性質が異なるため、ポスターとして今回のような絵を使うのはちょっと難しいように思えますので、単純に比較できるものでも無さそうですが。

ただ、前回のポスター批判の文脈には、「環境型セクハラ」だとか、キャラクターのスタイルとかを問題していたものも多く(というより初期の拡散者である弁護士ははっきりと「環境型セクハラ」だと非難していましたが)、今回のクリアファイルで問題なしとするならば前回のそれらの批判は的外れだったともいえそうです。

あと個人的な意見ですが、前回のポスターは問題で今回のクリアファイルは問題なしとする論者はその違いをちゃんと言語化して示すべきだと思います。



雑感

河添恵子の反中プロパガンダ活動

新型肺炎、中国の“衝撃”惨状 感染者「27万人以上」予測も…習政権は“隠蔽”に奔走、「国賓」来日に潜む危険 中国発「新型肺炎」 (2020.2.3 河添恵子氏)

冒頭「中国本土で、新型コロナウイルスによる肺炎が「パンデミック(感染爆発)」状態となっている」とか言ってるんですが、パンデミックと言えば普通は感染症の世界的大流行のことなので、その辺から呆れる。
その上、荒唐無稽な生物兵器説を支持する有様。その根拠というのがこれ。

 なぜなら、武漢天河国際空港の税関で「コロナウイルスの感染が1例検出された」という想定での緊急訓練活動が昨年9月18日に実施されたことを、湖北省の官製メディアが報じているからだ。

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200203/for2002030007-n1.html

同じコロナウイルスであるSARSの感染を経験している中国で、「「コロナウイルスの感染が1例検出された」という想定での緊急訓練活動」が実施されたというのが根拠だとか河添氏は言っていますが、アホかとしか言いようがありませんね。
日本でも新型インフルエンザの感染を想定した訓練は頻繁に行われていますが、それで新型インフルエンザが流行したら日本の生物兵器扱いするんですかね?

大阪府条例関連

大阪府が18歳未満との交際めぐり条例改正案「真剣」以外は違反に(2020年2月2日 10時1分 読売新聞オンライン )

処罰対象が「「真剣」以外」であることにやたら批判的な意見を見かけますが、合意の下で性的行為を交わす17歳と16歳のカップルが1年後に同じ事をしたら違反になるとかになったらまずいとか思わないんですかね。それとも性的行為を行った時点で17歳と16歳の双方を罰するんですかね。

731部隊関連

『僕のヒーローアカデミア』キャラ名「丸太」が「731部隊連想させる」と海外ファンから抗議 ジャンプ編集部が名前の変更を発表 作者と協議の上で変更を決めたとのこと。(2020年02月03日 20時40分 公開)

まあ、英断だと思う。
ガンダムで出てくる「ジオン」の英語表記も元は「ZION」だったのが、エルサレム地方の歴史的地名であるシオン(ZION)と同じ英語表記だということで「ZEON」に変更したと聞くが、ナチスに大量虐殺されたユダヤ人から見れば劇中で大量虐殺を行うジオン公国エルサレムの古名と同じ表記にされたら嫌であろうし、当然の配慮だと思うので、本件も同じ認識。

そもそも日本の戦争犯罪について日本国内の理解があまりにも乏しいのが遠因ではあろうが。

新型コロナウイルス関連1

武漢の感染者、実際は39倍? 帰国した邦人と比較(2/4(火) 9:18配信 共同通信)

こういうのを見て“中国は感染者数を隠蔽している”とか主張する連中があふれ、それを信じる連中もわんさといるんだろうけど、大規模感染の起きている武漢で確認できた感染者数が実際の感染者数よりも少ないのは当たり前で、隠蔽とかの証拠にはならないんだよね。

医療資源が限られている以上、病院を訪れる患者のうち重症な人を優先的に検査して当たり前。その段階では軽症者中に感染者がいたとしてもそれを検査・確認する余裕がない。医療体制が拡充するにつれて、検査が軽症者にも行われ、見かけ上の感染者数は増えていき、最終的には症状の出た患者中の感染者数が確定する。最後まで症状の出なかった感染者については、感染が終息したのちに疫学的な調査を健常者含めて行えばわかるくらい。

武漢市の1000万人全員を検査することなど不可能なので、無症状も含めた感染者数なんて予測以外はできないので隠蔽とかになりようがない。

隠蔽する気なら感染者数や死者数自体を公表しないだろうし、公表数字が実際に把握している数字と違うとかやっていたら、保健当局が感染状況を把握することを困難にするだけで中国当局にとってもデメリットしかないんだよね。

新型コロナウイルス関連2

橋下氏、新型コロナウイルス日本人感染に「国会は何をやっている!」停留措置を主張(1/29(水) 10:53配信 デイリースポーツ)

これも「新感染症」として扱えば、検疫法34条の4で停留できるので、必要ならそう対処すればいいだけの話。

安易な政権批判よりも安易なリベラル・左翼批判しとけばウケると考える風潮の方がよほど危険

この件。
古市氏「リベラルや左翼は躊躇しないのか」橋下氏「強制は言語道断、恐ろしい」法的根拠なき新型コロナウイルス対策を批判(2/3(月) 14:01配信 AbemaTIMES)

“真面目過ぎる美少女を常識に捕われないはみ出し者が救う”という構図で語るのが好きな人たち

よく言われるのが“日本は真面目過ぎて国際法を過度に順守しようとするため、国際社会でたかられる”という自慰史観の下、“歯に衣着せぬ論者が日本的美徳である沈黙を破って正論をぶつける”という日韓関係や日中関係では特に顕著に現れる図式です。
多くの場合、前提からして間違っており、ぶつける“正論”も自称でしかないお粗末なものなのですが。

橋下徹氏や古市憲寿氏のような論者の場合も同じで、“日本は法治国家でガチガチすぎて緊急事態に対応できない”という図式を好み、冒頭の記事も同じです。
彼らに言わせれば、一応“日本は法治国家でガチガチすぎて緊急事態に対応できない”というのが政府批判のつもりらしいのですが、単純に国家権力を統制するための現行法を緩めろという主張にすぎません。

さて。

新型コロナウイルス感染症法上の「新感染症」または「指定感染症」と指定しておけば合法的に検査を強制できたことを無視する橋下氏

 「2003年にSARSが広がった時が最後の改正だが、当時、日本に来る外国人観光客は500万人で、中国からは47万人だった。それがビジット・ジャパン・キャンペーンによって、今や年間3000万人、中国だけでも1000万人だ。規模が全く違う。にも関わらず、法律は2003年で止まっている。このような感染症は徐々に感染力などがわかってくるものだが、大事なのは、そうした事がわからない状況下でどうするのか、ということだ。今回、その出だしのところで躓いたと思う。本当は最初の段階で、潜伏期間くらいは入国をちょっと待ってよ、発症しなかったら入ってどうぞ、というような措置を取るべきだった。ただ、それができないのは法的根拠が無いからだ。国会議員が2、3日くらい徹夜すれば法律は作れるのに、やらないよね。だけど今回、チャーター機の日本人には検査を受けさせ、ホテルに移動させた。法的根拠がないのにやっている。本当はやってはいけないことだけど、もし日本人にやったのなら、どうしてそれを中国人観光客に対してやらなかったのかと思う」。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200203-00010015-abema-soci

新型コロナウイルス感染症法上の「新感染症」と指定すれば法的に検査を強制できますし、「指定感染症」と指定するにしても政令で済み周知期間を考慮してもチャーター便の第1便が到着した1月28日*1までに法的根拠を準備することは可能でしたので、橋下氏の言説は間違いです。

「本当は最初の段階で、潜伏期間くらいは入国をちょっと待ってよ、発症しなかったら入ってどうぞ、というような措置を取るべき」「国会議員が2、3日くらい徹夜すれば法律は作れる」というのは無茶苦茶で、武漢市における原因不明肺炎について厚労省がプレスリリースを出したのは1月6日*2、その時点では、確定例は59例、死亡例なし、感染経路不明、ヒト-ヒト感染の証拠もない状況でした。1月7日に武漢市からの帰国者及び入国者に対する自己申告の呼びかけ*3が開始され、1月16日になってようやく日本国内で1例目の患者が発生し「現時点では本疾患は、家族間などの限定的なヒトからヒトへの感染の可能性が否定できない事例が報告されているものの、持続的なヒトからヒトへの感染の明らかな証拠はありません」という判断になっています。この1例目の患者は、1月6日に日本に帰国しています。

さて、橋下氏はいったいいつの時点で「潜伏期間くらいは入国をちょっと待ってよ、発症しなかったら入ってどうぞ、というような措置を取るべき」だったと考えているんですかね?
そもそも橋下氏自身が言っているように「日本に来る外国人観光客は(略)今や年間3000万人、中国だけでも1000万人」なわけですから、具体的な潜伏期間もわからないうちから「潜伏期間くらいは入国をちょっと待ってよ、発症しなかったら入ってどうぞ」という対応をどうやって取れというのでしょうかね。

「もし日本人にやったのなら、どうしてそれを中国人観光客に対してやらなかったのかと思う」というのも子供じみた主張にすぎず、そもそも1月28日時点で新型コロナウイルスを「指定感染症」とする政令が施行されていれば、日本人に対しても中国人に対しても同じ対応が取れました。
これは政令での指定タイミングが遅かったという安倍政権のミスです。

任意同行という強制が横行しているのに・・・

僕たち弁護士は、刑事訴訟法でそこをガチガチにやる。もし同じようなことを警察が尿検査でやったら、違法捜査・無効になってしまう。それと同じようなことをしろと平気で政治家や元官僚が主張している。言語道断だし、恐ろしいなと思った。僕だって“大阪のヒトラー”と言われたこともあったけれど、権力の使い方については、ものすごく慎重にやらないといけないと考えている。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200203-00010015-abema-soci

“任意”という名目で強制する警察のやり口が見えていないんですかね・・・。
繰り返しますが、感染症法上の「新感染症」または「指定感染症」に指定しておけば検体採取は合法的に強制できましたので、橋下氏の指摘はあたりません。

あと、橋下氏は「権力の使い方については、ものすごく慎重にやらないといけないと考えている」と言っていますが、橋下に関する週刊朝日記事の連載を停止させるために親会社に圧力をかけて停止させたのは、どうみても権力を慎重に使ったとは言えないでしょう。合法的に「ガチガチにやる」のならば、裁判所に訴えて記事の差し止めや名誉棄損などを訴えるのが正しいやり方でしたが、橋下氏は首長の立場を利用して朝日の取材を拒否するなどの圧力で連載を停止させる正しくないやり方をとっています。

橋下氏に便乗してリベラル・左派批判する古市氏

 古市氏も「僕はもっと冷静でいいと思う。じゃあ怖がっている人はインフルエンザの予防接種をしていますか?という話だ。既存の肺炎や風疹だってあるわけで、新型コロナウイルスの肺炎だけがものすごく怖いものなのか。少なくとも現時点では新型コロナウイルスとそれによる新型肺炎だけを怖がるのは、ちょっと行き過ぎなんじゃないか。政府もやるべきことをやっているし、決定的にダメなところは無いと思う。ただ、せっかく感染予防のために帰国した人たちをホテルに移したのに、相部屋というのは意味がないのではないか」とコメント、「むしろ怖いなと思うのは橋下さんの指摘のとおり、人命を掲げれば、何でも許されるのかということ。普段、リベラルや左翼の人は憲法の緊急事態条項導入などを批判しているくせに、いざ何か起きると人権を制限することに何も躊躇がない。それが不思議だし、すごく気持ち悪い」とコメントしていた。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200203-00010015-abema-soci

何度も言いますけど、検査自体は感染症法の「新感染症」または「指定感染症」に指定しておけば合法的に強制できました。日本国内で患者が発生した1月16日から10日以上も経ってから、新型コロナウイルス感染症を「指定感染症」に指定する政令を公布し、施行は2月7日とか、安倍政権の対応は明らかに遅く、「政府もやるべきことをやっている」という古市氏の評価は政権寄り過ぎます。

「むしろ怖いなと思うのは橋下さんの指摘のとおり、人命を掲げれば、何でも許されるのかということ」という主張もおかしく、同様に“人命を掲げて”憲法改正を主張した自民党に対してはスルーなのも不思議で、「すごく気持ち悪い」ですね。



国際保健規則を踏まえずにWHOを非難してる記事にはろくなものがない

文春らしいひどい記事の件。
新型肺炎で「1000万人の犠牲」も覚悟か? WHOを恫喝した習近平の“非情な思惑”(2/4(火) 17:00配信 文春オンライン)

この中で文春はこんなことを言っている。

 WHOの緊急事態宣言は中国経済にとって一定の打撃にはなるが、各国政府や企業から資金や物資など支援が拡大する効果も期待できる。それでも中国が、WHOの緊急事態宣言を忌避した本当の理由は以下の通りだ。
 緊急事態が宣言されると、WHO加盟国は感染者が出た場合に24時間以内の通告を義務付けられ、空港や港での検疫強化や渡航制限といった水際対策の徹底を求められる。それは中国が一定程度、国連(WHO)ひいては米国のコントロール下に置かれることを意味する。また、感染者発生の情報を24時間以内に通告する義務を負えば、「内外に対する情報コントロール」というツールが失われる。このことは、共産党独裁政権にとっては痛手となる。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200204-00031532-bunshun-int&p=3

文春福山隆氏は、「緊急事態が宣言されると、WHO加盟国は感染者が出た場合に24時間以内の通告を義務付けられ」と書いていますが、まずこれがおかしい。

国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を構成するおそれのある事象を検知した際に24時間以内にWHOに通報せよというのは、国際保健規則第6条に規定されており*1、WHOが緊急事態宣言を出すかどうか無関係に、WHO加盟国に義務付けられています。
そして、中国は国際的な緊急事態宣言以前に既に日々確認された感染者数を報告しています。

また、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態が宣言されたら、「空港や港での検疫強化や渡航制限といった水際対策の徹底を求められる」というのも文春福山隆氏のウソです。
例えば、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に際してWHOが行う暫定的勧告の規定が国際保健規則第15条にありますが、その第2項に「暫定的勧告には、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の発生した参加国又は他の参加国が疾病の国際的拡大を防止又は削減し国際交通に対する不要な阻害を回避するために人、手荷物、貨物、コンテナ、輸送機関、物品及び/又は郵送小包に関して実施する保健上の措置を含めることができる。」とあります。
「国際交通に対する不要な阻害を回避するために」とあるように、WHOは渡航制限のような国際交通の阻害に慎重です。
第16条の恒常的勧告でも「国際交通に対する不要な阻害を回避するため」という文言があります。

WHOが国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態で重視しているのは、医療レベルの低い国への感染の拡大をいかに防止するかであって、先進国が我が身大事に国を閉ざすことを推奨などはしていません。
国際保健規則第13条第3項~第5項にこうあります。

3. WHOは、参加国からの要請がある場合には、必要に応じて現 地支援のために国際専門家チームを動員することを含め、技術的な指針並びに援助を提供し及び実施される管理上の措置の効果を アセスメント することを通じて、公衆衛生 リスク その他の事象に対する対策で協働するものとする。
4. WHOは、第十二条の規定に従い関係参加国と協議した上で国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態が発生していると認定する場合には、本条第三項に規定する支援に加え、国際的な リスク の重大性及び管理上の措置の十分性についての アセスメント を含む追加的援助を当該参加国に提供することができる。かかる協働には、国内権限 当局が実地 アセスメント を行い且つ調整するのを支援するための国際援助の動員の申し出を含めることができる。また、参加国から要請があった場合には、 WHOは前記の申し出を裏付ける情報を提供するものとする。
5. 参加国は、 WHOから要請があった場合には、可能な範囲で、 WHOが調整する対策活動を支援することが望ましい。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

渡航制限を不必要に強化すると、こういった感染症に弱い国への支援活動自体が制限を受けてしまうため、WHOは渡航制限には慎重なのであって、これを中国の陰謀呼ばわりしている先進国の論者は、正直いって恥を知るべきだと思います。

WHOを非難している記事や論者で、国際保健規則をちゃんと参照しているものが全く見当たらないのはどういうわけなのかと心底呆れます。



なぜ国際機関が国境封鎖に消極的なのかという話

なんか“WHOは中国の言いなり”的な論調があちこちで見受けられますので、初歩的な話を一つ。

小松志朗准教授の「世界政府の感染症対策 ―人の移動をめぐる国境のジレンマ―」から。

 このようにWHOと安保理という2つの主要な国際機構は、どちらも国境を閉ざすことに否定的である。それはつまり、グローバルな観点からは感染症対策において国境を閉ざすのは望ましくないということである。なぜそうなのかといえば、少なくとも3つの理由がある。第一に、国境を閉ざすことは感染症対策としてそれほど有効ではない。例えば、国境を閉ざす具体的な措置として比較的に穏健なタイプである検疫にしても、押谷が述べるように、日本にはSARSが入ってこなかったことや新型インフルエンザの被害が大きくなかったことから、ある種の「安全神話」が生まれているように思われるが、「航空網の発達した現代では、多くの感染症は、潜伏期間の間に日本に入国する可能性があり、空港でのサーモスキャナーによる発熱のスクリーニングなどだけでは、感染症流入を完全に防げないことは明らかである。/現在の日本と世界の間の人や物の移動を考えると、エボラウイルス病のようなより致死性の高い感染症の国内への流入が起きることも十分に考えられる」。これは日本の文脈で論じられたものだが、一般的にもいえることだろう。また、検疫よりも厳しい措置として渡航制限や国境封鎖を行う場合でも、それをかいくぐろうと不法入国をしたり、迂回ルートをたどったりする人間が増えてしまい、結果として監視の目が届かない移動が増えかねない。
 第二に、感染国以外の国々が国境を越える人の移動を制限すると、感染国が世界の中で孤立してしまい、医療従事者やNGOなど支援活動を行う人間が感染の現場に行けなくなり、結果として事態が悪化して感染拡大のリスクが高まる。エボラ出血熱の事例では、世界中でいくつもの航空会社が感染国発着便の運航を停止したが、これに対して国境なき医師団のメンバーは次のように批判している。「航空会社は多くの便を停止したが、そのせいで援助活動が遅くなったり妨げられたりといった意図せぬ結果が生じており、逆説的にもこの感染症の流行が西アフリカの諸国の間で広がり、次いで他の地域へも広がるリスクは高まっている。われわれはエボラ〔の流行〕を源で止めなければならず、そのためにはそこに行かなければならない」。WHOのチャン事務局長も、感染国が孤立しているせいで支援スタッフの派遣が難しくなっている現状を指摘し、「孤立化は事態の解決法ではない」と述べている。後にエボラ検証パネルも、各国の過剰な渡航制限のせいで「その結果、感染国は政治的・経済的・社会的に深刻な影響を被ったばかりか、必要な人員・物資も届かなくなった」と指摘している。この問題で分かりやすいのは、感染国への渡航を禁ずるケースである。しかし実はそれだけでなく、逆に感染国からの渡航を禁ずることも、支援の停滞につながる。なぜなら、感染国を支援するために現場に行こうと考える人がいても、後で帰国が難しいとなれば、そもそも行くことをためらうからである。
 第三に、渡航制限はグローバル経済に大きな悪影響を及ぼす。先述のように、グローバリゼーションの時代において国境を閉ざすことは、経済を停滞させる危険性がある。だからこそIHR2005の目的を規定した条項には、貿易を不必要に妨げることは回避すべきであると書かれていたのである。

http://rci.nanzan-u.ac.jp/ISE/ja/publication/book/supranational/a2komatsu.pdf

これに続いて「個々の国家は国境を閉ざすのに対して、諸国家から構成される安保理は国境を開くよう求める。言い換えれば、国家はグローバルな観点からすれば国境を閉ざすことの弊害を分かってはいても、やはり自国のことを考えれば国境を閉ざしたくなる。国境を越える人の移動の管理のあり方については、国家レベルとグローバル・レベルの間で折り合いがついていないとも言い表せよう。」と指摘しています。

中国やWHOに対する冷静とは言い難い批判の渦巻く現状もまさに「国家はグローバルな観点からすれば国境を閉ざすことの弊害を分かってはいても、やはり自国のことを考えれば国境を閉ざしたくなる」という傾向を示していますね。

で、前記事で示したとおり、INTERNATIONAL HEALTH REGULATIONS(国際保健規則)の第2条でこう記載されています。

第二条 目的及び範囲

 本規則の目的及び範囲は、国際交通及び取引に対する不要な阻害を回避し、 公衆衛生リスクに応じて、それに限定した方法で、疾病の国際的拡大を防止し、防護し、管理し、及びそのための公衆衛生対策を提供することである。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

第2条の他にも第43条1項にこう記載されています。

第四十三条 保健上の追加措置

1. 本規則は、参加国が、自国の関連国内法及び国際法上の義務に従って、特定の公衆衛生リスク又は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に対応して、次のような保健上の措置を実施するのを妨げるものではない。
(a) WHO の勧告と同じかそれ以上の保健水準を達成するもの。又は、
(b) 第二十五条、第二十六条、第二十八条第一項並びに第二項、第三十条、第三十一条第一項(c)号及び第三十三条により別段禁止されているもの。
但し、かかる措置は、本規則に合致することを条件とする。
また、かかる保健上の措置は、適当な保健水準を満たすと思われる合理的に利用可能な代替措置よりも国際交通を制限せず且つ人に対して侵襲的又は立ち入ったものであってはならない。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

他に合理的な手段があるのに国際交通を制限するな、という規定です。
で、第43条3項でこのように求めています。

3. 本条第一項に言及する保健上の追加措置で国際交通を大幅に阻害するものを実施しようとする参加国は、その公衆衛生上の根拠と関連する科学的情報を WHO に提供しなければならない。WHO は、その情報を他の参加諸国と共有し、さらに実施される保健上の措置に関する情報も共有しなければならない。本条の適用上、大幅な阻害とは、国境を越える旅行者、手荷物、貨物、コンテナ、輸送機関、物品等の入出国の拒絶、又はその二十四時間以上の遅延を一般的に意味する。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

国際交通を阻害するのなら、その根拠をWHOに報告しろという要求です。

ちなみにこの国際保健規則ですが、世界保健機関憲章第22条に基づき全てのWHO加盟国を拘束する国際法です。

まあ、国際法を尊重する気なんてさらさら無いってんなら、無責任に国境封鎖でも煽ってればいいと思います。



「国際交通及び取引に対する不要な阻害を回避し、公衆衛生リスクに応じて、それに限定した方法」というのがWHOの基本方針

この件。

新型肺炎 中国の国連大使「過剰反応、避けるべきだ」 WHO緊急事態宣言に懸念

1/31(金) 12:23配信 毎日新聞
 新型コロナウイルスによる肺炎をめぐり、世界保健機関(WHO)が「緊急事態宣言」を出したことを受け、中国の張軍国連大使は30日、米ニューヨークの国連本部で記者団の取材に応じ「(感染拡大の抑え込みに向けて)逆効果になりかねない過剰反応は避けるべきだ」と述べた。
 感染拡大を受けて欧米の航空会社による中国便の運航見合わせが相次いでおり、「緊急事態宣言」で国内外にさらに波紋が広がることに懸念を示した形だ。
 張氏は、WHOのテドロス事務局長が「渡航や交易を制限する理由は見当たらない」として渡航制限勧告を見送ったことを繰り返し指摘。「(国際社会が)協力しながら責任ある態度でウイルスの流行と闘い、過剰な反応を避けることを望む」と述べた。【ニューヨーク隅俊之】

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200131-00000036-mai-int

なんか、中国がWHOに圧力をかけて“本来やるべき渡航制限”を回避している、みたいな論調に溢れているように感じますが、WHOは2005年に策定したINTERNATIONAL HEALTH REGULATIONS(国際保健規則)の中で、疾病の国際的拡大の防止、防護、管理、そのための公衆衛生対策は、「国際交通及び取引に対する不要な阻害を回避し、公衆衛生リスクに応じて、それに限定した方法」でやるべきだと明言しているんですよね。

Article 2 Purpose and scope

The purpose and scope of these Regulations are to prevent, protect against, control and provide a public health response to the international spread of disease in ways that are commensurate with and restricted to public health risks, and which avoid unnecessary interference with international traffic and trade.

第二条 目的及び範囲

 本規則の目的及び範囲は、国際交通及び取引に対する不要な阻害を回避し、 公衆衛生 リスクに応じ て、それに限定した方法 で、疾病の国際的拡大を防止し、防護し、管理し、及びそのための公衆 衛生 対策を提供することである。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/246107/9789241580496-eng.pdf

小松志朗氏によれば、メキシコで発生した2009年の新型インフルエンザでWHOが「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」を宣言した時も「渡航制限や国境封鎖は推奨しないことが明記されていた」そうですし、事務局長も「もはや流行を封じ込めるのは無理であるから症状・被害の緩和に重点を置くべきだと明言していた」そうです*1

今回のWHOの動きもそれと同一路線と見え、中国の圧力とか関係なくWHOの原則的な方針であろうと解釈すべきだと思いますけどね。