性暴力事件に関する2019年3月の4つの無罪判決と1つの有罪判決について

以下の無罪判決4つ。

2019年3月、性犯罪事件について、立て続けに4つの無罪判決があった。

福岡地裁久留米支部判決(3月12日/準強制性交=無罪)*1
静岡地裁浜松支部(3月19日/強制性交致傷=無罪)*2
静岡地裁判決(3月28日/強制性交、児童買春・児童ポルノ禁止法違反のうち、強制性交につき無罪、後者につき罰金10万円)*3
名古屋地裁岡崎支部判決(3月26日/準強制性交=無罪)※報道は4月5日*4

https://note.mu/hechimasokosoko/n/nf3c2a5513255

これらの無罪判決に関する報道をきっかけに司法に対する批判が行われました。
判決に対して、その判決が導き出されたロジックや証拠採用の妥当性を批判するのであれば、賛否はともかく批判の仕方としては適切であったろうとは思いますけどね。このうち判決が公表されているのは、名古屋地裁岡崎支部の2019年3月26日判決だけかと思います。
あるいはこれらの事件が公判中から注目されていて、大方の事実関係について報道を通じて熟知しているとかなら、判決そのものを見なくてもある程度の意見は言えるでしょう*5

さて、上記の判決に対してなしうる批判としては次の2種類でしょうか。

1 “裁判官が偏向しているから有罪になるべき事件が無罪になった。→裁判官を批判”
2 “有罪になるべき事件だが法律の要件を満たさないので無罪になった。→刑法の不備を批判”

今回の無罪判決批判で気になったのは、1のパターンですね。
はっきりいって初期報道だけでは、裁判官が偏向していたから無罪になったという判断はおろか、そもそも有罪になるべき事件だったのかすら判断が難しかった、というよりほぼ不可能だったはずです。

2のパターンでの批判であれば同意できるところも多いんですけどね。
何度か言及していますが、個人的には監護者性交罪の年齢要件の撤廃と不同意性交の処罰化は必要であろうと思っています*6。ただ、その方向で刑法改正されたとしても、同意の有無や任意性については裁判で争われるでしょうし、その結果、同意が無かったとはいえないとか同意を得たと誤信しうる状況にあったとして無罪になる可能性はあるでしょうけどね。
それはさておき。

2のパターンの無罪判決批判でもおかしなものは見受けられました。これらが有罪にならないのは現行刑法が不備だからだという主張です。しかし、名古屋地裁岡崎支部の2019年3月26日判決の事件では「被告人は、被害者A(実娘)が中学2年生の頃からAに対して性交等を行うようになり、それはAが高校を卒業するまでの間、週に1~2回の頻度で行われていた。」*7という事実認定がされています。

父親が中学2年生の娘と性交したという事実がある場合、現行刑法179条1項の監護者性交罪に問われます。名古屋地裁岡崎支部の2019年3月26日判決が無罪になったのは、監護者性交罪が新設・施行された2017年の時点で被害者が19歳であり、現行刑法の監護者性交罪が適用される18歳未満の条件を満たさず、被害者が18歳未満の時に受けていた被害に対しては、2017年施行の刑法を遡及適用することができないため、監護者性交罪で訴えることが出来なかったことによります。
ですから、岡崎の事件と同様の被害を監護者から現に受けている18歳未満の被害者(あるいは2017年以降の18歳未満であったときに被害を受けた被害者)がいる場合、それは現行刑法で有罪にできます。

例えば無罪判決批判の記事としてこんなものがありました。

父の性暴力、家族のために沈黙する娘「抵抗なんて無理」

中塚久美子 2019年5月5日10時40分
 父親から娘への性暴力をめぐる裁判で、無罪判決が続いている。「抵抗が著しく困難だったとは言えない」などの理由だ。被害経験がある女性らは、「親子の力関係は対等じゃない。怖くて抵抗なんかできるわけない」。実態と、司法の判断のギャップに打ちひしがれている。
 大阪府内の女性(19)は、「抵抗できる」ことを前提にした判決にショックを受けた。「抵抗したらいいって言うけど、そんなの無理。分かってほしい」
 小学2年の時だった。休日、昼寝中に義父から性暴力を受けた。「静かにしろ」。怖くて指示に従うしかなかった。「トイレに行きたいと、その場を離れるのが精いっぱいの勇気だった」
 トイレから出て、居間にいた母に泣きながら打ち明けた。味方になってもらえず、「3人の秘密だ」と口止めされた。
 その後、妹や姉も義父に「(体を)触られた」と口にしたことはあったが、詳しく聞けなかった。姉が義父に反抗するとハンガーで殴られ、真冬に家から閉め出されるのを見た。自分は率先して食器を洗うなど、親を怒らせないよう常に機嫌をうかがった。義父にされたことを話せば、家族がバラバラになると思って沈黙を守った。
 高校生になり、中学時代の担任と話す機会があった。妹が、義父に殴られるなど虐待を受けていることを相談する中で、自らの被害も明かした。児童相談所に通報され、保護施設に入った。学校や家庭での日常を失い、生きる意味が分からなくなって薬を大量に飲んだ。入院し、単位が足りなくなって高校を中退した。現在は家族と離れて暮らす。
(略)

https://www.asahi.com/articles/ASM4N7R9HM4NPTFC00C.html

冒頭無料部分に記載された被害は深刻なものですが、刑法上の要件から言えば、小学2年の時に受けた被害については、明らかに13歳未満ですから現行刑法176条や177条で暴行・脅迫が無くとも有罪にできる事件です。
被害者が13歳未満であれば抵抗の有無は関係ありませんから、「「抵抗できる」ことを前提にした判決にショックを受けた」という記載は誤解を招く恐れがあり、新聞記事として不適切であろうと思います。
また、13歳以上になってからの被害についても監護者からの加害であれば、抵抗の有無に関係なく刑法179条の監護者性交罪が適用できます。
なお、この朝日新聞記事ですが、有料部分も含め、監護者性交罪に関する言及は一切ありません。

現に監護者からの性的虐待に抵抗できず苦しむ18歳未満の被害者がこの朝日記事を読んだ場合、自分の受けている被害は法的に罪に問うことはできないと誤解する恐れがあり、非常に不適切だと言えます。
2017年以降かつ18歳未満の時に監護者から性交を強いられた被害者に、抵抗の有無に関係なく加害者を監護者性交罪に問うことができると伝えるのがメディアの役目ではないですかね。
その上で、現行の監護者性交罪には年齢要件があるため、18歳以上で監護者から性交を強いられている被害者*8は、暴行や脅迫、抗拒不能が立証されない限り加害者を罪に問うことが出来ないので、その点の刑法改正が必要だと訴えるべきでしょう。

ちなみに、2019年3月28日の静岡地裁判決の事件では、そもそも性交の事実が否定されていますので、刑法の要件とは関係がありません。その事実認定が正しいのかどうかという批判は可能ですが、それこそ判決や証拠などを調べないと何とも判断できないでしょう。

「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ」という法格言は、刑事手続において最も重視されなければならない言葉です。

https://www.nichibenren.or.jp/activity/criminal/deathpenalty/q12.html

この法格言*9を踏まえても尚、性交の事実があったといえるだけの証拠があったのか、そこが重要です。
なお、もし本件での性交が事実であったなら、被害者の年齢は12歳でしたから、監護者性交罪以前に暴行・脅迫要件を不要とする13歳未満に対する強姦に該当します。要するに事実であれば、現行刑法で十分処罰できる事件です。


さて、改めて4つの無罪判決を見てみると、なすべき批判としては、まず「① 福岡地裁久留米支部判決(3月12日/準強制性交=無罪)」と「② 静岡地裁浜松支部(3月19日/強制性交致傷=無罪)」については、いずれも拒絶していないと誤信する状況が問題でしたから、不同意性交を処罰できるように刑法改正すれば良いということになります。
「④ 名古屋地裁岡崎支部判決(3月26日/準強制性交=無罪)」については、監護者性交罪の年齢要件を見直すことで対応できるでしょう。
「③ 静岡地裁判決(3月28日/強制性交、児童買春・児童ポルノ禁止法違反のうち、強制性交につき無罪、後者につき罰金10万円)」については、刑法改正でどうにかできる問題じゃなく、批判するにしても詳細が不明で何ともいえません。

最後に別の事件を紹介します。

娘から性的虐待を告発された父が拘置所で病死、夫の無実を信じる妻の独白(5/29(水) 5:00配信 )」

2018年4月10日に、14歳の娘が父親に性的虐待されたと教師に訴え、即日児童相談所に保護され、5月2日に父親が監護者わいせつ罪で起訴された事件です。母親や兄弟など家族全員が否定したものの娘の証言が採用され、2019年3月29日に静岡地裁浜松支部で懲役9年の実刑判決が下されています。
判決以外は2019年3月28日の静岡地裁判決の事件と似たような構成です。

父親は控訴しましたがその準備中の2019年4月27日、拘置所内で急性心疾患により亡くなり、被告人死亡による公訴棄却とされました。

この事件も“藪の中”の一つです。
被害者である娘の証言が正しく、父親は娘に対して性的虐待を行っており、母親や2人の兄弟はその事実を知りながら口裏を合わせて否定したのか、あるいは実際に気づかなかったのかも知れません。
しかし、被害者の証言が誤っていたり誘導されたりしたもので、実際には性的虐待の事実は無かったかもしれません。

この記事だけで事実がどうだったかを判定することは出来ません。むしろ巻き込まれた家族の側の視点で書かれている分、冤罪だという認識を抱くことの方が多いでしょう。
同様に、2019年3月28日の静岡地裁判決の事件に関する報道記事だけで事実がどうだったかを判断することもできません。そしてその報道は無罪判決を批判する視点で書かれている分、不当判決だという認識を抱くことの方が多いでしょう。

もし、上記の容疑者である父親が拘置所で病死した事件について冤罪かも知れないと思えるのであれば、今回の無罪判決批判が同じような冤罪判決を増やす恐れがあることに想像をめぐらしてほしいものです。
性暴力被害者に寄り添い被害者証言を信じることは確かに重要なことです。しかし、もし冤罪だった場合、冤罪被害者にはどれほどの被害が生じるのか、性暴力被害当事者にはそれを考える余裕も義務も無いでしょうが、新聞記事程度の情報だけで事件を知った人たちにはそれを知っておいてほしいと思います。



*1:詳細は、https://note.mu/hechimasokosoko/n/nb21bc07eb6b8?magazine_key=mc875a594d4a3

*2:詳細は、https://note.mu/hechimasokosoko/n/n193a10c27071

*3:詳細は、https://note.mu/hechimasokosoko/n/n43ee78b62097

*4:判決内容は、http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2019/05/09/071729

*5:それでも報道が偏っている可能性は否定できないのですが

*6:一部の粘着バカには、これでもミソジニー呼ばわりされるんですけどね。

*7:https://news.yahoo.co.jp/byline/sonodahisashi/20190515-00126022/

*8:特に2017年以前から継続的に性的虐待を受け続け抵抗の気力を失っている被害者の場合、刑法改正の陥穽に落ち込み救済されていないという不公平があります。

*9:冤罪問題などに一家言ある人でさえ、性犯罪やDV・虐待事案になるとこの原則を忘れ去ってしまうことがあるんですよね。

박미향(パク・ミヒャン)の出自情報

石丸次郎の情報

モランボン楽団にいた若い娘」「張成沢が関係した人間の孫」
(「<北朝鮮>張氏親族また銃殺か 行政職員が伝える」2014.03.31、「「粛清の嵐」吹かせる金正恩(2)張成沢親族と関連者の処刑続く 有名俳優も」2015.05.26)

高英起の情報

「前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏」の「息子の嫁」「北朝鮮映画『ある女学生の日記』に主演した「清純派女優」」「夫の父である前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏が、張成沢氏と近しい間柄だった」
(「金正恩氏はなぜ「清純派」美人女優を抹殺したのか (1/2ページ)」2018.10.7、「北朝鮮の「清純派女優」はこうして金正恩に抹殺された」2018/12/15(土) 11:06 )

中央日報の情報

「처벌 이유는 박미향이 화폐 계혁 당시 숙청당한 박남기 전 노동당 계획재정부장의 친척이라는 이유라고 전해졌다. 」
(「[출처: 중앙일보] '한 여학생의 일기' 北 유명 여배우 사라진 이유가…」2013.08.17 17:39 )

「박남기 전 노동당 계획재정부장의 친척(박남기(パク・ナムギ、朴南基)労働党計画財政部長の親戚)」

北朝鮮駐英公使・太永浩(태영호)の情報

2016年に韓国に亡命した太永浩(태영호)はブログで박미향(パク・ミヒャン)が박광철(パク・クァンチョル・朴光哲)の娘(息子の妻)だと述べています。

박광철은 2013년 12월 초 북한으로 끌려가 외무성에서 추방되어 현재 평양시 서성구역 인민 위원회에서 일하고 있다.
박광철의 딸은 세계적으로도 유명한 북한 영화 ‘한 녀학생의 수기’의 주역배우 박미향이다.
이 영화는 국제 영화제에서도 상영되었다.
박미향은 시아버지가 처형된 후 남편과 어린 아들과 함꼐 수용소로 끌려 갔다.

バクグァンチョルは2013年12月初め、北朝鮮に連れて行かれ外務省から追放され、現在、平壌市西城区域の人民委員会で働いている。
バクグァンチョルの娘は、世界的にも有名な北朝鮮映画「た女生徒の手記」の主役俳優パク・ミヒャンある。
この映画は、国際映画祭でも上映された。
パク・ミヒャンは義父が処刑された後、夫と幼い息子に同収容所に連れて行かれた。

https://thaeyongho.com/2017/01/29/%EC%9E%A5%EC%84%B1%ED%83%9D%EC%88%99%EC%B2%AD%EC%82%AC%EA%B1%B4%EC%9D%B4-%EB%B6%81%ED%95%9C%EC%82%AC%ED%9A%8C%EC%97%90-%EB%AF%B8%EC%B9%9C-%EC%98%81%ED%96%A5/

話を総合すると・・・

박미향(パク・ミヒャン)はモランボン牡丹峰)楽団に所属し、カンヌで上映された2007年北朝鮮映画「ある女学生の日記」の主演女優で、2013年12月に北朝鮮に召喚された駐スウェーデン大使の박광철(パク・クァンチョル・朴光哲)の息子の妻で、金正日時代の2010年に失脚したとされる박남기(パク・ナムギ、朴南基)朝鮮労働党計画財政部長の親戚であり、「張成沢が関係した人間の孫」であるということになります。

しかし、まず駐スウェーデン大使の박광철(パク・クァンチョル・朴光哲)が張成沢と関係の深い人物であることは公開情報から明らかであるので、박미향(パク・ミヒャン)が박광철(パク・クァンチョル・朴光哲)の義理の娘であるならば、石丸情報の「張成沢が関係した人間の孫」という表現はおかしいですね。
また、音楽ユニットであるモランボン牡丹峰)楽団にカンヌ映画の主演女優が所属しているというのも、北朝鮮の芸能界の情報をよく知らないので何とも言えないものの違和感が残ります。

そもそも박미향(パク・ミヒャン)が粛清された時期も2012年8月なのか12月以降なのかわかりません。
박남기(パク・ナムギ、朴南基)に連座したのであれば、2012年まで無事だった理由がわかりません、박광철(パク・クァンチョル・朴光哲)に連座したのであれば粛清は12月以降でないと整合しません。

はっきり言えば、박미향(パク・ミヒャン)が粛清されたという情報自体、検証されているとは言えず、伝聞のつぎはぎを裏も取らず整合も取れないまま垂れ流されたもののように思えます。

実際、北朝鮮関連の報道では、현송월(玄松月・ヒョン・ソンウォル)のように銃殺されたと報じられながら*1後日健在が確認*2されたような事例もあります。
北朝鮮報道についてはそういうレベルの信頼度だと思っておく必要がありそうです。

参考:북한의 숙청과 처형에 관련된 보도를 모조리 믿어서는 안 되는 이유(2015/05/19、Nick Robins-EarlyThe Huffington )



*1:2013年8月

*2:2014年5月

2014年に韓国の強制連行被害者が韓国政府を提訴した話

「文在寅大統領は徴用工にお金を渡せ!」被害者団体の訴えが韓国社会で黙殺されている ルポ・徴用工裁判「その不都合な真実」赤石 晋一郎」の件。

韓国の強制連行被害者等が韓国政府に補償を求めて提訴した件です。原告1000人規模となったことで日本でも嘲笑交じりで報じられよく知られている事件です。
日本の右翼歴史修正主義者らは“ブーメラン”だと大喜びしていましたね。

ただ、同趣旨の訴訟は2014年11月にも提訴されており、2015年9月に請求棄却の判決が下っています*1
このときの提訴内容は2001年の東京地裁判決を根拠に日韓請求権協定で韓国政府に補償責任があるという主張でした。
ソウル中央地裁の判断は、韓国併合による植民地支配を合法とみなす前提で成立する東京地裁判決は大韓民国憲法の核心価値と衝突するため認められない、というもので、2018年11月30日の大法院判決の論理と軌を一にしています。というか、2018年11月30日大法院判決自体が2012年判決を踏まえていますから当たり前で、ソウル中央地裁も2012年判決を踏まえているといえます。
判決はさらに、日韓請求権協定で個人請求権が消滅したわけではないと指摘し原告には日本に対して直接損害賠償請求を提起する権利があるとしました。これも2012年判決を踏まえたもので、かつ、日本の各種判決と同様に、1965年日韓請求権協定で個人請求権は消滅しないという論理です。

さて、今回の訴訟でも主張されている“1965年日韓請求権協定で供与された3億ドルの無償援助等は本来、強制連行被害者等に渡すべきだった”という論理ですが、これも2014年の訴訟で出ています。

明石氏がこう書いている内容ですが、日本の歴史修正主義者が大好きな部分ですね。

韓国政府は補償資金をインフラ投資等に回した

「日本の外相は日韓基本条約に基づいて韓国政府が払うべきと話しています。だから日本政府には条約の交渉記録を明かして欲しいと文書を送っています。補償金額が明らかになれば、それに基づいて韓国政府は相応の金額を被害者や遺族に渡すべきだと要求することができる。このデモは2018年にスタートして、今回が57回目です。しかし未だに韓国政府からは正式回答がありません」
 日本と韓国政府は1965年、日韓基本条約を結んだ。そのときに協議した日韓請求権協定に基づき、日本政府は無償3億ドル、有償2億ドルの計5億ドル(当時のレートで約1800億円)を韓国政府に提供している。
 条文には〈日韓両国とその国民の財産、権利並びに請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたことを確認する〉とあり、植民地時代の賠償問題はこれで解決したとされた。韓国政府はこの補償資金をインフラ投資等に回し、“漢江の奇跡”と呼ばれる経済発展を遂げたことは周知の事実だ。

https://bunshun.jp/articles/-/12078

何度も言ってますけど*2、日韓請求権協定で供与された援助は現金でわたされたわけではなく、「等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務」*3で提供されており、協定では「供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。」と明記されており、韓国政府が自由に使えるものでもありませんでした。日本の歴史修正主義者がその辺の事情を常に無視しますけどね。
で、2014年訴訟では「韓国政府が日韓請求権協定で受け取った資金を経済発展事業等に使用して被害者に支給しなかったのは違法である」と訴えられていますが、これに対してソウル中央地裁は「韓国政府が経済発展に資する事業に資金を使ったのは法律に基づくもので違法とみることは出来ない」という判断を下しています。
当の1965年請求権協定に「供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」と明記されている以上、違法だという判断が下るのはまず考えられないところですから、そこはやむをえないでしょう。

今回の訴訟でも同じロジックで攻めるのなら、高い確率で請求棄却になると思います。特に求めるのが賠償であるなら、2018年大法院判決に基づき日本企業に請求するのが筋ということになるでしょう。
但し、一点だけ望みうることがあります。

2014年訴訟の判決において、原告による「国が被害者のための法律を作成する義務を果たさなかった」という主張に対して、判決では「今後の予算確保などの諸条件が満たされて、国民的共感が形成された後に国会の立法を通じて解決すべき問題」だとして、不作為責任を認めませんでした。
その判決から4年近く経っていることを考慮して、かつ、2018年大法院判決などを経て国民的共感が形成されたと判断しうる事情があれば、国会での立法不作為の責任が認められる可能性はあるかもしれません。

実際、こういう動きもあるようですからね。

元徴用工救済へ新財団、韓国が検討 膠着状態の打開狙い

5/23(木) 21:59配信 朝日新聞デジタル
 韓国大法院(最高裁)が日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決に絡み、韓国政府が、訴訟を続ける原告らについて、新たな財団を設けて経済的に救済し、法廷外で解決する案を検討していることが日韓関係筋の話でわかった。大法院の確定判決に被告企業が従うことを前提にするという。ただ、日本政府はこの案を受け入れない考えだ。
 関係筋によると、検討案は、韓日議員連盟文在寅(ムンジェイン)政権に示した提案がもとになっている。被告の日本製鉄(旧新日鉄住金)と三菱重工業が、確定判決を得た原告32人に利子を含む約27億ウォン(約2億5千万円)を賠償するのが前提だ。係争中の他の原告926人や提訴に至っていない一部の元徴用工らに対しては、韓国政府が財団を設けて経済面で支援。裁判によらない解決を模索するという。
 一連の元徴用工訴訟では今後も、大法院判決に沿って日本企業を敗訴とする判決が続くことが想定されている。さらに、日本政府が外交協議による解決を困難と判断し、1965年の日韓請求権協定に基づく第三国を交えた仲裁手続きに入ることを韓国に要請するなど事態が深刻化している。
 文政権は今回の検討案で、係争中の原告らへの対応を分離することによって日本企業の負担を限定し、司法判断に従うよう促す狙いがあるとみられる。この方針には、原告側も一定の理解を示しているという。
朝日新聞社

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190523-00000103-asahi-pol

こういう全体像が見えない連中は“ブーメラン”だとはしゃぎ、自らの嫌韓差別の正当化に利用するんですよねぇ。



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北朝鮮報道に関する疑問:박미향(パク・ミヒャン)はいつ粛清されたのか?

デイリーNKジャパン編集長の高英起氏が2018年12月15日にこういう記事を出しています。

北朝鮮の「清純派女優」はこうして金正恩に抹殺された

高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
2018/12/15(土) 11:06

張成沢粛清を振り返る(5)

(抜粋)
キム・ヘギョン氏は張成沢氏の死後、政治犯収容所へ送られたという。だが、張成沢の巻き添えになって粛清された女優の中には、彼の愛人でも何でもなかった人もいる。代表的なのが、2007年にカンヌ映画祭でも上映された北朝鮮映画「ある女学生の日記」に主演した「清純派女優」のパク・ミヒャン氏だ。
同作品に出演した彼女の映像を見ると、実にういういしい。このように世界的に顔を知られた女優が、一夜のうちに姿を消してしまうのが北朝鮮社会の現実なのだ。
(参考記事:【動画】北朝鮮の女子高生「タイマン」場面…映画『ある女学生の日記』)
それも、彼女には何の落ち度もないにかかわらずである。彼女が夫や幼い息子とともに政治犯収容所に送られた理由は、夫の父である前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏が、張成沢氏と近しい間柄だったというだけのことだ。
金正恩氏はそこまでして、張成沢氏の存在の痕跡を徹底的に消し去ろうとした。しかし、いくら「禁止リスト」に載せて厳しく取り締まったところで、多くの国民に親しまれた俳優たちの記憶を、社会から完全に除去することなど不可能だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20181215-00107716/

高英起氏によると北朝鮮映画「ある女学生の日記」の主演女優であるパク・ミヒャン氏が張成沢の巻き添えになって粛清されたとのこと。
2018年10月の高英起記事ではパク・ミヒャン氏の素性についてさらに具体的に記載されています。

金正恩氏はなぜ「清純派」美人女優を抹殺したのか (1/2ページ)

2018.10.7
(抜粋)
 また、張成沢氏の粛清に際しては、彼につながる外交官たちも粛清された。その中に、前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏がいる。彼の息子の嫁は、2007年にカンヌ映画祭でも上映された北朝鮮映画『ある女学生の日記』に主演した「清純派女優」のパク・ミヒャンだ。

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/181007/soc1810070006-n2.html

このパク・ミヒャン氏粛清の件についてソースをたどっていくと、2014年3月のアジアプレス記事に行き着きます。

北朝鮮>張氏親族また銃殺か 行政職員が伝える

2014.03.31 石丸次郎
◇張氏姪の夫と女優ら三人処刑 出演映画回収命令
昨年12月に粛清処刑された張成沢(チャンソンテク)氏の親族と関係者が、また銃殺されたという情報が飛び込んできた。(石丸次郎)
情報を伝えてきたのは、北朝鮮北部に住むアジアプレスの取材協力者P氏。3月30日に電話で次のように述べた。
「元映画俳優で、張成沢の姪の夫チェ・ウンチョルと女優のキム・ヘギョン、パク・ミヒャンの三人が銃殺されたと騒ぎになっている」
この取材協力者P氏は地方都市の行政職員で、党や軍などの幹部情報に接する地位にある。P氏は、銃殺刑がいつ、どこで執行されたのか、未だ正確には不明だとしつつも、
「幹部たちに情報がもたらされたのはごく最近のこと。チェ・ウンチョルは張氏の『婿』で、映画『デホンダンの責任秘書』に出ていた。反党反革命分派だとして三人の関係した映画は、すべて回収しろと指示が降りてきて騒ぎになっている」
と述べた。
また銃殺された他の二人の女性については、
「女優のキム・ヘギョンは、張成沢が寵愛していた女だったらしい。パク・ミヒャンはモランボン楽団にいた若い娘で、張の関係した人間の孫だということだ」
とP氏は説明する。
平壌に居住していた脱北者は、処刑されたとされるチェ・ウンチョルについて、次のように話す。
「チェ・ウンチョル氏は、今、年齢が48歳ぐらいだと思う。若い女性に人気があった。共演した女優と恋愛関係にあったが、張成沢の姪と結婚したため、『金 と権力のために恋人を捨てた』と評判が良くなかった。俳優をやめて人民経済大学に入学した。その後、平壌市内のタクシーを独占運営する運輸会社の社長に なったということだ」
また、この脱北者によると、キム・ヘギョンは年齢が30代後半、「幹は根から育つ」という映画に主演した美貌の人で、多くの男性との関係があると噂の多い女優だったという。
張成沢は昨年12月に「国家転覆陰謀」の罪で処刑されたが、親戚や部下、そして系列とみなされた大勢の人々が連座して今年1月にかけて大量に粛清された。今回のP氏の情報が正しいとすれば、張氏粛清に関連する混乱がまだ続いていることになる。

http://www.asiapress.org/apn/2014/03/north-korea/post_5090/

しかし、このアジアプレス記事では「パク・ミヒャンはモランボン楽団にいた若い娘で、張の関係した人間の孫」とされています。
高英起記事では「前駐スウェーデン大使のパク・クァンチョル氏」「の息子の嫁」となっており、石丸記事と一致しません。カンヌ出典の北朝鮮映画の主演女優という情報も石丸記事にはありません。

この件をさらに調べるとおかしな事実が出てきます。

2013年8月17日(この日付が重要です)の中央日報記事です。
'한 여학생의 일기' 北 유명 여배우 사라진 이유가…

북한에서 영화 ‘한 여학생의 일기’로 인기를 끌었던 신인 여배우 박미향이 연좌제 처벌을 받는 것으로 알려졌다고 미국의 자유아시아 방송이 17일 보도했다. 처벌 이유는 박미향이 화폐 계혁 당시 숙청당한 박남기 전 노동당 계획재정부장의 친척이라는 이유라고 전해졌다.

보도에 따르면 중국에 친척 방문차 나온 한 북한 주민은 “당국이 ‘한 여학생의 일기’를 보지 말라고 지시하고, 이 영화를 녹화한 DVD까지 전부 없애라고 지시했다”면서 “이유는 영화의 주인공이 화폐개혁 때 처형된 박남기 노동당 계획재정부장의 친척이기 때문이었다”고 밝혔다.

이 북한 주민은 “배우 박미향은 원래 외무성 간부의 딸로 알려졌으며, 그의 가족은 외국에도 여러 번 다녀오고, 오빠도 외국어대학에 다니는 등 괜찮게 살던 집안이었다”면서 “하지만, 2010년쯤 북한 당국이 이 영화를 보지 말라고 지시하는 동시에 박미향도 영화무대에서 사라졌다면서 박남기 부장의 숙청과 함께 연좌제 처벌을 받았을 가능성이 크다”고 말했다.

https://news.joins.com/article/12363958

アメリカの自由アジア放送が'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優박미향(パク・ミヒャン)が連座制処罰を受けたと報じたとあります。日付は2013年8月17日です。
高英起記事や石丸記事で言及されているパク・ミヒャンが、'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優の박미향(パク・ミヒャン)であるならば、張成沢連座して2013年8月17日に粛清されることはありえません。
なぜなら、張成沢の失脚はこの3ヶ月後の2013年12月だからです。

上記中央日報記事では、박미향(パク・ミヒャン)は、通貨改革に失敗して粛清された박남기(パク・ナムギ、朴南基)労働党計画財政部長の親戚だから粛清されたという観測を述べています。張成沢連座ではありません。
もっともこの自由アジア放送の観測も奇妙です。박남기(パク・ナムギ、朴南基)の失脚は2010年2月から3月であって金正日時代です。金正恩が権力を継承したのは2011年12月ですから、代替わりしてさらに2年近く経ってから、박남기(パク・ナムギ、朴南基)の関係者を連座させたというのはちょっと理解しがたいところです。

考えられる可能性

1.2013年8月の自由アジア放送記事が誤報で、'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優박미향(パク・ミヒャン)が粛清されたのは2014年3月である。
2.2018年10月12月の高英起記事が誤報で、2014年3月に粛清された박미향(パク・ミヒャン)は、'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優とは別人である。
3.2018年10月12月の高英起記事と2014年3月の石丸記事が誤報で、'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優박미향(パク・ミヒャン)は2013年8月に張成沢とは無関係に既に粛清されていた。
4.'한 여학생의 일기(ある女学生の日記)'の主演女優박미향(パク・ミヒャン)が表舞台に出なくなったのは別の理由で、粛清されたわけではない。

個人的には2の可能性が高いように思います。そもそも2018年10月の時点で高英起氏は、2014年3月の石丸記事も2012年8月の中央日報記事も知りうる立場にいますから、박미향(パク・ミヒャン)が同名の別人なのか、同一人物なのかをまず確認すべきでした。高英起氏はそういった最低限の確認を怠っており、情報源としての信頼性を疑わざるを得ないところです。同時に2014年3月の石丸記事が2013年8月の自由アジア放送記事での박미향(パク・ミヒャン)について別人なのかどうかを明記しておくべきだったかもしれません。

また、北朝鮮情報の多くは脱北者北朝鮮内部の協力者を情報源としていますが裏づけがほとんど取られていません。北朝鮮報道を行う限られた団体が発する情報が最初は真偽不明の疑惑として慎重に記載されていても、相互に参照されるうちに、事実であるかのようにロンダリングされることがあります。
박미향(パク・ミヒャン)粛清の件は、その事例の一つと言えるかもしれません。



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“藪の中”を正確に見通せる前提で議論すると間違えた場合に深刻な被害をもたらすという話。

この件。
「子ども返せ」数時間罵倒 親の圧力に悲鳴上げる児相(山口啓太 2019年5月24日08時00分 )

記事はモンスター親のせいで児童相談所の業務が圧迫されているという内容ですが、児童相談所の「保護」が正しいという前提に立っていて、児童相談所の判断が間違っていた場合については考慮されていません。
ですので、この記事を読んだ人は当然のように、モンスター親を排除するために警察の介入を求めるような意見をあげがちです。

ですが、児童相談所による「保護」にはこういう事例もあります。
ある日突然、「虐待」で通報された親子のトラウマ 本当に必要な対策とは何か? (井戸 まさえ)

要は、児童相談所が保護の判断を間違えることもあるわけです。
それでもこう主張する人もいます。
“保護すべきを保護しないという間違いを犯すよりは保護すべきでないものを保護するという間違いの方がマシだ”

一見正論なんですけどね、同じ理屈で警察による予防検束を認めるかというと多くは賛同しないと思うんですよね。特にリベラルな思考の人たちは。
井戸まさえ氏の記事からは、わずか5週間の「保護」が当該家族に深刻なダメージを与えたことがわかります。

子どもが児相に保護されたと言った瞬間に「虐待親」というレッテルを貼られ、好奇の目で見られる。知人や親戚にだって相談できない。
ひとことでも自分の体験を話したら、誤解を生み、また何の前触れもなく子どもたちがいなくなるのではないかという不安。だから経験者たちは口を塞ぐのだ。
本来は軽微な件で児童相談所に保護された体験を持つ人々が、そのリアルを、不都合も含めてもっと伝えて行かなければ、重篤なケースも、軽微な事案も同じ対応がされ、結果的に子どもたちに深い傷を負わせることにもなりかねない。
悲惨な事件の様子が報道される一方で、そうした声は一切出て来ない。
4年の月日が流れ、子どもたちも中学生になった。しかしBさん家族は親も子も、今もあの5週間がトラウマだ。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56341?page=4

児童相談所は職権で児童の一時保護が出来ますが、その期間は最長で2ヶ月(児童福祉法第33条第3項)で、親権者の意に反してそれ以上延長する場合は家庭裁判所の承認が必要です(児童福祉法第33条第5項)。逆に言えば、児童相談所家庭裁判所の承認なしで2ヶ月間、親子を引き離す権限を有しているとも言えます。

刑事訴訟法が認める容疑者の逮捕後拘留期限が約20日間で、かつ、逮捕時・勾留時・勾留延長時に裁判所の承認が必要であることを考慮すれば、児童福祉法児童相談所に認めている引き離し権限は極めて強力であることがわかります。
これも不思議なんですが、逮捕・勾留されるだけで世間的には白い目で見られ社会的生命に深刻なダメージを与えることを理解する人たちが、児童相談所に子供を保護されたことでその親が世間から白い目で見られることの社会的なダメージには無頓着だったりする傾向が見受けられます。
この辺は想像力の問題か先入観の問題なのかもしれません。

容疑者が真犯人かどうかは逮捕した時点ではまだ藪の中であるのと同様に、要保護児童が実際に虐待を受けていたかどうかは保護した時点ではまだ藪の中です。

井戸氏の記事にあるように全くの冤罪で子供を「保護」され引き離された親にとっては、児童相談所こそが子供を拉致している状態ですから、当然ながら「子供を返せ」と訴えます。

その辺を踏まえた上で「「子ども返せ」数時間罵倒 親の圧力に悲鳴上げる児相」の記事を読むと、見え方が変わってきます。

 「家に帰ってからも、その日に聞いた親からの怒鳴り声を思い出す」。首都圏の児相に勤める40代の児童福祉司の男性は明かす。複数の児相で数年間、虐待事案に対応してきた。この児相では、児童福祉司1人あたり年60~70件の虐待事案に対応している。それ以外にも、非行事案や継続案件もある。「1件ずつ満足いくまで向き合うには数が多すぎる」
(略)
 「高圧的な態度をとる親は少なくない。特定の親への電話対応や説明に多くの業務時間が割かれる」。男性はそう話す。面接や電話で「子どもを返せ」と数時間罵倒され続けることも。「心理的負担が大きい。不安定になり勤務が困難になる人もいる」と訴える。

https://www.asahi.com/articles/ASM5R51DRM5RUTIL023.html

上記引用で(略)とした部分には、千葉県野田市の小学4年の女児(10)が虐待死したとされる事件の事例が記載されています。野田市の事件を事例とすれば、“児童相談所が保護するのは当たり前で返せと主張する親がおかしい”といった意見に誘導されるでしょうが、全くの冤罪で親子が2ヶ月近く引き離された事例を挙げれば、見え方は変わるでしょう。

刑事訴訟法と同様に一時保護した場合は長くても48時間以内に家庭裁判所の承認を得るべきではないか?

というのが私の意見です。
児童相談所の裁量だけで2ヶ月も親子隔離できるという法制度自体がおかしいと思います。一時保護自体は緊急性があれば児童相談所の裁量で開始することはやむをえないと思いますが、当然ながら親の側に異議申立の機会と権利を与えるべきですし、親側の主張の正当性の判断を一時保護の判断をした児童相談所に委ねてはならず、家庭裁判所が行うべきです。
児童相談所は、保護開始の根拠となった事実を家庭裁判所に提出した上で承認を得、親側にはその根拠事実に対する反論の機会が与えられ、適切な反論があり保護継続の必要性が無いと家庭裁判所が判断したなら速やかに保護を解除する、そういう制度であるべきです。

児童相談所が保護の判断を行っている以上、異議のある親が児童相談所に文句を言うのは当たり前の話でしかありません。保護継続可否の決定権限が家裁にあれば、異議のある親は児童相談所ではなく家裁に行くでしょう。
そもそも保護を決定した児童相談所にしてみれば、保護が間違いだったとは認めがたいのも当たり前で、結果として子供の福祉よりも組織防衛が優先する懸念もあるんですよね。

ちなみに、子供を保護して親から引き離す場合に司法審査を義務付けるように、というのは2019年2月の国連子供の権利委員会の勧告に書かれた内容でもあります。

(a) Introduce a mandatory judicial review for determining whether a child should be removed from the family, set up clear criteria for removal of the child and ensure that children are separated from their parents as a measure of last resort only, when it is necessary for their protection and in their best interests, after hearing the child and its parents;

(a) 子どもを家族から連行するべきか否かを決定する際は司法審査を受ける義務を課すこと。子供を連行すべき基準を明確にし、子と親に対する聴取後に保護と最善の利益のために必要となった場合の最後の避難所としてのみ家族から子どもを連行することが認められるようにすること。

(c) Abolish the practice of temporary custody of children in Child Guidance Centres;

(c) 児童相談所の一時保護所は廃止すること。

http://scopedog.hatenablog.com/entry/2019/02/11/080000

なぜか、この部分について、日本ではほとんど報道されてないんですけどね。

「藪の中」は見通せないという前提で考えるべき

逮捕されたからと言って真犯人とは限りません。子供が保護されたからと言って虐待家庭だとは限りません。逮捕され容疑者となった人は無罪・嫌疑不十分で釈放されても深刻な社会的ダメージを被ります。子供が「保護」され引き離された親も深刻な社会的ダメージを被り、親子関係にも大きなダメージが生じます。
もちろん、冤罪を恐れて真犯人を野放しにすることも虐待を見過ごすこともするべきではないのは確かです。

本来、一般市民としては過度に検察や児童相談所に肩入れすべきでないですし、過度に容疑者や子供が「保護」され引き離された親に肩入れすべきでもないでしょう。
それでもあえてどちらかに肩入れするならば、検察や児童相談所といった“公権力”と対峙する側に肩入れすべきなんじゃないですねかね。
その上で、どこまでの公権力介入ならば許容可能なのかということを考えていくべきなんじゃないでしょうか。



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「歴史歪曲・徴用工像設置に反対する市民の会」とやらの背景情報

こんな記事がありまして。
韓国で徴用工像の設置に「反対」する人に聞いてみた 歴史問題を「日本のせい」と嘯く文在寅政権に反発する人が増加中(2019.5.16(木) 李 正宣)

冒頭、こんな感じで始まります。

「あそこに見える銅像が歴史をどのように歪曲しているのか、釜山市民と国民の皆さんに申し上げたいです」
 5月10日午後、釜山市・草梁洞(チョリャンドン)の日本国総領事館から180メートル余り離れた所にある広場で、徴用工像の設置に“反対する”集会が開かれた。
 この広場は日本総領事館の前に建てる目的で製作された徴用工像の臨時設置場所で、「歴史歪曲・徴用工像設置に反対する市民の会」の十数人の会員たちは、この徴用工像を見合わせながら、一時間あまり集会を続けた。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56390

タイトルの「歴史問題を「日本のせい」と嘯く文在寅政権に反発する人が増加中」などという記載を見ると、この「歴史歪曲・徴用工像設置に反対する市民の会」、まるで自然発生したかのように読めますけどね。

この2019年5月10日の「歴史歪曲・徴用工像設置に反対する市民の会」によるデモは「第3の道(제3의길)」という韓国サイトにアップされています(5月14日)。
역사왜곡 외교참사 노동자상 반대 투쟁(歴史歪曲外交惨事労働相反対闘争)

この記事は「歴史歪曲・徴用工像設置に反対する市民の会」によるデモを「第3の道(제3의길)」が取材したかのような体裁で書かれています。

민주노총 등이 추진하는 강제징용 노동자상 설치를 둘러싼 갈등이 고조되고 있다.
‘반일민족주의를 반대하는 모임’ 등 징용 노동자상 설치를 반대하는 시민들이 지난 5월 10일 오후 12시 반부터 1시간 동안 부산 동구 초량역 근처 정발 장군 동상 앞에서 ‘역사왜곡 외교참사 노동자상 설치 반대한다’는 주제로 동상 재설치를 반대하는 집회를 가졌다.
民主労総などが推進する強制徴用労働者上のインストールをめぐる葛藤が高まっている。
反日民族主義に反対する会」など徴用労働者上のインストールに反対する市民が、5月10日午後12時半から1時間の間、釜山東区草梁駅の近く鄭撥将軍の銅像の前で「歴史歪曲外交惨事労働相設置に反対する」は、テーマに像の再インストールを反対する集会を開いた。

http://road3.kr/?p=17065&cat=146&ckattempt=2

李正宣記事には「スピーカーを手に取ったイ・ウヨン代表が発言を続ける。」とあり、「歴史歪曲・徴用工像設置に反対する市民の会」の代表がイ・ウヨンなる人物であることがわかります。
別の報道記事「“역사왜곡 반대” 내일 부산서 노동자상 반대집회..갈등 고조」によると、5月10日のデモは前日に予告されていたことと予告した人物が落星台経済研究所の李宇衍(이우연)氏であることがわかります。
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(‘반일민족주의를 반대하는 모임’을 주도하는 이우연 낙성대 경제연구소 연구위원의 페이스북 캡처.)

で、改めて「第3の道(제3의길)」の執筆者陣を見ると果たして、落星台経済研究所の李宇衍(이우연)氏が載っています。
f:id:scopedog:20190527002126p:plain
「第3の道(제3의길)」は執筆者の一人が代表である団体のデモを、そうとは記載せずに第三者然として報じているわけです。
そして、この李宇衍(이우연)氏は以下の産経新聞記事でも出てきます。

【歴史戦・第17部新たな嘘(上)】韓国で染みついた「奴隷」イメージ 背景に複雑な賃金計算法 「『意図的な民族差別』事実と異なる」韓国人研究者が結論」(2017.4.11 05:00)

 日本統治下で国内の炭鉱などに動員された朝鮮人たちは劣悪な環境で「奴隷」のように働かされた。給与もないか、あっても少額にすぎなかった-。こんな一方的な見方が韓国内では定着している。国際社会でもナチス・ドイツユダヤ人強制労働と同列であったとのイメージは広がりつつある。
 果たしてこれが「真実」なのかと疑問に思い、終戦前の資料を基に調査を行った韓国人研究者がいる。日本統治が朝鮮半島の近代化に与えた影響を調査する落星台(ナクソンデ)経済研究所の研究員、李宇衍(イ・ウヨン)(50)だ。

https://www.sankei.com/politics/news/170411/plt1704110003-n1.html

ちなみにこの産経記事での李宇衍(イ・ウヨン)説は「強制動員真相究明ネットワークニュース No.9 2017 年6月19日(pdf)」で竹内康人氏から反論され、李宇衍(イ・ウヨン)説が強制連行否定論に不都合な部分を無視していることを指摘されています。天引き部分が山ほどあるのに、そこを無視しているんですよね。
要するに朝鮮人強制連行を否定する歴史修正主義者の一人なわけですが、一韓国人が独自に調べた結果歴史修正主義者になったというよりは、このあたりが始祖ですかね。

【論説】戦時期日本へ労務動員された朝鮮人鉱夫(石炭、金属)の賃金と民族間の格差, 李宇衍, エネルギー史研究 : 石炭を中心として. 32, pp. 63 - 87, 2017-03-24. 九州大学附属図書館付設記録資料館産業経済資料部門

2017年の論文ですが、内容としては三輪宗弘氏の主張をそのままなぞっているようなもので賃金の民族間格差を否定しているものです。というより、謝辞に三輪氏の名前が挙げられていることを見ると、論文自体が三輪氏の指導によるものであろうと思えます。

そして、この三輪氏も同じような記事を産経に出しています。
「炭鉱現場、待遇の差なかった」 九大・三輪宗弘教授(2015.9.28 07:10)

韓国国内で文政権を非難し歴史修正主義的に日本を擁護する団体の後ろには必ず産経の影がちらついているという・・・。

ちなみに上記産経記事の三輪氏の主張ですが、1940年の大阪朝日新聞朝鮮半島版が朝鮮人の好待遇を報じていることを「朝鮮半島から日本内地に渡った炭鉱労働者が厚遇されていた実態」の根拠にしています。朝鮮半島から労働力を呼び込みたいのですから好待遇だと吹聴するのは当然で、そんなことは何の根拠にもなりませんけどね。
労働法などの規制がある現在でも求人情報の雇用条件は慎重に読まないとブラックな労働条件に騙されるのに。


それはともかく「歴史歪曲・徴用工像設置に反対する市民の会」とやらは日本の歴史修正主義者に近い人物を代表におく団体で、まあそういう団体が「文在寅政権に反発する人」としてカウントして日本国内で李正宣氏が報じているということです。
何段階にもロンダリングして偽装しているようですけどね。



「判決全文を読まないと分からない」というのはその通りだけどね

こんな記事がありまして。

刑事裁判の判決文はなぜ公開されない ウェブで1%だけ 米独韓は開かれた裁判

毎日新聞2019年5月20日 06時00分(最終更新 5月21日 16時24分)
 性犯罪で起訴された被告への無罪判決が相次ぎ、ソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)では裁判所への批判が広がった。一方で被告の人権擁護の観点から「判決批判への批判」も出てきて、「判決全文を読まないと分からない」という意見が相次ぐようになった。しかし、実は国民が判決文を目にするのは容易ではない。その実情と背景を探った。【中川聡子/統合デジタル取材センター】

https://mainichi.jp/articles/20190518/k00/00m/040/310000c

直近の性犯罪に対する無罪判決への批判にはさすがに問題のあるものが多く辟易しているところです。
中には監護者性交罪のように既に改正され現行刑法で有罪になるような行為に対してさえ無罪になるかのようにミスリーディングさせる論説もあります。“無期懲役になっても10年で出てくる”というのと同じ類のデマと言っていいと思います。

それはさておき。

「「判決全文を読まないと分からない」という意見」は確かにその通りです。まあ、それ以外に過去の判例も読まないとその判決文の論理自体がわからないこともありますが*1
とは言え、全ての判決が公開されるわけではありませんから、“「判決全文を読まないと分からない」と言われたら批判できない”という意見もわからなくはありません。

ただ、その場合ってとりあえず、断定的な批判を避ければいいと思うんですよね。
例えば、“報道を見る限りでは、おかしい”と留保条件をつけておけば、報道されてなかった事実が明らかになったときに改めて考え直した意見を述べることができます。
具体的な行動を起こす前にその程度の慎重さは必要だと思うんですけどね。

もちろん、被害者側に寄り添うとか共感するとか被害者支援については判決全文を読まなくても積極的にやるべきだとは思うんですが、加害者糾弾に対しては慎重になってほしいです。報道された無罪判決が不当に思えても実際には正当な判決だという場合もあるわけで、その場合、判決の正当性が判明する前に被害者支援をしていても不利益を被る人は生じません*2。一方で加害者糾弾をしていた場合は、その加害者は不当な糾弾を受けたことになり不利益を被ります。

どうも被害者支援と加害者糾弾を同一視している人が多そうなので理解されるとは期待していませんけどね。


で、冒頭の報道記事ですが、私が感じた違和感が二つあります。

一つは、今回の一連の裁判報道における報道記事に対する不満です。無罪判決を批判したいあまりか、争点や重要な事実などについて正確に報じられていなかったように思えるんですよね。
今後、裁判報道を読むときは、重要な争点や事実が抜け落ちてる前提で慎重に判断したいところです。

二つ目は、「判決全文を読まないと分からない」と言って批判している弁護士先生方に対して。
ええ、ごもっともですが、徴用工裁判の韓国大法院判決に際して、同じ姿勢で臨んでましたか?という。

大法院判決が出た直後にこんな記事が出ています。
徴用工判決「日本政府の対応はプロパガンダ」「請求権協定の白紙撤回を」弁護士たちの様々な声

これによると「弁護士ドットコムに登録する弁護士40人に、韓国大法院の決定についての評価を聞いたところ」、「評価しないし、理解もしない」が26票で65%という結果になっています。そして記載された自由意見として以下のような内容が紹介されています。

【評価しないし、理解もしない】

1965年の請求権協定の交渉段階においても、日本側は韓国側に個人補償を提案したところ、韓国側が一括受取を求めた経緯があり、この交渉経緯をみても、徴用工の問題は本来解決済みであり、韓国行政府による適切な対応が期待される。

司法の判断すべき問題ではなく、韓国大法院の決定も、それに追随する韓国政府・大統領の姿勢も理解できない。日本政府は国際司法裁判所への提訴を含めて毅然として対応すべき。

慰安婦問題の不可逆的解決も反故にされており、韓国に対する日本人の反感は無理もない。日本国内の嫌韓感情やひいてはヘイトスピーチを引き起こす主要因となっている。韓国にとっても対外的信用をなくすから良いことは無い。韓国は自重すべきだと思う。

戦後70年も経ち、日本側の個人請求権も放棄されている中、一方的に韓国側からの補償請求のみが手を替え品を変え蒸し返されて被害者カードとして利用されているのは苦痛の極み。何度交渉して何度合意しても別の問題があると話を蒸し返されたのでは国家間の合意など成り立たない。戦後補償に問題があるというのであれば請求権協定自体を白紙撤回して現在の価値で補償金を返還させるべきだ。

https://www.bengo4.com/c_23/n_8831/

判決に対する具体的な批判が一つもありません。大法院判決が認めたのは「賠償」であって「補償」ではないことすら踏まえておらず、判決を読んだとは考えられないような意見ばかりです。
性犯罪事件の無罪判決批判を批判している弁護士が必ずしも韓国大法院判決を批判したとは限らないとは言え*3、今回の性犯罪事件無罪判決と韓国大法院判決で一貫して「判決全文を読まないと分からない」という態度をとった弁護士はどのくらいいたんでしょうね。



*1:自分も強制性交と準強制性交の違いを誤認しており、今回改めて調べなおすきっかけにはなりました。

*2:支援した当人が損をしたと感じはするでしょうけど。

*3:そうは言っても、かぶっている人もいそうなので