8月14日は慰安婦記念日

2017年12月に韓国国会本会議で可決された改正日本軍慰安婦被害者支援法で、毎年8月14日が日本軍「慰安婦」被害者記念日と定められました。今年2019年の8月14日は国家記念日制定から2回目の記念日となります。
去年の最初の記念日行事での文大統領演説がこれです。
youtu.be
일본군 ‘위안부’ 피해자 기림의 날 기념식
ここには日本を非難するような文言はありません。
「일본군 ‘위안부’ 문제는 위안부 피해자 할머니들의 존엄과 명예를 회복하고, 마음의 상처가 아물 때 비로소 해결될 수 있습니다.(日本軍「慰安婦」問題は、慰安婦被害者ハルモニたちの尊厳と名誉を回復し、心の傷が癒えるとき、初めて解決することができます。)」
というあまりにも当然のことが述べられているに過ぎませんが、去年の日本社会はこの内容に対してすら発狂していました。多分、今年も発狂するでしょう。

ところで、なぜ8月14日かというと、元日本軍慰安婦の金学順氏が初めて名を明かして被害事実を証言したのが1991年8月14日だったからです。

当時の証言の様子はyoutubeで公開されています。
https://youtu.be/27OpGHIsmpAyoutu.be

ちなみにこの顕名証言の3日前の8月11日付記事でまだ匿名だった金学順氏の証言を報じたのが朝日新聞の植村記者でした*1。後に植村氏は、慰安婦問題否認論を奉じる安倍歴史修正主義政権によって弾圧され日本での活動が出来なくなります。
なお、8月14日を慰安婦記念日としたのは、韓国政府が最初ではなく、2012年12月に台湾で開かれた日本軍慰安婦問題解決のためのアジア連帯会議が最初です。

言うまでもないですが、記念日を設けて被害を忘れないようにするというのは、1993年河野談話にある「われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」*2に沿ったものですし、2015年日韓政府間合意にある「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」*3でもあります。

したがって、本来日本・日本政府はこれを協力・支援すべきなのであって、文句を言う資格はびた一ありませんが、多分文句を言うんでしょうねぇ・・・。



ヘイトかどうかの判定基準、あるいは産経新聞は表現の自由を憎悪している件

例の右翼紙・産経新聞がこんな社説を出しておってですね。
【主張】愛知の企画展中止 ヘイトは「表現の自由」か(2019.8.7 05:00|コラム|主張)

以下のように国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」の展示物を指して、ヘイトとレッテルを貼っています。

(略)企画展の在り方には大きな問題があった。「日本国の象徴であり日本国民の統合」である天皇や日本人へのヘイト行為としかいえない展示が多くあった。
 バーナーで昭和天皇の写真を燃え上がらせる映像を展示した。昭和天皇とみられる人物の顔が剥落した銅版画の題は「焼かれるべき絵」で、作品解説には「戦争責任を天皇という特定の人物だけでなく、日本人一般に広げる意味合いが生まれる」とあった。
 「慰安婦像」として知られる少女像も展示され、作品説明の英文に「Sexual Slavery」(性奴隷制)とあった。史実をねじ曲げた表現である。
(略)
 これはおかしい。憲法第12条は国民に「表現の自由」などの憲法上の権利を濫用してはならないとし、「常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と記している。今回の展示のようなヘイト行為が「表現の自由」の範囲内に収まるとは、到底、理解しがたい。大村氏は開催を反省し、謝罪すべきだろう。県や名古屋市文化庁の公金支出は論外である

https://www.sankei.com/column/news/190807/clm1908070002-n1.html

「バーナーで昭和天皇の写真を燃え上がらせる映像」「昭和天皇とみられる人物の顔が剥落した銅版画」「「慰安婦像」として知られる少女像」の展示を産経は「ヘイト行為」とみなしているようです。

法的な要件

一応ヘイトスピーチ解消法という法律の定義を見るとこうなっています。

本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律

(定義)
第二条 この法律において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=428AC1000000068

法律上の定義は「本邦外出身者に対する」という限定のため、その時点で「天皇や日本人へのヘイト行為」は法律上のヘイトにはあたらないのですが、それを除いても「差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知又は(略)著しく侮蔑するなど、(略)地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」にあたるかどうか、ですが。
「バーナーで昭和天皇の写真を燃え上がらせる映像」「昭和天皇とみられる人物の顔が剥落した銅版画」は、「著しく侮蔑」にはあたる可能性はあるかも知れませんが、「差別的意識を助長し又は誘発する目的」とは言えないでしょうし、「地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」とも言えませんから、その意味でも法律上の「ヘイト」にはあたらないでしょうね。
「「慰安婦像」として知られる少女像」にいたっては、「公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知又は(略)著しく侮蔑する」にも該当しませんね。

個人的な判定基準

あくまで個人の意見ですが、ある主張がヘイトか否かを判定する基準を、以下の2点を共に満たしているかどうかで考えています。

・主張の中のメッセージに攻撃性がある
・攻撃性のあるメッセージを向けられた対象がその社会において相対的な弱者又はその社会に属さない者である

攻撃性とは、誹謗中傷、攻撃又は誹謗中傷の煽動、攻撃対象とそれ以外の社会的分断の煽動 と考えています。また、相対的弱者とは人数、経済力などを総合した政治的影響力がメッセージの主な受け手である集団内において相対的に弱い集団を指します。その社会に属さない者とは、メッセージの主な受け手である集団に属さない集団を指します。

この視点でみた場合、「「慰安婦像」として知られる少女像」にはそこに含まれるメッセージにそもそも攻撃性がなく、ヘイトになりようがありません。
しかし、「バーナーで昭和天皇の写真を燃え上がらせる映像」「昭和天皇とみられる人物の顔が剥落した銅版画」は、天皇・皇族やその信者に対する攻撃性があると言えるでしょう。しかしながら、展示されたのは日本国内であり、天皇・皇族やその信者はどう見ても相対的弱者という条件を満たしません。したがって、これもまたヘイトとは言えないでしょう。

もし仮に、「バーナーで昭和天皇の写真を燃え上がらせる映像」「昭和天皇とみられる人物の顔が剥落した銅版画」が日本以外の、日本人・日系人がマイノリティとして居住している社会で展示された場合は、ヘイトになりうる可能性はあります。この場合は展示の仕方が重要で、アジア太平洋戦争の責任者としての昭和天皇と現在の日本人や居住している日系マイノリティとは違うということを明確にした上で、過去の戦争に対する批判として行われた場合はヘイトとは言えないでしょうが、今の日本人もアジア太平洋戦争の時と変わらないものとみなした上で「バーナーで昭和天皇の写真を燃え上がらせる映像」「昭和天皇とみられる人物の顔が剥落した銅版画」の展示がなされたのなら、ヘイトとなります。

つまり同じ作品であっても展示される状況によって評価が変わり得るわけです。

ちなみにメッセージの内容に正当性があるかどうかは関係ないと思っています。
例えば、相対的弱者が攻撃的で過激な主張で抗議している場合、たとえその主張に正当性が無くても、ヘイトにはならないという理解です。クレームではあるでしょうが。
逆に、相対的強者による相対的弱者に対する正当な主張であっても、メッセージに攻撃性があれば、それはヘイトです。相対的強者は正当な主張であれば、穏当に表現することができるのですから。


産経社説(2019/8/7)の問題点

さて、改めて産経社説を見てみます。

【主張】愛知の企画展中止 ヘイトは「表現の自由」か

2019.8.7 05:00|コラム|主張

 芸術であると言い張れば「表現の自由」の名の下にヘイト(憎悪)行為が許されるのか。
 そうではあるまい。
 だから多くの人が強い違和感や疑問を抱き、批判したのではないか。憲法は「表現の自由」をうたうとともに、その濫用(らんよう)をいさめている。
 愛知県などが支援する国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が開幕から3日で中止された。直接の理由は展示内容に対する脅迫だとされる。
 暴力や脅迫が決して許されないのは当然である。
 一方で、企画展の在り方には大きな問題があった。「日本国の象徴であり日本国民の統合」である天皇や日本人へのヘイト行為としかいえない展示が多くあった。

https://www.sankei.com/column/news/190807/clm1908070002-n1.html

のっけから産経は、今回の展示物を「ヘイト」だと決め付けていますが、その根拠は何も示されていません。上述しましたが、今回の展示物がヘイトスピーチ解消法などの法律上の要件を満たすことは条文上ありえません。
今回の展示物を「ヘイト」とみなすのは産経の個人的見解としか言いようがありませんが、「ヘイト」とみなす具体的な定義は一切示されていません。単純に不快な表現ということであるなら、産経新聞が散々やらかしてきた、民主党自民党に批判的な野党に対する記事は「ヘイト」に溢れた記事で「表現の自由」に含むべきではないということになるでしょうね。あるいは韓国・北朝鮮・中国などに関する産経記事など、産経的「ヘイト」に該当しないものを探す方が難しいでしょう。

 バーナーで昭和天皇の写真を燃え上がらせる映像を展示した。昭和天皇とみられる人物の顔が剥落した銅版画の題は「焼かれるべき絵」で、作品解説には「戦争責任を天皇という特定の人物だけでなく、日本人一般に広げる意味合いが生まれる」とあった。
 「慰安婦像」として知られる少女像も展示され、作品説明の英文に「Sexual Slavery」(性奴隷制)とあった。史実をねじ曲げた表現である。

https://www.sankei.com/column/news/190807/clm1908070002-n1.html

意に反する売春を強いられることや未成年に売春させることをSexual Slavery と呼ぶのは国際的には常識の範疇で、産経や安倍日本の主張の方がおかしいんですけどね。

 同芸術祭実行委員会の会長代行を務める河村たかし名古屋市長は「日本国民の心を踏みにじる」として像の展示中止を求めた。
 これに対して実行委会長の大村秀章愛知県知事は、河村氏の要請を「表現の自由を保障した憲法第21条に違反する疑いが極めて濃厚」と非難した。
 これはおかしい。憲法第12条は国民に「表現の自由」などの憲法上の権利を濫用してはならないとし、「常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と記している。今回の展示のようなヘイト行為が「表現の自由」の範囲内に収まるとは、到底、理解しがたい。大村氏は開催を反省し、謝罪すべきだろう。県や名古屋市文化庁の公金支出は論外である。

https://www.sankei.com/column/news/190807/clm1908070002-n1.html

産経は憲法12条を根拠に検閲を正当化するようです。しかし、憲法12条に関する通説はこうじゃないでしょうか。

第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

人権が生まれた国イギリスでも当初、人権はイギリス人の権利でしかありませんでした。フランス人権宣言ですら、そこでは男性しか想定されていません。つまり、人権は、歴史的に見れば人類の普遍的な価値ではありませんでした。人類が過去幾多の試練の中から勝ち取り、普遍的な価値であるべきだと主張し、拡大し続けてきたものなのです。ですから、私たちが権力などの強い力を持ったものに対して人権を主張し続けなければ、人権など消えて無くなってしまいます。私たちが日々の生活の中で主張し続け、実践し続けることによってやっと維持できるものなのです。
もちろん、他人に迷惑をかけたり、自分勝手が許されるわけではありませんから、公共の福祉のために一定の制限は受けます。この「公共」(public)とはpeopleと同じ語源を持つ言葉であり、人々を意味します。けっして天皇や国を意味する「公」や抽象的な国益のために人権制限が許されるわけではありません。
(2006年4月21日)

http://www.jicl.jp/old/itou/chikujyou.html#012

「けっして天皇や国を意味する「公」や抽象的な国益のために人権制限が許されるわけでは」なく、「他人に迷惑をかけたり、自分勝手が許されるわけではありません」という意味で考えると、今回の展示が、具体的な誰かに迷惑をかけたとかでもない限り制限される理由はありません。「日本国民の心を踏みにじる」などという「抽象的な国益のために人権制限が許されるわけではありません」ね。

ちなみに上記サイトでは憲法21条をこう説明しています。

第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

人はその内面に持つものを外に表現して他者に伝えることができたときに、一人の人間として幸せを感じることができます。また、一人ひとりが自分の意見を自由に他者に伝え政治に反映させることができてはじめて民主主義は成り立ちます。このように表現の自由は個人にとっても社会にとっても不可欠の重要な権利です。こうした言論活動は、その多様性が確保され自由活発に行なわれることでより進化します。
本条の核心は、既存の概念や権力のあり方に異論を述べる自由を保障するところにあるといってもよいでしょう。そこに国家が予め介入してコントロールすることは許されません(検閲の禁止)。公権力が思想内容の当否を判断すること自体が許されていないのです。
なお、本条によって情報を受け取る側の知る権利も保障され、公権力に対する情報公開請求が民主主義の実現にとって重要な役割を果たします。情報を持つ者が持たない者を支配することがあってはならないのです。
(2006年6月30日)

http://www.jicl.jp/old/itou/chikujyou.html#021

「本条の核心は、既存の概念や権力のあり方に異論を述べる自由を保障するところにある」とありますが、今回の展示物が「日本国民の心を踏みにじ」ったのなら、それこそ「既存の概念」に「異論を述べ」たのであった、その自由こそ保障されるべきでしょう。

 芸術祭の津田大介芸術監督は表現の自由を議論する場としたかったと語ったが、世間を騒がせ、対立をあおる「炎上商法」のようにしかみえない。
 左右どちらの陣営であれ、ヘイト行為は「表現の自由」に含まれず、許されない。当然の常識を弁(わきま)えるべきである。

https://www.sankei.com/column/news/190807/clm1908070002-n1.html

最後まで「ヘイト」の定義を示すことなく、今回の展示物を「ヘイト」だと決め付けた上で「ヘイト行為は「表現の自由」に含まれず、許されない」と産経は述べています。「暴力や脅迫が決して許されないのは当然」と言いつつ、今回のよう展示物に対しても「「表現の自由」に含まれず、許されない」と産経は言っていますが、それは要するに、公権力が表現を規制するように求めているということですよね。
なんとも産経的ですねぇ。



「歴史の教訓として直視」「このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意」を示した26年後に、放火テロ予告と公権力の圧力で少女像の展示は撤去された

この件。
テロ予告や脅迫に挫折 「表現の不自由展」識者の見方は(井上昇、柏樹利弘 千葉恵理子、上田真由美 2019年8月4日05時00分)

歴史修正主義の影響を受けた慰安婦問題否認論者やそのシンパによると思われる抗議は、初日だけで電話200本、メール500件で、8月2日朝には「撤去しなければガソリン携行缶を持ってお邪魔するというファクス」が届いたとのこと。ちなみにネット経由のファクスらしく発信者の特定が容易ではないらしい。「職員の個人名をインターネットにあげてさらす事例」もあったそうで、ほぼ無差別テロを予告しているに等しい。

憲法21条で保障されている表現の自由を守らなければならない立場の公権力の動きとしては、河村たかし名古屋市長が「2日に会場を視察し、「日本国民の心を踏みにじる行為で、行政の立場を超えた展示が行われている」と主張」*1し、「3日夜には記者団に「主催が民間団体だったら、こんなことにはならない。委員会方式だが、主催は名古屋市であり、愛知県。国のお金も入っているのに、国の主張と明らかに違う」」と述べ、国の主張と異なる内容の表現についてはその自由を認めないという主旨の発言を行っている。あまつさえ「「やめれば済む問題ではない」と述べ、展示を決めた関係者に謝罪を求めた」*2とのこと。
補助金停止をちらつかせた典型的な事後検閲な上に、脅迫の存在を知って上で脅迫犯に同調するような謝罪要求。
8月2日は、松井一郎大阪市長も同種の発言を行い、柴山文科大臣や菅官房長官も終了後に支払う予定の補助金停止をちらつかせて展示中止の圧力をかける発言をしている。
「撤去しなければガソリン携行缶を持ってお邪魔するというファクス」を送った脅迫犯も、河村たかし名古屋市長、菅官房長官松井一郎大阪市長、柴山文科大臣等の公権力も、要するに展示を中止させようという方向性において、安倍がトランプに電話する時と同じくらいのレベルで完全に一致している。

今から26年前、日本政府はこのような談話を発表している。

 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。
 われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html

“われわれ”はこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい?「“われわれ”は、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する?

“われわれ”って誰のこと?
少なくとも日本政府でも日本社会でも無いよね?
歴史の真実を回避し、教訓として直視することを拒み、歴史研究、歴史教育から慰安婦の記載を排除し、永く記憶にとどめるための事業すら潰すんだから。




「不適切事案」は韓国から第三国への具体的な輸出案件を念頭に置いたものではないし、政府もそんな説明をしてないという話。

こういう増田。

日本 「韓国さんを信頼して戦略物資の輸出を簡略化する優遇措置をとるよ」
韓国 「日本が貿易で大きく黒字をだしてるはずの韓国を優遇するのは当然のこと!」
日本 「韓国さん、戦略物資の使途不明分があるんだけど、協議をもって、どこに行ったか説明してもらえる?」
韓国 「・・・・・」
~1年後~
日本 「やっぱり戦略物資の使途不明分があるよね。もう一度頼むんだけど、どこに行ったか説明してもらえる?」
韓国 「・・・・・」
~2年後~
日本 「そろそろ使途不明分を説明してもらえないと、本当に困るんだよね。協議に応じてもらえないかな?」
韓国 「・・・・・」
~3年後~
世界 「おう、日本。てめぇんとこの戦略物資がイランとか北朝鮮に漏れてる恐れがあるんだが?瀬取り監視の前に輸出管理出来てんだろな?」
日本 「韓国さん、瀬取り疑惑もあるし、本当にまずいって、安全保障上の問題になる前に説明をしてよ」

https://anond.hatelabo.jp/20190801140836

まあ、安倍政権や翼賛メディアがそういう印象を抱かしめるプロパガンダを日本国内で垂れ流しているから、情弱な連中や嫌韓傾向のある連中はコロッと騙されるんでしょうけどね。

で、この増田の認識自体が日本政府の説明と全く合致していません。

例えば、日本政府が繰り返し言及しながら具体的な説明を一切拒否している「不適切な事案」ですが、「韓国から第三国への具体的な輸出案件を念頭に置いたものではありませんし、今までもそういう説明は全く行ってきていない」と世耕経済産業大臣自身が記者会見で明言していますね。

Q: 12日の事務会合で、経産省としては、不適切な事案というのは北朝鮮など第三国への不正輸出ではないことを説明しました。韓国側は、北朝鮮の問題ではなく二国間であるという点を含めて、輸出管理は適正であり日本の措置を不当と主張する可能性がありますが、御所見を伺わせてください。

A: まず、それぞれの事案の詳細については、個別の社の取引に関する内容でありますし、また、日本側の輸出管理の執行に支障が生じる懸念がありますので、個別具体的にお答えすることは控えたいというふうに思いますが、今回の対象となった3品目に関する輸出管理の運用見直しに関連する不適切事案は、韓国から第三国への具体的な輸出案件を念頭に置いたものではありませんし、今までもそういう説明は全く行ってきていないわけであります。一度も我々はそんなことを申し上げたことはないわけであります。プレスの皆さんに対しても申し上げたことはありません
その上で、これら製品分野については、日本が主要な供給国として国際社会に対して適切な管理責任を果たす必要があるということ、そして、この製品分野は、特に輸出先から短期間・短納期での発注が繰り返される慣行があるということ、そして、現に不適切な事案が発生をしているということなどから、我々は運用の見直しをすることになったというものでありまして、この運用見直しが何か不当であるというような指摘は全く当たらないというふうに思っています。

https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2019/20190716001.html

さらに言えば、輸出管理にかかわる問題で日本側が韓国側に問題提起すらしていない疑惑が濃厚です。

Q: すみません、ちょっと前の話で恐縮なんですけれども、22日に韓国の産業通商資源省の報道官の会見で、日本側は、ただ一度も我が国のキャッチオール制度の問題点を公式にも、非公式にも問題提起してきたことはなかったと発言しているんですけれども、事実関係はいかがでしょうか。

A: 韓国側のいろいろなこれまでの発言は、私達も、もう何回もその誤りを指摘してきているわけであります。また今回もやらなければいけないのは大変残念だと思いますけれども、そもそも輸出管理制度の具体的な制度や運用というのは、大量破壊兵器や通常兵器の不拡散などに責任を持っている各国が自らの責任の下で行うものでありまして、そもそも、日本から言われたか言われていないか、他国から問題提起を受けたかどうか、他国に責任転嫁をするような主張そのものにまず、とにかく論理構成に違和感を覚えるわけであります。

https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2019/20190729001.html

韓国側が「日本側は、ただ一度も我が国のキャッチオール制度の問題点を公式にも、非公式にも問題提起してきたことはなかった」と発言したことに対して、世耕経済産業大臣はそれを否定することなく、日本側から問題提起したかどうかについては答えていません。

実際には、日本政府による対韓国輸出規制はそれを正当化できる事情など無く、単に韓国に対して不満を持った安倍政権が仕掛けた貿易戦争ということでしょう。
規制を正当化できる事情が無い以上、政府はそれがあると公言はしにくく、その公言しにくい部分を嫌韓メディアがヘイトまじりに創作して垂れ流し、日本国民に韓国に対するヘイト感情を植え付けたと。

そのひとつの表れが、冒頭引用した増田の存在であろうと。

正直、ここまで社会全体がヘイトに塗れて狂った以上、今さら治療する術など無いでしょうね。
狂った日本社会がどういう終焉を迎えるのか、こちらに火の粉がかからないように注意しながら見守りたいところです。



増田が頑張って大法院判決を読んでみたこと自体は評価するけど、いかんせん読み込みが足りない。

この増田。
徴用工の賠償請求権に関する大法院判決は妥当だと言えるだろうか

私がブコメをつけた後に以下のような記載から始まる追記がついていました。

(追記)
お、(b:id:)scopedog氏からの「嫌韓バカ」、頂きました。
確かに本エントリで述べた内容は、判決文中で、大法官3名により少数意見として述べられていたものとほぼ同一です(結論は異なりますが)。
その内容とは、

https://anond.hatelabo.jp/20190729201222

とこんな感じで滔々と、大法院判決の少数意見を引用するわけですが、判決の構成を理解していない様子。

大法院判決は、最初に確定判決になる多数意見が記載されていて(P1-17)、その後に一部の大法官による個別意見(李起宅の個別意見(P17-20)、金昭英、李東遠、盧貞姫の個別意見(P20-30))と反対意見(権純一、趙載淵の反対意見(P30-38))がつけられており、最後に多数意見の大法官による補充意見(金哉衡、金善洙の多数意見に対する補充意見(P38-44))がつけられています。

個別意見・反対意見を大雑把に要約すると次の2点に集約されます(李起宅の個別意見もありますが、本題ではないのでここでは省略)。

・損害賠償も含めて日韓請求権協定の範囲内である(個別意見・反対意見)
・日韓請求権協定により個人請求権も含めて消滅した(反対意見)

増田はわざわざ「大法官3名により少数意見として述べられていたものとほぼ同一です(結論は異なりますが)」と言っていますが、それは要するに反対意見と同じということですから、“少数意見~”ではなく“反対意見と同じ”と主張するべきでしょうね。
おそらく反対意見まで読んではいなかったのでしょうけど。

最初に多数意見があり、それに対して個別意見・反対意見がつけられ、さらにそれに対して多数意見の補充意見がつけられているということを理解していない。

増田はこう述べます。

一方、これらの意見に対して、

上記のような発言内容(大韓民国側が「被徴用者の精神的、肉体的苦痛に対する補償」に言及した事実を指す)は大韓民国や日本の公式見解でなく、具体的な交渉過程における交渉担当者の発言に過ぎず、

とか、

「被徴用者の精神的、肉体的苦痛」 に言及したのは、交渉で有利な地位を占めようという目的による発言に過ぎない。

交渉過程で総額12億2000万ドルを要求したにもかかわらず、実際の請求権協定では3億ドル(無償)で妥結した。このように要求額にはるかに及ばない3億ドルのみを受けとった状況で、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたとはとうてい認めがたい。

といった、およそ子供の言い訳じみた弁明が優先されるのは、大法院の判決としてはいかがなものでしょうか。

https://anond.hatelabo.jp/20190729201222


ここで増田が引用しているのは、多数意見中の15-16ページにあります。

 しかし、上記のような発言内容は大韓民国や日本の公式見解でなく、具体的な交渉過程における交渉担当者の発言に過ぎず、13年にわたった交渉過程において一貫して主張された内容でもない。「被徴用者の精神的、肉体的苦痛」に言及したのは、交渉で有利な地位を占めようという目的による発言に過ぎないと考えられる余地が大きく、実際に当時日本側の反発で第5次韓日会談の交渉は妥結されることもなかった。また、上記のとおり交渉過程で総額12億2000万ドルを要求したにもかかわらず、実際の請求権協定では3億ドル(無償)で妥結した。このように要求額にはるかに及ばない3億ドルのみを受けとった状況で、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたとはとうてい認めがたい。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf

増田は上記引用部分から「13年にわたった交渉過程において一貫して主張された内容でもない。」という記載や「と考えられる余地が大きく、実際に当時日本側の反発で第5次韓日会談の交渉は妥結されることもなかった。」という部分を何故かはトリミングしています。

「「被徴用者の精神的、肉体的苦痛」 に言及したのは、交渉で有利な地位を占めようという目的による発言に過ぎない。」の部分の最後の読点は、引用元に無かった部分を追加していますので、改竄に近いですかね。

ま、それはともかく、増田が引用した部分は15-16ページの多数意見にありますが、個別意見・反対意見は20ページ以降の記載で、しかも多数意見が固まるなかで個別意見や反対意見が書かれるという時系列を考慮しても、「15-16ページの多数意見」の記載が、個別意見・反対意見に対するものではないことは明らかです。
しかし、増田は「一方、これらの意見に対して、」と、順序を逆転させています。
印象操作のためか、判決文の構成を理解していないためか、どちらなんでしょうね。

さらに増田はこれらの多数意見を「子供の言い訳じみた弁明」と評していますが、それは増田にとって都合の悪い記載を上記のようにトリミングした上で述べる増田自身の感想に過ぎませんね。
普通に多数意見全体を通して読んでも、考え方に対する同意不同意はあるにしても「子供の言い訳じみた弁明」と感じる部分はありません。もしそう感じるなら、嫌韓という先入観のなせる業でしょう。

日本の判例でも同意しがたい部分や結論に納得できない部分、あるいは検討が足りてないと思える部分はありますが、「子供の言い訳じみた弁明」などというレッテルでしかない評価は、そう評価する方が「子供」ですよ。まあ、日本の判例でもいくつか読んでみることをお勧めします。

多数意見に対する補充意見

さて、判決文には、20ページ以降の個別意見・反対意見に対する多数意見側の反論というか補足意見があり、それが38ページ以降の多数意見に対する補充意見です。

個人的にはそもそも反対意見のロジックにはいくつか不備があると感じていますが、それも含めて補充意見に書かれていますので以下、引用します。

11 大法官金哉衡、大法官金善洙の多数意見に対する補充意見

ア 原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権、すなわち「強制動員慰謝料請求権」が請求権協定の対象に含まれていないという多数意見の立場は条約の解釈に関する一般原則に従うものであって妥当である。その具体的な理由は次の通りである。

イ 条約の解釈の出発点は条約の文言である。当事者らが条約を通じて達成しようとした意図が文言として現れるからである。したがって条約の文言が持つ通常の意味を明らかにすることが条約の解釈において最も重要なことである。しかし当事者らが共通して意図したものとして確定された内容が条約の文言の意味と異なる場合には、その意図に応じて条約を解釈しなければならない。
この時、文言の辞典的な意味が明確でない場合には、文脈、条約の目的、条約締結過程をはじめとする締結当時の諸事情だけでなく、条約締結以降の事情も総合的に考慮して条約の意味を合理的に解釈しなければならない。ただし条約締結過程で行われた交渉過程や締結当時の事情は条約の特性上、条約を解釈するために補充的に考慮すべきである。
一方、条約が国家ではなく個人の権利を一方的に放棄するような重大な不利益を与える場合には約定の意味を厳密に解釈しなければならず、その意味が明確でない場合には個人の権利を放棄していないものと解すべきである。個人の権利を放棄する条約を締結しようとするなら、これを明確に認識して条約の文言に含ませることにより個々人がそのような事情を知ることができるようにすべきであるからである。
1969年に締結されたウィーン条約は、大韓民国に対しては1980年1月27日、日本に対しては1981年8月1日に発効したため、1965年に締結された請求権協定の解釈の基準としてこの条約を直ちに適用することはできない。ただし条約の解釈に関するウィーン条約の主な内容は既存の国際慣習法を反映したものであると見ることができるので、請求権協定を解釈においても参考とすることができる。条約の解釈基準に関する多数意見はウィーン条約の主な内容を反映したものであるから、条約の解釈に関する一般原則と異なるものではない。ただしウィーン条約が請求権協定に直接適用されるものではないから、請求権協定を解釈する際にウィーン協約を文言にそのまま従わねばならないものではない。

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イ は条約解釈の一般原則の説明です。ウィーン条約との関連に関する見解も説明されています。特におかしなところはありません。


ウ 本件の主な争点は、請求権協定の前文と第2条に現れる「請求権」の意味をどのように解釈するかである。具体的には上記「請求権」に「日本政府の韓半島に対する不法な植民支配・侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する精神的損害賠償請求権」、すなわち「強制動員慰謝料請求権」が含まれるか否かが問題になる。
 請求権協定では、「請求権」が何を意味するかを特に定めていない。請求権はきわめて多様な意味で使用することができる用語である。この用語に不法行為に基づく損害賠償請求権、特に本件で問題となる強制動員慰謝料請求権まで一般的に含まれると断定することはできない。

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条約中の「請求権」が一般的な意味として損害賠償請求権まで含むとは言えないという、これも当然の内容です。

 したがって請求権協定の文脈や目的なども併せて検討すべきである。まず請求権協定第2条でサンフランシスコ条約第4条(a)に明示的に言及しているから、サンフランシスコ条約第4条が請求権協定の基礎になったことには特に疑問がない。すなわち請求権協定は基本的にサンフランシスコ条約第4条(a)にいう「日本の統治から離脱した地域(大韓民国もこれに該当)の施政当局・国民と日本・日本国民の間の財産上の債権・債務関係」を解決するためのものである。ところで、このような「債権・債務関係」は日本の植民支配の不法性を前提とするものではなく、そのような不法行為に関する損害賠償請求権が含まれたものでもない。特にサンフランシスコ条約第4条(a)では「財産上の債権・債務関係」について定めているので、精神的損害賠償請求権が含まれる余地はないと見るべきである。

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ここでは、条約記載の「請求権」文言が当然に損害賠償請求権を含まないとしても、文脈や目的などを踏まえたら含まれるのかを検討しています。請求権協定の起訴がサンフランシスコ平和条約第4条であることは明白で、それを踏まえると「財産上の債権・債務関係」を解決することが請求権協定の目的であり、そのような「債権・債務関係」に「不法行為に関する損害賠償請求権」が含まれているとは言えないし、サ条約第4条(a)には「財産上の債権・債務関係」と明記されているので、文脈や目的を踏まえてもやはり「不法行為に関する損害賠償請求権」が含まれているとは言えない、というこれも納得できる解釈です。

 サンフランシスコ条約を基礎として開かれた第1次韓日会談において韓国側が提示した8項目は次のとおりである。 「①1909年から1945年までの間に日本が朝鮮銀行を通じて大韓民国から搬出した地金及び地銀の返還請求、②1945年8月9日現在及びその後の日本の対朝鮮総督府債務の弁済請求、③1945年8月9日以降に大韓民国にから振替または送金された金員の返還請求、④1945年8月9日現在大韓民国に本店、本社または主たる事務所がある法人の在日財産の返還請求、⑤大韓民国法人または大韓民国自然人の日本銀行券、被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の弁済請求、⑥韓国人の日本国または日本人に対する請求であって上記①ないし⑤に含まれていないものは韓日会談の成立後、個別に行使することができることを認めること、⑦前記の各財産または請求権から発生した各果実の返還請求、⑧前記返還と決済は協定成立後直ちに開始し遅くとも6ヶ月以内に完了すること」である。
 上記8項目に明示的に列挙されたものはすべて財産に関するものである。したがって上記第5項で列挙されたものも、例えば徴用による労働の対価として支払われる賃金などの財産上の請求権に限定されたものであり、不法な強制徴用による慰謝料請求権まで含まれると解することはできない。その上ここに言う「徴用」が国民徴用令による徴用のみを意味するのか、それとも原告らのように募集方式または官斡旋方式で行われた強制動員まで含まれるのかも明らかではない。また第5項は「補償金」という用語を使用しているが、これは徴用が適法であるという前提で使用した用語であり、不法性を前提とした慰謝料が含まれないことが明らかである。当時の大韓民国と日本の法制では「補償」は適法な行為に起因する損失を填補するものであり、「賠償」は不法行為による損害を填補するものとして明確に区別して使用していた。請求権協定の直前に大韓民国政府が発行した「韓日会談白書」も「賠償請求は請求権問題に含まれない」と説明した。 「その他」という用語も前に列挙したものと類似した付随的なものと解するべきであるから、強制動員慰謝料請求権が含まれるとするのは行き過ぎた解釈である。

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実際、第1次日韓会談で韓国側が要求した8項目は全て財産に関するものであり、第5項に記載されている「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の弁済請求」も「未収金、補償金」は適法を前提としているので、損害賠償は含んでいないし、「その他の請求権」も「前に列挙したものと類似した付随的なものと解するべきであるから、強制動員慰謝料請求権が含まれるとするのは行き過ぎた解釈である」と、これもまあ、おかしいとは言えない解釈です。
さらに「請求権協定の直前に大韓民国政府が発行した「韓日会談白書」も「賠償請求は請求権問題に含まれない」と説明した」という事実も追加されています。

 請求権協定の合意議事録(Ⅰ)では、8項目の範囲に属するすべての請求が請求権協定で完全かつ最終的に「解決されるものとされる」請求権に含まれると規定しているが、前記のように上記第5項「被徴用韓国人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済請求」が日本の植民支配の不法性を前提としたものと解することができないから、強制動員慰謝料請求権がこれに含まれると解することもできない。
 結局、請求権協定、請求権協定に関する合意議事録(Ⅰ)の文脈、請求権協定の目的などに照らして請求権協定の文言に現れた通常の意味に従って解釈すれば、請求権協定にいう「請求権」に強制動員慰謝料請求権まで含まれるとは言いがたい。

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合意議事録中に「8項目の範囲に属するすべての請求が請求権協定で完全かつ最終的に「解決されるものとされる」請求権に含まれると規定している」としても、そもそも8項目中に損害賠償請求権が含まれているとは考えられないので、損害賠償請求権も含めて請求権協定で解決したとは言えないという、なるほどね、というロジックです。

エ 上記のような解釈方法だけでは請求権協定の意味が明らかではなく、交渉記録と締結時の諸事情等を考慮してその意味を明らかにすべきだとしても、上記のような結論が変わることはない。
 まず請求権協定締結当時の両国の意思がどのようなものであったのかを検討する必要がある。一般的な契約の解釈と同様に条約の解釈においても、外に現れた表示にもかかわらず両国の内心の意思が一致していた場合、その真意に基づいて条約の内容を解釈するのが妥当である。仮に請求権協定当時、両国とも強制動員慰謝料請求権のような日本の植民支配の不法性を前提とする請求権も請求権協定に含めることに意思が一致していたと見ることができるなら、請求権協定に言う「請求権」に強制動員慰謝料請求権も含まれると解することができる。

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条約文言や文脈、目的を踏まえるだけではなく、交渉当時の諸事情を勘案して「請求権」の意味を解釈すべきだという意見に対する説明です。
それに対して、「一般的な契約の解釈と同様に条約の解釈においても、外に現れた表示にもかかわらず両国の内心の意思が一致していた場合、その真意に基づいて条約の内容を解釈するのが妥当である」という前提をまず置いていますが、それは一般的に妥当な前提でしょう。
これはどうも反対意見に対する反論のようです*1

 しかし日本政府が請求権協定当時はもちろん現在に至るまで強制動員の過程で反人道的な不法行為が犯されたことはもとより植民支配の不法性さえも認めていないことは周知の事実である。また請求権協定当時日本側が強制動員慰謝料請求権を請求権協定の対象としたと解するに足りる資料もない。当時強制動員慰謝料請求権の存在自体も認めていなかった日本政府が請求権協定にこれを含めるという内心の意思を持っていたと解することもできない。
 これは請求権協定当時の大韓民国政府も同様であったと見るのが合理的である。多数意見において述べたように請求権協定の締結直前の1965年3月20日大韓民国政府が発行した公式文書である「韓日会談白書」では、サンフランシスコ条約第4条が韓・日間の請求権問題の基礎になったと明示しており、さらに「上記第4条の対日請求権は、戦勝国の賠償請求権とは区別される。大韓民国サンフランシスコ条約の調印国ではないため、第14条の規定により戦勝国が享有する損害と苦痛に対する賠償請求権は認められなかった。このような韓・日間の請求権問題には賠償請求を含めることができない。」という説明までしている。

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当事者双方が、条文などに明示されていなくても、不法行為による損害賠償も含めて請求権協定で解決するという認識を抱いていたのなら、そういう解釈も可能だが、日本は植民地支配の不法性を一切認めておらず、故に日本側が請求権協定に不法行為による損害賠償をも含めるという内心の意思を持っていたとは言えない、というこれまた当然の認識です。
韓国政府の認識も「1965年3月20日大韓民国政府が発行した公式文書である「韓日会談白書」」の記載から、請求権協定に不法行為による損害賠償が含まれているというものではなかったことは明らかだとしています。

 一方、上記のような請求権協定締結当時の状況の他に条約締結後の事情も補充的に条約の解釈の考慮要素になりうるが、請求権協定に言う「請求権」に強制動員慰謝料請求権が含まれると解することができないということは、これによっても裏付けることができる。請求権協定以後大韓民国は請求権資金法、請求権申告法、請求補償法を通じて1977年6月30日までに被徴用死亡者8552人に1人当り30万ウォンずつ合計25億6560万ウォンを支給した。これは上記8項目のうち、第5項の「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の弁済請求」が請求権協定の対象に含まれることによる追加措置に過ぎないと見ることができるから、強制動員慰謝料請求権に対する弁済とは言いがたい。しかもその補償対象者も「日本国によって軍人・軍属または労務者として招集または徴用され1945年8年15日以前に死亡した者」に限定されていた。また、その後大韓民国は2007年の犠牲者支援法などによりいわゆる「強制動員犠牲者」に慰労金や支援金を支給したが、当該法律では名目は「人道的次元」のものであることを明示した。このような大韓民国の措置は、請求権協定に強制動員慰謝料請求権は含まれておらず、大韓民国が請求権協定資金により強制動員慰謝料請求権者に対して法的支払い義務を負うものではないことを前提としているものと言わざるを得ない。

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この辺は個別意見に対する反論になりますかね。
条約締結後の状況をも補充的に考慮したとしても、請求権資金法、請求権申告法、請求補償法、2007年の犠牲者支援法などは「請求権協定の対象に含まれることによる追加措置に過ぎない」か「「人道的次元」のもの」であって、韓国政府が損害賠償請求権者に対する支払い義務を負っていることを前提としたものではない、というもので、個々の法律をもっとよく調べれば再反論の余地もあるかもしれませんが、特段の事情がない限り納得できないような解釈ではありませんね。

オ 国家間の条約によって国民個々人が相手国や相手国の国民に対して有する権利を消滅させることが国際法上許容されるとしても、これを認めるためには当該条約でこれを明確に定めねばならない。その上本件のように国家とその所属国民が関与した反人道的な不法行為による損害賠償請求権、その中でも精神的損害に対する慰謝料請求権の消滅のような重大な効果を与えようとする場合には条約の意味をより厳密に解釈しなければならない。
 サンフランシスコ条約第14条が日本によって発生した「損害と苦痛」に対する「賠償請求権」とその「放棄」を明確に定めているのとは異なり、請求権協定は「財産上の債権・債務関係」のみに言及しているだけであり、請求権協定の対象に不法行為による「損害と苦痛」に対する「賠償請求権」が含まれるとか、その賠償請求権の「放棄」を明確に定めてはいない。

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国家間の条約が個人の権利を消滅させることが許容されるにしても、それを認めるには条約で明確にその旨が記載されなければならないとして、請求権協定とサ条約の文言を比較した上で、個別請求権が消滅しないことを論証しています。
まあ、多少でも真面目にこの問題を調べた人で、この論理に異論のある人はまずいないと思うんですけどね。

 日本政府の韓半島に対する不法な植民支配と侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為により動員され、人間としての尊厳と価値を尊重されないままあらゆる労働を強要された被害者である原告らは、精神的損害賠償を受けられずに依然として苦痛を受けている。大韓民国政府と日本政府が強制動員被害者らの精神的苦痛を過度に軽視し、その実状を調査・確認しようとする努力すらしないまま請求権協定を締結した可能性もある。請求権協定で強制動員慰謝料請求権について明確に定めていない責任は協定を締結した当事者らが負担すべきであり、これを被害者らに転嫁してはならない。

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この辺は、現に被害者がいるのだから、請求権協定で曖昧にした責任を被害者に転嫁してはならないという、まあ人道主義からすればもっともな話です。

というわけで、多数意見に賛成した大法官のうち金哉衡と金善洙は、多数意見に対する補充意見の中で、個別意見や反対意見に対する反論となる論証をちゃんとやっているわけですね。
少数意見をつまみ食いして寄生するのではなく、補充意見も含めて論旨を理解した上で自身の考えを持つべきでしょうね。



*1:反対意見では、請求権協定の解釈について、日本が外交保護権の放棄のみと解釈したとしても、韓国は締結当時は外交保護権のみならず個別請求権も含めて放棄すると解釈していたのでそれを遵守すべきだという解釈が採られていますが、これは普通に契約の概念からしても衡平とは言えないでしょう。

韓国の元外交官洪熒(ホン・ヒョン)氏に関するちょっとした話題

「韓国の元外交官「今の韓国は正常な国ではない」」 民主主義も三権分立も存在せず、国内は「内戦状態」(2019.7.31(水)古森 義久)

 7月29日、民間安全保障・外交研究機関「日本戦略研究フォーラム」(屋山太郎会長)主催による討論会が東京都内で開かれた。この討論会で、かつて韓国政府の外交官として在日韓国大使館の公使や参事官を務め現在は学者や評論家として活動する洪熒(ホン・ヒョン)氏が講演し、質疑応答に応じた。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57168

洪熒氏という韓国の元駐日公使がこう言っているようです。
この洪熒氏ですが、日本の極右団体「国家基本問題研究所」の常連でもあります*1

コトバンクによれば、「1980年代から2001年にかけ、在日韓国大使館の参事官、公使として3度の日本駐在勤務を経験」とのことで、時期的には、全斗煥政権(1980-1988)、盧泰愚政権(1988-1993)、金泳三政権(1993-1998)、金大中政権(1998-2003)あたりになります。

まあ、それよりも気になったのはこのあたりです。

f:id:scopedog:20190731221125j:plain

https://www.tongil-net.org/press/%E3%80%90%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%80%91%E6%9C%88%E4%BE%8B%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%80%80%E6%B4%AA%E7%86%92%EF%BC%88%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%89%E5%85%88/

平和統一連合、要するにカルト教団である統一教会*2セミナー講師に呼ばれています。
洪熒氏が顧問を務める統一日報も直接、統一教会と関係しているわけでは無さそうですが、「国際勝共連合創立50周年式典開催 議員、関係者など450人が出席」*3などと統一教会主催のイベントを好意的に報じるなど、宗教的にはともかく政治思想的にはかなり近いことがうかがわれます。

まあ、安倍晋三氏とか櫻井よしこ氏とか辿るとだいたい統一教会との関連が浮かんでくるんですけどね。
とりあえず、「今の韓国は正常な国ではない」と言っている韓国の元外交官とやらは、統一教会と仲良しだというそんな話でした。



*1:https://jinf.jp/author/hon_hyon

*2:https://www.tongil-net.org/introduce/%e5%89%b5%e8%a8%ad%e5%a4%a7%e4%bc%9a%e3%83%a1%e3%83%83%e3%82%bb%e3%83%bc%e3%82%b8/ あたりを見ると「神様は文鮮明先生を救世主であり、メシア、再臨主である真の父母として送られ、その中心使命を果たすようにされました。」とか何とか、うわぁ・・・な内容が。

*3:http://news.onekoreanews.net/detail.php?number=85208&thread=04

請求権協定で合意したのは「補償」、大法院が命じたのは「賠償」。「補償」と「賠償」は法的に全く意味が違う。

この件。
徴用工問題「支払いは韓国政府」で合意 外務省、日韓協定交渉の資料公表(7/29(月) 20:59配信 産経新聞)

まあ、安倍政権が自らに都合のいい資料を都合のいい解釈で日本メディアが報じることを前提で公表しているとは言え、資料が公表されること自体はいいことですね。
冒頭書いたとおり、1965年請求権協定で合意されたのは「補償」であって、2018年大法院判決が命じた「賠償」ではありません。
この点、2018年10月30日大法院判決は明確に述べています。

(4) 請求権協定の交渉過程で日本政府は植民支配の不法性を認めないまま、強制動員被害の法的賠償を根本的に否認し、このため韓日両国の政府は日帝韓半島支配の性格に関して合意に至ることができなかった。このような状況で強制動員慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれたとは認めがたい。
 請求権協定の一方の当事者である日本政府が不法行為の存在およびそれに対する賠償責任の存在を否認する状況で、被害者側である大韓民国政府が自ら強制動員慰謝料請求権までも含む内容で請求権協定を締結したとは考えられないからである。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf?fbclid=IwAR052r4iYHUgQAWcW0KM3amJrKH-QPEMrH5VihJP_NAJxTxWGw4PlQD01Jo

日韓交渉を通じて日本と韓国は植民地支配の性格について合法・不法いずれとも合意に至らなかったのだから、不法な植民地支配により生じる賠償が請求権協定に含まれるとは考えられないという論理であって、論理としては筋が通っています。
ちなみに、この判断には少数意見がついていて、3人の大法官が、賠償も請求権協定の範囲内だが請求権協定で消滅したのは外交保護権のみで個人請求権は消滅せず行使も有効であるという判断で、大法院判決そのもについては賛成しています。

「対日請求要綱」の件。

韓国政府が日韓交渉において提示した「対日請求要綱」ですが、「韓日間財産及び請求権協定要綱」という八項目の具体的な請求項目のことで、日韓交渉第5次会談(1960/10-1961/5)の一般請求権委員会第2回会合(1960/11/18)で提示されたものです。

要綱と併せて公表された交渉議事録によると、1961(昭和36)年5月の交渉で日本側代表が「個人に対して支払ってほしいということか」と尋ねると、韓国側は「国として請求して、国内での支払いは国内措置として必要な範囲でとる」と回答した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190729-00000571-san-pol

上記は、戦時強制動員等の日本政府の責任を回避するために良く持ち出されるエピソードですが、責任回避目的で使われるために都合のいい部分のみの抜き出しになっています。

そして当然、大法院判決もそのような被告側の主張を踏まえた上で次のようにそれを退ける判断しています。

(5) 差戻し後の原審において被告が追加して提出した各証拠なども、強制動員慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれないという上記のような判断を左右するものであるとは考えられない。
 上記の各証拠によれば、1961年5月10日、第5次韓日会談予備会談の過程で大韓民国側が「他国民を強制的に動員することによって負わせた被徴用者の精神的、肉体的苦痛に対する補償」に言及した事実、1961年12月15日、第6次韓日会談予備会談の過程で大韓民国側が「8項目に対する補償として総額12億2000万ドルを要求し、そのうちの3億6400万ドル(約30%)を強制動員被害補償に対するものとして算定(生存者1人当り200ドル、死亡者1人当たり1650ドル、負傷者1人当り2000ドルを基準とする)」した事実などを認める事はできる。
 しかし、上記のような発言内容は大韓民国や日本の公式見解でなく、具体的な交渉過程における交渉担当者の発言に過ぎず、13年にわたった交渉過程において一貫して主張された内容でもない。「被徴用者の精神的、肉体的苦痛」に言及したのは、交渉で有利な地位を占めようという目的による発言に過ぎないと考えられる余地が大きく、実際に当時日本側の反発で第5次韓日会談の交渉は妥結されることもなかった。また、上記のとおり交渉過程で総額12億2000万ドルを要求したにもかかわらず、実際の請求権協定では3億ドル(無償)で妥結した。このように要求額にはるかに及ばない3億ドルのみを受けとった状況で、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたとはとうてい認めがたい。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf?fbclid=IwAR052r4iYHUgQAWcW0KM3amJrKH-QPEMrH5VihJP_NAJxTxWGw4PlQD01Jo

産経のいう「1961(昭和36)年5月の交渉」の後、1961年12月15日に韓国側は「8項目に対する補償として総額12億2000万ドルを要求し、そのうちの3億6400万ドル(約30%)を強制動員被害補償に対するものとして算定(生存者1人当り200ドル、死亡者1人当たり1650ドル、負傷者1人当り2000ドルを基準とする)」という具体的な金額を提示しましたが、結局、1962年11月12日の金鍾泌中央情報部長・大平正芳外務大臣の会談で無償3億ドルにまで減額されています。
大法院はこの点をもって「交渉過程で総額12億2000万ドルを要求したにもかかわらず、実際の請求権協定では3億ドル(無償)で妥結した。このように要求額にはるかに及ばない3億ドルのみを受けとった状況で、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたとはとうてい認めがたい」という判断を下しています。
要するに個々の強制動員被害者らへの賠償も含まれた金額と解釈するには 3億ドルはあまりにも少なすぎるということです。

ちなみに1910年から1945年までの足掛け36年にわたって支配した韓国に対して提供した無償援助は賠償名目としては認めない3億ドルですが、1942年から1945年の足掛け4年支配したインドネシアに対しては、賠償名目の2億ドル超を無償援助しています*1
韓国に対する無償援助3億ドルというのは、他のケースと比べると非常に低額とも言え、要するに日本は、韓国側の要求した請求内容を値切りに値切って13年間にわたってごね続けたというのが実態です*2

不思議なことに現在の日本では、“お人好しな日本は善意で韓国に対して色々世話してやったが、韓国は恩をあだで返した”と妄信している人が多いのですが、これは端的には官民挙げた嫌韓教育の結果とも言えるでしょう。

日韓交渉において譲歩を強いられたのは、多くの場合韓国側で、請求権問題でも最終的に韓国側が譲歩して、当初要求に比べて遥かに安い額で合意したことで成立に至っています。

「池田内閣期の日韓関係をめぐる主要紙社説(1960~1964年)(梶居佳広)」によれば、無償3億ドルについての合意が成立した1962年11月(この時点では金額非公開)の日韓首脳会談に対して、主要紙のほとんどがそれを評価しており、その理由を「その多くが請求権問題について韓国側が日本に歩み寄ったと理解したから」としています。

 第6次会談開始の翌月に当る11月11~12日,朴正煕国家再建最高会議議長が来日して池田首相と会談。会談直前の社説は『京都(11.12)』『神戸(11.7)』が請求権とは別個なものとしての経済協力構想を打ち出し,『毎日(11.11)』が請求権問題は北朝鮮との間にも存在していることを指摘する一方で,『読売(11.7)』『西日本(11.11)』が拙速な早期妥結には反対するなど会談開始時と類似の主張が展開されていた。しかるに,「請求権は賠償的なものでなく事務的に資料に当って計算すべきである」「請求権を絞る代わりに韓国側に経済協力を供与する」という方向での日韓首脳の合意がなされると,『読売』を除く全紙が社説で取り上げた。そして批判論の『北海道(11.13)』と注文をつける『神戸(11.17)』を除いて,会談の成果を高く評価している。というのも,その多くが請求権問題について韓国側が日本に歩み寄ったと理解したからであった。会談以前に経済協力案を提起していた『中国』はこの時点ではもはや請求権にさえ言及せず,日韓国交正常化は現実外交の一環とする立場から日韓交渉に反対する社会党を「理想論」として批判しており,『東京(11.13)』もまた社会党の態度は「現実に目をそむけるもの」と評している。ただし,日韓合意を歓迎するこれらの新聞は今後の進め方についてはなお慎重な対応を求めていた。一方,『北海道(11.13)』は,これまでと同様,朝鮮統一と冷戦緩和の観点から軍事政権である韓国との国交正常化にあくまで反対するものであり,『神戸(11.17)』も軍事政権との交渉への疑問の他,(韓国民の)民生向上のための経済協力はできる限り行うべきであるが,「いわれのない補償金を支払う」必要はないと主張している。

http://ritsumeikeizai.koj.jp/koj_pdfs/65301.pdf

12億ドルの請求に対して3億ドルしか払っていないのに解決済み?

実際に韓国側が要求していた内容に比べると圧倒的に値切った結果が、3億ドルなのであって、それを値切り以前の金額の内訳としていた「強制動員被害補償に対するもの」を「賠償」も含めて全て含んでいる、というのはさすがに無理があります。
ですが産経新聞は、韓国側の具体的な要求金額については一切報じず、隠蔽することで韓国側の要求は全て通って解決済みであるかのように日本語圏読者を騙しているわけですね。

 韓国側が政府への支払いを求めたことを受け、日本政府は韓国政府に無償で3億ドル、有償で2億ドルを供与し、請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決されたこと」を確認する請求権協定を締結した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190729-00000571-san-pol

“大法院判決が命じた賠償は請求権協定の範囲外なので国際法には違反しない”というのが韓国側の主張

 しかし、韓国最高裁は昨年、日本企業に元徴用工らへの損害賠償を命じた判決を確定させた。日本政府は「国際法違反」として韓国政府に早期の対応を求めている。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190729-00000571-san-pol

日本側は一方的に韓国大法院判決を国際法違反と決め付けていますが、韓国大法院判決は上述の通り日韓請求権協定の範囲に賠償は含まれないという判断ですから、韓国側から見れば国際法違反でも何でもありません。
むしろ日本側が国際法違反だと主張する理由の方がよくわかりません。そもそも賠償の対象となる不法行為がないという理由なのか、賠償の対象となる不法行為はあったが1965年請求権協定で解決したという理由なのか。
前者ならば、日本による韓国植民地支配は合法か不法かという問題に発展するはずですが、それに触れている報道はほぼ見かけませんし、そもそもその主張だと請求権協定違反という話にはなりにくい気がします。後者ならば、請求権協定の範囲に賠償が含まれるかどうかという問題になりますが、韓国大法院はそれを検討した上で含まれないと判断したわけです。一方の日本で「賠償」が請求権協定に含まれると判断しているのかどうか、その辺はよくわかりません。過去の判決の理由の中にありそうな気もしますがどうなんでしょうかね。仮に日本側の司法判断で「賠償」も含めて請求権協定に含まれるという判例があったとしても、日韓司法で判断が分かれたということに過ぎず、自動的にどちらかが正しいということにもなりませんけどね。