安倍政権下第198回国会及び第200回国会での強行採決数

2019年1月~6月の通常国会(198回)と同年10月~12月の臨時国会(200回)における政府提出法案での強行採決について簡単に調べました。
ちなみに間の第199回国会は5日間のみの臨時国会で成立した法案は無かったため省略です。

強行採決の定義

以前検討した内容を踏まえて、衆議院参議院とも本会議のみを対象とし、本会議における野党会派の半数以上が反対・欠席した場合を強行採決と定義します。なお、参議院での各派に属さない議員は会派とみなさず除外します。また、会派内で賛否分かれた時は、賛成・反対のいずれにも加算しません。会派内の一部が欠席した場合は出席議員の賛否のみを参照します。会派全員が欠席した場合は、会派の欠席とみなし反対会派としてカウントします。衆議院での賛成会派、反対会派のいずれでも無い場合は会派欠席とみなし反対会派としてカウントします。

第198回国会(通常):2019年1月28日~2019年6月26日(150日間)

この国会で提出された政府提出法案数は57本、前国会からの継続法案は1本で、合計58本が政府提出法案です。
このうち、この国会で成立したのは55本(94.8%)、継続審議となったのが2本、審議未了が1本です。

衆議院本会議での強行採決
会期 提出番号 法案名 議決日 反対会派数/野党会派数
198 3 所得税法等の一部を改正する法律案 2019/03/02 8/8
198 4 地方税法等の一部を改正する法律案 2019/03/02 8/8
198 5 特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律案 2019/03/02 8/8
198 7 地方交付税法等の一部を改正する法律案 2019/03/02 6/8
198 13 特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法の一部を改正する法律案 2019/03/12 4/8
198 14 防衛省設置法等の一部を改正する法律案 2019/04/11 5/8
198 16 金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律の一部を改正する法律案 2019/04/23 4/8
198 23 農地中間管理事業の推進に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/04/23 5/8
198 31 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/05/21 4/8
198 45 法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/05/10 8/8

8つの野党会派中4つ以上が反対した法案は上記10本。そのうち野党会派中5つ以上が反対した法案は7本。野党会派中6つ以上が反対した法案は5本。全ての野党会派が反対したのが4本。
採決された法案55本(全て可決)のうち、立憲民主党*1が賛成したのは41本(74.5%)、国民民主党*2が賛成したのは45本(81.8%)、共産党*3が賛成したのは27本(49.1%)、維新*4が賛成したのは47本(85.5%)、社会保障を立て直す国民会議が賛成したのも47本(85.5%)、社民*5が賛成したのは34本(61.8%)、希望の党が賛成したのは50本(90.9%)、未来日本が賛成したのも50本(90.9%)でした。

参議院本会議での強行採決(2020/5/21訂正)
会期 提出番号 法案名 議決日 反対会派数/野党会派数
198 3 所得税法等の一部を改正する法律案 2019/03/27 5/6
198 4 地方税法等の一部を改正する法律案 2019/03/27 5/6
198 5 特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律案 2019/03/27 5/6
198 7 地方交付税法等の一部を改正する法律案 2019/03/27 4/6
198 13 特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法の一部を改正する法律案 2019/03/27 4/6
198 14 防衛省設置法等の一部を改正する法律案 2019/04/24 3/6
198 15 子ども・子育て支援法の一部を改正する法律案 2019/05/10 3/6
198 16 金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律の一部を改正する法律案 2019/05/17 4/6
198 19 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案 2019/04/19 3/6
198 21 大学等における修学の支援に関する法律案 2019/05/10 3/6
198 22 学校教育法等の一部を改正する法律案 2019/05/17 3/6
198 23 農地中間管理事業の推進に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/05/17 4/6
198 31 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/06/05 3/6
198 34 国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/05/17 3/6
198 37 地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案 2019/05/31 3/6
198 45 法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/06/19 5/6

6つの野党会派中3つ以上が反対した法案は上記16本。そのうち野党会派中4つ以上が反対した法案は9本。野党会派中5つ以上が反対した法案は4本。
採決された法案55本(全て可決)のうち、立憲民主党*6が賛成したのは41本(74.5%)、国民民主党*7が賛成したのは43本(78.2%)、共産党*8が賛成したのは26本(47.3%)、維新*9が賛成したのは48本(87.3%)、無所属クラブが賛成したのは55本全て(100%)、沖縄の風が賛成したのは33本(60.0%)でした。

強行採決数(2020/5/21訂正)

定義通り、野党会派の半数以上が反対・欠席した場合を強行採決とすると、第198回国会での政府提出法案の強行採決数は26本。衆参での重複を除く法案数では16本となります。
衆参両院で可決され成立した法案55本中、強行採決の割合は 29.1% になります。


第200回国会(臨時):2019年10月4日~2019年12月9日(67日間)

この国会で提出された政府提出法案数は15本、前国会からの継続法案は2本で、合計17本が政府提出法案です。
このうち、この国会で成立したのは16本(94.1%)、継続審議となったのが1本です。

衆議院本会議での強行採決
会期 提出番号 法案名 議決日 反対会派数/野党会派数
200 2 特別職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律案 2019/11/07 2/4
200 14 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案 2019/11/19 2/4

4つの野党会派中2つ以上が反対した法案は上記2本。
採決された法案17本(全て可決)のうち、立憲民主党・国民民主党*10が賛成したのは16本(94.1%)、共産党*11が賛成したのは6本(35.3%)、維新*12が賛成したのは12本(70.6%)、希望の党が賛成したのは17本全て(100%)でした。

参議院本会議での強行採決
会期 提出番号 法案名 議決日 反対会派数/野党会派数
200 14 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案 2019/12/04 5/7

7つの野党会派中4つ以上が反対した法案は上記1本。
採決された法案16本(全て可決・衆議院で可決したが参議院で継続審議となった1本は除く)のうち、立憲民主党・国民民主党*13が賛成したのは15本(93.8%)、共産党*14が賛成したのは6本(37.5%)、維新*15が賛成したのは11本(68.8%)、沖縄の風が賛成したのは12本(75.0%)、れいわ新選組が賛成したのは5本(31.3%)、碧水会が賛成したのは15本(93.8%)、みんなの党が賛成したのは16本全て(100%)でした。

強行採決

定義通り、野党会派の半数以上が反対・欠席した場合を強行採決とすると、第200回国会での政府提出法案の強行採決数は3本。衆参での重複を除く法案数では2本となります。
衆参両院で可決され成立した法案16本中、強行採決の割合は 12.5% になります。

考察と限界

現実問題としてすべての法案審議状況を網羅して強行採決か否かを判定していくのは困難ですので、国会のサイトから得られる会派別の賛否状況から会派単位で機械的に判定する手法をとっています。この手法で、戦争法、共謀罪法、特定秘密保護法などの審議状況を判定すると強行採決と判定されますので、それなりの精度はあると思います。
ただし、野党再編の動きに合わせて会派数が増減するため、第200回国会の衆議院のように野党が4会派しかいない場合は2会派の反対のみで強行採決と判定され、逆に第198回国会の衆議院のように野党が8会派ある場合は3会派が反対しても強行採決と判定されない可能性があり、実態と乖離する恐れがあります。
また、政府提出法案の全てに賛成している会派を判定にあたって野党会派とみなすべきかについては検討が必要かも知れません。
強行採決か否かの判定を野党会派の動向のみで判定しているため、賛否議席数や審議日数などが考慮されておらず、これも実態と乖離する可能性が否定できません。
さらに、委員会採決を省略するなど特異な運用がされた場合についても考慮できない点、会派内で造反があった場合に賛否分裂として賛否会派数に正確にカウントできない可能性もあります(例えば198回国会参議院の採決で国民民主党・新緑風会27名中25名賛成、1名反対の状況がありますが、この会派としては賛成とみなすべきかもしれません。同様のことはこの採決での立憲民主党・民友会・希望の会28名でも起こっており、反対27名に対して賛成1名となっていますが、これは反対としてカウントしていません。))。
今回の強行採決数のカウントは国会で審議された法案数をベースにしており、一つの法案で複数の既存法を改正させる束ね法案については考慮しておらず、影響範囲の大きさを踏まえることができません。
以上の限界はあるものの、国会のサイトから得られる情報を元に機械的に判定する手法は恣意的な判断の入る余地がなく、有用であろうと思います。
今後の課題としては、民主党政権時の採決についても同じ手法で判定してみる必要があるということが考えられます。




*1:立憲民主党・無所属フォーラム

*2:国民民主党・無所属クラブ

*3:日本共産党

*4:日本維新の会

*5:社会民主党市民連合

*6:立憲民主党・民友会・希望の会

*7:国民民主党・新緑風会

*8:日本共産党

*9:日本維新の会希望の党

*10:立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム

*11:日本共産党

*12:日本維新の会

*13:立憲・国民・新緑風会・社民

*14:日本共産党

*15:日本維新の会

実態を無視して「日本ホメNG法」だとか宣伝する記者のヤバさ

韓国が進歩派政権になると日本で量産される韓国人論者の一人、金昌成氏の記事。
「文在寅」圧勝で確定“日本を褒めることを禁止する”法案のヤバい中身(4/22(水) 5:56配信デイリー新潮)
罰金57億円、叙勲取消、墓掘り返し…コロナ禍の韓国「日本ホメNG法」のヤバさ(5/11(月) 6:00配信デイリー新潮)

金昌成氏が記事中で「“日本を褒めることを禁止する”法案」「親日称賛禁止法」「対日称賛禁止法」とか言ってますが、基礎になっている2018年の法案は、既存法である「情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律(情報通信網法) 」*1の改正案です。

具体的には情報通信網法第44条の7 第1項に5の2号を追加するというもので、以下の条文がその法案です。

제44조의7(불법정보의 유통금지등) ① 누구든지 정보통신망을통하여 다음 각 호의 어느 하나에 해당하는 정보를 유통하여서는 아니 된다.

第44条の7(不法情報の流通禁止等)①誰でも情報通信網を介して、次の各号のいずれかに該当する情報を流通してはならない。

5의2. 「형법」에서 금지하는일본제국주의를 상징하는 깃발·휘장·문양이 포함되어 있거나 일제강점기 식민통치·침략전쟁 행위를 왜곡·찬양·고무·선전하는 내용의 정보

5の2。 「刑法」で禁止される日本帝国主義を象徴する旗・幕・文様が含まれているか、日本植民地時代の植民地統治・侵略戦争行為を歪曲・賛美・鼓舞・宣伝する内容の情報

 
要するに、戦前の日本帝国主義を象徴する旭日旗や日本による植民地支配・侵略戦争行為を歪曲・賛美・鼓舞・宣言するような内容の情報をネット等を通じて流布することを禁止するもので、ドイツなどでの鉤十字旗の禁止やホロコースト否定の禁止の法律*2と似ています。

以前も言及しましたが、韓国の名誉毀損法制が厳しすぎるという意味での批判はありだと思います。
ですが、そういう意味ではなく「“日本を褒めることを禁止する”法案」「親日称賛禁止法」「対日称賛禁止法」といった実態を捻じ曲げた記事を垂れ流すのは、いかに進歩派政権が嫌いだからといってもやり過ぎでしょう。

金昌成氏はホロコースト法を『“ドイツを褒めることを禁止する”法案』とか『親独称賛禁止法』とか『対独称賛禁止法』のように解釈するのでしょうか?
それとも金昌成氏にとっては、「日本を褒めること」=「日本の植民地支配や侵略戦争を賛美すること」なのでしょうか?

だとすれば、それは親日とか反日とか以前に、反人類的な思考だと言わざるを得ないですね。

ちなみに金昌成記事の2本目では名称が「反日称賛禁止法」になっていたり、「反日人物のお墓を掘り返すことを認める「国立墓地法改正案」、反日人物の叙勲を取り消す「叙勲法改正案」」とかになっていて、「親日」と「反日」を間違えたとしか思えないミスが連発されています。



近藤大介氏の往生際の悪さ

この件。
朝鮮労働党幹部が明かした「金正恩異変説」の真相(5/12(火) 7:01配信 現代ビジネス)

ここで近藤氏はこう弁解しています。

 さて、私は4月24日にこのコラムで、中国の医療関係者の証言として、「植物人間説」を紹介した。それは、今年に入って新型コロナウイルスの問題でいろんな話を提供してくれた中国の医療関係者からもたらされたものだった。私は「にわかには信じがたい話」という自分のコメントも記事に添えた上で掲載したのだが、各方面から叩かれた。
 もとより、結果的に金正恩委員長が姿を見せたのだから、コラムの読者諸氏に誤解を与えた点があったとすれば、そこのところはお詫び申し上げたい。その後、その医療関係者に追加で話も聞いてきたが、「中国が医師団を北朝鮮に急遽、派遣したこと」及び「金正恩委員長が北朝鮮医師の手によって、心臓疾患の手術を受けたこと」は間違いないと、いまでも主張している。いずれにしても今後、さらに情報を精査し、記事を提供していく所存である。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e1803fb3393d9cafd05a4a0b35f41a5f47240153?page=1

「植物人間説」は、あくまでも「中国の医療関係者の証言」として紹介しただけで、自分は「にわかには信じがたい話」だとコメントしているという言い訳です。

しかしながら近藤氏が「植物人間説」を述べた記事のタイトルは「金正恩は「植物状態」に…? 関係者らが明かした「重病説」最新情報 じつは年始から「異変」はあった 」です。
要するに「にわかには信じがたい話」“だが”思い起こせば「じつは年始から「異変」はあった」として、「植物人間説」を強く支持するタイトルになっています。

記事中の記載も「ある中国の医療関係者」から聞いた話として極めて具体的なものです。

だが、「爆弾証言」が入ってきた。金正恩委員長は、手術を受けて「植物人間化した」というのだ。
ある中国の医療関係者は、私に次のような詳細な経緯を明かした。

金正恩委員長は、地方視察に出かけている最中、突然心臓に手を当てて倒れた。同行していた医師団は、慌てて心臓マッサージを施しながら、近くの救急病院に搬送した。
同時に、中国に、『すぐに医療団を北京から派遣してほしい』と緊急要請した。中国は、北京にある中国医学院阜外医院国家心血管病中心と人民解放軍301医院の医師らを中心に、器材なども含めて50人近い派遣団を組み、特別機で平壌へ向かった。
ところが、中国の医師団を待っていては助からないと見た北朝鮮の医師団は、緊急の心臓ステント手術を行うことにした。執刀に当たったのは、中国で長年研修を積んだ北朝鮮の心臓外科医だった。
心臓ステント手術は、それほど難易度の高い手術ではない。最も重要な血管にステントを入れる施術自体は、1分くらいの時間で済ませられる。
ところが、執刀した外科医は、ものすごく緊張して、手が震えてしまった。かつ、金正恩ほどの肥満体を執刀した経験がなかった。それで、ステントを入れるのに、8分ほどもかかってしまったのだ。
その間に、金正恩委員長は、植物人間と化してしまった。中国の医師団が到着して診察したが、もはや手の施しようがなかった」

にわかには信じがたい話だが、この中国の医療関係者の証言が事実だとするなら、独裁者の「政治的生命」の最期は、かくもあっけないものだったのだ。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72122

ここで近藤氏は「にわかには信じがたい話」としているものの、その後に「たしかに、「異変」はあった。」として「太陽宮殿の参拝を欠席」「他にも「異変」はあった。私は平壌のある旧知の外交官に連絡を取った。」「その後、3月初頭にも、平壌で「異変」が起こる。この外交官が続ける。」「他にも平壌で「異変」が起こり始めていた。」「思えば、祖父の金日成主席、父親の金正日総書記も、「突然死」している。」と述べ、果ては近藤氏が占い師に聞いた「顔に出ていた「悲劇を迎える相」」まで「植物人間説」を支持する情報として記載している。

極めつけは文末の内容です。

2020年1月下旬、北朝鮮新型コロナウイルス流入を防ぐため、中国との国境を封鎖した。国連の経済制裁に加えて、貿易の9割以上を担う中朝国境を封鎖したことで、北朝鮮経済はいよいよ崩壊に向けてカウントダウンとなっていった。
それとともに、金正恩委員長のストレスも、かつてないほどに強まっていったのだろう。暴飲暴食がたたり、デビューした頃は推定80kgだったのが、130kgを超える巨漢となった。そして健康を害していったのである。
今後、金与正体制が順風満帆に行くなどと考える世界の北朝鮮ウオッチャーは、おそらく皆無だろう。中朝国境の町・丹東の関係者が語る。

「すでに4月27日から5月20日までの丹東と大連を結ぶ高速鉄道は、すべて運行停止になった。緊急事態を発令して人民解放軍が中朝国境に増派されるという噂が立っている」

新たな北朝鮮動乱の始まりである。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72122

この部分では近藤氏は既に「植物人間説」を全く疑っていない体です。断定的に「健康を害していったのである」と書き、最後は「新たな北朝鮮動乱の始まりである」と締めくくています。

この記事構成で発信しておきながら“自分はあくまでも「植物人間説」を「中国の医療関係者の証言」として紹介しただけ”なんて言い訳は通用しませんね。



雑感

検察庁法改正の件

韓国の文政権が検察改革をやろうとした時に独裁だとかなんとか言って文政権を非難していた連中は、安倍政権が検事総長の任期を恣意的に延ばせる法改正をしようとしていることについてどう言ってるのかな?

韓国「元慰安婦会見」めぐる議論、6つのポイント(徐台教 | ソウル在住ジャーナリスト。「ニュースタンス」編集長 5/14(木) 16:30)

日本語圏で唯一見つけたまともな論考。日本の主要メディアでこういう見解を示すところがないのが、日本の言論界の偏狭さを物語ってもいそう。

CIA:中国はWHOに圧力をかけて世界中のマスクや防護服を買い漁った?(5/14(木) 18:06配信 ニューズウィーク日本版)

BNDの件もそうだけど西側各国の情報機関が流す中国関連情報は、そもそも中国に対して反共的・民族的・反権威主義的偏見を有している西側メディアよりもさらに反共的な傾向が強いので、そっち方向のバイアスがかかっていると見るべきなんだよね。
典型的なのは中国陰謀論やWHO買収論に言及する際に米トランプ政権の言動を根拠に使うやり方なんだけど、大統領選を控えCOVID-19対応に失敗したトランプ大統領が、有権者の不満の矛先を中国やWHOに向けようとしている政治的思惑の存在をまるっと無視してることが多い。

中国の思惑を決めつけるだけの想像力が、欧米に対しては全く働かない時点でダブスタなんだよね。



赤石晋一郎氏はどこで取材したのか、という話

赤石晋一郎氏名義でこんな記事が出ていました。
「韓国民に謝罪しろ」「水曜集会はやめろ」有名元慰安婦の告発で大混乱の現場を取材した(5/14(木) 17:30配信 文春オンライン)

内容はさておき(いや内容はひどいものですが・・・)、こういう記述があります。

 私は拙著 「韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」 で崔氏に取材した経緯があり、顔見知りでもあった。挺対協ら市民団体に支配された歴史問題を、被害者の手に取り戻したいという思いを何度も聞いてきた。 
 李容洙氏会見の黒幕説は本当なのか。大使館前で崔氏に話を聞いた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b13856e82ce75dc69e85c93c97d85124c5cea2cc

赤石氏は「韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」の著者ですが、上記の文脈で読む限り、赤石氏が直接「大使館前で崔氏に話を聞いた」としか読めません。つまり、5月13日に赤石氏は韓国の日本大使館前にいたか、少なくとも李容洙氏会見の5月7日以降に韓国にいたことになります。

これを疑問に思った徐台教氏がこんなツイートをしています。

赤石氏は5月1日時点で日本にいるとツイートしており、その後に渡韓したのであれば、入国後14日間の隔離を守っていないことになるという指摘です。
それに対する文春の最初の回答がこれ。

文春は「取材は著者と現地記者による特別取材班で行い、その旨記事に追記いたしました。誤解を招く表現で失礼いたしました。」とツイートし、実際に記事末尾に次の一文を追加しています。

※新型コロナ対応のため、取材は著者の赤石晋一郎氏と現地記者による特別取材班で行いました。読者より「誤解を招く表現がある」との指摘を受けましたので、お詫びして訂正申し上げます。2020/05/14/21:20

https://news.yahoo.co.jp/articles/b13856e82ce75dc69e85c93c97d85124c5cea2cc

しかしこの訂正では、赤石氏が現地に行ったのかどうかが不明瞭です。
そのため、徐氏は再度次のツイートをしています。

「少し分かりづらいのですが、赤石さんは水曜集会の現地にいらっしゃったということですよね?現場で赤石さんを見かけた記者もいますが...。明確な説明をお願いします。」

それに対する文春の回答がこれ。

「赤石晋一郎氏が日本で周辺取材を、現地班が現地で当日の様子の取材を担当しています。赤石氏は日本外務省方針に従い渡航を自粛しており、当日現地におりません。」ということで、では「現場で赤石さんを見かけた記者もいます」という話はどうなったかというと・・・

徐氏は「見かけたという方も勘違いだったようですね」と訂正しています。
これに対して赤石氏もツイートして、現地取材はしていない、と明言しています。

まあ、赤石氏と文春が虚偽を述べている可能性もありますが、現地の写真に写っているなど明確な証拠でも出てこない限り証明できるものでもないでしょう。
ただ、だとしたら記事中の以下の表現はやはり読者を誤解させるものであり不適切としか言いようがありません。

(再掲)
 私は拙著 「韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」 で崔氏に取材した経緯があり、顔見知りでもあった。挺対協ら市民団体に支配された歴史問題を、被害者の手に取り戻したいという思いを何度も聞いてきた。 
 李容洙氏会見の黒幕説は本当なのか。大使館前で崔氏に話を聞いた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b13856e82ce75dc69e85c93c97d85124c5cea2cc

普通に読めば、赤石氏が「大使館前で崔氏に話を聞いた」としか読めません。

 しばらくすると挺対協の水曜集会がスタートした。疑惑の渦中ということもあって、100人近くの韓国メディアが周囲を取り囲む。
 新型コロナウイルス対策のため、中学生や高校生、大学生の動員はされず、集会はオンラインで生中継されることになった。
 大使館前には挺対協の主要メンバーや与党議員が顔を揃えていた。尹美香氏は姿を表さなかった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b13856e82ce75dc69e85c93c97d85124c5cea2cc

 水曜集会で音楽に合わせてダンスが始まった。韓国では選挙でもデモでも歌や踊りが定番となっている。傍らには日本政府を糾弾する「公式謝罪」、「法的賠償」という日本語のプラカードが掲げられていた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b13856e82ce75dc69e85c93c97d85124c5cea2cc

これも伝聞である旨の記載が一切なく、赤石氏が直接見聞きしたとしか読めない文章です。

そもそも文春の説明通り「現地班が現地で当日の様子の取材を担当して」いるのであれば、現地取材を担当した記者の名前も併記すべきでしょう。まるで全て赤石氏が取材したかのような文章で赤石氏の名前のみ書かれているのは、他人の取材内容を横取りしたようにも読めてしまいます。

「赤石晋一郎氏が日本で周辺取材を、現地班が現地で当日の様子の取材を担当しています。赤石氏は日本外務省方針に従い渡航を自粛しており、当日現地におりません。」という情報を記事に追記するのではなく、徐氏あてのツイートだけで済ませるのはおかしいと思います。

先進国が防疫失敗の責任の擦り付け合いをしているうちに途上国では人が死ぬ

この件。
トランプ氏、中国との断交示唆 習氏と対話望まず(5/15(金) 3:59配信 AFP=時事)

COVID-19が最初に報告された国が中国であることは間違いありません。
しかしそれは原因ウイルスであるSARS-CoV2の起源が中国であることを意味するわけではありません。
ウイルスの起源を調査することは重要ではありますが、起源が不明のままでは防疫ができないわけでもありません。

防疫に失敗した先進国が最初に疾患を報告した国を非難し責任を押し付けようとする行為は、既に防疫ではなく政治でしかありません。それも多くの場合、防疫に失敗した国の政策責任者が自らの失敗の責任を他に転嫁しようとするものに他なりません。

 米中は、新型ウイルスの起源をめぐり非難の応酬を繰り広げており、両国間の緊張が高まっている。中国・武漢(Wuhan)で昨年12月に発生した新型ウイルス感染症について、トランプ氏は「中国から来た疫病」と称している。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f5c6964127b44bb4a3a1360a6df93dbdef87c79b

こういう風に先進各国が“あいつのせいだ”を連呼して、貿易戦争の再開を示唆するなどして緊張が高まれば、経済的に弱い途上国は経済面でも打撃を受け、防疫対策もまともにできず、その結果、多くの犠牲者を出すことになります。

まあ、トランプ大統領にとっては、途上国の何十万人もの命よりも自身の再選の方が重要なのでしょうけどね。



雑感

検察庁法改正

検察庁法改正反対です。

それはそれとして、日本にも韓国と同様の人事聴聞会の制度を入れるべきではないですかね*1
韓国では2003年以降、検事総長の任命に先だって国会で聴聞会を開くことが求められています(国会同意人事ではない)。

黒川氏が何故安倍政権下での与党議員の不祥事を不起訴にしてきたのか、国会で逐一聞いてもらいたいので。
まあ、どうせ嘘つくんでしょうけど。

【外信コラム】中国の責任、国連の場で求めるべき(5/12(火) 8:00配信 産経新聞)

防疫に失敗した国が国民の怒りの矛先を中国やWHOに向けようとする政治的思惑。感染症に直面して国境が防護壁となると信じるが故のナショナリズムの高揚。感染症そのものよりも怒りをぶつけやすい人物・国家に責任を問いたくなる心理。
そんな感じのものに乗っかって、世界中のあちこちで良識が失われつつあり、医学的な感染よりも大きな被害を生み出しそうな状況になりつつあります。

先進国が中国やWHOを政治目的で叩いている間に、途上国では大勢の市民がWHO等の支援を受けられず感染症に無防備なまま、多くの犠牲者を出すでしょうにね。

WHOへの資金を止めたトランプ大統領は、自らの選挙のためなら途上国で何人死のうが構わないとか思ってるというか、そもそもそんなことに興味すらなさそうですが。
まあ、そういうことに興味がないのは、日本社会も同じですけどね。

さて、産経はSARS-CoV2の蔓延に対する責任を中国に問えとか言ってます。米国などでも産経レベルで中国に対する損害賠償とか提起しています。
正直、アホかとしか思えません。

仮に強制力のある判決が出せたとしても、その場合、中国という国家そのものを潰したい、潰しても構わない、10億人以上の市民がどうなろうが知ったことではない、という心境になれるのでしょうか?
特に日本はアジア太平洋戦争の敗戦国ですがサンフランシスコ平和条約では各連合国から賠償放棄してもらった立場ですよね。第一次世界大戦後のベルサイユ条約の例によれば、日本に対しても莫大な賠償を求められても文句の言えない立場でしたよね。
しかも、当の中華人民共和国からも日中共同声明*2で賠償放棄してもらってますよね?

そもそもそれ以前に、SARS-CoV2が最初に発見され同感染症の流行が最初に確認されたのは確かに中国ですが、だからと言って「発生源」であるかどうかは現時点ではわからないんですよね。

また、未知の疾病が発生した国は他国から損害賠償を求められる前例なんか作ろうものなら、今後、疾病発生国の政府はWHO等に発生の報告をしなくなるんじゃないですかね。だって、下手に報告して、その後感染が海外に拡大したら他国から莫大な損害賠償を求められるわけですから。そういうリスクを避けたいと思う国の政府は、未知の疾病にかかった患者を全員抹殺するなりして、疾病発生の事実そのものを隠蔽するでしょうよ。その後、海外でその疾病が発生しても、自分の国が発生源ではないと白を切ればいい。
結果、国の面子のために、弱い立場の市民が大勢死ぬ社会になっていくと。

三浦瑠麗氏「第二次補正案は限界値も見えてる。正直、私は政府の危機感が足りないと思う」(5/12(火) 9:18配信 スポーツ報知)

「政府の危機感が足りない」とか誰でも知っとるわ、とか。
中身が無さすぎだろ・・・