安倍政権下第198回国会及び第200回国会での強行採決数

2019年1月~6月の通常国会(198回)と同年10月~12月の臨時国会(200回)における政府提出法案での強行採決について簡単に調べました。
ちなみに間の第199回国会は5日間のみの臨時国会で成立した法案は無かったため省略です。

強行採決の定義

以前検討した内容を踏まえて、衆議院参議院とも本会議のみを対象とし、本会議における野党会派の半数以上が反対・欠席した場合を強行採決と定義します。なお、参議院での各派に属さない議員は会派とみなさず除外します。また、会派内で賛否分かれた時は、賛成・反対のいずれにも加算しません。会派内の一部が欠席した場合は出席議員の賛否のみを参照します。会派全員が欠席した場合は、会派の欠席とみなし反対会派としてカウントします。衆議院での賛成会派、反対会派のいずれでも無い場合は会派欠席とみなし反対会派としてカウントします。

第198回国会(通常):2019年1月28日~2019年6月26日(150日間)

この国会で提出された政府提出法案数は57本、前国会からの継続法案は1本で、合計58本が政府提出法案です。
このうち、この国会で成立したのは55本(94.8%)、継続審議となったのが2本、審議未了が1本です。

衆議院本会議での強行採決
会期 提出番号 法案名 議決日 反対会派数/野党会派数
198 3 所得税法等の一部を改正する法律案 2019/03/02 8/8
198 4 地方税法等の一部を改正する法律案 2019/03/02 8/8
198 5 特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律案 2019/03/02 8/8
198 7 地方交付税法等の一部を改正する法律案 2019/03/02 6/8
198 13 特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法の一部を改正する法律案 2019/03/12 4/8
198 14 防衛省設置法等の一部を改正する法律案 2019/04/11 5/8
198 16 金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律の一部を改正する法律案 2019/04/23 4/8
198 23 農地中間管理事業の推進に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/04/23 5/8
198 31 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/05/21 4/8
198 45 法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/05/10 8/8

8つの野党会派中4つ以上が反対した法案は上記10本。そのうち野党会派中5つ以上が反対した法案は7本。野党会派中6つ以上が反対した法案は5本。全ての野党会派が反対したのが4本。
採決された法案55本(全て可決)のうち、立憲民主党*1が賛成したのは41本(74.5%)、国民民主党*2が賛成したのは45本(81.8%)、共産党*3が賛成したのは27本(49.1%)、維新*4が賛成したのは47本(85.5%)、社会保障を立て直す国民会議が賛成したのも47本(85.5%)、社民*5が賛成したのは34本(61.8%)、希望の党が賛成したのは50本(90.9%)、未来日本が賛成したのも50本(90.9%)でした。

参議院本会議での強行採決(2020/5/21訂正)
会期 提出番号 法案名 議決日 反対会派数/野党会派数
198 3 所得税法等の一部を改正する法律案 2019/03/27 5/6
198 4 地方税法等の一部を改正する法律案 2019/03/27 5/6
198 5 特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律案 2019/03/27 5/6
198 7 地方交付税法等の一部を改正する法律案 2019/03/27 4/6
198 13 特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法の一部を改正する法律案 2019/03/27 4/6
198 14 防衛省設置法等の一部を改正する法律案 2019/04/24 3/6
198 15 子ども・子育て支援法の一部を改正する法律案 2019/05/10 3/6
198 16 金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律の一部を改正する法律案 2019/05/17 4/6
198 19 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案 2019/04/19 3/6
198 21 大学等における修学の支援に関する法律案 2019/05/10 3/6
198 22 学校教育法等の一部を改正する法律案 2019/05/17 3/6
198 23 農地中間管理事業の推進に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/05/17 4/6
198 31 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/06/05 3/6
198 34 国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/05/17 3/6
198 37 地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案 2019/05/31 3/6
198 45 法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案 2019/06/19 5/6

6つの野党会派中3つ以上が反対した法案は上記16本。そのうち野党会派中4つ以上が反対した法案は9本。野党会派中5つ以上が反対した法案は4本。
採決された法案55本(全て可決)のうち、立憲民主党*6が賛成したのは41本(74.5%)、国民民主党*7が賛成したのは43本(78.2%)、共産党*8が賛成したのは26本(47.3%)、維新*9が賛成したのは48本(87.3%)、無所属クラブが賛成したのは55本全て(100%)、沖縄の風が賛成したのは33本(60.0%)でした。

強行採決数(2020/5/21訂正)

定義通り、野党会派の半数以上が反対・欠席した場合を強行採決とすると、第198回国会での政府提出法案の強行採決数は26本。衆参での重複を除く法案数では16本となります。
衆参両院で可決され成立した法案55本中、強行採決の割合は 29.1% になります。


第200回国会(臨時):2019年10月4日~2019年12月9日(67日間)

この国会で提出された政府提出法案数は15本、前国会からの継続法案は2本で、合計17本が政府提出法案です。
このうち、この国会で成立したのは16本(94.1%)、継続審議となったのが1本です。

衆議院本会議での強行採決
会期 提出番号 法案名 議決日 反対会派数/野党会派数
200 2 特別職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律案 2019/11/07 2/4
200 14 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案 2019/11/19 2/4

4つの野党会派中2つ以上が反対した法案は上記2本。
採決された法案17本(全て可決)のうち、立憲民主党・国民民主党*10が賛成したのは16本(94.1%)、共産党*11が賛成したのは6本(35.3%)、維新*12が賛成したのは12本(70.6%)、希望の党が賛成したのは17本全て(100%)でした。

参議院本会議での強行採決
会期 提出番号 法案名 議決日 反対会派数/野党会派数
200 14 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案 2019/12/04 5/7

7つの野党会派中4つ以上が反対した法案は上記1本。
採決された法案16本(全て可決・衆議院で可決したが参議院で継続審議となった1本は除く)のうち、立憲民主党・国民民主党*13が賛成したのは15本(93.8%)、共産党*14が賛成したのは6本(37.5%)、維新*15が賛成したのは11本(68.8%)、沖縄の風が賛成したのは12本(75.0%)、れいわ新選組が賛成したのは5本(31.3%)、碧水会が賛成したのは15本(93.8%)、みんなの党が賛成したのは16本全て(100%)でした。

強行採決

定義通り、野党会派の半数以上が反対・欠席した場合を強行採決とすると、第200回国会での政府提出法案の強行採決数は3本。衆参での重複を除く法案数では2本となります。
衆参両院で可決され成立した法案16本中、強行採決の割合は 12.5% になります。

考察と限界

現実問題としてすべての法案審議状況を網羅して強行採決か否かを判定していくのは困難ですので、国会のサイトから得られる会派別の賛否状況から会派単位で機械的に判定する手法をとっています。この手法で、戦争法、共謀罪法、特定秘密保護法などの審議状況を判定すると強行採決と判定されますので、それなりの精度はあると思います。
ただし、野党再編の動きに合わせて会派数が増減するため、第200回国会の衆議院のように野党が4会派しかいない場合は2会派の反対のみで強行採決と判定され、逆に第198回国会の衆議院のように野党が8会派ある場合は3会派が反対しても強行採決と判定されない可能性があり、実態と乖離する恐れがあります。
また、政府提出法案の全てに賛成している会派を判定にあたって野党会派とみなすべきかについては検討が必要かも知れません。
強行採決か否かの判定を野党会派の動向のみで判定しているため、賛否議席数や審議日数などが考慮されておらず、これも実態と乖離する可能性が否定できません。
さらに、委員会採決を省略するなど特異な運用がされた場合についても考慮できない点、会派内で造反があった場合に賛否分裂として賛否会派数に正確にカウントできない可能性もあります(例えば198回国会参議院の採決で国民民主党・新緑風会27名中25名賛成、1名反対の状況がありますが、この会派としては賛成とみなすべきかもしれません。同様のことはこの採決での立憲民主党・民友会・希望の会28名でも起こっており、反対27名に対して賛成1名となっていますが、これは反対としてカウントしていません。))。
今回の強行採決数のカウントは国会で審議された法案数をベースにしており、一つの法案で複数の既存法を改正させる束ね法案については考慮しておらず、影響範囲の大きさを踏まえることができません。
以上の限界はあるものの、国会のサイトから得られる情報を元に機械的に判定する手法は恣意的な判断の入る余地がなく、有用であろうと思います。
今後の課題としては、民主党政権時の採決についても同じ手法で判定してみる必要があるということが考えられます。




*1:立憲民主党・無所属フォーラム

*2:国民民主党・無所属クラブ

*3:日本共産党

*4:日本維新の会

*5:社会民主党市民連合

*6:立憲民主党・民友会・希望の会

*7:国民民主党・新緑風会

*8:日本共産党

*9:日本維新の会希望の党

*10:立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム

*11:日本共産党

*12:日本維新の会

*13:立憲・国民・新緑風会・社民

*14:日本共産党

*15:日本維新の会