韓国で隔離違反の日本人が逮捕されたが、日本でも同様の事例は逮捕できるという話

この件。
韓国で2週間の隔離拒んだとして日本人逮捕 新型コロナ(2020年5月22日 4時58分)
20代の日本人を逮捕 韓国警察、自主隔離違反の疑い(5/21(木) 21:10配信 産経新聞)

なんかはてブでは誤解している向きもありますが、基本的に日本の現行法下でも韓国でのこの事件と同様の対応が取れます。
まず、韓国は中国湖北省からの渡航者については入管法で入国拒否していますが、それ以外については2週間の隔離を義務付けているものの入国は認めています(検疫法*1*2

この海外からの渡航者を隔離できる法律は日本の検疫法にもあります。

(汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等についての措置)
第十四条 検疫所長は、検疫感染症が流行している地域を発航し、又はその地域に寄航して来航した船舶等、航行中に検疫感染症の患者又は死者があつた船舶等、検疫感染症の患者若しくはその死体、又はペスト菌保有し、若しくは保有しているおそれのあるねずみ族が発見された船舶等、その他検疫感染症の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等について、合理的に必要と判断される限度において、次に掲げる措置の全部又は一部をとることができる。
一 第二条第一号又は第二号に掲げる感染症の患者を隔離し、又は検疫官をして隔離させること。
二 第二条第一号又は第二号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者を停留し、又は検疫官をして停留させること(外国に当該各号に掲げる感染症が発生し、その病原体が国内に侵入し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときに限る。)。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326AC0000000201

「船舶等」とは「外国から来航した船舶又は外国から来航した航空機」(同法5条)を指します。「第二条第一号又は第二号に掲げる感染症」とは感染症法に定める「一類感染症」又は「新型インフルエンザ等感染症」のことですが、検疫法34条の2で感染症法に定める「新感染症」にも、検疫法14条(1項1号~6号)は適用されますから、安倍政権が面子に拘らずにCOVID-19を新感染症と認めていれば適用可能でしたし、そうでなくとも検疫法34条で政令で指定する「検疫感染症以外の感染症」に対しても検疫法14条を含む2章部分が適用されます。
したがって、COVID-19対応のための入国者隔離・停留は、憲法改正はもちろん法律改正すら不要で実施できます。実際、2月13日の政令でCOVID-19に検疫法34条が適用されていて、停留期間を336時間(2週間)と規定しています。

つまり、日本の法律上でも既に韓国と同様に外国(流行地)からの入国する外国人に対して2週間の隔離措置(法律上の文言では「停留」)をとることができるようになっています。ただし、日本の場合は2週間の隔離を検疫法で定めている上に、さらに入管法による入国拒否をやっていますので、運用上は隔離にすらいたらないのですが。

韓国と日本の検疫法上の違いとしては、韓国が自宅を隔離施設として明記している*3のに対して、日本では「特定感染症指定医療機関」か「特定感染症指定医療機関以外の病院であつて当該検疫所長が適当と認めるもの」しか明記されていないという点ですね。
言うまでもなく、日本でも隔離・停留から逃亡した場合には罰則もあります。

(検疫法 抜粋)
第三十五条 次の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
二 隔離又は停留の処分を受け、その処分の継続中に逃げた者

第三十六条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
五 第十四条第一項第一号から第三号まで、第六号又は第七号の規定により検疫所長又は検疫官が行う措置(第三十四条の二第三項の規定により実施される場合を含む。)を拒み、妨げ、又は忌避した者
十一 第三十四条の二第一項の規定により検疫所長又は検疫官が行う診察を拒み、妨げ、又は忌避した者

第四十条 第三十四条の場合においては、当該政令で準用する規定に係る前五条の罰則の規定もまた、準用されるものとする。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326AC0000000201#238

隔離・停留から逃げた場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金、診断や検疫の措置を拒否した場合は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています。韓国の罰則は4月5日から強化されたものの、日本と同程度の「1年以下の懲役か1千万ウォン(約88万円)以下の罰金」となっています。

したがって今回の事件のように日本に入国した外国人が隔離・停留期間内に施設から外出を繰り返した場合は、日本でも同様に罰することが出来ます。実際問題としては、自宅隔離を認めている韓国と違い、病院での隔離・停留しか認めない日本では対象者が施設から抜け出ることは容易ではないでしょうが。

ところで今回の事件、各種報道でイメージされているような電子的に常時監視しているわけではないということを示唆していますね。

韓国では新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため海外からの入国者を対象に2週間の隔離を義務づけていますが、男性は保健当局の指示に従わず、合わせて8回にわたり外出して飲食店などを利用したということです。
自治体から告発を受けた警察は、監視カメラの映像や本人のクレジットカードの使用履歴などから外出した事実を確認し、男性が容疑を否認し逃亡のおそれがあるため逮捕したとしています。
ソウルにある日本大使館は、日本人男性が警察に逮捕されたことを確認したとしていて、韓国側と連絡をとって詳しい状況の把握に努めているとしています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200522/k10012440001000.html

自治体からの告発を受けるまで警察は動かず、自治体も少なくとも8回外出するまで対応を取らなかったようにも読めます(告発以前に自治体から本人に警告などを発していたのかも、ですが)。普通に飲食店や近隣住民からの通報を受け、本人に確認しても否認したため、監視カメラやクレジットカードの情報を確認して証拠を固めた、という感じではないかと思えます。
ちなみに監視カメラやクレジットカードの情報を警察が捜査目的で取得することも日本で事実上可能です。捜査関係事項照会は強制力はないものの刑事訴訟法で認められていますし、拒否された場合も裁判所の許可を得て改めて請求すれば、監視カメラやクレジットカードの情報が提供されないことはまずないでしょう*4

この事件で、韓国方式だの何だの言っている人もいますが、感染者とは限らない海外からの入国者に対する停留措置を病院以外に認めない日本よりも自宅隔離を認める韓国の方が個人の自由を認めているとも言えますから、その辺を理解していない意見にはあまり意味がないと思います。