5年前の歴史すら修正する従軍慰安婦否定論者

【珍説】安倍政権が河野談話を否定する閣議決定をしていた?

93年の河野談話ですがあまり報道されてないようですが2007年の時安倍内閣
河野談話を否認する閣議決定がされてます。http://japanese.joins.com/article/584/85584.html

もちろんデマです。たかだか5年前のことすら修正してしまおうとする意欲には全く驚かされます。悪い意味で。

そもそも日本の閣議決定について主張したいなら中央日報じゃなく、日本政府のサイトを調べるべきなんですよね。
こういうのに騙されないためにも、調べる過程も含めて述べていきます。

【調査1】中央日報の記事

慰安婦強制動員はなかった」日閣議“河野談話”公式否認
2007年03月17日09時15分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
 日本政府は16日の閣僚会議で、1993年の「河野談話」が認めた従軍慰安婦の強制性を否認する公式立場を決めた。
閣僚会議は「政府が発見した資料からは(日本)軍や官憲(官庁)によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見つけることができなかった」と明らかにした。
日本政府は「河野談話」に対する公式立場を質疑した民主党議員に対する答弁書でこのように明らかにした。閣議を通して決まったこの答弁書は日本政府の公式立場として確定される。
これは安倍晋三首相が今月初め「当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったことは事実」と明らかにしたことを正式に追認したわけだ。
日本与党のある関係者は「これまで“河野談話”に対する日本政府の態度を首相や官房長官が国会などの答弁を通じて述べたことはあったが、閣議で決まったのは初めて」と話す。
日本政府は答弁書を通じて従軍慰安婦募集の強制性について「(談話発表に先立ち)91年12月から93年8月まで日本政府は関係資料を調査し、関係者の証言を聞いた」とし「(河野談話が)閣議決定されていないが、歴代内閣が受け継いでいる」と主張した。また、日本政府は「今後もその内容を閣議決定する方針はない」とした。すなわち日本政府の象徴的な立場で“河野談話”を受け継ぐだけであって内閣全体に拘束力を持つ閣議決定はしないという意をはっきりさせたのだ。
河野談話”の張本人である河野洋平衆院議長は15日「談話は信念を持って発表したもの」として修正する必要性がないことを強調した。河野議長はこの日の記者会見で自分が官房長官在任時に発表した“河野談話”をめぐり執権自民党の一部で修正論が提起されると「今は何も言う気はない」とし「(当時の談話内容)そのまま受け入れてください」と話した。

http://japanese.joins.com/article/584/85584.html

タイトルは釣りですね。まんまとひっかかった嫌韓厨がたくさんいるようで、さぞかし中央日報のページビュー稼ぎに貢献したことでしょう。
記事の内容は、2007年3月16日の閣議で、安倍政権が「政府が発見した資料からは(日本)軍や官憲(官庁)によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見つけることができなかった」と明らかにした、というものですが、そのようなことは河野談話当時に既に言われていたことで別に新奇性のある内容ではありません。
当時内閣官房副長官であった石原信雄氏が次のように述べています。

強制性の問題
石原 (略)強制的に慰安婦を集めろという文書がないかということで調べたわけですが、出てこなかったわけです。それで、その点は加藤談話には当然入ってないですね。
(略)各省から何人か出かけて、元慰安婦の人たち一六人にお会いしたんです。彼らとしても、もちろんお会いした人の氏名は公表できません。われわれは報告を全部聞いて、官房長官や総理大臣も報告を聞きました。
 その報告の内容から、明らかに本人の意に反して連れて行かれた人、だまされた人、普通の女子労働者として募集があって行ったところが慰安所に連れて行かれたという人、それからいやだったんだが、朝鮮総督府の巡査が来て、どうしても何人か出してくれと割り当てがあったので、そういう脅しというか、圧力があって、断れなかったというような人がいた。何人かそういう人がいたので、総合判断として、これは明らかにその意に反して慰安婦とされた人たちが一六人のなかにいることは間違いありませんという報告を調査団の諸君から受けたわけです。総理も官房長官も一緒にその話を聞いたんです。
 結局私どもは、通達とか指令とかいう文書的なもの、強制性を立証できるような物的証拠は見つけられなかったのですが、実際に慰安婦とされた人たち一六人のヒヤリングの結果は、どう考えても、これは作り話じゃない、本人がその意に反して慰安婦とされたことは間違いないということになりましたので、そういうことを念頭において、あの「河野談話」になったわけです。その調査団の報告をベースとして政府として強制性があったと認定したわけです。(略)

石原 結局状況判断なんです。彼女たちのヒヤリングは、彼女たちは決してだれかに言われて証言したんじゃなくて、自分自らの体験を、本当に真実を訴えると言って、聞いてもらおうとして話した報告なんです。それは、韓国政府だとか挺対協だとかそういう団体のプレッシャーのもとで話したことではない。明らかに彼女たちが自分の過去について真実を述べた。そのなかで明らかに本人の意思でない、だまされたとか、警察官の威圧のもとで断れなかったとかいう話がありましたので、それを踏まえて、その意に反して慰安婦とされた人たちがいたことを認めて、それで日本政府として謝罪するという河野談話にしたわけです。

http://www.awf.or.jp/2/survey.html

この辺は多少なりとも従軍慰安婦について調べた人*1なら、知っている話だと思います。

そして、その知識を踏まえると中央日報の論調は、安倍政権が慰安婦問題を否定しようとして、朝鮮における慰安婦の強制連行を示す物的証拠がないことのみ強調し、河野談話当時のヒヤリングが事実と認定するに足るものであったことを無視したことを非難するものであると予測がつくわけです。

そうすると、実際にはどんな閣議だったのか。それが当然の疑問として浮かびます。

【調査2】2007年3月16日の閣議

5年前程度の閣議であれば日本の首相官邸のサイトにアップされていますから、中央日報に書かれた2007年3月16日という日付から調べれば簡単に見つかります。

平成19年03月16日(金)
国会提出案件
衆議院議員辻元清美(社民)提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書について
(内閣官房)

http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/kakugi-2007031611.html

まず、これを指すのは間違いありません。ただし、閣議の詳しい内容についてはここではわかりません。
しかし、衆議院での質問に対する答弁内容を決める閣議なので、衆議院の質疑・答弁を調べればいいわけです。

【調査3】2007年3月16日頃の国会質疑

この時期にやっていた国会が第何回か調べる必要がありますが、それこそWikipediaでも利用すればわかります。2007年3月16日頃にやっていたのは第166回国会になります。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm
第166回国会の質問の一覧を開いて「慰安婦」で文字列検索をかけると、まあ出るわ出るわ、いかに当時安倍首相が慰安婦がらみの妄言を吐いていたかがわかります。

110 安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書
168 安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する再質問主意書
169 安倍首相の「慰安婦」問題についての発言の「真意」に関する質問主意書
265 安倍首相の「慰安婦」問題についての発言に関する質問主意書
266 バタビア臨時軍法会議の証拠資料と安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書
267 極東国際軍事裁判の証拠資料と安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書
428 米下院外交委員会で可決された従軍慰安婦問題への決議案に対する日本政府の対応に関する質問主意書
478 安倍首相の「強制性」に対する認識と、政府の「河野官房長官談話」についての認識、およびオランダ下院議長からの書簡に関する質問主意書*2

それぞれの経過を開けばわかりますが、2007年3月16日頃で、辻元氏に対する答弁という条件にぴったり一致するのは、110番目の質問関連で、質問主意書提出が3月8日、内閣転送が3月12日、答弁書受領が3月16日となっています。

つまり、この「安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書」に対する答弁が中央日報が報じている安倍政権での閣議決定内容になります。
答弁部分がこれ。

衆議院議員辻元清美君提出安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問に対する答弁書
一の1から3までについて
 お尋ねは、「強制性」の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(以下「官房長官談話」という。)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
 調査結果の詳細については、「いわゆる従軍慰安婦問題について」(平成五年八月四日内閣官房内閣外政審議室)において既に公表しているところであるが、調査に関する予算の執行に関する資料については、その保存期間が経過していることから保存されておらず、これについてお答えすることは困難である。
一の4について
 在米国日本大使館を始めとする政府関係者から、米国議会及び行政府関係者等、各方面に対し、日本政府の立場について十分説明し、米国側の理解が得られるよう最大限努力している。
 他方、説明の相手方との関係もあり、それらの説明の個々の事例について明らかにすることは差し控えたい。
一の5について
 御指摘の決議案については、米国議会で今後議論されていくものでもあり、政府として、その問題点を一つ一つ取り上げて意見を述べることは差し控えたいが、全般的に、慰安婦問題に関する事実関係、特に、慰安婦問題に対する日本政府の取組に対して正しい理解がされていないと考えている。
二の1について
 御指摘の米国の小委員長の発言の理由について推測を述べることは差し控えたい。
二の2について
 御指摘の決議案については、米国議会で今後議論されていくものであり、これが採択された場合という仮定に立った質問にお答えすることは差し控えたい。
三の1について
 官房長官談話は、閣議決定はされていないが、歴代の内閣が継承しているものである。
三の2について
 政府の基本的立場は、官房長官談話を継承しているというものであり、その内容を閣議決定することは考えていない。
三の3について
 御指摘の件については、官房長官談話においてお詫びと反省の気持ちを申し上げているとおりである。
四の1について
 御指摘の回顧録の中に御指摘の記述があることは承知している。
四の2及び3について
 関係者からの聞き取り調査について、特定の個人を識別することができる情報を記録していること等から個々の内容は公表しないこととしており、御指摘の調査については、答弁を差し控えたい。

最初の部分以外、質問も読まないとわからない答弁ですが、基本的に答えたくないことについてはこういう書き方をするのが答弁の基本といえるでしょう。逆に雄弁に語っている「一の1から3までについて」の部分が、中央日報が非難した箇所と言えるでしょう。多弁を弄して、あたかも強制そのものが無かったかのように語っています。
しかしながら、河野談話を否定したのかという部分になると、トーンが変わります。

該当する質問部分は以下です。

三 《「河野官房長官談話」の閣議決定》について
 1 「河野官房長官談話」が閣議決定されていないのは事実か。事実であるなら、どのような扱いなのか。
 2 安倍首相は、「河野官房長官談話」を継承すると発言している以上、「河野官房長官談話」を閣議決定する意思はあるか。ないのであれば、その理由を明らかにされたい。
 3 政府は「慰安婦」問題について「すでに謝罪済み」という立場をとっているが、いつの、どの文書や談話をもって謝罪しているという認識か。すべて示されたい。

これに対する安倍政権の閣議決定した答弁を再掲します。

三の1について
 官房長官談話は、閣議決定はされていないが、歴代の内閣が継承しているものである。
三の2について
 政府の基本的立場は、官房長官談話を継承しているというものであり、その内容を閣議決定することは考えていない。
三の3について
 御指摘の件については、官房長官談話においてお詫びと反省の気持ちを申し上げているとおりである。

つまり、

  • 安倍政権を含む歴代の内閣は河野談話を継承している。
  • 安倍政権を含む日本政府の基本的立場は、河野談話を継承しているというものであって、その内容を改めて閣議決定することは考えていない。
  • 安倍政権を含む日本政府は「慰安婦」問題について、河野談話によってお詫びと反省の気持ちを申し上げている。

ということになります。
一言で言えば、安倍内閣は嫌味は言ったが、河野談話を否定するほどの度胸はなかった、ということでしょうか。



中央日報河野談話を否定しない範囲という安全圏に隠れて罵声を浴びせた安倍内閣の姑息でセコイやり方に対して、「“河野談話”公式否認」と非難しましたが、被害国から見れば当然の指摘ではあるものの、安倍政権には河野談話を否定する度胸も無かったため、追及されても「政府の基本的立場は、官房長官談話を継承している」と逃げ道を用意した答弁となっています。

追記1・第166回国会は、従軍慰安婦問題で安倍首相サンドバック状態

ちなみに、この3月16日の卑怯な答弁は当然ながら格好の攻撃目標となり、辻元氏による再質問に対する4月20日の答弁では、従軍慰安婦に対する強制性をも安倍政権は渋々認めさせられています。

 平成五年八月四日の内閣官房長官談話は、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、当該談話の内容となったものであり、強制性に関する政府の基本的立場は、当該談話のとおりである。

つまり、安倍首相は、河野談話にあるように「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」*3ことを認めたわけです。


この後も、安倍首相は、辻元氏の質問によって滅多打ちにされ、ひたすら「慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話のとおりである。」とほとんど、ママに叱られて布団に包まって泣いている子どものように同じ台詞をひたすら繰り返しています。

おそらく安倍内閣は、”政府が河野談話を踏襲していること”を明言した回数において、歴代内閣中トップでしょう。

追記2・嫌韓

韓国嫌いのくせに、日本の首相官邸衆議院のサイトではなく、中央日報を信用するってのはどうなんでしょうね?

*1:吉見教授の「従軍慰安婦」を読むくらいの積極性を持って調べた人。

*2:これは表題に「慰安婦」の文言はありませんが、内容から明らかに慰安婦関連なので提示しました。

*3:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html