“日米安保条約は集団的自衛権を容認している”と主張する論者は条約5条の「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」の記載には触れない

誰かと言えば、長谷川幸洋氏ですが。

安全保障関連法案の根幹を支える集団的自衛権について、いくつかの考え方をあらためて整理しよう。鍵を握るのは、日米安全保障条約を根拠とする米軍基地をどう考えるか。それから後方支援は武力行使と一体かどうか、である。
(略)
私自身は1年前の2014年5月2日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/39149)以来、なんども書いてきたように、日本は日米安保条約を結んだときから集団的自衛権を容認している、と考える。
(略)
最後が、私のように「安保にも集団的自衛権にも賛成。そもそも安保は集団的自衛権を前提にしている」と世間に公言する立場である。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43908

などと書いています。
要するに日米安保条約集団的自衛権を容認しているのだから、集団的自衛権違憲扱いしている連中は日米安保にも反対でなければ矛盾だ、とドヤ顔で言っているわけです*1

しかし、長谷川氏は触れていませんが、日米安保条約には以下の文言があります。

第五条
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html

はっきりと「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」と書いてありますね。日本国憲法集団的自衛権行使を認めていないのであれば、日米安保条約集団的自衛権を容認しようが関係なく、憲法にしたがって、日本は集団的自衛権を行使できなくて当たり前です。安保条約も日本が憲法上、集団的自衛権を行使できないことを認めていますので、日米安保条約は容認するが、集団的自衛権行使容認は憲法違反と主張するのは何の矛盾もありません。

ちなみに、日米安保条約は第5条で武力行使に関して憲法上の制約を受けることを認めると同時に第3条で軍備についても憲法の制約を受けることを認めています。

第三条
 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html

例えば、ミサイル防衛に対しても憲法集団的自衛権の行使にあたり違憲だという判断が出れば、日米安保条約に抵触することなく拒否することができたわけですね。

まあ、ともかく、集団的自衛権行使が憲法違反か否かを判断するに当たって、日米安保条約の文言など何の関係もないことは確かです。

「自国の憲法上の規定及び手続に従つて...行動する」「憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる」といった憲法に制約されると明記されている部分に触れることなく、日米安保条約を持ちだして、「集団的自衛権に反対するのはよし、としよう。しかし、それなら共産党や天木氏のように安保に反対しないと筋が通らない。」などとのたまう長谷川氏のやり方はよく言っても詐欺師という他ありませんね。

*1:集団的自衛権行使が憲法に違反するか否かと、集団的自衛権行使容認に賛成するか反対するかは別の話ですが、長谷川氏はこれを意図的にかごちゃまぜにしています。わかりにくいのでここでは長谷川氏の論考中の「賛成」「反対」は「合憲」「違憲」に適宜読み替えて考察しています。