子育て支援の予算3000億円に関する件

駒崎弘樹氏の記事にあった以下の部分。

政府は、3000億用意すると言って、もう何年も放置している財源を早く確保し、
平均約20万円の保育士給与の是正を行い、保育士不足問題を解決すべきです。
でなければ保育園を増やすことは不可能です。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/komazakihiroki/20160310-00055265/

この3000億円については民主党政権下の2012年6月15日に、民主党が野党であった自民党公明党と合意した三党合意に言及されています。
2012年06月15日 社会保障・税一体改革で民主・自民・公明の3党実務者合意案まとまる」の記事中にリンクされている「社会保障・税一体改革に関する確認書」に、「幼児教育・保育・子育て支援の質・量の充実を図るため、今回の消費税率の引き上げによる財源を含めて1兆円超程度の財源が必要であり、政府はその確保に最大限努力するものとする。」との記載があります。
三党合意の内容は簡単に言えば、消費税を8%次いで10%に上げると共に1兆円程度と見込まれる子育て支援への財源を確保する、という合意です。この合意から2012年8月10日の子ども・子育て関連3法にいたります。
その附帯決議に以下のような文言が入れられています。

附帯決議(参議院)(PDF形式:112KB)

子ども・子育て支援法案、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律案及び子ども・子育て支援法及び総合こども園法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案に対する附帯決議

平成二十四年八月十日
参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会

十五、幼児教育・保育・子育て支援の質・量の充実を図るためには、一兆円超程度の財源が必要であり、今回の消費税率の引上げにより確保する〇・七兆円程度以外の〇・三兆円超について、速やかに確保の道筋を示すとともに、今後の各年度の予算編成において、財源の確保に最大限努力するものとすること。

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/law/

消費税8%への増税子育て支援に必要な1兆円程度の財源のうち7000億円が確保され、残りの3000億円については今後の予算編成において「最大限努力する」ことになったわけです。これは民主党単独の約束ではなく、自民党公明党との三党合意に基づき、かつ、附帯決議でも約束されたものですから、その後の自公政権でも当然にこの約束に忠実であることが求められます。
財源が無ければ予算がつけられない、という言い分はもちろんありそういう言い訳が今まで続けられてきたわけですが、しかし安倍政権は消費税を10%に上げるといっているわけですから、その増税による財源で子育て支援予算の残りの3000億円を確保できるはずですね。もともと2012年の三党合意でもそれが期待されていたわけですし。

ところが公明党の要望による軽減税率導入によって目減りする分を、子育て支援予算3000億円を見送ることで帳尻を合わせることが安倍政権によって示唆されました(軽減税率によって7000億円の子育て予算*1には手を付けないとだけ言及し、3000億円については触れるのを避けています。山尾議員は安倍首相からこの確約を取ろうとして質問しているわけです。)。

つまりこういうことです。

駒崎弘樹:Hiroki Komazaki
@Hiroki_Komazaki
準備予定だった子育て支援予算3000億円強を、いまだ政府が準備せず、軽減税率財源6000億円を優先させた。その優先順位はおかしいだろ、ということに関しては野党の批判が正しいと思う。これでは保育士給与を上げられず、よって保育所を増やせず、よって待機児童問題を解決できない。
22:06 - 2016年3月1日

https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/704910667288018945

日本死ね」ブログに言及し、それに対して安倍首相がネトウヨ的答弁を行ったことで、ようやく社会がこの問題に関心を示し、消極的な政府に批判的な意見が広がるようになったわけです。

T−T
@tcy79
死ねという言葉を使わず、みんなで解決していこう♪みたいなブログ書いてたら自公が動いたかと言えば絶対に動かなかったわけで怒りというのはきちんと表明しないといけませんよね。

https://twitter.com/tcy79/status/707883898617733120

このツイートに同意ですが、自公だけではなく社会も動かなかったでしょうね。結局、数字を示して冷静な指摘をいくらしたところで、政府は無視し、社会は関心を示さないんですよね。実際、前記事前々記事で書いたように、「公式の数字」を示した山尾議員の質問なんか覚えてもいないし、「日本死ね」だけに依拠して政府批判してるようにしか思ってないわけですよ。

大事なのはその後、安倍首相に子育て支援予算の残りの3000億円を確保するよう求める部分ですが、それについてはほとんど誰も気にしてもいません。
社会は「日本死ね」だけに注目して大騒ぎして安倍政権を批判し、それに怯えた安倍政権は形ばかりのスローガンで対応したわけです。

首相 子育て支援の抜本的強化など指示

3月11日 20時21分

安倍総理大臣は政府の経済財政諮問会議で、GDP=国内総生産600兆円の達成に向けて成長と分配の好循環を生み出すため、子育て支援の抜本的な強化と、多様な働き方を後押しする環境整備に取り組むよう関係閣僚に指示しました。
総理大臣官邸で開かれた経済財政諮問会議で、民間議員はGDP=国内総生産600兆円の達成に向けて、子育て支援を抜本的に強化する「異次元の取り組み」が必要だと提言しました。そして、子ども・子育て支援の質や量の充実、保育士の待遇改善に加え、給食費の無料化や、子どもの医療費の負担軽減を検討するよう求めました。また、多様な働き方が広がるよう、長時間労働の抑制や有給休暇の取得促進のための法令の改正、兼業や副業がしやすくなる環境整備の促進なども必要だという考えを示しました。
これを受けて、安倍総理大臣は、「戦後最大のGDP600兆円の実現に向けて、3巡目の賃上げの流れを着実に進めることによって、家計の可処分所得を増やし、消費の拡大につなげていくことが必要だ」と述べました。
そのうえで、安倍総理大臣は「成長と分配の好循環のため、子育て支援を抜本強化し、多様な働き方を可能とすることにより、働き手の質・量ともに充実させていく」と述べ、子育て支援の抜本的な強化と、多様な働き方を後押しする環境整備に取り組むよう関係閣僚に指示しました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160311/k10010440251000.html

予算が無ければ、ただの精神論です。民主政権に対して散々「財源ガー」と非難していた連中は、安倍政権に対しては口をつぐむ。

社会の注目は「日本死ね」だけに集まり、予算に対しては関心が集まらないようです。
日本死ね」という言葉があってこそ待機児童問題に火がついたわけですが、結局表面だけしか焼けないのがこの社会の限界なんでしょうね。

*1:2016年1月13日に「社会保障の充実二・八兆円については、この二・八兆円から削減をすることはない」http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001819020160113004.htm、と安倍首相は答弁しており、その「社会保障の充実二・八兆円」とは医療介護1.5兆円、年金0.6兆円に子育ての0.7兆円を合わせたものです。http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/meeting/kodomo_kosodate/b_6/pdf/ref1.pdf