10億円払ったからといって日本側が果たすべき義務が終わったことにはならないんだけどね。

安倍首相「次は韓国が誠意を」 少女像撤去求める」の記事中で安倍首相が「10億円を拠出したと強調」したようで、ネット上でも“10億円払ったから日本は義務を果たした”的な認識を示す人が大勢います。

ただ、明示されている日韓政府間合意上、資金拠出で日本政府の果たすべき義務が終了するわけではありません。

そもそも合意の内容はこうです。

(2)日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

「全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」ことが義務であって、資金拠出はその義務を果たすための手段の一部にすぎません。
「全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置」の具体例として、韓国政府設立の財団へ資金を拠出し、「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」が明記されています。
つまり、韓国政府設立の財団に10億円拠出した日本政府は次に、韓国政府と協力して元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行う必要があります。
わざわざ「日韓両政府が協力し,(略)事業を行う」と明記していますので、“金だけ出して、後は知らん”という合意じゃないんですよね。

これは、合意中に「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行う」と明記されていますから言うまでもない話です。
日本政府が慰安婦を売春婦扱いしたり、性奴隷であったことを否定したりするのは、元慰安婦の「名誉と尊厳の回復」を妨害し、「心の傷」をさらに抉る行為ですから、まずそこはやめるのが当たり前。

何より今回問題なのは、「日韓両政府が協力し」と合意中に明記されているにもかかわらず、日本政府が発狂して大使や総領事を召還し、それ以外の交流・協力協議を中断させたことですね。

合意を破棄しようとしてるのは、安倍政権としか言いようがありません。

補足

多分、“資金を拠出することが日本の協力だ”と主張する人が出てくると思うので、一応補足しときます。
まず、(2)の前段で、「日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って」「全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」と述べていることから、日本政府が為すべき「措置」が資金拠出以外にあることが明白です。もちろん「これまでも本問題に真摯に取り組んできた」という「経験」が、ただ金を出して黙らせたことだと認めるなら別ですが*1

そして、もし日韓政府間合意で、日本に課された協力の内容が資金の拠出のみであったのなら、後段の具体例はこうなったはずです。
「韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,韓国政府が,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。」

実際の合意内容は、主体と役割がこのようになっています。

韓国政府 財団を設立
日本政府 資金を拠出
日韓両政府 全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行う

韓国政府は財団設立の義務を果たしました。日本政府は資金拠出の義務を果たしました。
次は日韓両政府が協力して、元慰安婦のための事業を行う義務を果たすべき段階です。

日本政府は発狂して大使を召還している場合じゃありませんよ。

安倍首相「次は韓国が誠意を」 少女像撤去求める

2017年1月8日13時43分
 安倍晋三首相は8日、NHK「日曜討論」で放送された収録インタビューで、韓国・釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦問題を象徴する「少女像」の撤去を求めた。
 首相は、一昨年末の慰安婦問題をめぐる日韓合意に基づき、日本政府はすでに韓国側が設立した元慰安婦支援の財団に10億円を拠出したと強調。「日本は誠実に義務を実行していく。次は韓国にしっかり誠意を示していただかなければならない。たとえ政権が変わろうとも、それを実行するのが国の信用の問題だ」と述べ、少女像の設置は合意の精神に反するとして撤去を求めた。
 首相は、韓国政府が合意で「適切に解決されるよう努力する」としたソウルの日本大使館(現在は移転)前の少女像の移転実現も迫った。
 来年秋の自民党総裁選で3選を目指すか問われると、首相は「全力で国民の期待に応えるために汗を流していきたい。この結果を積み重ねていくことによってこの先どうしようか判断していきたい」と述べ、意欲をにじませた。

http://www.asahi.com/articles/ASK18363KK18UTFK002.html

*1:まあ、その場合でも、わざわざ「日本政府の予算により」という部分が重複してしまいますが。