日本ではあまり知られていないようで、“韓国が北朝鮮に併合される”説を吹聴してまわっている人を多く見かけます。
今回の南北首脳会談開催決定に際し、それに尾ひれをつけて、韓国政府が北朝鮮のスポークスマンになっただのなんだのと喚いている人たちもいますが、当然ながら、党の韓国国民がそんなことを容認するはずもなく、韓国政府も当然そんな方針を立てるわけもなく。
民族共同体統一方案(민족공동체통일방안)
韓国には統一部という省に相当する中央行政機関があります。1969年3月1日に設立されています。
その管掌する任務は、統一と南北対話・交流・協力・人道支援に関する政策の策定や北朝鮮の情勢分析、統一教育や広報といったものです*1。
統一に向けた具体的な方策については、民主化の進展に伴い非軍事的な方法が具現化され、現在の民族共同体統一方案(민족공동체통일방안)が確立したのは、1994年8月15日金泳三政権の時です。これが現在も生きています。
具体的には、人間中心の自由民主主義(인간 중심의 자유민주주의)という理念の下、自主(자주)、平和(평화)、民主(민주)という三つの原則で、和解協力(화해협력)→南北連合(남북연합)→統一国家(통일국가)という三段階を経る、という方策です。
そのため、「北朝鮮の体制を保証しつつ南北統一」=「韓国が北朝鮮側に吸収される」なんて等式は成り立ちません。
で、今回の文政権の動きが、自主(자주)、平和(평화)、民主(민주)という三原則に沿ったものだということは結構わかりやすいと思います。
「自主(자주)」とは、民族自決の精神に基づいて、南北当事者間の解決することであり、「平和(평화)」とは、武力に依拠せずに対話と交渉によることであり、「民主(민주)」とは、民主的原則に立脚した手順と方法によることを指します*2。
平昌五輪を上手く利用したと言えます。
在韓米軍の存在を踏まえると第三の当事者と言える米国に対しても、文政権がかなりの根回しをやっていたことが伺われます。中国・ロシアに対しても当然根回しはやっているでしょうが、米国に対する根回しはそれ以上の周到さでやっているでしょうね。トランプ政権内でも融和派と強硬派が混在しているようで、今もって不確定要素を多く抱えているでしょうけど。
日本に対しては、ほとんど何も期待していない感じというか、逆に煽り役の道化として上手く利用しているとも言えるかも知れません。
実際問題として、安倍日本は北朝鮮問題に対して、制裁だとか圧力だとか煽り立てて国内政治的に秘密隠蔽法だの共謀罪法だの戦争法だのの強行採決やあるいは選挙に利用してばかりですから、韓国政府からすれば、ひっきりなしに火の粉を投げ込んでくる迷惑な隣人でしかありません。先の日韓首脳会談では、米韓軍事演習をけしかける安倍首相に対して文大統領が釘を刺しましたが、これ自体が北朝鮮に対してよいメッセージになった可能性もあります。つまり、“日本に口を挟ませると事態が収拾困難になりかねないから、早く緊張緩和を進めた方がいい”というメッセージです。
いずれにせよ、南北首脳会談を4月に開催する予定を取り付けるまでには至りました。懸案だった米韓合同軍事演習についても、再延期せずの実施について北朝鮮は許容したわけですから一定の譲歩はしたと言えます。少なくとも、米韓にとっては北朝鮮にさらに譲歩したと言う批判を受けずにすみました。その上で、米朝首脳会談も実施される見通しとなり、「米軍、合同演習に空母派遣せず=北朝鮮に配慮、規模縮小か(3/10(土) 16:38配信)」といった事実上の譲歩が示されてもいます。
薄氷を踏むような展開で辿りついた南北首脳会談と米朝首脳会談の約束ですが、統一までにはまだまだ長い道のりで予断は許せません。
現状はまだ三段階の最初、「和解協力(화해협력)」のそのまた端緒についた程度です*3。しかし、非核化はこの「和解協力(화해협력)」の過程で為されるべきでしょうから、ここが最も重要な段階とも言えます。
米朝首脳会談で具体的に何が話されるのか、についてはおそらくは北朝鮮の非核化と同時に平和条約交渉を進めるというロードマップではないのかな、と個人的には予想しています。半分は期待ですけど、それでも北朝鮮の非核化には平和条約が必要であろうとの見方は2017年6月8日のNew York Times社説でも言われていたりします。
One way or another, a peace agreement ending the Korean War is most likely a necessary element to any resolution of the North Korean nuclear challenge. American officials should be considering what would make an agreement work: What governments would participate? How would an agreement be verified and enforced?
https://www.nytimes.com/2017/06/08/opinion/end-the-korean-war-finally.html
韓国の民族共同体統一方案での第二段階の二政府二制度の南北連合(남북연합)に至るためにも、朝鮮戦争の終結は必須でしょうから、平和条約交渉については韓国政府も視野に入れているはずです。朝鮮戦争の休戦協定の署名国は、アメリカ(国連軍)、北朝鮮、中国ですから、平和条約交渉をするなら、アメリカ、北朝鮮の他に中国も当事国となります。南北首脳会談や米朝首脳会談のニュースに対する中国政府の好意的な反応を見る限り、韓国政府は中国側にも根回しを十分に行っていることがうかがえます。
朝鮮戦争の平和条約交渉という枠組みだと、日本を蚊帳の外に置くことに正当性がありますので韓国政府としては日本政府に対して情報を隠しやすいとも言えます。
(機械翻訳)
http://www.unikorea.go.kr/unikorea/policy/plan/民族共同体統一方案(민족공동체통일방안)
「民族共同体統一方案」は、韓国政府の公式統一方案で'89。9月盧泰愚政府の時期に「韓民族共同体統一方案」に初めて提示されて、'94。8月、金泳三政府が「韓民族共同体の建設のための3つのステップの統一方案」(民族共同体統一方案)に補完・発展しました。
<主な内容>
- 統一の理念:人間中心の自由民主主義
- 統一の原則:自主、平和、民主
・自主:民族自決の精神に基づいて、南北当事者間の解決を介して
・平和:武力に依拠せずに対話と交渉によって
・民主:民主的原則に立脚した手順と方法で
- 統一の過程(3段階):和解協力→南北連合→統一国家
和解協力
南北がお互いの実体を認めて敵対・対立関係を共存・共栄の関係に変えるための多角的な交流協力推進
南北連合
南北間体制の違いと異質性を考慮し、経済・社会的なコミュニティを形成・発展させる南北連合を過度体制に設定(2システム、2政府)
(1)南北首脳会議(最高決定機関)
(2)南北閣僚会議の(執行機関)
(3)南北評議会(台機構/ 100人前後南北同数代表)
(4)共同事務局(支援機構/常駐連絡代表派遣)
- 統一国家の将来像:自由・福祉・人間の尊厳が実装されている先進民主国家