トランプ大統領が米朝会談中止を表明した理由として、思いつくのは二つ。

一つは、相手より優位に立つための交渉戦術の一環として中止を宣言してみせたという一種のパフォーマンス。トランプ大統領のこれまでの言動からすれば可能性としては十分考えられると思います。この場合、今度は突如として会談実施路線に切り替える可能性もあります。発言に一貫性が無いのは、この手のポピュリスト政治家にはよくある話ですので、可能性としては少なくないでしょう。
この可能性を示唆する根拠としては、そもそも今回中止にした理由とされる事実が中止がもたらす事態の重要性に比べてあまりにも卑小すぎる点が挙げられます。北朝鮮の高官が米国高官を罵ったとか、実務者協議をドタキャンされたとかでは、理由としては感情的過ぎます。
北朝鮮側が強い態度に出たのも、自国の安全・体制を保証する核武装と引き換えにできるのは、自国の安全・体制を保証する外交的環境であるという当然の要求に基づくものです。取引・交渉という視点で、それを理解できないほどトランプ大統領が無能とも思えません。
そうすると自国の安全・体制保証を求める北朝鮮に対して、体制保証をできる限り高く売りつけるために中止を“ちらつかせた”という可能性が説得力を持ちます。

もう一つは、自分が北朝鮮や中国に騙されているのでは、と本気で思い込みそれを避けるために中止した可能性。
巷間よく言われる“北朝鮮は核を放棄するつもりはない”という先入観を前提視して、現状の北朝鮮の言動を経済支援などをただ取りするための交渉戦術と判断した可能性です。政治理念を廃した取引の名手ならば、そのような判断はしないと思いますが、西側世界に蔓延している北朝鮮像を真に受ければ、そういう疑心暗鬼に陥ることもあるでしょう。
疑心暗鬼になってるので、中国や韓国から現状を好機と説明されればされるほど疑ってしまう悪循環です。対等の立場での交渉に不安を覚え、自分が圧倒的に有利な位置から降伏を申し出る相手との交渉しか受け付けない心理状態です。中止声明内の自らの核戦力を誇示してみせる記述などは、そういった心理を暗示しているようにも読めます。前任者は騙されたが自分は騙されないという自負もそういった心理状態に陥りやすくしているかもしれません。

まあ、他にも可能性が無いではないです。北朝鮮との交渉が自分の利益に結びつかないと判断したとか。外交交渉を成功させるには何らかの形で北朝鮮の体制保証をしなければならないのにそれをすると強い批判が想定され、そうかと言って軍事的に解決することも出来ないので先送りする意味で中止した場合がそれです。
ただ、北朝鮮の体制保証をした場合に想定される批判は北朝鮮の人権問題に関わっている勢力からですが、トランプ大統領がそれを気にしそうな感じはあまりしないんですよね*1

というわけで1週間くらいは様子見が必要かなと考えています*2
1番目の可能性が正しければ、近いうちに交渉は再開するでしょうが、2番目の可能性が正しければ再開は絶望的です。

しかしまあ、「「米朝首脳会談 まだ12日もありえる」トランプ大統領(5月25日 22時45分)」とか見ると、どうも1番目の可能性っぽいですねぇ。