北朝鮮の“態度変化”は経済制裁の効果とはちょっと言えない。

日米の“経済制裁の効果”というのは韓国文政権のリップサービス以外に特に根拠があるとは言えません。
まあ、もちろん全く皆無というわけでは無いでしょうけど、“ある程度の効果”くらいの影響ならば、北朝鮮は米国を射程に収めた核ミサイルを完成させるまで実験をしたでしょうからね。

北朝鮮は4月20日に核戦力を完成させたと宣言してはいますが*1、実態としては完成間際ではあっても完成してはいないというのが衆目の一致するところでしょう。
経済制裁の効果がある程度出ていたとしても、それだけでは完成間際の核ミサイル開発を停止しようという動機として不十分すぎます。
そういう場合、むしろあと一息とばかりに開発を加速させるんじゃないですかね。

そもそも、北朝鮮は“態度変化”したのかという点も疑問です。

北朝鮮の外交的な目標は、米国との直接交渉によって自国の安全保障を確立することで一貫してましたよね。核実験もミサイル開発も全てそのために行なってきたわけですよね。
様々な制裁を受けても開発を続けてきたのは、そうしないと体制を崩壊させられるという恐怖感からです。
何せ朝鮮戦争は未だ終了しておらず、世界最強の米軍が韓国や日本に駐留し、頻繁に軍事演習で脅しをかけてきている状態でしたから、いつ先制攻撃を仕掛けられるかわからない恐怖をずっと感じていたでしょうね。
朝鮮戦争の敵国である米国は北朝鮮悪の枢軸だとかテロ支援国家だとか名指しし、日本は冷戦終結以降、敵視の度合いを一貫して増加させ拉致問題を認めた後もより悪化しています。韓国にしても、公式には平和的な統一を志向する姿勢を示しながら保守政権下では北朝鮮敵視を続けていたような状態です。中国、ロシアも中ソ対立後の支援引き上げに始まり、米中国交正常化や冷戦終結で、有事の際に朝鮮戦争当時のような軍事的支援を期待することはまず出来ない状態。
北朝鮮の立場から見れば、米国と対等に交渉して体制保障の確信を得ないと自国の安全を守る意味で安心できませんよね。

米国と対等に交渉するには軍事的に対抗できる必要があり、それが核開発でした。国連制裁決議などが出されても、北朝鮮はその国連軍と対峙している状態ですからおいそれと聞くわけもありません。北朝鮮から見れば国連軍の元締めもまた米国ですから、結局、米国との交渉がすべてのカギになっているわけです。

ならば、米朝首脳会談は北朝鮮にとって悲願達成に向けた最終段階であって、“態度変化”というよりも規定の路線というのが正しい見方でしょう。

しかし、本来なら北朝鮮の目論見通りにこぎつけるのは極めて困難でした。

なぜならば、北朝鮮は核戦力が無ければ米国と交渉できないと考えていた一方で、米国は北朝鮮が核放棄しなければ交渉しないと考えていたからです*2

そこで間に立ったのが韓国文政権でした。

韓国は、公式に核放棄を発言できない北朝鮮に代って米国に核放棄の意志があることを伝え、核放棄まで圧力維持と表明せざるを得ない米国に代って北朝鮮米朝首脳会談の了解と当面の軍事力行使の回避を伝えたわけです。この動きの表面的な部分は2018年1月になってからですが、おそらく実際には文政権発足直後から様々なルートで北朝鮮と米国に働きかけていたと思います。
当然、文政権はいざとなれば泥をかぶる覚悟だったでしょう。北朝鮮が公式に非核化方針を示すまでに決裂していれば、北朝鮮は非核化については韓国が勝手に言ったことにしたでしょうからね。米国も同様に韓国特使にあった後に米朝首脳会談を否定していたら、北朝鮮は韓国の仲介を信じなくなっていたでしょう。

こうした韓国の仲介によって、米朝は軍事的対立から外交交渉へと状態を変化させることが出来ました。

北朝鮮には核戦力の完成によって米国との直接交渉ができるようになったと主張できる余地を与え、米国(日本にも)には圧力によって北朝鮮に非核化を宣言させたと主張できる余地を与えた、双方の面子を立てたわけですね。

その意味では日本が北朝鮮の“態度変化”は経済制裁の効果だと主張する行為は、それ自体が文政権の手のひらの上で踊っているような状態とも言えますね。



*1:http://scopedog.hatenablog.com/entry/2018/04/23/003000

*2:個人的には、だからこそ核開発が進む以前に交渉して戦争状態を終らせるべきだったと思うんですけどね。