文庫版「中国の旅」の目次

本多勝一氏の「中国の旅」は日本において南京事件の実態を知らしめた重要なルポですが、多くの右翼やネトウヨが言うようにこの本でいきなり南京事件が問題にされ始めたわけではありません。実際には1960年代に既に南京大虐殺をテーマにした小説が発表されるなど、歴史的な事実として歴史に興味を持つ人には普通に知られていたと言えます。
右翼否定派やネトウヨが大騒ぎして、本多氏を叩く理由は、本多氏のルポが朝日新聞という大新聞に掲載され、歴史にさほど興味のない一般人にも知られるきっかけとなったからです。

さて、私が所有しているのは、古本で手に入れた文庫版で1982年5月20日の第3版*1ですが、そのあとがきに以下のように記載されています。

中国の旅 (朝日文庫)

1971年の6月から7月にかけて約40日間、私は中華人民共和国を取材しました。その目的や動機などについては、本文のなかでふれた通りです。結果は『朝日新聞』に同年8月末から12月までの間に、四部に分けて報告(本書のうち「平頂山」「万人坑」「南京」「三光政策」の各章に当たる)しましたが、『朝日ジャーナル』および『週刊朝日』でも連載しました。写真の一部は『アサヒグラフ』でも発表しました。これらのルポをまとめた上、さらに加筆して単行本『中国の旅』(朝日新聞社・1972年)が刊行されていましたが、それを文庫本にしたのが本書であります。

*2

つまり、問題の南京事件に関するルポが一般の目に触れたのは1971年後半です。単行本となったのは1972年ですから深く読まれるようになったのはこの頃です。
南京事件否定派が憎んで止まない本書ですが、300ページほどの中身のうち、南京事件に関する記述はわずか40ページ程度に過ぎません。

            ページ 概要
中国人の「軍国日本」像  16 満州での強制労働
旧「住友」の工場にて   39 満州での強制労働
矯正院          48 満州での思想矯正
人間の細菌実験と生体解剖 57 731部隊による人体実験
撫順           87 撫順炭鉱での強制労働
平頂山          95 平頂山事件*3
防疫惨殺事件       119 撫順炭鉱での防疫名目での虐殺事件
鞍山と旧「久保田鋳造」  133 鞍山製鉄所での強制労働
万人坑          147 強制労働での犠牲者が捨てられた万人坑
盧溝橋の周辺       178 日中戦争中の盧溝橋周辺での日本軍による虐殺
強制連行による日本への旅 188 強制連行・強制労働
上海           197 日中戦争中の上海での日本軍による虐殺
港            214 上海埠頭での日本による虐待
「討伐」と「爆撃」の実態 220 上海占領時代の日本軍による虐待
南京           225 南京大虐殺
三光政策         267 華北での三光作戦
あとがき         298 -
解説(高史明)      303 -

他の部分も日本の戦争犯罪に関するものですが、マボロシ派(鈴木明・山本七平ら)は南京大虐殺に関する部分、しかも南京関連の40ページ中のさらに1ページにも満たない百人斬りに関する記述のみに的を絞って否定しようとしたものの*4反論され歴史修正に失敗しています。

以来、現在に至るまでまともに南京事件の存在を否定できる論は現れていません*5

現在ネット上で「本多は反日」とか決め付けて南京事件を否定している人のほとんどは、おそらくは一度も「中国の旅」を読んだ事がないでしょうね。

*1:1981年12月20日初版

*2:日付についてはローマ数字に変えてあります(引用者)

*3:1932年に日本軍が中国人村民数千人を虐殺した事件

*4:「百人斬り」を「一本の日本刀のみで戦闘中の連続で100人殺害」と勝手に設定し、それを否定するという典型的な藁人形論法。

*5:存在している否定論は全て、虐殺の定義を非常識なまでに狭く設定しているか、誰も主張していない内容を南京事件の定義だと捏造して否定する手法に過ぎず、論ずるに値しません。