台湾総統選挙に関して日本のメディアでは、中国の介入を指摘する声が圧倒的で実際にある程度の介入はあると見られますが、日本側の介入に関してはあまり注目されません。
台湾公正選挙国際委員会視察団が訪台
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120110-00000591-san-int
産経新聞 1月10日(火)20時44分配信
14日の台湾総統選で、台湾の国際法学者らが選挙の公正維持を目的に日米欧などの識者に視察を呼びかけて発足した「台湾公正選挙国際委員会」(ICFET)の参加メンバー第1陣が10日、台湾入りした。日本からはジャーナリストの櫻井よしこさん、衆院議員の大野功統氏、参院議員の江口克彦氏の3人が参加。計25人が視察するという。(台北 吉村剛史)
名前こそ「台湾公正選挙国際委員会視察団」となってますが、言論右翼の櫻井よしこ氏、自民党の大野功統議員*1、みんなの党の江口克彦議員が参加していることからわかるとおり、露骨な民進党応援団だと言えます*2。
そもそも、「台湾公正選挙国際委員会」の委員長である彭明敏氏自身、アメリカで台湾独立運動を行い1996年には民進党から総統選挙に出馬するなどの明らかに民進党寄りの人物ですから、どれほど公正と呼べるのか疑問があります*3。
ちなみに台湾公正選挙国際委員会の名誉主席は独立派というより反中国派の李登輝氏です。
もともと台湾は国共内戦の流れから中国との対立状態にあり、冷戦構造の中でも反共路線を継続させてきましたが台湾の民主化と中国の改革開放の流れから経済的な連携と政治的な安定性を現実的な選択肢として選ぶようになってきています。反中国の急先鋒である李登輝氏でさえ、台湾総統在任時に台湾独立などの選択肢はとれず、中国との決定的な対立は避けてきたわけですし、独立路線を掲げた民進党政権でも中国との対立を決定的にする政策は取れませんでした。
そのため、反共路線で日本やアメリカの反共勢力の支持を受けていた李登輝などの急進的な独立派は、民進党内部での居場所を失い小政党に転落しています。
台湾総統選は世論調査では、国民党の馬英九氏、民進党の蔡英文氏が拮抗していますが、中国とのECFA締結による経済発展の影響で大企業は国民党を支持していますから、個人的には馬英九氏有利であろうと判断しています。とは言え蔡英文氏当選の可能性も低くなく、当選すれば東アジア初の女性国家*4元首誕生となり、これはこれで興味深いです。
民進党政権になったとしてもECFAを破棄するような事態はまずありえず、また徒に中国を挑発して経済的な低迷を招くようなこともしないでしょう。これに関しては産経新聞の以下の記事に同意できます。
一方、台湾関係法で台湾の安全保障を支える米国だが昨年、新型F16戦闘機売却を見送ったことを契機に台湾放棄論が浮上、擁護論者との論争も過熱した。対中牽制(けんせい)を強める米国は、馬氏の勝利で台湾のさらなる中国接近に、蔡氏の勝利では海峡の不安定化に警戒する必要に迫られよう。蔡氏は、中国に対する後ろ盾として米国の「アジア回帰」に期待を寄せつつ、対中融和を模索するはずだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120103-00000518-san-int
つまり、民進党政権になったところで対中融和路線はまず変わらないという判断です。
さて、そうなると中国が殊更強硬な選挙介入をしてくる可能性というのはそれほど高くはないように思えます。むしろ日本の議員や右翼など明らかな反中思想の持ち主を含めた台湾公正選挙国際委員会視察団などを台湾入りさせることの方がよほど選挙干渉と言えそうです。
東京新聞は彭明敏氏にインタビューしており、その狙いを聞いています。
−趣意書では「選挙結果を覆す重大な政治事件が起こる可能性もある」と予見している。
「今回の選挙は立法委員とのダブル選挙で、選挙後、新総統就任まで四カ月もある。それが一つの問題だ。二〇〇四年の総統選では、負けた国民党が負けを認めず、選挙無効、票の数え直しを求めて裁判を起こし、総統府前で違法の座り込みデモを何日も続け、騒乱を起こした。今回は国民党政権は負けても五月まで実権は握っている。その間に何をやるか。国際監視委員を通じ、選挙結果を早く国際社会に認知してもらうことが大事だ」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011122802000039.html
つまり彭明敏氏は、国民党が選挙で負けても負けを認めない可能性があると主張しているわけですが、2004年の総統選では民進党の当時現職総統だった陳水扁氏暗殺未遂事件があり、自作自演の疑い*5があったために混乱が生じています。
むしろ、国民党が選挙で勝った場合に、それを認めないために台湾公正選挙国際委員会が行動するのではないかというのが、個人的な見解です。
実際、彭明敏氏はこう述べています。
−上からの圧力は外国人の監視委員には分かりにくいのでは?
「万一、そういうことがあり、選挙後、問題になった時、視察していれば『私はそこにいた』と内外に証言できる。見証でいい。八六年のフィリピンのピープル・パワー革命では、マルコス政権の選挙を視察した米国人たちの働きも米政府を動かした一因だった」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011122802000039.html
民進党が敗れたとしても『私はそこにいた』と、国民党の”不正”を訴え続けるのに都合のいい条件を作っている。そうも取れる行動です。
ちなみにこの委員会はアメリカのカーター元大統領にも参加を求めましたが、拒絶されています。
理由は以下の通り。
<国際委員の顔触れ> 内外約60人の政治家、学者らに委員就任を要請中で、マカウスキ元米アラスカ州知事、日本の大野功統元防衛庁長官らが参加の見通し。カーター元米大統領からは主要候補者の同意があれば承諾と返答があったが、国民党が拒否したため不参加の見込み。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011122802000039.html
民進党は同意したが、国民党は同意しなかった、ということですが、委員会の主要メンバーの面子を見れば当然の反応でしょう。
どう見ても偏った面子に、櫻井よしこ氏など節操のない日本の反共右翼はホイホイ乗っかったという状態です。
まあ、笑い話ですめばよいのですが、そういう意味でも台湾総統選は注目すべき選挙ですね。
追記:2012/1/15
なかなかの接戦だったようですが、馬氏が勝ちましたね。とは言え立法院でも圧倒的多数でもないので、政権運営はそれなりに苦労することになるでしょうが。