対韓国ODAの円借款に関する若干の資料
韓国は日本から借りた金を返していないというデマはネット上で蔓延していますが、その手のデマを振りまいているサイトではODAなどに関する基本的な知識にかけていること多いのが現状です。自称・情報強者はこれらのデマに簡単に騙され排外主義を主張しています。
とりあえず、円借款に関して調べてみました。
韓国に対する円借款は、1965年の日韓基本条約時に結ばれた日韓請求権並びに経済協力協定*1に書かれた「現在において七百二十億円(七二、◯◯◯、◯◯◯、◯◯◯円)に換算される二億合衆国ドル(二◯◯、◯◯◯、◯◯◯ドル)に等しい円の額に達するまでの長期低利の貸付け」が最初です。ネット上では、ODAでの円借款とは別にこの2億ドルを貸し付けた、と主張する言説も見受けられますがデマです。
1965年当時、1ドル=360円の固定相場であったため、2億ドルは720億円として協定に記載されていますが、その後変動相場になったため*2、現在の日本側の記録では1965年における円借款額は677.28億円となっています*3。
しかし、その677.28億円についてもあくまで交換公文上の金額であって、実際に貸し付けた金額ではありません。
実際に契約に至ったのは以下の通り、5962.45億円です*4。
対韓国ODA円借款額の推移(億円)
年*5 | 交換公文 | 交換公文累計 | 契約*6 | 契約額累計 |
---|---|---|---|---|
1965 | 677.28*7 | 677.28 | - | - |
1966 | - | 677.28 | 198.56 | 198.56 |
1967 | - | 677.28 | 66.35 | 264.91 |
1968 | - | 677.28 | 67.01 | 331.92 |
1969 | - | 677.28 | 71.46 | 403.38 |
1970 | 72 | 749.28 | 5.17 | 408.55 |
1971 | 380.40 | 1129.68 | 28.80 | 437.35 |
1972 | 216 | 1345.68 | 467.76 | 905.11 |
1973 | 216 | 1561.68 | 66.62 | 971.73 |
1974 | 313.20 | 1874.88 | 518.08 | 1489.81 |
1975 | 234.20 | 2109.08 | 126.45 | 1616.26 |
1976 | 235 | 2344.08 | 109.00 | 1725.26 |
1977 | 240 | 2584.08 | 366.00 | 2091.26 |
1978 | 210 | 2794.08 | 210.00 | 2301.26 |
1979 | 190 | 2984.08 | 190.00 | 2491.26 |
1980 | 190 | 3174.08 | 190.00 | 2681.26 |
1981 | - | 3174.08 | - | 2681.26 |
1982 | - | 3174.08 | - | 2681.26 |
1983 | 451 | 3625.08 | 451.00 | 3132.26 |
1984 | 495 | 4120.08 | 495.00 | 3627.26 |
1985 | 544 | 4664.08 | 544.00 | 4171.26 |
1986 | 446.33 | 5110.41 | - | 4171.26 |
1987 | - | 5110.41 | 446.33 | 4617.59 |
1988 | 272.62 | 5383.03 | 272.62 | 4890.21 |
1989 | 76.34 | 5459.37 | 76.34 | 4966.55 |
1990 | 995.90 | 6455.27*8 | 995.90 | 5962.45 |
これらの契約はいずれも償還期間15〜25年、金利3.25〜5.75%の条件で設定されています。
ODAの円借款は1990年が最後でこれ以降は実施されていません。
日本のODA関連資料では貸付累計が実績として表示されることが多く、回収額についてはあまり詳細に公開されていないようです。それでも1999年から2007年までのODA円借款回収額については追うことが出来ます。
回収状況・円借款残高(億円)の推移
年*9 | 円借款件数 | 円借款残高 |
---|---|---|
1999 | 43 | 1612*10 |
2000 | 40 | 1355*11 |
2001 | 39 | 1195*12 |
2002 | 35 | 599*13 |
2003 | 31 | 482*14 |
2004 | 25 | 370*15 |
2005 | 19 | 275*16 |
2006 | 18 | 226*17 |
2007 | 17 | 175*18 |
上記はJBICの資料ですが、外務省のODA白書でもドル表記での回収実績が記載されています*19。2011年のODA白書*20では国別実績から韓国の記述が消えており、ODAでの円借款の回収が終了したように思われます*21。
いずれにせよ、契約上1980年代から円借款の返済が開始され、順調に返済が続き2007年時点で残高175億円になっているわけです。ネット上の「韓国は借金を踏み倒している」という主張が嫌韓レイシズムに基づいたデマでしかないことは明白と言えるでしょう。
*1:http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPKR/19650622.T9J.html
*2:1971年に1ドル=308円に切り下げ、1973年に変動相場に移行。
*3:1965年当時に一括で2億ドルを貸し付けたわけではなく、10年分割で貸し付けているため、変動相場制移行後は日本側の負担が軽くなっています。
*4:1970年代以降は、交換公文と契約がほとんど一致していますが、1965年の日韓請求権並びに経済協力協定に関する部分はあまり一致していません。この頃にODAを国内輸出産業支援に利用する外交戦略が確立されていったように思われます。
*5:年度末時点
*6:http://www2.jica.go.jp/ja/yen_loan/index.php
*7:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_90sbefore/901-03.htm
*8:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_99/g1-03.htm
*9:年度末時点
*10:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2000/pdf/08.pdf
*11:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2001/pdf/10.pdf
*12:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2002/pdf/10.pdf
*13:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2003/pdf/06.pdf
*14:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2004/pdf/06.pdf
*15:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2005/pdf/06.pdf
*16:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2006/pdf/06.pdf
*17:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2007/pdf/06.pdf
*18:http://www.jbic.go.jp/ja/about/business/year/2008/pdf/06.pdf
*20:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/11_hakusho_pdf/index.html