人民元の国際化

通貨の国際化というのは明瞭な定義があるわけではありませんが、各国の準備通貨として占める割合が増えることが一つの条件と言えます。
反中差別感情に惑わされると、「人民元の国際化なんてありえない」などと通貨の国際化の意味も分からず否定したりしますが、現実は変りません。

焦点:中国人民元の国際化に地政学的緊張の予兆
上記記事にある小池百合子氏の発言は、中国の経済的影響力の拡大に対する脅威を表しています。

 小池氏はバーレーンでの会議に向けた論文で、アジアにおいて中国の台頭は今後も最大限の恐怖を喚起しそうで、日本が財政再建を急がなければならない理由の1つでもあると指摘。「これまでのところ、中国による日本国債の購入は無視できる規模だが、この点で中国が日本への影響力を強める可能性は現に存在しており、認識すべきだ」と論じた。

http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201210040085.html

上記では、通貨の国際化がいいことばかりではない点についても指摘しており、人民元の国際化が進んでも中国政府は難しい舵取りを余儀なくされるであろうことを示唆しています。

 人民元の国際化は、まず中国自体にとってリスクが高いとの指摘もある。
 準備通貨の地位を得るには、資本管理を解き、外国人が蓄積した人民元を中国の証券市場に再投資できるようにすることが前提条件の1つだ。しかし自由な資金流入が為替レートと金利を左右するようになれば、中国共産党はこの2つのレバーの掌握権が弱まり、嫌悪する経済不安定化そのものを誘発する恐れがある。
 ピーターソン国際経済研究所(ワシントン)のシニアフェロー、ジョン・ウィリアムソン氏は、準備通貨の発行国という地位が大きな恩恵をもたらすという基本的な前提に疑問符を付ける。
 中国やブラジルといった国々は、米国が金融緩和を通じて故意にドルを下落させていると批判するが、ウィリアムソン氏は、ドルは基軸通貨であるゆえに為替レートの柔軟性が限定的だと反論。為替レートを調整しているのは他の国々で、ドルの動きはそのしわ寄せだと言う。

http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201210040085.html

行き先に困難があるとしても、中国政府が人民元の国際化を志向していることは明らかです。
2010年の人民元建て貿易決済が大幅拡大の他、2008年以降の各国との通貨スワップ協定締結などがその手段の一つです。中国の通貨スワップ協定については以前も記事にしています。
これらの他に、SDR*1への人民元組み入れが模索されており、アメリカなども乗り気です。

米国、人民元のSDRバスケット組み入れに支持表明=中国副首相
2012年 05月 4日 23:25 JST
[北京 4日 ロイター] 中国の王岐山副首相は4日、中国が人民元IMFの特別引き出し権(SDR)バスケットに組み入れるよう要請していることについて、米国が支持を表明したことを明らかにした。
王副首相は北京で行われた米中戦略・経済対話の閉幕後に明らかにした。
中国は自国通貨をユーロとドルに並ぶ準備通貨に育てたいとしており、IMFのSDRバスケットへの組み入れを要請している。
これに対し、IMFはSDRバスケットに組み入れるには通貨の兌換性が必要としている。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE84300K20120504

2015年に行われるSDRの見直しでは、人民元が組み入れられる可能性が高いと言われています。
一方で、円の存在感は低下しつつあります*2

財務官僚やある程度経済を理解している人なら、こういった経済面での中国の台頭と日本の地位低下*3を認識していると思いますが、一般ではどうにも日中戦争にのめりこんだ時の世論のよう中国を見下す傾向が強いようです。
困ったものです。

*1:IMFが創設した加盟国の外貨準備資産を補完するための主要通貨の通貨バスケットとして構成された特別引出権。現在、米ドル、ユーロ、ポンド、円の4通貨で構成。

*2:SDR構成では2005年時点で11%だった円は、2010年見直しで9.4%に低下しています。

*3:これは決して表面的なGDP景気動向だけで評価できるわけではありません。