夏淑琴氏への中傷行為に関する裁判に乗じた愛国詐欺募金の受付始まる

弱小出版社突く中国 南京取り立て裁判の怪
産経記事では固有名詞をぼかしていますが、カンパを募るのにその態度はちょっとどうかと思います。
訴えている「ある老中国人女性」とは夏淑琴氏で、訴えられている「日本人著者」とは松村俊夫氏、「疑問を呈した著書」というのは「「南京大虐殺」への大疑問」です。

この裁判は少し複雑な経緯があります。
元々は「「南京大虐殺」への大疑問」の著者である松村俊夫氏、「「南京虐殺」の徹底検証」の著者である東中野修道氏、そして両書籍の出版元である展転社が、この事件を起こしました。内容は、南京事件日本兵に家族7人を殺された生存者・夏淑琴氏に対して、確たる根拠なくニセモノであると中傷するものでした。

 一九三七年十二月十三日、大勢の日本兵が夏さんの家に乱入し、父親と大家さんを殺害しました。夏さんは姉や妹らと布団をかぶって隠れました。日本兵は、子どもたちをかばうように寝台に腰掛けた祖父母を射殺、布団をはいで二人の姉を強姦(ごうかん)しようとしました。大声を出した夏さんは左脇、背中、肩の三カ所を銃剣で刺され、気を失いました。意識が戻り、部屋を見渡すと二人の姉は殺されていました。夏さんが四歳の妹と、空襲のときに隠れる「避難所」にいくと、生後数カ月の妹と母が死んでいました。

 生き残った二人は、なべに残っていたおこげのご飯を食べて生き延び、数日後、近所の老人に発見され、養老院に保護されました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-06-26/2006062614_01_0.html

両書籍の出版は、家族7人を殺された被害者に対し、ニセモノ呼ばわりする侮辱行為にあたるため、夏淑琴氏は当然の権利として、松村俊夫氏、東中野修道氏、展転社に対し、名誉毀損の訴えを起こしました。2000年11月27日のことです。ただし、これは夏淑琴氏が住んでいた中国で起こされた裁判で中国の人民法院が審理しました。審理は2003年6月10日に玄武法院に移され、2004年9月15日、16日に証人尋問、11月23日、25日に公判が開かれました。当然、一方の当事者であった松村俊夫氏、東中野修道氏、展転社にも出廷が求められましたが、三者はこれを拒否して出廷しませんでした。法に基づき当事者欠席のまま審理がなされ、2006年8月23日に松村俊夫氏と展転社に80万元、東中野修道氏と展転社にも80万元の賠償を求める判決が出されました。
産経記事にこのように書かれている部分です。

ところが中国人女性は、言論で反論したり、事実関係で争うことをせず、「精神的苦痛を受けた」として著者と展転社という日本の出版社をなんと南京の人民法院に訴えたのである。南京の法院は日本人著者に召喚状を送ってきたが、召喚に応じる義務はなく、出廷しなかった。南京の法院が訴えを認めないはずはなく、即日、両者に日本円で500万円を超える賠償を命じる判決が下った。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121023-00000587-san-soci

外国の出版社に自分の名誉を毀損された場合、まず自国の裁判所に訴え出るのが普通です。「なんと南京の人民法院に訴えたのである」と驚くようなことではありません。「即日、両者に日本円で500万円を超える賠償を命じる判決が下った」というのも誤りで、2004年11月の公判から2年近く経った2006年8月に判決が下っています。

松村氏、東中野氏、展転社が中国の裁判所に出廷しなかったのは、どうせ中国の判決など無視しても構わない、と高を括ったからと思われますが、これ以前に東中野氏が面白い行動を取ります。中国での審理が玄武法院に移される以前の2003年1月、東中野氏は東京地裁に債務不存在確認訴訟を提起しました。中国で損害賠償の義務が成立しても、日本では法的に債務が存在しないことを確認しておくためのものです。*1

この訴訟に関する呼び出し状は当然、中国の夏淑琴氏に届きます。夏淑琴氏は反訴を決意しますが、そのために日本に行くのなら同時に日本国内で効力を持つ名誉既存訴訟を起こした方が効果的なため、結果として日本国内での名誉毀損訴訟へと発展することになります。訴訟の提起は2006年5月15日、第1回弁論は2006年6月30日です。このため、東中野氏の提起した債務不存在確認訴訟はその意味を失い、第1回弁論で取下げとなり、以後は日本国内の裁判所における名誉毀損訴訟となったわけです。*2

この名誉毀損裁判こそ、日本の裁判所をして東中野氏による南京事件否定論を「学問研究の成果というに値しない」とまで言わしめた有名な裁判です。2007年11月2日に東中野氏と展転社の敗訴とする地裁判決が下り、最終的に2009年2月5日に最高裁が上告を棄却したことで、東中野氏と展転社の敗訴が確定しました。弁護費用を含めた賠償金額は400万円、中国での判決での80万元の半分以下ですが、裁判としてはけりがついたと言えるでしょう。

残ったのが、中国での判決のみがある松村氏、展転社に対する80万元の賠償請求です。「債務不存在確認訴訟」という呼び水を差した東中野氏と違い、日本に篭って中国での判決を無視してきた松村氏、展転社に対して、改めて賠償金80万元を払うようにと求める裁判が今回の裁判です。

 日本と中国は裁判の「相互保証」の取り決めがないため、判決を日本で執行することはできない。ところが、この中国人女性は、こともあろうに東京地裁強制執行を求める訴訟を起こしたのである。いってみれば南京で下った損害賠償金を、取り立てられるように日本の裁判所に訴えてきたのである。その裁判が始まるのだ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121023-00000587-san-soci

もちろん、産経記事では中国で同様に訴えられた東中野氏が日本国内の裁判でも名誉毀損で敗訴した事実について触れていません。

現実問題として

訴状*3をざっと読んだ限りでも、中国での判決を根拠に日本国内での賠償取立てが認められる可能性は低いと思います。ただ、中国判決での日本国内での効力が認められない場合、改めて日本国内で名誉毀損訴訟を起こすことができます。もし、夏淑琴氏が松村氏、展転社に対して名誉毀損訴訟を起こせば、東中野氏による名誉毀損事件の経緯からもほぼ間違いなく勝訴になると思います。

したがって、おそらくはこの裁判は、最初に中国判決が日本で効力を持たないことを確認した上で、日本で解決されていない事件として名誉毀損訴訟を起こすという二段構えになるのではないかと考えています。

予想される事態としては、取立て部分の取下げ、ないし棄却に関して、産経文化人らが勝利宣言を出す一方、引き続き起こされる名誉毀損訴訟に対して「濫訴」呼ばわりする、という事態がありそうです。


とりあえず、事件の経緯を知っていれば、産経文化人のデタラメに惑わされにくくなりますので、一応書いておきました。
以上の経緯を知っておけば、次のような愛国詐欺被害を回避できます。

愛国詐欺募金

 南京事件の被害者と名乗る他の女性も、同じ展転社書物や著者を訴えているが、それは東京でのことだ。もし、今回の裁判で中国人女性の訴えが認められると、南京の法院で一方的に下された判決が、日本でも有効とされ執行されるという、とんでもないことになってしまう。
 こういっては何だが、展転社は社員数人の弱小出版社である。しかし、これまで南京事件を疑問視する多くの出版物を刊行してきた。歴史の真実を伝えることを使命としているからだろう。弱小だから資金はない。中国側がそこを突いてきているのは明らかだ。その証拠に他の出版社に対しては訴訟を起こしていない。弱いところから攻めようというのだろう。
 もし、とんでも判決が出れば、言論の自由は消し飛び、出版社の命運は尽きる。中国で一方的に下された判決が日本で執行されるなどということが許されていいはずがない。
 そこで有識者が立ち上がって「南京裁判 展転社を支援する会」が発足した。会長は評論家の阿羅健一氏である。同会は裁判費用をふくむカンパを募っている。郵便振替口座は「00170−1−679142 展転社を支援する会」。(編集委員 大野敏明)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121023-00000587-san-soci

「社員数人の弱小出版社」と卑下していますが、その出版社がやったのは戦争で家族を失った80歳の老婆をよってたかって罵倒・中傷する行為です。「社員数人の弱小出版社」だからといって許される行為じゃありません。
記事では、まるで裁判が中国政府の陰謀であるかのように書いていますが、中国政府の陰謀なら中国国内の裁判で6年(2000年提訴2006年判決)もかけたりしないでしょう。

尖閣問題のように「中国ガー」と騒ぎ立てれば、反中意識を刷り込まれたお調子者がお金を振り込んでくれる、という目論みがあるのでしょうね。
何せ、石原都知事が10億円以上騙し取った実績を作りましたから、二匹目のどじょうを探したくなる気持ちもわからなくはありません。

*1:http://sengosekinin.peacefully.jp/data/data8/data8-2-3.htm

*2:http://www.jlaf.jp/tsushin/2007/1258.html

*3:Tekamonasandali さんのご指摘により、訴状へのリンクを削除します。2013/1/27