この記事です。
がん生存率:治療開始後5年、最大33ポイント差−−国公立28専門病院
http://mainichi.jp/select/news/20121023mog00m040003000c.html
2012年10月23日
全国の国公立のがん専門病院でつくる「全国がん(成人病)センター協議会」(全がん協、31施設加盟)は23日付で、01〜03年に加盟施設の患者だった人の治療開始から5年後の生存率を、5部位のがんごとに分析し、同意を得た28施設別に公開した。施設間の差は肺がんで最も大きく、33ポイントあった。最少は乳がんで9ポイントだった。
こういったデータを公表することは患者のために有意義なのですが、記事タイトルの「最大33ポイント差」とか「施設間の差は肺がんで最も大きく、33ポイントあった」というのはあまり褒められた表現ではありません。
(肺がん)
http://mainichi.jp/select/news/20121023mog00m040003000c3.html
施設 5年生存率 症例数 I期/IV期比 群馬県立がんC 24.8 270 0.8 四国がんC 58.1 599 2.3
「最大33ポイント差」が生じたのは上記2施設ですが、I期/IV期比を見ればわかるとおり、四国がんセンターでは進行していない早期がんが多く、群馬県立がんセンターでは進行した末期がんが多いです。
進行の度合いが違うのですから、当然5年生存率も異なります。ですので「最大33ポイント差」は、施設差というよりも進行度合いによる差と見るべきです。
データをまとめた群馬県立がんセンターの猿木信裕院長は「病院間の優劣を示したものではなく、患者が医師と治療について話し合う資料として使ってほしい」としている。
http://mainichi.jp/select/news/20121023mog00m040003000c.html
一応、上記のようなフォローが記事内にありますが、記者の言葉でもフォローするべきでしょう。
慣れていない人がこのデータを見れば、「病院間の優劣」と判断する可能性が高いでしょうし、タイトルで「最大33ポイント差」と書くことで余計に煽られると思います。
どう読むか
記事にあるデータからは、施設間の治療成績の差は読み取れません。治療成績の差を知りたいのなら、がんの進行度、患者の状態(PS、肝腎機能などの状態、年齢、合併症)などの条件を揃えて層別に解析しなければいけません*1。
では、このデータから読み取れるのは何かというと、まず症例数から、それぞれの施設の治療経験をある程度把握できること、各がんの進行度を問わない5年生存率の範囲がわかる(例えば、肺がんであれば、5年生存率はおおよそ25%〜60%くらい、と言うのはそれほど間違ってはいません。もちろん、本来なら進行度を踏まえるべきですので、あまりにも大雑把な話ではありますが。)ことです。それ以外に読み取れるのは「I期/IV期比」から、各施設の性格をある程度想像できますね。
例えば、群馬県立がんセンターでは、肺がん患者の「I期/IV期比」が0.8ですから早期がん患者の受け入れが少ないわけです。これは群馬県近辺での肺がんの早期発見のための健診が充実していないからかも知れませんし、そうではなく、比較的治療しやすい早期がん患者は群馬県立がんセンターではなく別の医療機関で治療する方針(つまり進行がん患者を優先する方針)なのかも知れません。
逆に、四国がんセンターがカバーする地域では、肺がん早期発見のための健診が充実しているのかも知れませんし、あるいは早期がんであってもそれを治療できる医療機関が地域に少なく、四国がんセンターで受け入れているのかもしれません。
要するに、地域ごとの医療事情を示唆するデータとしては利用できるデータとは言えます。もちろん、地域ごとの医療状況についてもこのデータだけで判断できませんので、地域ごとの病院数・病床数、がん治療のできる医師の数、患者の居所から拠点病院への距離*2などのデータを検討する必要があるでしょう。
データを表面的に見れば、「最大33ポイント差」というのは間違いではありません。しかし、それは意味のある内容かというと、ほとんど意味のない数字と言えます。少なくとも記事のタイトルに持ってくるほどの意味はありません。
施設間の「最大33ポイント差」は無くなるべきか、と言うとそんなこともありません。地域事情によるからです。例えば、群馬県立がんセンターがカバーする範囲に早期がんの治療ができる医療機関が多数あるのなら、群馬県立がんセンターが早期がん患者を受け入れる必要性はなく、むしろ進行がん患者の治療に専念した方がいいでしょう。
本来なら、このようなことは記者が考えてデータを表面的になぞった記事ではなく、意味のある正しい解釈を加えた記事を作成するべきだとは思いますが、日本では科学的素養の少ない記者が記事を書いているので、読む方が気をつけなければなりません。