無視されがちな本題

2012年1月19日のことですが、辻元清美氏が産経新聞及び阿比留瑠比記者を名誉毀損で提訴しました*1。提訴理由となっている産経記事の掲載時、辻元氏は首相補佐官の要職に就いており、産経新聞による虚偽報道に対し何度か抗議していたようです。2011年3月の東日本大震災後の対応にあたっている中での新聞による執拗な虚偽報道は、辻本氏個人の名誉を著しく傷つけたのみならず政府としての活動にも大きな支障をきたし、結果として一般被災者にも悪影響を及ぼしたことは容易に推測できますが、これらの公器による執拗な嫌がらせに対して辻元氏が法的手段を取ったのは、2012年1月になってからです。

辻元氏の対応に対し、明らかに反辻元の立場でのポジショントーク以外は、特に大きな批判はなかったように思います。
私個人も訴訟を起こしたことに対しては支持しています。

しかし、もし仮に辻元氏が与党議員として閣僚に産経新聞の取材を拒否させるなどの政治権力を行使し、さらに阿比留氏排除や謝罪を強要したのなら、とても支持できる話ではなく、当然に批判しましたし、私が批判しなくても多くの人が激しく非難したことでしょう。
名誉毀損訴訟というのは、すぐには片付きません。1年、2年かかる根気と費用のかかることで、しかもその間名誉毀損された事実はそのまま放置されます*2
その訴訟という穏健な対抗手段ですら、このような批判がされています。

辻元清美衆院議員が今年1月、産経の阿比留瑠比記者と社を相手取り3465万円の賠償を求める名誉毀損訴訟を起こした。記事内容がどうであれ、記者個人を狙い撃ちに高額訴訟を仕掛けるやり方はスラップの可能性。市民運動出身議員のやることなのか。

https://mobile.twitter.com/minorucchu/status/262856681996816384

スラップとはこういうことです。

Strategic Lawsuit Against Public Participation?の略語
頭文字を取って「スラップ」と言います
公の場で発言したり、訴訟を起こしたり、あるいは政府・自治体の対応を求めて行動を起こした権力を持たない比較弱者に対して企業や政府など、比較優者が恫喝、発言封じ、場合によってはいじめることだけを目的に起こす、加罰的あるいは報復的な訴訟
つまり
「公的に声を上げたために民事訴訟を起こされること」

http://slapp.jp/

田中氏のツイートは理解できないでもありませんが、それでは市民運動出身の議員は虚偽報道で名誉毀損されても黙ってるしかなくなりますし、まるで世襲議員ならスラップは許されるかのような印象も受けます。もちろん、SLAPPを批判すること自体は正当です。そして、批判対象をLawsuit=訴訟に限定する必要もないかと思います。


というわけで本題ですが、週刊朝日の例の記事に対して、橋下氏は裁判に訴えることなく、親会社である朝日新聞に対する取材拒否などの政治権力を行使して圧力をかけ、連載を中止に追い込み週刊朝日に謝罪され、担当者を処分させました。
私は、橋下氏の一連の対抗手段はやり過ぎだと思いますし、明らかに政治権力の濫用だと思います。「権力を持たない比較弱者に対して」、「比較優者が恫喝、発言封じ、場合によってはいじめることだけを目的に起こす、加罰的あるいは報復的な」行動だったと考えます。
橋下氏は本来なら、週刊朝日に対して抗議し、名誉毀損や出版差止めの裁判を起こすべきだったと考えます。

しかし私の観測範囲に限ると、そういった視点での指摘はほとんど見受けられませんでした。
なので、面倒なことになるかもな、と覚悟しつつあの記事を書いたのですが、慎重に書いたつもりでしたがそれでも面倒くさい感じになっています。

あと、”週刊朝日があのような記事を書かなければ、橋下氏の対抗手段は起こらなかった”という主張も理解できなくはないですが、その主張は対抗手段の正当性を担保するものではありません。
犯罪を犯さなければ逮捕されなかったかも知れませんが、だからと言って被疑者の人権が不当に侵害されていいわけじゃありません。

*1:http://www.kiyomi.gr.jp/blogs/2012/01/19-2229.html

*2:仮処分などがありえますが