安倍政権のやり口を学んだのかな

この件。

香港の民主派デモは「非民主的」、中国共産党機関紙が批判

AFP=時事 10月6日(月)16時4分配信
【AFP=時事】香港(Hong Kong)で民主的な行政長官選挙の実施を求め1週間以上にわたって続いている抗議行動について、中国国営メディアがこぞって抗議行動による混乱を強調する中、6日付の中国共産党の機関紙・人民日報(People's Daily)は、民主派デモが「民主主義を後退させている」と批判する記事を掲載した。
 これまでにも香港でのデモへの批判を展開してきた人民日報は、民主派のグループ「オキュパイ・セントラル(Occupy Central、中環を占拠せよ)」や学生たちが率い初め、ここ数日、香港の金融街・中環(Central)地区に数万人を集めている占拠行動に関し、3本の記事で新たに批判した。このうち1人の解説者は「ごく一部の少数の者が違法な手段で、公共空間や公共の利益を侵犯しないこともまた民主主義の基本原則だ。この見地から、現在香港で起きている「オキュパイ・セントラル」行動は完全に民主主義の原則に反するものであり、民主主義を後退させるものだ」と述べている。【翻訳編集】 AFPBB News

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141006-00000033-jij_afp-int

国会周辺のデモを制限しようとする安倍政権やそれを支持する勢力に似た論理ですね。
“デモの音がうるさくて仕事にならない”とかいう理由でデモを制限しようとする動きを支持するのならば、デモ隊が公共空間を占有するというより不法性の高い行為に対しても批判せざるを得ないはずです。論理的には。
もっとも、中国批判先にありきな人は、論理的整合性なんて大した問題ではないでしょうから、そ知らぬ顔で中国政府の動きを批判するのでしょうけどね。
ちなみに私自身の意見は、デモが大きな声で呼びかけても正式な許可のないまま公共の場所を占有しても、暴力的な事態に発展しない限りは許容すべきというものです*1。いうまでもなくヘイトスピーチなんかはデモのうちに入りませんが。
どうも、日本国内でのデモに対しては異常に厳しい制約を課す一方で、反中国であれば不法行為でも“加油〜!”とか言い出す連中がネットでは多いように思います。

もっとも今回の香港のデモに関しては、デモ側の要求がいまいち理解しがたいんですよね。中国側は香港基本法に則った形で進めていますので、それ自体不満だという意見はあっても中国側が強硬に民主化を逆行させてるとも言い難く、現実的には将来的に立候補に指名委員会の推薦を不要とする約束ができれば御の字だと思います*2

コラム:民主化頓挫の香港、待つのは「不幸な選択」のみ

2014年 09月 2日 14:28 JST
中国全国人民代表大会全人代)常務委員会は8月31日、同選挙について、親中派が多数を占める可能性が高い「指名委員会(1200人)」の過半数の推薦が立候補の条件とし、立候補者数も2─3人に限るとした。同制度の下で勝利する次期長官が一般市民寄りの政策を遂行することは事実上不可能だろう。

http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0GX0AU20140902

なお、1990年に公布、1997年に施行された香港特別行政区基本法の第45条は以下のような条文になっています。

第45条 香港特別行政区行政長官は、地元において選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。
 行政長官の選出方法は、香港特別行政区の実情および順次漸進するという原則に基づいて規定され、最終的には広範な代表性をもつ指名委員会が民主的手続きにより指名したのち普通選挙で選出するという目標に至る。
 行政長官を選出する具体的な方法は附属文書1「香港特別行政区行政長官の選出方法」で規定する。

ロイターが述べている8月31日に全人代常務委員会が決めた内容というのが、香港基本法第45条の条文中の附属文書1「香港特別行政区行政長官の選出方法」の改正の件*3です。形式的には全人代が頭ごなしに決めたわけではなく、香港行政長官が2014年7月15日に提出した報告に則って審議した結果です。日本政府がよくやるタウンミーティングに近い「公衆への諮問」も2013年12月から2014年5月にかけてやっています。
安倍政権はじめ日本政府も良く使う手法ですけど、民意と離れていても手続き的には問題のないやり方です。
手続き的に問題なくとも民意とかけ離れた行政行為が行われる場合、民衆側はデモに訴えるしか手段がありませんが、日本社会は基本的にデモには冷淡な視線しか送らないんですよね。“デモは自分たちは違う特殊な人たちが騒いでいるだけ”と民衆に思わせる政治手法が、非常に効果的であるのは日本での事例を見ればよくわかります。
台湾のデモのときもそうでしたが、デモ隊を一般民衆から心理的に切り離す手法に中国政府も長けてきたのかも知れません。

補足

産経新聞は2014年9月3日の主張で

 返還後の香港の憲法基本法普通選挙による行政長官選出を目指すとうたい、中国の全国人民代表大会全人代、国会に相当)も2017年長官改選からの普選導入を、07年に決定した。
 しかし先月末に全人代が採択した選挙改革は、実質的に親中派主体の組織で候補者を事前に選び、自由な立候補を封じるものだ。

http://www.sankei.com/column/news/140903/clm1409030003-n1.html

と言っていますが、立候補に指名委員会の指名が必要である旨は香港基本法に当初からありますし、附属文書1も当初から指名委員会の委員100人以上の推薦が必要となっていました(当時の指名委員は800人)から「実質的に親中派主体の組織で候補者を事前に選び、自由な立候補を封じる」という点においては変わっていません。そのあたりはまるでピントが外れています。

補足2

香港デモは譲歩を引き出せなくとも大きな意義 中国共産党が目指すのは日本の「自民党」か」という記事は先に言われてしまった感が。内容も優れているし。

● 中国共産党普通選挙での一党優位のために 「自民党」を目指している
 これは荒唐無稽な話とはいえない。既に、中国政府は将来の政治体制の民主化を見越して、研究を積み重ねているという話があるからだ。例えば、梁行政長官は、香港の行政長官選挙について「理想的な改革案が人によって違うのは理解するが、普通選挙はないよりもあった方が良い」と発言している。
 つまり、中国政府は普通選挙の実施自体を否定していない。普通選挙実施後に、中国政府が香港市民に対する支配力を確保できるかが重要なのである。中国政府は民主化の進行について柔軟に考えている。一方的に民主化を抑え込むよりも、共産党支配と民主化をどこでバランスさせるかを模索しているのだ。
 中国政府は、急激な市場経済化、高度経済成長が進む中国本土についても、同様の考えを持っている。本土の国民が、今後民主主義を望むようになることは、政府にとって想定の範囲内だ。本土についても、一方的に民主化を抑える現行の政治体制の維持よりも、むしろ将来の普通選挙導入を前提に、どのように共産党支配を維持していくかを検討しているのではないだろうか。
 中国の専門家からは、中国共産党が将来の党のあり方として「日本の55年体制下の自民党」を研究しているという指摘がある。将来「普通選挙」が導入されれば、共産党以外のさまざまな政党が生まれ、多党制に移行することになる。中国共産党はそこまでは容認する。
 しかし、他の政党への政権交代は許さない。一気に欧米型の「政権交代のある民主主義」には移行しないで、共産党政権の支配をずっと続けたい。そこで、かつての日本の自民党のような、民主主義体制の下で、特定の政党が他党に比べて圧倒的に多くの議席を持ち長期に渡って政権を担当し続ける政党システム「一党優位制」を目指したいというのである。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141007-00060154-diamond-soci&p=4

とかなりしっかり書かれています。

日本としての対応

● 中国の民主化の可能性を探る: 華人社会は共産党の意思決定に影響力を持てるか
 以前論じたように、中国では「軍事的な覇権国家」と「市場経済のルールの枠内での経済大国」の2つの方向性がせめぎ合っている(前連載第64回を参照のこと)。つまり、今回の香港の民主化運動を経て、中国は民主化が本土にも広がり、普通選挙が導入されて共産党が「自民党化」するという可能性もあれば、軍事的な暴走の懸念もある。日本としては、中国が民主化に向かうようになにをすべきかを模索しなければならないだろう。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141007-00060154-diamond-soci&p=5

これも同感ですが、補足するなら日本にとって重要なのは、中国が“安定的に”民主化されることであって、民主化さえされればどんな激動があっても構わない、というわけではない点でしょう。急速な民主化とそれに対する反動で中国全体が混乱し崩壊するのは、大戦略レベルで外交を考えてる低レベルな反中排外主義者が喜ぶだけで、日本国家・社会としては本来避けたい事態です。そのあたりを理解していない浮ついた自称リアリストが多くて困ります。

典型的なリベラリスト思考

悪い意味で言ってるわけではありません。国際関係を考えるにあたって、民主主義というイデオロギーを国際協調の手段のひとつとみなすのは国際協調主義あるいはリベラリズムと言える考え方です。国際関係論というと、“リアリズム万歳”な人たちが日本のネット上では多いのですが、そういう人たちが「自由」や「民主主義」というイデオロギーで反中包囲網を作ろうとする安倍政権の価値観外交を支持してたりするので意味不明なんですけどね。
民主主義国同士で戦争が起きないわけではありませんが、起きにくいというのはそれなりに説得力のある説であり、その意味で言えば、「「民主主義」を共通の基盤とする」というリベラリズム的アプローチは一考に価するといえるでしょう。

● 国家間の「違い」を乗り越えて、関係を強化するため 「民主主義」を共通の基盤とすること
 最後に、中国との関係改善のアプローチとして、「民主主義」という価値観がなぜ重視かを考える。 それは、民主主義が国家間のさまざまな「違い」を乗り越えて、良好な関係を構築するのに適しているからである。
 格好の事例がASEAN(東南アジア諸国連合)である。ASEAN域内には、多様な国家、民族、文化、宗教、慣習、歴史、そしてさまざまな政治的対立が存在していた。この状況下では、統一的なアイデンティティを持つ共同体を形成することは極めて困難だった。この困難を克服するために、ASEAN諸国が知恵を絞ったのは、あえて「違い」には拘らないことであった。むしろ、ASEAN諸国は、「違い」を無理になくそうとはせず、欧米で発展してきた民主主義の原則、市場経済のルールをベースとする共通のルールを作り、それを遵守することに集中したのだ。
 その結果、ASEANでは、「ASEANウェイ」という加盟国間で内政不干渉を原則とし、紛争解決の手段として武力行使を排除し、対話、協議および交渉を通じて平和的に解決するという「規範」が掲げられた。また、2007年には「ASEAN憲章」が制定され、ASEANの目的を「地域における平和、安全及び安定を維持しかつ推進する」ことと定めた。要するに、東南アジア諸国は、民主主義に基づいた行動規範を掲げることで、さまざまな「違い」を乗り越えてASEANという共同体を発展させてきたといえる。
 中国に対しても、中国の他の国との「違い」「特殊性」を強調するばかりでは、事態は改善しないだろう。むしろ、なにが良好な関係を築く共通の基盤となるかを考えることが重要である。筆者は、中国の「民主主義」を理解する勢力とのネットワークの形成が、お互いの「違い」を乗り越える基盤形成のきっかけとなり得ると考える。
上久保誠人

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141007-00060154-diamond-soci&p=8

もっともリアリスト的に考えるなら、中国が民主化しようがすまいが安定していればそれで良いとも言えるわけです。民主化した方が安定するであろうと考えるなら民主化を支援するのも手段の一つと言えます。リアリストとリベラリストが対立するとすれば、民主化が中国を不安定化させると予想される場合です。不安定化させたとしても民主化の大事であると考えるか、不安定化させるくらいなら民主化を遅らせた方がマシと考えるか、私はどちらかというと後者の思考ですので、香港のデモがあまり拙速強硬な原理主義に陥ってほしくないと思っています。

*1:なお「暴力的な事態」であっても、訴える内容の緊急性から許容すべきものもあるとは思います。

*2:それすら難しいでしょうが。

*3:http://www.cast-china.biz/downloads/140916_blog.pdf