政権に対するヤジには容易に言葉狩りが発動する

嘘ばかりついている政権のスポークスマンがよく言う、という感想。

官房長官、「セクハラ発言」謝罪を=民主幹部は自民に陳謝

時事通信 10月8日(水)16時58分配信
 菅義偉官房長官は8日午後の記者会見で、民主党野田国義参院議員が参院予算委員会山谷えり子国家公安委員長に飛ばしたやじについて、「セクハラ発言の最たるものだ。
 女性の品格を著しく傷つける発言だ」と批判、謝罪を求めた。
 野田氏は7日の予算委で、在日韓国・朝鮮人の排斥を主張している団体幹部と山谷氏の関係をめぐり「懇ろ」と発言した。野田氏は「親しいのではないかというのを『懇ろ』と表現した」と釈明しているが、菅長官は「(発言を)認めたなら素直に謝罪した方がいい」と語った。
 一方、自民党吉田博美参院国対委員長は8日、民主党榛葉賀津也参院国対委員長と国会内で会談し、野田氏のやじに抗議した上で「誠意ある対応」を要求。榛葉氏は「本人の意図とは違うが不快な思いをさせて申し訳なかった。重く受け止める」と陳謝した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141008-00000086-jij-pol

ちなみに「ねんごろ」「懇ろ」は国会議事録で検索しても山ほどひっかかり、その中で男女の仲を指すような意味で使っているのは終戦直後に1箇所あるだけです。他は、「丁寧に」「親密な」という意味で使っています。別に九州のみの独特の方言というわけでもなく、普通にそういう意味で使う言葉です。
例えばこんな感じです。

94 - 参 - 逓信委員会 - 2号
昭和56年3月3日
○大森昭君 郵政大臣にも質問しますが、性格をあなたに聞いているんですよ、性格を。そうすると、懇談会で、本来諮問機関で行政的に反映されるものというのは法律で定めて附属機関というのはつくるわけでしょう。その手続を経てないわけでありますね。そうでしょう。あなたは懇談会だと言っているわけだ。だから、冒頭私が言いますように、懇談会というのはとにかくねんごろなんですよ。懇談会の懇はねんごろ。ねんごろにすることが懇でありますし、打ち解けていろいろ親しく話しするというのが懇談会なんですよね。(略)

169 - 参 - 財政金融委員会 - 6号
平成20年4月15日
○大久保勉君 この辺にかぎがあると思います。一社独占です。一社を定期的に使っていました。いろんな、懇ろな関係になる可能性がありますから、(略)

80 - 衆 - ロッキード問題に関する… - 6号
昭和52年4月13日
○中曽根証人 
(略) たとえば、私の親友の東郷君が殖産住宅の問題で会社を乗っ取られるという、そういうことで非常に心配して来ましたときに、児玉被告に――彼は児玉被告の下部の者と接触しておったようでありますけれども、会いたいような様子でありましたから、親友のことでありますから、紹介をしてあげて、そうしてたしかこれは、私が児玉被告に東郷に会ってくれないかということを自分で言って、親友のことであるから、ねんごろにやってあげたわけです。それで料亭で会ったこともあります。そういうようなことはありました。その間において、十年間に料亭で二回くらいは会ったかもしれませんが、二人だけで会ったということはございません。またゴルフも二回か三回くらいは十年間にしたのではないかと思いますが、記憶に定かなものは一回やったという記憶ははっきりあります。

国家公安委員長に対して排外差別団体との関係を問いただしている文脈で為された「懇ろ」だというヤジが、セクハラなのかというのはさすがに疑問に思います。少なくとも圧倒的議席数を持っている政権側が「セクハラだ」と大騒ぎして野党側を黙らせようとするのは逆ギレで、権力による言葉狩り、という方が正しいでしょう。

ところでセクハラの重大さを示す上で重要なのは、セクハラする側とされる側の力関係ですが、都議会での自民党議員による性差別ヤジは少子化対策を訴える野党議員に対して行われました。今回の場合、野党議員が国務大臣に対して行ったヤジです。前者は与党が数の力を背景にヤジで野党議員の訴えを圧殺したのに対し、後者は数の力を背景に排外差別団体の関係の説明から逃れようとする大臣に対してヤジで抗議している文脈です。さらに言えば、前者はヤジを浴びた野党議員本人のみならず女性全体に向けられた性差別であるのに対し、後者はヤジを浴びた当人のみに向けられたものです。これを同じレベルで問題視するのは、明らかにバランスを欠いています。

こういう声明文があります。

 いかなる国においても、政府及び公職にある政治家の行動は、常にジャーナリズムの監視の対象であり、批判の対象であるべきだ。そのための言論の自由は最大限、完全に保障されることが求められている。それらの公人が、告発・告訴・訴訟を提起したり、記者を取り調べたりするような行為、あるいは殊更に強い抗議を行うことは、民主主義社会の根底をなす言論の自由を事実上制限することにつながるのであって、政府を始め権力を持つ者は、こうした行為を厳に慎まねばならないことを、ここにあらためて確認したい。

http://www.japanpen.or.jp/statement/2014/

言葉狩りで「殊更に強い抗議を行うことは、民主主義社会の根底をなす言論の自由を事実上制限することにつながる」と私は思いますが、首相はこんな調子です。

「聞くに堪えない侮辱的で下品なやじ」と安倍首相

産経新聞 10月7日(火)19時23分配信
 安倍晋三首相は7日、自身のフェイスブックで、同日の参院予算委員会民主党議員が山谷えり子拉致問題担当相に飛ばしたやじについて「山谷えり子大臣に対する聞くに堪えない侮辱的で下品なやじが野党側から出たことが本当に残念でなりません」とつづった。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141007-00000567-san-pol

日本中に蔓延している中国・韓国等に対する聞くに堪えない侮辱的で下品なヘイトスピーチに対しては、「日本の誇りを傷つける」と舛添都知事を通じて言っただけ*1で、自身のフェイスブックでは知らん顔。
安倍晋三首相が力を入れているフェイスブックのコメント欄について、「ヘイトスピーチ的書き込みが、かなり増えている」」にも関わらず、

ヘイトスピーチの書き込みを自制するように呼びかけるべきだと主張した。
これに対して安倍首相は、
「それ(ヘイトスピーチ)をいさめる書き込みもあるのも事実」
「基本的に(コメントを)削除している訳ではなく、私自身に対する誹謗中傷も随分書き込まれている」

http://www.j-cast.com/2013/05/07174575.html?p=all

とまるで他人事です。この後でヘイトスピーチを批判していますが、その批判は「日本の国旗が、ある国で焼かれようとも、我々はその国の国旗を焼くべきではないし、その国のリーダーの写真を辱めるべきではない」「他国、他国の人々を誹謗中傷することによって、まるで我々が優れているという認識を持っているのは全く間違いで、結果として自分たちを辱めていることにもなる」といった程度です。

まあ、こう書くと“お前はセクハラを擁護するのか”とか言われるんでしょうけどね。


パンを盗んで懲役14年を食らった貧乏人*2と貧者からなけなしの金銭を巻き上げ遊興に興じた挙句逃げおおせた悪党を、泥棒として同等に非難することが果たして平等なのかくらいは考えた方がいいと思うんですが、きっとそれは難しいことなんでしょうね。


個人的感想

国会内であの文脈で「懇ろだった」と言われても、男女関係のことだとは私は思わないんですけどね。皆、想像力豊かだわ。
ホテル云々についても、現大臣が泊まっている場所、おそらく普通には公開されるはずのない情報を排外差別団体が知っていたわけですから、それは“懇ろな関係”でしょうよ。「169 - 参 - 財政金融委員会 - 6号」的用法で。

*1:http://www.asahi.com/articles/ASG873CDYG87UTIL00C.html

*2:元ネタでは、パンを盗んだことだけで14年になったわけではないですが。