安倍政権が慰安婦問題を人身売買と認めたことを米国が歓迎するのは当然の話。

この件。

安倍首相「人身売買」発言を歓迎=米国務省

時事通信 4月2日(木)9時54分配信
 【ワシントン時事】米国務省の広報担当者は1日、安倍晋三首相が米紙ワシントン・ポストのインタビューでいわゆる従軍慰安婦問題に関し「人身売買の犠牲」と発言したことについて、歓迎する立場を明らかにした。
 同担当者は「われわれは首相が2015年に入ってから歴史問題と戦後日本の平和貢献に関して前向きなメッセージを出していることを歓迎してきた。ワシントン・ポスト紙とのインタビュー(での発言)も同じ観点で見ている」と説明した。
 韓国政府当局者は首相の「人身売買」発言について、政府の責任を否定する狙いがある可能性もあるなどとして、懐疑的な見方を示している。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150402-00000033-jij-n_ame

もともとアメリカ等の諸外国は、下院決議121号を見てもわかるとおり、慰安婦制度を人身売買の問題だと指摘してきましたから、安倍首相が慰安婦問題を人身売買と認めたのなら、それを欧米メディアが歓迎するのは当然です。
一方で、韓国メディアが懐疑的なのも当然な話で、ハンギョレ記事などはその理由を非常にわかりやすく書いています。

 読売新聞は「人身売買という日本語は両親や民間業者による売買を連想させる単語」である一方、「英語のヒューマン・トラフィキングは強制連行も含む用語であり、軍隊慰安婦問題に対する米国務省の公式見解で使われている」と指摘した。さらに「首相はこうしたニュアンスの差を念頭に置き、米国政府と同じ用語になる“人身売買”という言葉を使ったという」と伝えた。 安倍首相は日本政府の強制動員の責任を希薄にさせる日本語を使いながら、英語では本音を隠せるよう意図的に単語を選択したとの分析だ。
 安倍首相が人身売買の主体について全く言及しなかった点も、同じ脈絡から議論を呼んでいる。慰安婦問題に対する日本政府の責任を否定してきた既存の立場を巧妙に強調したとみられるためだ。韓国外交部は28日、「(安倍総理の言及が)慰安婦問題の責任を民間業者に転嫁し、日本政府の関与と責任を否定しようとする意図があったとすれば、これは慰安婦問題の本質を隠そうとするものとして被害者の方々や我が政府、国際社会から決して受け入れられることはできない」と明らかにした。さらに「日本政府が日本軍慰安婦被害者問題の責任を認めることが問題解決の第一歩」と繰り返し強調した。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/20152.html

ところで、韓国側が懐疑的な見方をするのは別に特別なわけではありません。韓国側も観測しているであろう日本のメディア自身が、上手いことしてやったとばかりに、報道してまわっていますからね。“ただの人身売買であって強制連行ではない、故に日本政府に責任はない”と言ったプロパガンダを産経や読売と言った安倍政権に買収されているメディアがやっていますし、毎日でもこういった観測を述べています。

<安倍首相>「人身売買」発言認める…日米で異なる語感

毎日新聞 3月30日(月)21時31分配信
 「人身売買」との日本語は、民間業者による売買の意味合いが強い。これに対し英語の「トラフィッキング」は強制連行も含む語感がある。旧日本軍などによる強制連行という機微に触れる問題で、国内向けには強制連行を認めず、米国向けにはあいまいにする狙いがあったとみられる。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150330-00000098-mai-pol

要するに、語感の違いを利用して対欧米向けと国内向けでダブルミーニングを計った、という日本政府がよく使ってきた手法ですね。
しかし、昔ならともかく容易に海外メディアの論調に触れうる現代において、この手法がどの程度有効かというと、まあ怪しいもんだと思ってます。
慰安婦を支援する団体も英語圏で主張する際に、日本政府自身が慰安婦問題を「Sex trafficking」と認めたことをもって日本政府には強制売春の責任があると主張するでしょうし、英語圏の市民もそれを当然と理解するでしょうね。
アメリカ政府は、「Sex trafficking」について以下のように説明しています。

Sex Trafficking

When an adult is coerced, forced, or deceived into prostitution – or maintained in prostitution through coercion – that person is a victim of trafficking. All of those involved in recruiting, transporting, harboring, receiving, or obtaining the person for that purpose have committed a trafficking crime. Sex trafficking can also occur within debt bondage, as women and girls are forced to continue in prostitution through the use of unlawful “debt” purportedly incurred through their transportation, recruitment, or even their crude “sale,” which exploiters insist they must pay off before they can be free.
It is critical to understand that a person’s initial consent to participate in prostitution is not legally determinative; if an individual is thereafter held in service through psychological manipulation or physical force, that person is a trafficking victim and should receive the benefits outlined in the United Nations’ Palermo Protocol and applicable laws.

http://www.state.gov/j/tip/what/

売春を強要された、売春せざるを得ない状況におかれ続けた者は性的人身売買の被害者であり、性的人身売買とは、募集(recruiting)、 輸送(transporting)、国外移送(harboring)、受領(receiving)、獲得(obtaining)を含み、それらは犯罪である。借金で拘束されていることもある、ともありますね。
アメリカ政府はこれを「What is Modern Slavery?」という表題で説明していますから、当然に慰安婦問題を人身売買と認めた安倍政権は、慰安婦が性奴隷であったことを認めたと英語圏では解されているでしょうね。
そして、慰安婦の輸送・管理・受領・強要売春の持続と日本軍が直接的に関与していることは既に明白であり、河野談話で日本政府が明確に認めていることでもあります。「「人身売買」との日本語は、民間業者による売買の意味合いが強い」などと国内向けに言い訳したとしても、英語圏では、性的人身売買という犯罪行為に日本政府が関与し、その責任を認めたと解釈されているわけです。

そりゃ、アメリカ政府は歓迎しますよね。

そして韓国などの元慰安婦が日本政府に対して謝罪と賠償を求める主張に対しても、どちらかと言えば好意的に対応するでしょうね。
慰安婦像にしても第二次大戦中におきた最大規模の性的人身売買の被害者たちを忘れないための記念碑として何の問題もないものという理解が進むでしょうね。日本の右翼団体が嫌がらせに来ると言う懸念が、自治体に慰安婦像に対する消極的態度を惹起させるかもしれませんが、それは日本政府に対して、政府として人身売買の責任を認めたのだから日本国内での否認論者に対して明確に反論しろ、という動きになるでしょうね。

と言うわけで、私としては、安倍首相が慰安婦を人身売買被害者だと認めたことについては評価しています。もう少し踏み込むべきだとも思いますけど、まあ安倍首相には無理でしょうからね。

日本メディアには、慰安婦の人身売買において日本軍がその人身売買の目的地であり消費地であったことを問題だと認識できるくらいの人権感覚を期待したいことろですが、上層部が安倍と会食して政府を顔色を伺うような有様では無理でしょうねぇ。