日本軍慰安婦=性奴隷は国際標準です。

日本社会では性的人身売買被害者を“金目当ての売春婦”扱いするのが一般的で、物理的な暴力を振るわれたのでもない限り、せいぜい“詐欺にあった”被害者として扱われるくらいです。その場合ですら、本人の落ち度があれこれ詮索され“自己責任”を追求されることが少なくありません。
2016年1月18日の安倍発言と岸田発言はその延長上にあります。

岸田外相「性奴隷は不適切で使用すべきでない」 参院予算委

産経新聞 1月18日(月)12時37分配信
 岸田文雄外相は18日午前の参院予算委員会で、慰安婦問題に関する昨年末の日韓合意に関し、欧米の一部メディアが慰安婦を「性奴隷」と表現していることに関し、「不適切な記述には適切に申し入れをしている。性奴隷という言葉が不適切であり、使用すべきではないというのが日本の考え方だ」と述べた。自民党の宇都隆史氏の質問に答えた。
 宇都氏は、米ワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙などの欧米の一部メディアが慰安婦を「性奴隷」と表現していることを問題視。英ガーディアン紙が「日本政府は性奴隷にされた女性たちに軍当局の関与を認めた」と報じたことを取り上げ、「日本政府が、改めて一歩進めて何か合意したかのような報道がなされている」と指摘した。
 これに対し、岸田氏は「欧米の主要紙、ワシントン・ポスト等が日韓関係の改善についても高く評価している」とする一方、「『性奴隷』といった不適切な表現、事実に基づかない表現が散見されている」と答弁。
 その上で、慰安婦問題に関する韓国政府の公式名称は「日本軍慰安婦被害者問題」であって、「性奴隷」という表現を用いていないことを紹介し、欧米主要メディアの誤りを指摘した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160118-00000550-san-pol

2016.1.18 17:09

安倍首相「慰安婦問題をめぐる誹謗中傷は事実ではないと示す」

 安倍晋三首相は18日の参院予算委員会で、慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓合意について一部海外メディアが慰安婦を「性奴隷」と報じ続けていることに関し、「海外プレスを含め、正しくない誹謗(ひぼう)中傷があることは事実だ。性奴隷、あるいは(慰安婦の数が)20万人といった事実はない。政府として、それは事実ではないと、しっかりと示していく」と述べた。

http://www.sankei.com/politics/news/160118/plt1601180014-n1.html

以前「英語圏では「sex slave」「sex abuse victim」、日本では「性的関係」「淫行」」と指摘したとおり、英語圏では性的人身売買被害者は、性奴隷(sex slave)や性的虐待犠牲者(sex abuse victim)とみなされます。
そして、2015年3月、安倍首相は訪米した際のインタビューで、慰安婦を人身売買の被害者だと認めています*1
ですから、欧米の認識では、日本軍慰安婦=性奴隷、が当然であって、岸田外相の発言は的外れとしか言いようがありません。

Japanese Govt. claims "Comfort women were the sex trafficking victims, NOT the sex slaves" ? That is a load of rubbish!

こんな馬鹿げた主張が理解されるとは思えませんけどね。
以前書いた記事ですが。

アメリカ政府は、「Sex trafficking」について以下のように説明しています。

Sex Trafficking
When an adult is coerced, forced, or deceived into prostitution – or maintained in prostitution through coercion – that person is a victim of trafficking. All of those involved in recruiting, transporting, harboring, receiving, or obtaining the person for that purpose have committed a trafficking crime. Sex trafficking can also occur within debt bondage, as women and girls are forced to continue in prostitution through the use of unlawful “debt” purportedly incurred through their transportation, recruitment, or even their crude “sale,” which exploiters insist they must pay off before they can be free.
It is critical to understand that a person’s initial consent to participate in prostitution is not legally determinative; if an individual is thereafter held in service through psychological manipulation or physical force, that person is a trafficking victim and should receive the benefits outlined in the United Nations’ Palermo Protocol and applicable laws.

http://www.state.gov/j/tip/what/

売春を強要された、売春せざるを得ない状況におかれ続けた者は性的人身売買の被害者であり、性的人身売買とは、募集(recruiting)、 輸送(transporting)、国外移送(harboring)、受領(receiving)、獲得(obtaining)を含み、それらは犯罪である。借金で拘束されていることもある、ともありますね。
アメリカ政府はこれを「What is Modern Slavery?」という表題で説明していますから、当然に慰安婦問題を人身売買と認めた安倍政権は、慰安婦が性奴隷であったことを認めたと英語圏では解されているでしょうね。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20150403/1427997618

ここで書いた通り、“安倍政権は慰安婦が性奴隷であったことを認めた”と英語圏では解されており、その認識を前提として2015年12月28日の日韓政府間合意に対する評価(例えば「欧米の主要紙、ワシントン・ポスト等が日韓関係の改善についても高く評価している」など)が形成されています。ですから「米ワシントン・ポスト紙やニューヨーク・タイムズ紙などの欧米の一部メディアが慰安婦を「性奴隷」と表現していること」はむしろ当然です。
と言うより、“日本軍慰安婦は性奴隷にあらず”だと日本政府が主張するのであれば、欧米メディアは日韓政府間合意を評価しないでしょうね。

当然だけど韓国政府の認識の方がよほど国際標準に近い

桜田舌禍に対して韓国政府が表明した見解の方が「国際社会の共通認識」というに相応しいですね。

2016.1.14 17:12

韓国外務省、桜田氏を強く非難 「戦時性暴力は共通認識」

 自民党桜田義孝元文部科学副大臣慰安婦について「職業としての売春婦」と発言したことに対し、韓国外務省報道官は14日の定例記者会見で、慰安婦問題は「日本の帝国主義膨張の過程で、強制連行された女性を対象に広範囲に行われた戦時の性暴力であり重大な人権侵害で、国際社会の共通認識だ」と強く非難した。
 報道官は昨年末の日韓合意に基づく措置について「円満で着実に進める雰囲気と環境づくりが大事だ」と述べ、日本側に発言の自制を求めた。
 また「歴史の前で恥も知らない国会議員の無知蒙昧な妄言に、いちいち言い返す価値も感じない」と不快感も示した。(共同)

http://www.sankei.com/world/news/160114/wor1601140037-n1.html

これに対して日本。「性奴隷という言葉が不適切であり、使用すべきではないというのが日本の考え方」
この人権意識の鎖国状態は何とかしたほうがいいと思います。