世界の中心で「アサヒガー」と叫ぶ日本政府

慰安婦問題 強制連行説は「捏造」 「20万人、朝日が混同」政府、国連委で説明(産経新聞 2月17日(水)7時55分配信)」の件。
記事の通りだとすれば、日本政府は世界に向けて“慰安婦問題は朝日の捏造”だと訴えたことになります。正気の沙汰ではありませんが、既に日本社会自体が正気を失っていますからどうにもなりません。
微力ながら一応指摘はしておきます。記事で言及されている日本政府の主張がほぼ逐一デマだと言えるレベルです。

「強制連行を裏付ける資料がなかった」?

 【ジュネーブ=田北真樹子】日本政府は16日午後(日本時間同日夜)、国連欧州本部で開かれた女子差別撤廃委員会の対日審査で慰安婦問題に関する事実関係を説明した。政府代表の外務省の杉山晋輔外務審議官は強制連行を裏付ける資料がなかったことを説明するとともに(略)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160217-00000061-san-pol

日本軍が直接慰安婦を強制的に連行したことを“強制連行”の定義として限定しても、中国・東南アジアなどの占領地で強制連行を行った事実が公文書(戦後裁判資料)として記録されていますので、日本外務省杉山晋輔外務審議官の発言は虚偽になります。
業者を利用して日本軍管理下の慰安所に集めた場合も、詐欺や威圧、人身売買によるものであれば、性的人身売買の目的地、消費者、要求者として日本軍が存在し、輸送に際し日本軍・政府が協力していたわけで通常、これらも強制連行と呼ばれます。韓国側は1993年頃から詐欺や威圧による連行も強制連行に含むという認識で主張しており、その意味での強制連行を裏付ける公文書も数多く存在します。

「強制連行説は「慰安婦狩り」に関わったとする吉田清治氏(故人)による「捏造(ねつぞう)」」?

 強制連行説は「慰安婦狩り」に関わったとする吉田清治氏(故人)による「捏造(ねつぞう)」で、朝日新聞が吉田氏の本を大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」と指摘した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160217-00000061-san-pol

“強制連行”というタームに対する誤謬は前述したとおりですが、慰安婦強制連行に関する“説”が吉田清治氏による捏造だというのは事実として間違っています。吉田氏の講演などは1983年頃からですが、その約20年前には既に朴慶植氏の「朝鮮人強制連行の記録」で、以下のように述べられています。

(P122)
 同胞で軍人、軍属として南方に連行されたものは数十万の大変な数に上ると思うが、このように輸送船が沈められて死んだものが相当多い。またこの中には同胞の女性も多かった。
 玉致守氏の乗った船で南方に連行された朝鮮女性だけでも二千数百名にも上る。これらの女性は故郷にいるときには戦争への協力を強制され、軍需工場、被服廠で働くのだといわれて狩りだされた一七−二〇歳前後のうら若い娘たちであった。しかし実際はこうして輸送船に乗せられて南方各地の戦線に送られ軍隊の慰安婦としてもてあそばれた。
 玉氏は沖縄でも下関や博多駅の待合室でも南方に送られるこのような同胞の女性を無数に目撃し、何ともいえない怒りと悲しさを味わった。
 玉氏が三回目に沈められた船にもはじめ一五〇余名の同胞の女性がのっていた。途中沖縄の宮古島に下船させたので海のもくずとはならなかったが、彼女らの運命はどうなったかわからない。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140511/1399809440

1983年の吉田氏の講演・著書で強制連行説が作られたのだとすれば、1965年の「朝鮮人強制連行の記録」の記載について説明できませんので、日本政府の説明は矛盾しています。

朝日新聞が吉田氏の本を大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」」?

 強制連行説は「慰安婦狩り」に関わったとする吉田清治氏(故人)による「捏造(ねつぞう)」で、朝日新聞が吉田氏の本を大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」と指摘した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160217-00000061-san-pol

吉田氏については1980年代の時点で朝日だけでなく読売も報じているが、1980年代は「国際社会にも大きな影響を与えた」と言える状況ではありません。1990年代になって元慰安婦が名乗り出て訴訟を起こしたことからようやく大きく報道されるに至っています。その1990年代においては、産経や読売ですら報じており、その状況を踏まえれば、「朝日新聞が吉田氏の本を大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」」というのは、極端に誇張した表現としか言えません。
2014年の朝日記事訂正後の調査でも、朝日報道が「国際社会にも大きな影響を与えた」とする具体的な根拠は一切示されませんでしたが、右翼側がでっち上げた“検証委員会”と称する団体が出した報告書では根拠なく「朝日新聞が吉田氏の本を大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」」という結論を出しています。日本政府はこの右翼団体の報告書に乗っかり国連で証言したことになります。

「「慰安婦20万人」についても朝日新聞が女子挺身(ていしん)隊を「混同した」」?

また、「慰安婦20万人」についても朝日新聞が女子挺身(ていしん)隊を「混同した」と説明した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160217-00000061-san-pol

まず、行政行為としての女子挺身隊を慰安婦と混同していたのは、朝日新聞というより1990年代の日本社会全体ですし、そもそも植民地朝鮮では“戦時中から挺身隊名目で連行され慰安婦にされる”という懸念が広まっていたことが日本の公文書に残っています。
1973年の千田夏光氏「従軍慰安婦」でも、挺身隊と慰安婦は「混同」されているのであり、朝日新聞がどうとかいう余地がありません。
慰安婦20万人」については推計の一つであり、挺身隊との「混同」が原因というわけでもありません。
参考:「慰安所と慰安婦の数

性的人身売買被害者は性奴隷

 「慰安婦20万人」についても、杉山氏は「具体的な裏付けがない数字」として、朝日新聞が謝罪した際に労働力として動員された女子挺身隊と慰安婦を混同したことを認めている点も説明した。「性奴隷」との表現についても「事実に反する」と強調した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160217-00000061-san-pol

安倍首相が慰安婦は性的人身売買被害者であると認めており*1、世界標準の考え方で性的人身売買被害者は性奴隷です。日本国内では性的人身売買被害者を“自発的売春婦”と侮辱するのが一般的かもしれませんが、日本以外の場で、慰安婦を性奴隷だと説明されていても日本政府が文句をつけるような資格はありません。

日本政府は条約締結以前の性暴力被害者を無視すると宣言

 一方、杉山氏は、慰安婦問題は日本が女子差別撤廃条約を締約した1985(昭和60)年以前のことで、同条約は締結以前に生じた問題については遡(さかのぼ)って適用されないことから「慰安婦問題を同条約の実施状況の報告で取り上げるのは適切ではないということが、日本政府の基本的な考え方だ」とも述べた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160217-00000061-san-pol

現に生存している元慰安婦らに対して、“自発的売春婦”と侮辱する言動が繰り返されているのに、条約締結以前のことだから無視するというのが「日本政府の基本的な考え方」だそうです。
ちなみに、この日本政府の屁理屈を適用するなら、広島・長崎に原爆が投下されたのは国連創設以前のことだから、国連総会で「核兵器の廃絶を訴え世界の指導者に被爆地への訪問を促す」*2のは適切ではないってことになりますね。


慰安婦問題 強制連行説は「捏造」 「20万人、朝日が混同」政府、国連委で説明

産経新聞 2月17日(水)7時55分配信
 【ジュネーブ=田北真樹子】日本政府は16日午後(日本時間同日夜)、国連欧州本部で開かれた女子差別撤廃委員会の対日審査で慰安婦問題に関する事実関係を説明した。政府代表の外務省の杉山晋輔外務審議官は強制連行を裏付ける資料がなかったことを説明するとともに、強制連行説は「慰安婦狩り」に関わったとする吉田清治氏(故人)による「捏造(ねつぞう)」で、朝日新聞が吉田氏の本を大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」と指摘した。また、「慰安婦20万人」についても朝日新聞が女子挺身(ていしん)隊を「混同した」と説明した。日本政府が国連の場でこうした事実関係を説明するのは初めて。
 杉山氏の発言はオーストリアの委員からの質問に答えたもの。この委員は、これまでの同委員会やほかの国連の委員会からの最終報告が元慰安婦への賠償や加害者の訴追などを求めていることを指摘、被害者中心の対応について質問した。
 杉山氏は昨年末の日韓外相会談で、慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決することで合意したことを説明した。
 その上で、強制連行が流布された原因は吉田氏が執筆した本で「吉田氏自らが日本軍の命令で韓国の済州島において大勢の女性狩りをしたという虚偽の事実を捏造して、発表したため」と指摘した。
 吉田氏の本の内容が「朝日新聞社により事実であるかのように大きく報道され、日本、韓国の世論のみならず国際社会にも大きな影響を与えた」とも述べ、内容は「複数の研究者により完全に想像の産物であったことがすでに証明されている」と明言した。
 また、朝日新聞が2014(平成26)年に「事実関係の誤りを認め、正式に謝罪した」と説明した。
 「慰安婦20万人」についても、杉山氏は「具体的な裏付けがない数字」として、朝日新聞が謝罪した際に労働力として動員された女子挺身隊と慰安婦を混同したことを認めている点も説明した。「性奴隷」との表現についても「事実に反する」と強調した。
 一方、杉山氏は、慰安婦問題は日本が女子差別撤廃条約を締約した1985(昭和60)年以前のことで、同条約は締結以前に生じた問題については遡(さかのぼ)って適用されないことから「慰安婦問題を同条約の実施状況の報告で取り上げるのは適切ではないということが、日本政府の基本的な考え方だ」とも述べた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160217-00000061-san-pol