「児童ポルノ法」での「懲役刑率は95パーセント」はデマです。

「女子生徒の援助交際13%」に抗議した人たちは、こういう数字に対してどう行動するのでしょうか。

日本における児童ポルノ法の罰則は軽くはない

山田:それから次です。児童ポルノ犯は懲役刑にならないと。記者会見では「児童ポルノ法の罰則規定が非常に軽い。罰則が科されても罰金だけに留まることが多い」と。馬鹿言うなと。事実は、諸外国と比べて児童ポルノ法の罰則が軽いわけじゃないよと。

坂井:これは各国によって範囲が違ったりするので横並びでは比較できません。だいたい一緒なんですよね。

山田:懲役刑率は95パーセント。これ裁判所が資料持ってますから。つまり、ほとんど懲役刑になるんだよと。

坂井:罰金5パーセントくらい。

山田:そうなんです。それからですね。児童ポルノ犯を警察は捜査しないと。「被害届が正式に出ないと警察は捜査を躊躇する」と。警察庁ヒアリングでは、いや、そんなことはないと。多分ないと思います。
児童ポルノに関しては今かなり摘発数を増やしてきていますし、内偵を含めた捜査もいろいろやっていますので、そんなことはないって言ったら、その通りだと思います。

http://logmi.jp/123265

私は児童買春児童ポルノ規制法での裁判所の統計資料を入手していませんので、裁判所の司法統計から、「刑事 平成26年度 33  通常第一審事件の終局総人員  罪名別終局区分別  全地方裁判所」から「その他の特別法犯」を調べてみました。
終局総人員数1540人*1から無罪2人、公訴棄却4人、取り下げ1人、移送その他26人を除いた1507人が有罪が決定した人員数で、そのうち罰金刑が153人、有期懲役1353人、無期懲役1人となっています。
「その他の特別法犯」で公判を行ったうちのほぼ9割が懲役刑となっており、児童買春児童ポルノ規制法犯も同様の比率であるとすると、山田議員の「懲役刑率は95パーセント」という主張は正しいようにも思えますが・・・。
これはあくまで裁判所で審議された事件についての比率であって、児童買春児童ポルノ規制法犯が必ずしも公判で裁かれるわけではないという視点が抜けています。

被疑事件全体における懲役刑率は?

そこで裁判所の統計ではなく、法務省の統計を調べてみましょう*2

児童買春・児童ポルノ規制法事件(2014年)
被疑事件総数 起訴件数 不起訴件数 検察庁送致 家裁送致 未済
3880 1417 640 1498 325 115

他の検察庁や家裁へ送致された事件、未済事件を除いた2057件を対象として、公判請求されたもの、略式起訴されたもの、起訴猶予されたもの、嫌疑不十分となったもの、時効完成したもの、その他で分類するとこうなります。

公判請求 略式起訴 起訴猶予 嫌疑不十分 時効完成 その他
445 972 498 135 2 5

起訴と呼ばれるのが「公判請求」と「略式起訴」の合計で、「起訴猶予」「嫌疑不十分」「時効完成」「その他」の合計が不起訴です。
「公判請求」が、一般的な刑事裁判のイメージで、前記の裁判所統計に表れる部分です。この9割が懲役刑になっていると考えられるわけです。つまりおよそ400件程度と推定できます。
「略式起訴」は起訴されることに変わりありませんが、簡易裁判所での罰金刑が科せられる程度です*3。送致・未済を除く児童買春児童ポルノ規制法犯のほぼ半数の972件がこれに該当しています。
起訴猶予」とは「被疑者が犯罪を起こしたことは確実だけれども、犯罪事態が軽い、本人が深い反省している、被害者と示談による和解が済んでいる。などの情状を考慮して不起訴になること」*4です。
「嫌疑不十分」は事実上、無罪とみなせる結果です。
つまり「公判請求」「略式起訴」「起訴猶予」処分になった事件については、少なくとも検察は児童買春児童ポルノ規制法に違反する行為があったと認識していると言えます*5

要するに公判で全てが懲役刑となったとしても「公判請求」「略式起訴」「起訴猶予」の合計1915件中の445件に過ぎず、懲役刑率は25%以下に過ぎません。
もちろん、児童買春・児童ポルノ規制法のどの条文の違反したかにもよるわけですが、少なくとも山田議員の「懲役刑率は95パーセント。これ裁判所が資料持ってますから。つまり、ほとんど懲役刑になるんだよと。」という発言はデマといって間違いありません。

児童買春児童ポルノ規制法違反事件において、検察が有罪だと判断した1915件中、972件(51%)は略式起訴での罰金刑、498件(26%)は、「罪が軽い」「反省している」「被害者と和解が取れている」などの理由による起訴猶予*6で、要するに事件の4分の3は罰金刑以下ということになります。

ところで、検察が有罪だと判断した1915件中の「公判請求」445件(23%)ですが、これらの多くは懲役刑になったと考えられます。ただし、別の統計資料の児童買春児童ポルノ規制法違反事件で執行猶予の言い渡しを受けた者の数*7を見ると149件で執行猶予がついており、実際に刑務所に入れられるのは445件から更に少ないと見られます。
ごく大雑把に言うと、検察が有罪と判断した児童買春児童ポルノ規制法違反事件は、約2000件中500件は起訴猶予、1000件が略式起訴での罰金、500件が公判に付されるものの内150件で執行猶予が付いて刑務所に入れられるのは350件程度、検察把握事件全体の約18%程度と言うことになります。執行猶予を含めても25%程度ですから、「懲役刑率は95パーセント」とはかけ離れた数字だと言えますね。

もっとも“日本で児童ポルノは野放しになっていない”と主張したい余りの勇み足だと好意的な解釈もできなくもありませんが、国連報告者の会見内容に執拗に噛み付いてた人たちはそのような好意的な解釈を一切していません*8でしたから、さて、どういう態度を採るのか留意したいと思います。

注記

検察が把握した児童買春児童ポルノ規制法違反事件全体の25%程度が執行猶予を含めた懲役刑であることが、他国に比べて軽いのかどうかは他国の情報を持っていませんので判断できません。
また、児童買春児童ポルノ規制法違反といっても、どの条文に違反したのかによって当然に刑罰の重さは変わってしかるべきですから、上記をもって軽すぎるとも断言できません。
検察が事実上の判決を決めているに等しい状況なのは、この法律に限定した話ではなく、別個に批判が必要な件ではあります。
この記事で重要なのは、山田議員の言う「懲役刑率は95パーセント」というのはデマであるという点です。少なくとも公判件数を母数にしない限り「懲役刑率は95パーセント」という数字はありえませんが、公判件数を母数にすること自体、間違っているとしか言えません。

*1:この他に上訴したのが174人

*2:14-00-08 [被疑事件の受理及び処理状況] 罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001137864&requestSender=dsearch

*3:刑事訴訟法461条〜470条

*4:https://keiji-pro.com/columns/24/

*5:もちろん、冤罪の可能性はありますし、公判で争って無罪になる可能性もありますが、先にあげた裁判所の統計を見れば無罪になるのは1500件中2件ですから、統計上は無視できるレベルです。公判での有罪率の異常な高さは、それはそれで問題がありますが、ここではそれに触れません。

*6:https://keiji-pro.com/columns/24/

*7:14-00-69 罪名別 刑の執行猶予の言渡しを受けた者の人員

*8:それどころか陰謀論紛いの国内の人権団体・関係者に対する誹謗中傷までやってましたよね。