少なくとも、弾道ミサイルの命中精度や原発施設の敷地面積くらいは踏まえないと検討できないでしょうから、そのあたりを調べて記載しておきます。
福島第一原発の場合
敷地面積は350万平米。原子炉1号機から4号機までは大体幅500mくらいの間に納まっています。敷地は南北2km、東西1.5kmと言った所です。
北朝鮮の弾道ミサイルの精度と弾頭重量
北朝鮮が保有する弾道ミサイルで、日本のほぼ全域を射程範囲としているのがノドン(No-dong)です。
現在、配備されているのがノドン1で、これは射程1300km、弾頭重量は1200kg、精度は最大射程で半数必中界(CEP)2000mです。
North Korea has provided little information about their ballistic missile program. Much of the information about the No Dong missiles stems from a comparison with the Ghauri missile of Pakistan and the Shahab 3 of Iran, which all seem to be related missile programs. The No Dong 1 missile has a range of approximately 1,300 km (807 miles). The accuracy of the missile is believed to be 2,000 m CEP when deployed at maximum range.
http://missilethreat.com/missiles/no-dong-1/
ノドン1の命中精度は高くなく、軍事施設を狙うと言うよりは市街地などを狙うのが一般的でしょうね。但し、敷地面積350万平米の福島第一原発を狙う場合、ほぼ半数は敷地内に着弾させることはできます。もっとも敷地内に1.2tの爆弾が着弾したからと言って原発施設に致命傷を与えられるかと言えば、そうとも限りませんが、電源施設など必ずしも原子炉に直撃させなくとも致命傷になる可能性は少なからずあるでしょう。
ちなみに、命中精度に正規分布を仮定すると、CEPが2000mのノドン1が半径500m内に着弾する確率は7%くらいですから、福島第一の2号炉と3号炉の間を狙って15発撃てば、1発は原子炉に対する至近弾となりそうですね。
まあ、それでもノドン1の命中精度が低いことに間違いありません。しかしながら、配備が推定されているノドン2ではその辺りが改善されています。射程は1500km、弾頭重量は700kg、CEPは250〜500mと推定されています。
The capabilities of the No Dong 2 missile are such that it can effectively be used against both military and civilian targets. Its range is sufficient to put parts of Japan well within range. Unlike the No-dong 1, it has sufficient accuracy to be used against some military targets, though the accuracy is still low enough that the missile would most likely be deployed against civilian population centers or other large, soft targets. The No Dong 2 is mobile and easily concealable, thus making it difficult to destroy prior to launch.
http://missilethreat.com/missiles/no-dong-2/
(略)
The maximum range is believed to be 1500 km. The accuracy is reported to be 250-500 m CEP, an accuracy not sufficient for attacking hardened targets. If equipped similarly to its predecessor, the No Dong 2 would likely be able to deploy HE-unitary, chemical, submunitions, or medium-yield nuclear warheads.
弾頭重量が700kgと少なくなっていますが、命中精度が格段に上がり、ある程度の軍事目標に対して十分な精度となっています。CEP250〜500mであれば、福島第一原発1〜4号機を狙えば半数以上は、直撃乃至至近弾とすることが出来ます。
「原発に弾道ミサイルが撃ち込まれた場合の想定がなくても妥当」?
こんなことを言っている人がいます。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150804-00000009-wordleaf-pol弾道ミサイルに原発を狙えるピンポイント攻撃能力はない
そもそも弾道ミサイルには原発施設に命中を期待できるようなピンポイント攻撃能力はありません。例えば北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルをセットで開発しようとしていますが、これは命中精度の低い弾道ミサイルには大量破壊兵器を組み合わせないと効果が著しく低いことが理由の一つです。弾道ミサイルを小さな施設に狙って撃ち込んでも直撃する確率は低く、軍事作戦としてまともに検討するようなこと自体が考え難いので、原発に弾道ミサイルが撃ち込まれた場合の想定がなくても妥当な判断だと言えます。
別に弾道ミサイルで橋梁を狙えというわけではありませんので、ノドン2であれば原発施設を狙うことは十分に可能だと思えますけどね。
条約から脱退して攻撃する可能性だってありますね。
イスラエルはジュネーブ条約第1追加議定書には参加しておらず*1、1981年6月にイラク国内の稼動前の原子炉を爆撃破壊していますね。イスラエルは国連から非難されましたけど*2、何らかの制裁を受けたわけでもなさそうで「大きなリスク」とまでは言えるのかどうか。北朝鮮が条約脱退して攻撃してくる可能性だって別に否定できないと思うんですけどね。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150804-00000009-wordleaf-pol原発への攻撃は戦時国際法違反となる
ジュネーブ条約第1追加議定書は、危険な力を内蔵する工作物等(ダム、堤防、原発)に対する攻撃を重大な違反行為としています。このジュネーブ条約第1追加議定書は日本の仮想敵国であるロシア、中国、北朝鮮も締約しています。これらの国が戦時国際法を遵守するという保証はありませんが、重大な違反行為と規定されていることを破るとなると、大きなリスクを背負うことになるでしょう。また仮にアメリカが、同盟国の稼働中の原発へ攻撃が行われた場合は大量破壊兵器の使用と同等と見做し核報復を行うと宣言した場合、強力な核抑止力が発生します。
この部分の言及の前半は意味をなしません。“ジュネーブ条約第1追加議定書は原発への攻撃を禁止しているから、弾道ミサイルで原発を狙ったりしない”というのは変な話で、別のところでJSF氏が言及している「核弾頭を積んだ弾道ミサイルを相手の都市部に落とせば」とか「大量破壊兵器を組み合わせないと効果が著しく低い」とか、それだって条約違反ですからねぇ。
条約には「文民たる住民それ自体及び個々の文民は、攻撃の対象としてはならない。文民たる住民の間に恐怖を広めることを主たる目的とする暴力行為又は暴力による威嚇は、禁止する。」*3 (51条2)とありますからし。都市部に大量破壊兵器を積んだ弾道ミサイルを撃ち込むのも条約違反になるでしょうが、それなら、そもそも弾道ミサイルは心配する必要のない兵器なのか、と言う話で。
引用後半の「仮にアメリカが〜宣言した場合」は、現に宣言していなければ意味ありませんし、それが有効だと言うのなら「原発にミサイルを撃ち込まれたら? 」という山本太郎議員の質問に対し、安倍政権がそう答えれば良かったんじゃない、とか思います。