こんな記事がありましたので。
●「相手からの不同意のみを要件に」
性犯罪をめぐる刑法の規定は2017年、110年ぶりに大幅に改正された。その際の附則で、施行後3年をめどに、必要がある場合には実態に即して見直しをすることが盛り込まれた。
「3年後見直し」が来年に迫る中、署名では以下の要件を盛り込んだ新たな改正案を2020年の国会に提出することを求めた。・強制性交等罪における暴行脅迫、心身喪失、抗拒不能の要件を撤廃し、相手からの「不同意」のみを要件として性犯罪が成立するよう刑法を改正する
https://www.bengo4.com/c_1009/n_9801/
・監護者性交等罪の適用範囲を18歳以上に拡大し、処罰を重くする
・親族、指導的立場にある者(教師・施設職員等)や上司など地位や関係性を利用した性行為に対する処罰類型を設ける
・性交同意年齢を引き上げ、抜本的に見直す
まず、「強制性交等罪における暴行脅迫、心身喪失、抗拒不能の要件を撤廃」は不要で、これとは別の条文として不同意性交罪を新設すべきだと思います。
例えば、不同意なのに性交を求められて激しく抵抗したら相手が諦めた場合と激しく抵抗しているのに相手が諦めず性交を強いられた場合を同等に扱うのは違和感ありますよね。
「監護者性交等罪の適用範囲を18歳以上に拡大し、処罰を重くする」については前半は賛成、後半は反対。監護者わいせつ罪の法定刑は「六月以上十年以下の懲役」、監護者性交罪は「五年以上の有期懲役」で、既に十分に重い刑罰になっています。
例えば傷害致死は「三年以上の有期懲役」で監護者性交罪よりも軽く、未成年者略取誘拐は「三月以上七年以下の懲役」で監護者わいせつ罪よりも軽い状況です。殺人罪と比べても監護者性交罪には無期と死刑が無いだけで、これ以上厳罰化するなら、無期や死刑を導入せよという主張としか思えません。
ちなみに監護者わいせつでも致死傷がつくと「無期又は三年以上の懲役」、監護者性交に致死傷がつくと「無期又は六年以上の懲役」となりますので、この状況で厳罰化せよというのは、法定刑に死刑を入れよという主張としか思えません。
「親族、指導的立場にある者(教師・施設職員等)や上司など地位や関係性を利用した性行為に対する処罰類型を設ける」は原則的に賛成ですが、被害者が成人してて、かつ、本人が明確に性交に同意した場合は違法性が阻却される必要があると思います*1。
「性交同意年齢を引き上げ、抜本的に見直す」には反対。中学生や高校生カップルに純潔教育するみたいですごく嫌。むしろ同意や避妊の重要性や健康状態に配慮できるように性教育をちゃんとやるべきだし、万一、不同意性交や妊娠、性病感染などが起きた場合に迅速に相談対処できるようにすべき。高校生カップルが同意の上で性交した結果、妊娠してしまった場合、強制性交罪で逮捕されるリスクを回避するために危険な堕胎行為を行うかもしれないし、人知れず出産して新生児を殺してなかったことにするかもしれません。そういった諸々を考えると性交同意年齢の引き上げには賛同できませんね。
というわけで対案。
・現行の強制わいせつ・強制性交罪、準強制わいせつ・強制性交罪についてはそのまま残す。
・上記とは別個に、一方の当事者が不同意を表明した場合または同意を推定できない関係性にある当事者の一方が他方の明確な同意を得ないまま性交を求め性交に及んだ場合を不同意性交罪として新設し、法定刑は強制わいせつ・強制性交罪、準強制わいせつ・強制性交罪よりも軽い刑罰(1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金程度くらい)を規定する。また、起訴するためには当事者の告訴を必要とする。
・監護者性交罪については、被監護者*2の生活に著しい影響を与えうる権限を有する者全般を監護者とみなすように範囲を広げる。被害者の年齢要件は撤廃すると同時に、被害者が成人しており、監護者との関係性を理解した上で明確に性交に同意した場合は違法性を阻却するように変更する。
ちなみに、同意については明確な同意が無くとも、過去から継続して性交を交わす関係にあり、かつ、性交を拒否する事情を当事者双方が認識していない場合は、暗黙の同意があるものとみなす必要があると思います。要するに夫婦やカップルなどこれまで普通に暗黙の同意の下で性交に及ぶ関係性にある場合は、浮気や喧嘩などそれまでとは違って性交を拒否する特段の事情が存在しない限り、明確な同意が無くとも暗黙の同意があったとみなし、違法性を問わないという意図です。
また、不同意性交罪については親告罪とするべきです。そうでなければ、妊娠した夫婦に対して性交の際に同意があったのかを司法当局が確認することを容認することになりますから。
個人的には、性暴力関連の刑法について、前述したとおり監護者性交罪の要件見直しや不同意性交罪の新設が必要だと思っています。ですが、それを主張している側のやり方には同意できない点が多いのも確かです。
2019年3月の無罪判決批判なども疑問を感じる点が多々ありましたし、今の厳罰化要求もそうです。
繰り返しになりますが、現行刑法でも性暴力関連の法定刑は十分に重いですよ。
・強制わいせつ(刑法176):六月以上十年以下の懲役
・準強制わいせつ(刑法178):六月以上十年以下の懲役
・監護者わいせつ(刑法179):六月以上十年以下の懲役
・強制性交(刑法177):五年以上の有期懲役
・準強制性交(刑法178):五年以上の有期懲役
・監護者性交(刑法179):五年以上の有期懲役
・強制わいせつ・準強制わいせつ・監護者わいせつ致死傷(刑法181):無期又は三年以上の懲役
・強制性交・準強制性交・監護者性交致死傷(刑法181):無期又は六年以上の懲役
・強制性交・準強制性交+強盗(刑法241):無期又は七年以上の懲役
・強制性交・準強制性交+強盗致死(刑法241):死刑又は無期懲役
比較のために他の犯罪での法定刑を示します・
・殺人(刑法199):死刑又は無期若しくは五年以上の懲役
・傷害致死(刑法205):三年以上の有期懲役
・危険運転致死(自動車運転死傷行為処罰法2):一年以上の有期懲役
・酒気帯び運転致死(自動車運転死傷行為処罰法3):十五年以下の懲役
・危険運転致傷(自動車運転死傷行為処罰法2):十五年以下の懲役
・酒気帯び運転致傷(自動車運転死傷行為処罰法3):十二年以下の懲役
・営利目的等略取及び誘拐(刑法225):一年以上十年以下の懲役
・未成年者略取及び誘拐(刑法224):三月以上七年以下の懲役
性暴力関連の法定刑はいずれも未成年者略取及び誘拐よりも重く、傷害致死よりも軽いのは致死傷のない強制・準強制・監護者わいせつ等だけです。つまり、強制・準強制・監護者性交の法定刑は、殺すつもりは無かったけど意図的に暴行して傷害を負わせた結果死なせてしまった傷害致死よりも重いんですよね。もちろん、法定刑が一年以上の有期懲役である危険運転致死よりも重いです。
いくら強姦が“魂の殺人”だからといっても、実際に被害者が死んでいる傷害致死や危険運転致死よりも重い法定刑が既に規定されていて、殺人罪との法定刑の違いでさえ無期と死刑の有無だけです。しかも致死傷がつけば、強制・準強制・監護者わいせつ等であっても無期もありえる法定刑になっています。
これでも軽すぎるとか思うのなら、その感覚は私には到底理解できません。
(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう 門性交又は口腔くう 性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。(監護者わいせつ及び監護者性交等)
第百七十九条 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条の例による。(強制わいせつ等致死傷)
第百八十一条 第百七十六条、第百七十八条第一項若しくは第百七十九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 第百七十七条、第百七十八条第二項若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。(強盗・強制性交等及び同致死)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045#775
第二百四十一条 強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪(第百七十九条第二項の罪を除く。以下この項において同じ。)若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。
2 前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
3 第一項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処する。
(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。(未成年者略取及び誘拐)
第二百二十四条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。(営利目的等略取及び誘拐)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045#863
第二百二十五条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
(危険運転致死傷)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=425AC0000000086
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
六 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為