「暴行脅迫」や「抗拒不能」が立証できないから無罪なのではなく、性交等の事実を立証できないから無罪だという話

少し古いですが、この件。
14歳養女と監護者性交 男性に無罪判決 「証言は信用性に疑問」福岡地裁(毎日新聞2019年7月18日 16時43分(最終更新 7月18日 18時04分))

それこそ判決文や出された証拠をちゃんと見ないと断言できませんが。
監護者性交罪は18歳未満の被監護者に対する監護者による性交の事実だけで成立する罪状で、強制性交や準強制性交に比べても立証のハードルはかなり低いと言えます。
被害者の年齢や被害者と被告の関係性は客観的に判断することが容易ですから、要するに性交等の事実があったかどうかだけが争点になりえます*1

性暴力関連の刑法要件として批判されている「暴行脅迫」や「抗拒不能」の有無はここでは求められていません。
もし仮に被害者の方から積極的に性的行為を誘って合意の上で性交に及んだとしても監護者には監護者性交罪が適用されます。

しかし言うまでも無く、それには性交の事実が立証されないといけません。
法律を変えるべきみたいなコメントも見かけましたが、少なくともこの件に関して刑法を改正する余地は無いでしょう。

被害者証言以外の証拠はあったのか?

この疑問について、記事を読む限りでは、被害者証言以外に性交の痕跡や第三者証言などは無かったように思えます*2

 公判で、弁護側は養女に知的障害があることや、男性が勉強で厳しく指導したり、娯楽を制限したりするなど養女にうそをつく動機があったことを指摘し、「養女の創作話でないと、説明できない」と無罪を主張していた。
 判決は、養女の証言について「実際に体験しなければ供述できないと言えるほどの具体性や迫真性が認められない」と指摘。証言通りであれば、家族5人が寝ている部屋で男性が性交を繰り返したことになるが、「誰にも悟られずに長期間性交を繰り返すことは考えがたい」とした。

https://mainichi.jp/articles/20190718/k00/00m/040/178000c

この記述からは家族5人*3からも、被害を裏付ける証言がなかったように読めます。

同居していた家族が口裏を合わせて沈黙していたり、あるいは実際には不在がちで被害者と被告だけになることが多かったり、被害者が自らの被害を正確に供述することができなかったりする場合も考えられますので、そのあたりが争点になったのか、なったとして判決でどう評価したのかは気になるところです。
ですが、それらの事情が存在しないのであれば、「証言通りであれば、家族5人が寝ている部屋で男性が性交を繰り返したことになるが、「誰にも悟られずに長期間性交を繰り返すことは考えがたい」」というのは、理解できないものではありません。

被害者証言が出てきた経緯も気になるところ

ありそうな可能性としては、被害者が学校などで相談し学校側が性的虐待の可能性として児童相談所に通報し、即日保護され、児童相談所の保護下で被害事実の聞き取りが行われ、監護者性交罪として警察に被害届が出されて、警察でも同様の事情聴取が行われ、被告の逮捕・起訴となり、公判のために検察側の事情聴取も行われるという流れです。
被害者に対する聴取と容疑者に対する聴取という違いはあるものの、死刑冤罪事件でも検察側に都合よく証言が誘導されることがあったことを考慮すると、最初から有罪ありきで捜査された場合被害者証言も誘導される危険性は否定できないでしょう。

弁護側の主張に拠れば被害者には知的障害があるとのことで、それが事実であれば、最初の相談で性的虐待が事実だと思い込んだ学校側や児童相談所側によって証言が誘導された可能性もあります。
また、学校から児相という流れであったとすると、ほぼ間違いなく性的虐待の痕跡を調べるための検査はやっていると思うのですが、それがどのような結果だったのかも気になるところです。




14歳養女と監護者性交 男性に無罪判決 「証言は信用性に疑問」福岡地裁

毎日新聞2019年7月18日 16時43分(最終更新 7月18日 18時04分)
 当時14歳の養女と自宅で性交を繰り返したとして監護者性交等罪に問われた男性(38)に対し、福岡地裁(溝国禎久=よしひさ=裁判長)は18日、「養女の証言は信用性に疑問がある」として無罪(求刑・懲役9年)の判決を言い渡した。
 公判で、弁護側は養女に知的障害があることや、男性が勉強で厳しく指導したり、娯楽を制限したりするなど養女にうそをつく動機があったことを指摘し、「養女の創作話でないと、説明できない」と無罪を主張していた。
 判決は、養女の証言について「実際に体験しなければ供述できないと言えるほどの具体性や迫真性が認められない」と指摘。証言通りであれば、家族5人が寝ている部屋で男性が性交を繰り返したことになるが、「誰にも悟られずに長期間性交を繰り返すことは考えがたい」とした。
 福岡地検の小弓場文彦次席検事は「判決内容を精査し、上級庁と協議して適切に対応したい」とのコメントを出した。【宗岡敬介】

https://mainichi.jp/articles/20190718/k00/00m/040/178000c

*1:監護・被監護の関係性について親子以外の状況にどう判断するかというところでは争点になることもあるかもしれませんが。

*2:但し取材した記者が把握していなかったり記事にしなかっただけという可能性もありますが。

*3:被害者や被告を含むかどうか不明