離婚後共同親権に関する俗論について少し指摘

この件。
妻に子どもが連れ去られたら父親として認めない!?イクメン、男性育休を推進する日本社会の矛盾。(明智カイト | 『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事 )
この記事についたブコメが気になったので少し指摘。

共同親権支持を活動家呼ばわりしているコメもありますが、先進諸外国ことごとく離婚後共同親権を容認している中で離婚後は単独親権一択しか認めない日本の制度擁護の方がよほど活動家的だと思うんですけどね。
アメリカでもイギリスでもオーストラリアでも韓国でも採用されている離婚後共同親権を何故日本では採用できないのか、そこに納得できる理由があるというなら、反対派はそこをちゃんと主張すべきではないですかね。

さて、以下2つのブコメについて。

共同親権は必要だと思うけど、夫婦が別居したいとなった時、普段から育児している方が連れていくのは自然だと思うのは私だけだろうか。休めるかどうかわからない人のとこに子ども置いて行ったら虐待なのでは
tvxqqqqのコメント2020/01/14 14:28

https://b.hatena.ne.jp/entry/4680060544256854274/comment/tvxqqqq

一方の親が育児の全てを担っていた場合なら、そのとおりでしょうが、実際にはそんな事例ばかりではありません。
内閣府の調査では、夫婦の家事育児の分担割合は全体として妻側に偏ってはいるものの、夫5割以上という場合も割合的には1割を超えます*1。妻10割というのは、9.6%で1割程度、夫1割妻9割を含めても42.2%です。また、夫3割妻7割は17.4%、夫4割妻6割は6.9%あり、妻の分担の方が多いとは言え、別居で妻が連れて行ってしまうと育児のリソースが3割から4割減ることになります。
もし、それらの減った分の育児リソースは妻側の実家などの支援で補えば良いというのであれば、それは夫側についても言えます。
例えば、育児分担割合が夫3割妻7割である家庭で、妻のみが出て行ったとしても、夫側が欠けた7割に相当する育児リソースを夫側の実家の支援などで補うことが出来れば問題ないということになるわけです。

別居に際して妻が子どもを連れて実家に帰るというのは、日本の伝統文化的にはよくある自然なことかも知れませんが、実際には核家族化が進み、夫が外で稼ぎ妻が家を守るといった保守的家族観の社会で形成された比較的新しい価値観に過ぎません。ちなみに核家族化自体は戦前には既に進み、1920年には全世帯の過半数となっています。頼れる実家がある場合に妻が子どもを連れて帰るのはよくあることでしたが、戦前民法では原則として父親を親権者としていたため、そのまま縁を切れるわけではありませんでした。但し、親権者は父親であっても監護権者を母親とする事例は多かったと思われますが。

冒頭の明智氏記事は、イクメンを推進して夫側の育児分担割合を増やそうとしている施策を挙げ夫婦双方が普段から育児している方となるのに、その一方が連れて行くことを容認するのはおかしいのではと指摘しているかと思います。

また、一般論として子どもの環境を不正常に変更するのは、子どもの負荷となりますので子どもの福祉上もあまり推奨されません。

共同親権化すべきと思うんだけど、離婚時の養育区分決定の義務化・養育費の支払義務(天引きや罰則等法的拘束力有で)やケースワーカー充実等とセットじゃないと、DVや虐待など一番弱い子供にしわ寄せが行くよね現状
differentialのコメント2020/01/14 14:05

https://b.hatena.ne.jp/entry/4680060544256854274/comment/differential

これ、現行民法でも離婚に際して定めることを求めているんですよね。

第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#DN

民法は「子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項」を定めることを求めているわけですが、問題なのは、別に定めなくても離婚届を受け付けて離婚が成立してしまう点です。
ちなみに、家庭裁判所が関与する調停・審判・裁判離婚でも、これらが必ず決められるわけではなく、養育費に関しては調停・審判離婚の1割ほど、面会交流に関しては3割ほどが何の取り決めも成立しないまま離婚だけが成立しています。

あと養育費の不履行に対して罰則を課すのであれば、双方の経済状況を定期的に確認して額を更新することも必要です。再婚したり失職したりして離婚当時の状況から変化することは当然にありえますから、失職して養育費を払える経済状態じゃなくなっても払わなければ刑事罰というのは人権上問題となりますから。
それに面会交流についても悪質な不履行の場合は罰則を課し、親権・監護権者の変更も強制力を持って命令できるようにする必要があるでしょうね。韓国の場合、面会交流は非監護親と子どもの権利と明記され、監護親が侵害した場合は親権・監護権を失うことがあるようです。

さらに言うなら、「DVや虐待など一番弱い子供にしわ寄せが行く」のは、離婚後単独親権下の現状でも同じで、虐待親が子どもを連れ去り親権者となってしまうと親権を失った親には子どもを救う手段が無くなります*2

離婚後共同親権を採用しているどこの国であっても、十分な根拠を伴う子に対する虐待の懸念がある場合にはその親には共同親権を認めないのが普通です。離婚後共同親権に反対する根拠として、DVや虐待などは立証することが困難であって立証できないDVや虐待を見逃す可能性があることを挙げられる場合がありますが、そうであるなら、現行制度下でDVや虐待の加害者が単独親権者になってしまう可能性も否定できないわけですから、離婚後単独親権下の現状でも「DVや虐待など一番弱い子供にしわ寄せが行く」状況にあることになります。

共同親権になったら「DVや虐待など一番弱い子供にしわ寄せが行く」ことになると懸念するなら、同時に離婚後単独親権下の現状で起きている「DVや虐待など一番弱い子供にしわ寄せが行く」状態をも懸念しないと矛盾します。



*1:夫5割:5.3%、夫6割:1.0%、夫7割:1.2%、夫8割:1.3%、夫9割:1.4%、夫10割:0.3%

*2:正確に言うと、虐待の事実を知るための手段が赤の他人と同程度になってしまい、親権変更や親権停止・喪失といった申立てを起こすきっかけを得ることが難しくなる、です。