中韓通貨スワップ協定の拡大

中韓通貨スワップ協定は2008年の韓国通貨危機の際に結ばれましたが、このときは発動されていません。このときのスワップ枠は1800億元/38兆ウォンで236億ドル相当*1でした。協定は2008年12月12日に結ばれ3年間の期限でしたから、本来2011年12月12日で終了するはずでした。
しかし、ネットで検索しても、日本ではほとんどヒットしないのですが、どうも2009年4月の時点で協定を更新していたようです。

韓国、日本の5.3兆円に続き中国とも4.3兆円の通貨スワップ協定
2011/10/27(木) 14:49
  中韓両国の中央銀行は26日、ソウルで通貨スワップ(交換)協定を従来の1800億元/38兆ウォンから、3600億元/64兆ウォン(約4兆3200億円)に拡大することで合意した。有効期間は3年、双方同意のもとで延長が可能。09年4月20日締結の協定は失効する。
  また、両国は相互の通貨を主要な外貨準備にする可能性およびその比率を検討していくことでも合意した。これらの合意について、両国とも、「双方の金融協力、両国間貿易、投資、地域の金融安定に資する」との見解を示しているという。
  韓国は19日に、日本との通貨スワップ協定で従来の130億ドルから700億ドル(約5兆3200億円)に増やすことで合意していた。(編集担当:鈴木義純)

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=1027&f=business_1027_179.shtml

2009年4月20日の中韓通貨スワップ協定は、金額的には同額のまま期間を4ヶ月延期する程度の内容だったようで、スワップ枠も1800億元/38兆ウォンのままです。このニュースは、ネットの情報強者様の観測からは漏れていたらしくググっても見当たりません。2009年4月時点では韓国は通貨危機の山場を過ぎていたものの米韓通貨スワップ協定に基づく借り入れ残が100億ドル以上あり、期限延長自体は例え4ヶ月でもありがたかったかも知れませんが、2009年4月時点で2011年12月の期限が2012年4月になってもさほど嬉しいとは思えません*2。期限と金額枠以外の何らかの条件変更があったのかも知れません。

また、これとは別枠であろうCMIにおける中韓スワップ枠は、互いに40億ドル相当あります*3。これを踏まえると中韓は2008年以来ずっと、合計270〜360億ドル相当の通貨スワップ協定で結ばれていたことになります*4

さて、この中韓通貨スワップ協定れが2011年10月26日に拡大することで合意されています。この1週間前には日韓通貨スワップ協定枠が700億ドルに拡大され、日本の嫌韓ネトウヨを大騒ぎさせたわけですが、中韓通貨スワップ協定に関しては全く興味なさそうですね。

韓国と中国、通貨スワップの規模を560億ドル相当に拡大
2011年 10月 26日 19:11 JST
[ソウル 26日 ロイター] 韓国と中国は26日、両国間の通貨スワップ協定の規模を拡大することで合意した。韓国大統領府が発表した。
 声明によると、中国の李克強副首相と李明博(イ・ミョンバク)大統領が会談した際に合意した。合意の詳細は不明。
 韓国財務省によると、両国は26日に協定に調印する予定。
 期間は2014年10月25日までの3年間で、規模は560億ドル相当。現行の260億ドル規模の協定に代わるものとなる。
 現行の協定は2012年4月が期限となっているが、それに先立って新協定に置き換えられる。

http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-23829220111026

ドル表記なのでわかりにくいのですが、この新協定の枠は3600億元/64兆ウォンです。人民元では倍増ですが、ウォンでは1.7倍程度です。現状の通貨レートに合わせたということでしょう。
日韓通貨スワップ協定は2009年10月30日に拡大措置の期限を終え、CMIの枠を含めて130億ドル相当*5に戻っていますが、中韓間では260億ドル相当(1800億元/38兆ウォン)の通貨スワップ協定が継続していたわけです。この中韓通貨スワップ枠が10月26日に2倍の560億ドル相当に拡大されたことを見れば、韓国側の「500億ドル〜700億ドル程度」の提案に対し、日本側が700億ドルで申し出たのは外交的には良い判断だったといえます。

日韓、通貨スワップ「日本側が5兆円にしようと申し出た」―韓国
2011年10月21日11時25分
 野田佳彦首相と李明博(イ・ミョンバク)大統領は19日、韓国・大統領府で首脳会談を行い、日韓間の通貨スワップを現在の130億ドル規模から700億ドル(約5兆3700億円)に拡大することで合意した。
 現在の日韓通貨スワップは130億ドル水準で、5倍を超える規模となり、韓国が日本から資金を受けるとき、韓国は700億ドル相当のウォン貨を日本に提供し、日本は300億ドルに相当する円貨と米ドル貨400億ドルを提供する。複数の韓国メディアが報じた。
 韓国メディアは「ケチな日本が、予想を超える日韓通貨スワップ700億ドルを締結」「3年前とは違い、今回はスムーズに締結」と題し、今回の協定の背景を分析し、伝えた。
 2008年の世界的な金融危機の際、否定的だった米国との交渉は困難を極めたが、韓国はようやく米韓通貨スワップを引き出した。そして、これをもとに、日本、中国との通貨スワップを相次いで締結し、危機からかろうじて脱出した。
 しかし、3年後にあたる今回の協定はスムーズに締結された。その背景には、外国為替の健全性など、韓国の経済の体力が3年前と大きく変わった点や、自由貿易協定(FTA)がテコの役割をしていたためであると分析した。
 また政府関係者は「韓日通貨スワップの規模は、基本的に以前よりは大きくなければならないという前提の下で、日本側に500億ドル〜700億ドル程度を提案したが、日本が意外にも700億ドルにしようと申し出た」と明かしたという。
 通貨スワップが予想よりも大規模で、スムーズに合意した背景には、円高で困難を経験している日本側の状況もあると指摘されている。
 サムスン経済研究所チョン・テソン先任研究員は、「韓国と日本は、世界の貿易市場での輸出競争関係にあるため、円高は日本の輸出企業としては不利な条件となっている。ウォン安が続くと、結果的に日本の輸出企業の価格競争力を低下させる状況となるため、ウォン相場が安定して動くことが日本側にはるかに有利だ」と述べたと紹介されている。(編集担当:李信恵・山口幸治)

http://news.livedoor.com/article/detail/5955518/

*6

もし、日本が韓国側提案の下限である500億ドルを提示していたら、わずか1週間後の中韓通貨スワップの拡大額が日韓スワップ額を上回ることになって、日本の影が薄くなっていたことでしょう。まして、協定締結にあたって中国に先を越されていれば目も当てられない状況だったと思います。

中央日報 latest news【社説】韓中通貨スワップ、外貨防衛が強固になった
2011年10月27日12時01分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版] comment 0 mixihatena0 日本に続き中国との通貨スワップを拡大することにしたのはよかった。昨日金滉植(キム・ファンシク)首相と中国の李克強副首相は韓中通貨スワップを260億ドルから560億ドルに拡大することで合意した。これで韓国の外貨の盾は相当に強固になった。外貨準備高3033億ドルと韓日通貨スワップ700億ドルに韓中通貨スワップまで合わせれば韓国が非常時に動かせる外貨流動性規模は4300億ドルに増える。こうなれば米国の格付け引き下げ後に提起されてきた外為危機への懸念は一段と弱まるだろう。
上がっていた外貨借入金利もやはり下がる。これが韓中通貨スワップの最も大きな効果だ。経済は心理だ。通貨スワップは世界で外貨を最も多く保有している中国と日本が韓国の友軍の役割をするという信号だ。投機筋がむやみに飛びかかるのは容易でないだろう。それなら欧州の経済危機が広がっても外貨への心配を過去より下げても構わない。
また別の効果もある。韓中通貨スワップは北東アジアの経済協力強化にも大きな助けになるだろう。韓国が生きる道は一方では米国と欧州など西欧、また別の一方では中国と日本などアジアをいかに活用するかにかかっている。EU(欧州連合)および米国との自由貿易協定(FTA)締結とともに北東アジア経済共同体を積極的に推進しなければならない理由だ。
それならば通貨スワップ拡大を契機に中国および日本とのFTA締結にももう少し積極的に出る必要がある。通貨スワップにだけ安住せずにもう一歩踏み出さなければならない。いまや米国との通貨スワップだけが残された。急ぐ必要はないが持続的に推進しなければならない理由はある。やがて起こるかもしれない経済危機予防策としてこれほどのものはない。

http://japanese.joins.com/article/024/145024.html

*1:1ドル=7.6人民元、2007年

*2:もっともこの時期、2008年12月12日の日韓通貨スワップ枠拡大(30億ドル相当の円・ウォン間の協定を200億ドル相当に拡大)の期限が2009年4月30日でしたから、それを踏まえた枠拡大交渉が事前に中韓であった可能性はあります。日韓通貨スワップは結局2009年3月31日に10月30日までの延長が決定されていますから、それを受けて中韓スワップ枠は拡大せずにそのままとしたのかも知れません。

*3:http://www.mof.go.jp/international_policy/financial_cooperation_in_asia/cmi/index.html

*4:額に幅があるのは、通貨レートの変動のため

*5:CMIに基づく日本→韓国の100億ドル(韓国→日本の50億ドル)及び、日韓双方向スワップの30億ドル相当の円・ウォン

*6:このサーチナの記事は「ケチな日本が、予想を超える日韓通貨スワップ700億ドルを締結」などと言った挑発的な発言を取り上げ、韓国に対して好意的でない印象を抱かせる構成・文言になっていますが、事実部分だけを見る限り、韓国側が今回の日韓スワップ協定に対し好意的に見ていることがわかります。