教科書検定にあたって「国際理解と国際協調の見地から必要な配慮」することに何の問題が?

いわゆる近隣諸国条項ですが、義務教育及び高校教科書の検定にあたって文部科学省が設けている検定基準のことで具体的に以下の一文にすぎません。

義務教育

(3) 近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/1260042.htm

高校

(3) 近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/kentei/990402.htm

で、この条項のせいで、教科書に書けなくなった書くべきこと、あるいは、教科書に書かれている書くべきでないこと、が存在するのでしょうか、という問いにまともに答える条項廃止論者を見かけません。
教科書記載に「国際理解と国際協調の見地から必要な配慮」をするなんてのは教育上、当たり前の話です。鎖国しているわけじゃないんですから。
その辺を理解せずに「近隣諸国条項は不必要」などとしたり顔で述べる人もいますが、ま、お話になりませんね。

条項廃止論者の主目的が、南京大虐殺従軍慰安婦韓国併合などと言った大日本帝国時代の負の歴史を隠蔽し、皇国史観賛美であろうことは容易に推測できるわけですが、この辺は本来、近隣諸国条項関係なしに問題外です。でもこういう条項をつけないと、自慰自賛史観に容易に染まるリスクが高まるのも経験的にわかっています。というか、条項があっても自慰自賛史観で染めようと必死に特定政治家や特定メディアが介入してきているわけで。

領土問題をどう扱うか

北方領土竹島尖閣問題を教科書に書くべきか、を近隣諸国条項を踏まえて考えると、個人的には書くべきと思います。
ただし当然、領土問題の歴史的経緯を日本政府見解の垂れ流しでない内容で書かねばなりません。

例えば、北方領土については、当初日本政府自身が「南千島」と呼んでおり、サンフランシスコ平和条約で日本が放棄した「千島列島」に当然に含まれるにも関らず、日ソ交渉の中で「固有の領土」と呼び始め「南千島」ではなく「北方領土」と呼ぶように日本政府が策動したことまで触れるのが、歴史的事実を教えるという意味で正しいでしょう。

竹島の場合は日露戦争や日韓協約を踏まえる必要がありますし、尖閣の場合は日清戦争や占領下沖縄に対する中共や台湾の動向を踏まえる必要があるでしょう。

重要なのは、領土問題という紛争の当事者である日本政府の見解をそのまま伝えないことです。
紛争の当事者は当然のことながら、自己に都合のいい情報だけ提示し、都合の悪い情報は隠蔽します。これは、良い悪いの話ではなく、紛争の当事者が自己の利益を守るために行なう当然の行動です。
教育は紛争の枠外からその紛争を評価するべきで、そのために教育は政治から独立しているべきなんですね。

もし、日本政府の見解に偏った記述しかできないなら教科書に記載しないほうがマシです。


近隣諸国歴史配慮見直しを 自民、教育再生で中間報告 南京大虐殺死者数、数値の具体的根拠明記も
2012.11.16 14:19 [教科書]
 自民党教育再生実行本部は16日、「教科書検定・採択改革」や「いじめ対策」など5つの分科会の中間報告を取りまとめた。近隣諸国との歴史的関係への配慮を求めた教科書検定基準の見直しなどを盛り込んだ内容で、下村博文本部長が安倍晋三総裁に手渡した。衆院選教育再生を主要な政権公約に掲げる安倍氏は「新政権の柱の政策になる」と述べた。

 近隣諸国条項をめぐっては「歴史教科書の自虐史観につながっている」として、自民党の一部の議員らが見直しを主張してきた経緯がある。教科書検定では、南京大虐殺による死者数など複数説に分かれる事案では、数値の具体的根拠も明記することも盛り込んだ。

 中間報告にはこのほか(1)「いじめ対策基本法」の制定(2)教育長の任免権を首長に付与−などを挙げた。文言を調整した上で19日に正式発表する。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/121116/edc12111614220004-n1.htm