レーダー照射の起きた海域を見る限り、日本側からの挑発とも言える

レーダー照射の起きた海域は、NHKでは尖閣諸島北方100km以上、朝日では180kmと報道されています。(図の黄色のダイヤ部分)

尖閣諸島から北方へ180kmというと、日本が主張する日中中間線ぎりぎりであり、中国が主張する日中中間線から深く中国側に入り込んだEEZになります。公海上ではありますので軍艦の航行が制限されるわけではありませんが、東シナ海日中中間線を巡って日中間が係争している海域に軍艦が頻繁に進入するのは緊張を高める行為であると言えるでしょう。
しかも、この付近には中国の東シナ海ガス田施設があります*1

この中国側ガス田施設付近かつ日本主張のEEZ境界付近については、日本は軍用機・軍艦でひっきりなしに接近を繰り返し、中国側に対して挑発を行っています。

そもそもこの海域に日本が海自艦艇を出す必然性が理解できません。尖閣諸島の防衛というには180kmも離れている上、沖縄よりも中国本土に近い海域ですから後方でもありません。尖閣諸島近海以外に対峙正面を作り出そうとさえ思える行為です。

日本のメディアはレーダー照射が、中国政府の指示か、それとも現場の暴走か、との追及ばかりのようですが、海自艦艇をこの海域に進出させた判断が、日本政府の指示か現場判断かの方が重要ではないでしょうか。


個人的には、今回の件は盧溝橋事件に似ているように感じます。
北京郊外に日本軍を駐屯させ、夜間演習を繰り返して挑発し、それに反応した中国側からの発砲を理由に軍事侵攻を開始したやり方です。わざわざ中国側EEZ*2でかつガス田付近という海域に海自艦艇を遊弋させ、中国艦艇から3kmという近距離に接近し*3、それに反応した中国側からのレーダー照射を理由に今回は「情報戦」が行われたわけです。

何より気味が悪いのは、日本のメディアも政党も「レーダー照射」の一点ばかり非難しており、海域がどこだったか、日本側艦艇がどのように航行したのか、などの状況の分析がおざなりにされていることです。
本来ならば、野党やメディアが追及して、海自艦艇の航行記録と中国艦艇の動向の観察記録を防衛省から提出させ、日本側に非があったかなかったも含めて確認するべきでしょう。
ある意味で、安部政権の「情報戦」の相手は国内メディアなんじゃないかと思えるくらいです。

1月30日のレーダー照射事件は、少なくとも尖閣諸島領海付近で中国艦艇の領海侵入を阻止しようとしたとかそういう理由ではないようですね。

今回「リテラシー」タグを付けたのは、紛争の当事者である日本政府からの一方的な発表がソースになっているにもかかわらず批判的な報道が少ないためです。

AさんとBさんが土地所有権でもめている場合、Aさんの主張を一方的に聞いたところで公正な判断はまずできません。そんなことは誰でも理解できるはずですが、国境を挟んだ途端に、大手メディアも一般人もそれが理解できなくなります。

*1:これは、日本が主張する日中中間線のさらに中国側に建設されており、日本側がなんらかの抗議を行えるような問題の施設ではありません。ガス田の地下構造が日本側主張の日中中間線の日本側にも広がっている可能性があり、中国側が日本の資源を吸い取っている、というめちゃくちゃな根拠での抗議を日本側はしていますが、(1)そもそもガス田の地下構造が不明、(2)ガス田が日中中間線を跨いでいるとしてもあくまで日本側が主張する中間線であり確定したものではない、(3)地下構造が複数国に跨っていたとしても採掘施設が中国側にある場合資源を盗んだなどという主張はできない、などの理由によりまず国際的には認められません。以前、中国側が妥協して共同開発を認めたのは中国国内のエネルギー事情によるもので、中国側からのかなりの譲歩案だったと言えますが、日本側は強硬論から一歩も引かずに決裂しました。

*2:日本側主張の境界ぎりぎりかあるいは中国側

*3:位置関係を見る限り、海自側から接近したと見るべきだと思います。