産経新聞が精神に異常をきたすレベルで嫌っている河野談話から20年後の2013年8月4日に出された「主張」です。
【主張】
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
河野談話20年 偽りの見解を検証し正せ 慰安婦は「性奴隷」ではない
2013.8.4 03:13
いわゆる「従軍慰安婦」の強制連行を認めた河野洋平官房長官談話の発表から20年たった。この間、事実誤認が明らかになり、強制連行説は破綻した。しかし、談話は見直されないまま存続し、今も日本の近隣外交を縛り、教育現場に深い傷痕を残している。
安倍晋三政権は、早急に河野談話を検証するとともに見直しに着手すべきだ。
「主張」のタイトルはもちろん嘘ですが、本文もしょっぱなから嘘ですね。河野談話は従軍慰安婦の“強制連行”を認めた談話ではありません*1。「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。」*2と河野談話に書かれていますが、この記述が従軍慰安婦の“強制連行”を認めた記述と言えるかは微妙ですし、仮にこれを強制連行だと呼ぶのなら、従軍慰安婦の強制連行は確かにあったとしか言いようがありません。慰安婦の募集に軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たり、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、官憲等が直接これに加担したことは事実です。
破綻したとすれば、否認論者の妄言だけでしょう。言うまでもありませんが、安倍晋三首相は2007年政権にあった時、何度も「河野談話を踏襲する」との答弁を閣議決定しています。以前、「おそらく安倍内閣は、”政府が河野談話を踏襲していること”を明言した回数において、歴代内閣中トップでしょう。」と述べたとおりです。
実際には産経新聞がいくらバカだからといって、今回の安倍政権が河野談話を撤回・修正できないことはわかっているでしょう。河野談話を攻撃することはあくまでも国内政局向けのポーズですから、徒に国際環境を悪化させる談話撤回は有害無益です。そこで、安倍首相の意を汲んだ産経新聞ががなりたてることで、安倍首相の代弁を国内右翼向けに行い、それが実現できないのは、“国内の敵”のせいだと騒ぎ、政敵を除外するのに利用するつもりでしょうね。
もっともホントにバカだという可能性も否定できませんが。
河野談話は宮沢喜一内閣が退陣し、細川護煕氏が首班の非自民6党連立政権が発足する直前、平成5年8月4日に出された。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
この一文はなかなか興味深いですね。
本来なら、自民政権の成果として誇るべきものなのに、それを認めたくはないため、細川非自民政権発足直前であることを強調しています。しかも「直前」がかかる部分が曖昧で、読みようによっては、宮沢内閣退陣後かつ細川内閣成立前、とも読める文章構成になっています。
宮沢内閣が総辞職したのは1993年8月5日ですから、宮沢内閣が退陣する直前に出されたと書いたほうがわかりやすいはずですが、産経新聞の場合、意図的なのか素で文章力がないのか、今ひとつ判断に苦しむところです。
◆「強制連行」裏付けなし
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
談話は「従軍慰安婦」という戦後の造語を使い、その募集について「官憲等が直接これに加担したこともあった」と日本の軍や警察による強制連行を認める内容だった。河野氏も会見で「強制連行」があったと明言した。
Apemanさんが調べたところでは、河野談話翌日の朝日、日経、読売3紙中、読売のみが「政府、強制連行を謝罪」と報道しています。翌々日(8月6日)になると「強制連行」という扱いをする新聞が増えますが(毎日1993/8/6社説)、面白いのは産経新聞が8月5日の主張で「慰安婦になることを「強要」されたという記録は、オランダの軍事法廷における被告の日本軍人の供述ぐらいだ。」*3と、強制連行の事実を認めていることです(もっとも、朝鮮人でないから構わない的なアクロバチックな論理展開をするあたりは20年前でも産経は所詮産経だなと思わされるところですが)。
しかし、それまで宮沢内閣が約1年半かけて内外で集めた二百数十点に及ぶ公式文書に、強制連行を裏付ける資料は1点もない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
そして、「慰安婦になることを「強要」されたという記録は、オランダの軍事法廷における被告の日本軍人の供述」(1993/8/5産経「主張」)と言っていた産経新聞は、20年の間に記憶を改ざんして「強制連行を裏付ける資料は1点もない」(2013/8/4産経「主張」)ことにしてしまっています。縮刷版を出さないから以前何書いたかすら覚えていられないのか、それとも書いたことに責任を負いたくないから縮刷版を出さないのか、産経はどちらなんでしょうか?
根拠とされたのは唯一、発表の直前、日本政府がソウルで行った韓国人元慰安婦16人からの聞き取り調査だけだった。証言の信憑(しんぴょう)性の調査も行われていない。
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この事実は後に、河野談話にかかわった石原信雄元官房副長官の証言で明らかになった。
産経新聞のいう「信憑性の調査」なるものが何を意味するのか、想像するに証明する文書などがないかということでしょうが、元々「女性を強制連行して売春を強要せよ」などという行政文書など存在するわけもありません。これは韓国軍慰安婦についても同様です。一方で「オランダの軍事法廷における被告の日本軍人の供述」や当時の植民地朝鮮の状況を踏まえれば、当事者証言で充分に強制性の証明は可能です。実際、石原氏もこう言ってます。
一六人のうち、自分の意思ではなく慰安婦にさせられた、あるいは騙されてなったという人が間違いなくかなりいる。これはヒヤリングを通して真実であることに間違いないという担当官の報告が出たのです。日本政府も韓国政府も、担当官にはなんらのプレッシャーをかけてないわけです。人道的立場でヒヤリングをやってもらい、その報告を受けたわけです。それを政府としては、彼らの心証を大事にしていこうと考え、それが強制性の認定につながったわけです。
http://www.awf.or.jp/pdf/k0003.pdf
(略)
それは全体の流れとして、彼女たちのおかれた状況からして、やはりその意に反して慰安婦とされたということにしないわけにいかないということだったんです。
当事者証言を聞いたうえで担当官がその信憑性を判断したわけです。証言内部の整合性が取れていて、当時の状況を踏まえて蓋然性が高ければ、信憑性があると判断するのが、普通です。強制性を明示した文書での裏づけがなければ信用しない、というのならほとんど全ての犯罪は立証不可能になります。
にもかかわらず、歴代内閣は河野談話の検証を怠り、放置した。河野氏が強制連行を認めるもとになった韓国人元慰安婦の「証言」なるものも、国民には知らされていない。河野談話に基づく慰安婦強制連行説が、今なお国際社会で独り歩きしている。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
慰安婦強制連行説が一人歩きしているのは、主として日本国内右翼の脳内でしょう。それ以外は慰安婦問題に対してあまり知識を持たない一般人の間でおぼろげにそのように認識されているくらいじゃないですかね。
そもそも産経新聞は1993年8月5日に「オランダの軍事法廷における被告の日本軍人の供述」が慰安婦強要の証拠として認識していたのですから、下らない検証ごっこより先に、「歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視」するべきでしょう。
繰り返し確認したいことですが、産経新聞の記者や支持者は、自らが拉致に参加してさえいなければ、拉致被害女性の売春強要に参加しても問題ないと考えているんですか?
5月末、国連拷問禁止委員会が慰安婦を「日本軍の性奴隷」と表記し、元慰安婦への補償と関係者の処罰を求める勧告を出したことにも違和感を禁じ得ない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
「性奴隷」は、慰安婦が奴隷狩りのような手段で集められた印象を与える。欧米の多くのメディアが、この言葉を意図的に使っているとしたら問題だ。
欧米の多くのメディアは、売春を強要された被害者として「性奴隷」表現を用いているでしょうね。日本軍管理下で売春を強要された慰安婦は、まさに「性奴隷」であって、その事実から目を背け、今もなお二次強姦を繰り返す産経新聞や安倍首相、橋下市長などの歴史修正主義者が権力者として闊歩しているからこそ国連拷問禁止委員会によって勧告が出されたわけです。
そりゃそうだろうな、とは思えど、違和感は覚えません。
戦時中、山口県労務報国会下関支部動員部長だったという人物が「自ら韓国の済州島で慰安婦狩りを行った」と述べ、国連人権委員会の報告に取り上げられたが、現代史家の済州島での現地調査で、「告白」は嘘と分かった。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
今どき吉田清治氏を根拠として慰安婦問題を語る史実派などいませんが、否認派はそれしか攻撃材料がないので何度も繰り返し叩こうとします。水に落ちた犬は叩け、でしたっけ?
それはそうと、吉田証言は個人の戦記物としてありがちな時間と場所を変えた記録であって全てが嘘と立証されたわけではありません。おそらく相当な圧力があったと思われますが、吉田氏自身は実際の時期・場所の公開を拒んだ為、直截的な歴史史料として使うことはできませんが。
そもそも「現代史家の済州島での現地調査」自体も産経風に言えば、信憑性の調査がされていない証言に過ぎないわけですが。
戦地慰安所の生活条件は、当時の遊郭とほとんど変わらなかったことが、学問的にも確かめられている。慰安婦は決して「性奴隷」ではない。不当な日本非難に、きちんと反論してこなかった外務省の責任も重い。
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そもそも1930年代当時の遊郭、つまり公娼制度自体「現在の公娼制度が彼女たちにとってひどい搾取を意味し人道的にも見るに忍びないものがある」(大阪朝日新聞 1936.12.12(昭和11))*4と言われ、「性奴隷」状態でしたから、この時点で産経新聞の人権感覚は80年以上遅れていると言えます。
その性奴隷状態の公娼と比べても「軍や軍の命令によって徴集され、軍の管理下で軍の許可なくやめる自由もなく「性奴隷」状態を強いられた点に、日本軍「慰安婦」の特徴があります」*5。
慰安婦問題は、知日派といわれる外国の人たちにも十分に理解されていない面がある。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
シーファー前駐日米大使は5月にワシントンで開かれた日米関係に関するシンポジウムで、安倍政権の閣僚の靖国神社参拝には「(戦没者に)敬意を表したいという感情は理解できる」と述べる一方、河野談話の見直しは「米国における日本の利益を大きく害することになる」と指摘した。
繰り返し指摘しますが、軍の管理下で売春が強要され、その被害者の多くは人身売買被害者であったり、略取誘拐被害者であったわけですから、当然に軍の責任が問われます。仮に連行に直接関わっていなくとも、人身売買の目的地として軍組織が機能していた以上、言い訳など通用しません。
◆知日派にも誤解広がる
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
アーミテージ元米国務副長官ら超党派の外交・安全保障専門家グループも昨夏、「日本は韓国との歴史問題に正面から取り組むべきだ」と忠告した。
安倍首相は、菅義偉官房長官の下で有識者から意見を聴く考えを表明している。石破茂自民党幹事長も、テレビ討論番組で「慰安婦問題、侵略の問題は検証していくことが必要だ」と語っている。
ただ、日本維新の会共同代表、橋下徹大阪市長の慰安婦問題に絡む「風俗業活用」発言などが国際社会でも批判されたことは、記憶に新しい。慎重に手順を踏んで検証作業を進めてほしい。国会も、河野氏や石原氏らを招致して、直接経緯を聞く必要がある。
安倍首相や産経新聞の主張する検証とは、事実の糊塗、曲解、隠蔽、矮小化を目的としていますので、海外からの非難に耐えうるものでは全くなく、より強い非難を招くだけです。
第1次安倍内閣は19年、「政府が発見した資料には、軍や官憲による強制連行を直接示す記述はない」との答弁書を閣議決定した。これは現時点での日本政府の共通認識として、在外公館が繰り返し発信していかねばならない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
つい最近も指摘しましたが、産経新聞は嘘を100回つけば真実にできると考えていますので、繰り返し指摘しておく必要があります。2007年の安倍政権が「政府が発見した資料には、軍や官憲による強制連行を直接示す記述はない」との答弁書は第一に「河野談話発表までに政府が発見した資料の中」という時間的限定があり、さらにその時間的限定の中ですら、日本軍が女性を売春させる目的で慰安所に連行し売春を強要した事例を記した資料が知られており、二重の意味で安倍政権は嘘をついています。
安倍政権の2007年答弁が嘘でないとすると、安倍政権は「軍隊が女性を売春宿に連行して売春を強要しても「軍や官憲によるいわゆる強制連行」にはあたらない」*6と考えていることになります。
ある日突然、自衛隊員があなたの妻・恋人・娘に銃を突きつけ売春宿に連行し自衛隊員相手の売春を強要しても、安倍政権の公式見解では「軍や官憲によるいわゆる強制連行」にはあたらないということになります。
これが直近の衆院選・参院選で、日本人が選んだ政権の公式見解です。正直言って、日本人であることがこれほど恥ずかしいと思ったことはありません。
河野談話は、教育現場にも計り知れない悪影響を与えた。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130804/plc13080403180002-n1.htm
多くの教科書に慰安婦をめぐる自虐的記述が登場している。「新しい歴史教科書をつくる会」の発足などで、極端な記述は減る傾向にあるが、十分とはいえない。
日本の未来を担う子供たちに間違った不名誉な歴史を伝えないためにも、河野談話の誤りは正す必要がある。
河野談話が教育現場に悪影響を与えたのは、ある意味事実でしょう。日本政府が正式に「このような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視し」「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を」表明したにも関わらず、日本政府自らが隠蔽・矮小化・正当化を繰り返し、世界に向かっての約束を反故にしてきたわけですから。
日本政府のように約束を守らなくても大したことはない、と子どもたちに教えることになったという意味で、河野談話以来20年の日本政府の軌跡は、教育現場に悪影響を与えたと言えます。
今や、「軍隊が女性を売春宿に連行して売春を強要しても「軍や官憲によるいわゆる強制連行」にはあたらない」とする安倍政権が圧倒的支持を得ています。これを見た子どもたちは、誠実さや真摯さなど何の役に立たないし、評価もされない、相手を踏みにじってもやりたいことをやればいい、と学んだことでしょうね。
あと20年もすれば、安倍首相や橋下市長のような恥知らずな人間達が、社会人となって世に出てくるかもしれません。願わくば、安倍首相や橋下市長を反面教師として育って欲しいものですが。