“アジア女性基金”で慰安婦問題に十分対応した?

以前、「「河野談話」「アジア女性基金」以後の日本は誠実だったのか?」という記事で、河野談話からアジア女性基金に至るまでの日本政府の対応と並行して行われた極右議員(安倍晋三など)らによる性暴力被害者に対するセカンドレイプ発言を指摘しました。
韓国側がアジア女性基金を受け入れなかった原因として、日本の極右勢力のバッシングの存在を紹介したわけです。

今現在、アジア女性基金や首相の手紙などを“日本の誠意”として主張する論者は朝日新聞を含めて数多くいますが、同時並行で存在した日本側によるバッシングに言及する論者はほとんどいません。踏まれた痛みは踏んだ者にはわからない、ということでしょう。

それとは別に、今現在、“アジア女性基金”を“日本が示した可能な限りの誠意”と評価している人たちは、当時から、そのような形が理想的な解決策だと思っていたのでしょうか?

読売新聞社説(1993年8月5日)・日経新聞社説(1993年8月5日)

【読売社説 1993年8月5日付】

だが、法律論だけですまされる問題でないことも明らかだ。新政権は関係国政府、関係者と協議し、わが国、国民の気持ちが伝わるような措置をとってほしい。
過去をめぐる問題を、いつまでも、わが国と近隣諸国の間の関係発展の足かせにしてはならない。未来志向の協力関係の障害にするようでは、お互いの不幸だ。
政界には、国会決議により過去を反省し、将来に向けて近隣諸国との関係を発展させる意思表示をしようとの動きがある。
日本は過去の非について、首相の発言をはじめ、さまざまな形で公式に謝罪ないし反省の意を表明してきたが、国会決議の形をとることに、基本的に賛成である。

http://d.hatena.ne.jp/hagakurekakugo/20071002/p2

【日経社説 1993年8月5日付】

 日本もいまからでも遅くはない。
まず国会で戦争責任について「謝罪決議」を行う。同時に「調査特別委員会」を設け、慰安婦以外の実態調査も精力的に進めるべきである。

http://d.hatena.ne.jp/hagakurekakugo/20071002/p2

河野談話翌日の読売・日経の社説です。いずれも国会決議で謝罪するという提案に賛成しています。
もちろん言うまでも無く、慰安婦問題について謝罪する国会決議などは20年経った今に至ってもなお成立していません。

特に読売新聞に対して言えることですが、いつの間に“謝罪の国会決議”は必要ないものにされたのでしょうか?

1995年の戦後50年の謝罪決議で十分だと言うことでしょうか?しかし1995年6月9日の国会決議「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」には「謝罪」も「慰安婦」も文言として含まれていません。

本院は、戦後五十年にあたり、全世界の戦没者および戦争等による犠牲者に対し、追悼の誠を捧げる。
また、世界の近代史における数々の植民地支配や侵略行為に想いをいたし、我が国が過去に行ったこうした行為や他国民とくにアジア諸国民に与えた苦痛を認識し、深い反省の念を表明する。我々は、過去の戦争についての歴史観の相違を超え、歴史の教訓を謙虚に学び、平和な国際社会を築いていかなければならない。
本院は、日本憲法の掲げる恒久平和の理念の下、世界の国々と手を携えて、人類共生の未来を切り開く決意をここに表明する。
右、決議する。

http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19950609.O1J.html

何より読売新聞は2005年8月3日の社説で、戦後50年決議を「惨たんたる「国会決議」」と評しています。

「戦後50年決議」は、自社さ連立政権の村山内閣時代に、当時の社会党が主唱し、衆院で採択された。文言をめぐっては、各党の間で激論が交わされた。
 最終的にまとめられた決議案の採決では、与党からも約70人が欠席した。新進党の議員も全員が欠席し、共産党は出席して反対した。賛成は、衆院議員総数の過半数にも満たない、惨たんたる「国会決議」だった。

http://www7.plala.or.jp/machikun/shasetukun359.htm

この程度の決議しかされていないにも関わらず、読売新聞は1993年には賛成していた「国会決議の形をとる」謝罪はもはや不要だとばかりに次のように言い放ちます。

(2014年8月6日社説)
政府は、安易な妥協をすることなく、慰安婦問題に関する日本の立場に対する韓国の理解を粘り強く求めていかねばならない。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140805-OYT1T50178.html

1993年には国会での謝罪決議に賛成し、1995年の戦後50年決議を「惨憺たる」と批判していたにも関わらず、いつの間にか“韓国が日本の立場を理解しないせい”になっています。自ら賛成したはずの国会決議さえ満足にできていない「日本の立場」の何を理解しろと言うのでしょうか?

産経新聞社説(1993年8月5日)

【主張2】すべてが「強制」だったのか

1993.08.05
 慰安婦問題が政治問題化して以来の政府の対応は怠慢にして不誠実きわまりないものだった。最初は「軍が関与したことはない」と言い逃れ、韓国側の追及が強まるのに応じて態度がゆれた。外圧によって歴史に属する部分まで歪めたという点で、これは教科書問題と酷似している。今後、民間主導でかつての慰安婦問題に誠意を示すことには大賛成だが、そのプロセスに大きな問題があったといわざるを得ない。

http://d.hatena.ne.jp/hagakurekakugo/20071002/p2

あの被害者の人権を踏みにじることを事実上の社是にしている産経新聞でさえ、河野談話当時は「民間主導でかつての慰安婦問題に誠意を示すことには大賛成」と言い切っています。「民間主導でかつての慰安婦問題に誠意を示すこと」とは、後のアジア女性基金を指すようにも思えます。ところが平然と嘘をつく新聞と称する怪文書である産経は2011年10月13日の社説で、アジア女性基金に対して以下のように吐き捨てます。

産経新聞【主張】
慰安婦基金 前原氏の構想は禍根残す
2011.10.13 03:04(1/2ページ)[歴史認識
アジア女性基金は、いわゆる「従軍慰安婦」の強制連行を根拠なしに認めた平成5年の宮沢喜一内閣の河野洋平官房長官談話などを踏まえ、7年に発足した。

2007年2月6日には、産経文化人に堕した秦郁彦氏に「正論」と称する中傷行為を行わせています。
【正論】秦郁彦 アジア女性基金の遅すぎる解散(リンク切れ)」では、「和田春樹専務理事が「政府の形を変えた支援措置が望まれる」と未練たっぷりに書いている」「税金の壮大な無駄遣い」「筆者は以前から河野という政治家のあやふやな歴史認識に危惧(きぐ)の念を抱いてきた」などと、これでもかと言わんばかりに個人・団体に対する誹謗中傷が繰り返されてます。

産経新聞は政治的に露骨に偏向し、政治的に敵対する勢力に対しては平気で虚偽を掲載する営利企業ですが、それでも1993年の「民間主導でかつての慰安婦問題に誠意を示すことには大賛成」という意見が、無かったことにされたことを指摘しておくことには意味があるでしょう。
金と政治権力の為なら平気で、世間を騙す新聞として記憶しておくべき、という意味で。