戦争法案は他国の領域での武力行使を禁止していない

この件。

 武藤 軍事も専門的になってきて「徴兵制」は意味がありません。それに今回の法案では他国の領域で武力行使を行うことは禁じられており、日本が侵略を行うこともありえません。にもかかわらずそれを恐れることは扇動されているとしか考えられません。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150807-00079722-toyo-bus_all&p=2
http://d.hatena.ne.jp/davs/20150813/1439413588

「徴兵制」の部分ではなく「今回の法案では他国の領域で武力行使を行うことは禁じられており」と言う部分が気になり、調べてみましたが、法案そのもののどこを見ても「他国の領域で武力行使」を禁じる条文は見い出せませんでした。
国会審議を確認してみるとこんなやり取りがあります。

平和安全法制に関する特別委員会(平成27年6月1日 議事録)

安倍内閣総理大臣 他国の領域につきましては、三要件の第三要件にありますように、必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、こう書いてあります。これは、いわば憲法の要請でございます。
 そこで、政府としては、海外派兵は一般に許されないという立場でございまして、武力の行使を目的としていわば自衛隊を海外派兵するということは一般に許されないという立場でございます。

○玄葉委員 本当にそれは成り立つんでしょうかね。少なくとも、今出されている法律からは読めません、今出されている法律からは。私はてっきり、他国の領域でもこれはやるのかと思いました、あの法律を読む限りでは。
 本当に、総理大臣、よろしいんですか。

http://www.kgemba.com/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E/1377/

玄葉議員が言うように「武力の行使を目的としていわば自衛隊を海外派兵するということは一般に許されない」などとは「今出されている法律からは読めません」。
どうも、安倍政権の主張では、「三要件の第三要件」が「他国の領域で武力行使を行うこと」を禁止していることになっているようですが、実際に三要件が戦争法案中にどう書かれているか見てみましょう。

武力攻撃事態対処法改正案

第3条5項
 武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあっても、その制限は当該武力攻撃事態等及び存立危機事態に対処するため必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。この場合において、日本国憲法第十四条 、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

http://www.cas.go.jp/jp/houan/150515/siryou4.pdf

念のため、新三要件なるものの解説。

武力行使の新3要件

安倍内閣が昨年7月に閣議決定した集団的自衛権を使う際の前提条件。(1)密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある〈存立危機事態〉(2)我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない(3)必要最小限度の実力行使にとどまる――の3点からなる。
(2015-07-15 朝日新聞 朝刊 4総合)

https://kotobank.jp/word/%E6%AD%A6%E5%8A%9B%E8%A1%8C%E4%BD%BF%E3%81%AE%E6%96%B03%E8%A6%81%E4%BB%B6-896928

安倍政権はどの条文が三要件に該当しているのか、明言していませんので、これが第三要件の条文であると断言できませんが、辛うじて見い出せたのが上記条文です。「最小限」の文言が含まれる条文がこれしかないからですが。
もっとも正直、これをどう読めば、「他国の領域で武力行使を行うこと」を禁止しているのか理解はできません。
それも当然で、改正前の現行武力攻撃事態法におけるこの条文は、日本が武力攻撃を受けた場合の対処に際し「国民の自由と権利」を侵害せざるを得ないことを想定し、その上でその侵害を武力攻撃事態に「対処するため必要最小限のもの」に制限するという規定です。具体的には、反撃や防備のために民家を接収・破壊し陣地とするような場合ですね。
ですから、海外で行使される「存立危機事態」の対処としては、この規定はほぼ意味を為しません。
せいぜい紛争地における在留邦人の資産を処分することを正当化できるくらいの意味を持つくらいですが、「他国の領域で武力行使を行うこと」を禁止しているとは文面からは到底読みえません。

改正案条文を素直に理解する限り、「武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処」の際に「日本国憲法の保障する国民の自由と権利」「に制限が加えられる場合にあっても、その制限は」「必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない」と言ってるだけです。
つまり、「日本国憲法の保障する国民の自由と権利」に対する制限が必要最小限のものに限られるだけで、逆に言えば「日本国憲法の保障する国民の自由と権利」さえ制限しなければ、武力行使の度合いは何ら制限を受けないと読めるわけですね。
要するに日本国民が在留していない他国での武力行使は何も制限されていません。

それでも、安倍首相が「武力の行使を目的としていわば自衛隊を海外派兵するということは一般に許されない」と答弁しているのなら、条文の解釈として議事録を考慮することも出来るかもしれませんが、しかし、上記審議の続きでこんなことを言い出します。

平和安全法制に関する特別委員会(平成27年6月1日 議事録)

安倍内閣総理大臣 先ほど申し上げましたように、いわば第三要件の、非常にこれは厳しいものでありますから、一般にというものは、ほとんど、これがまさに通例であるということ、一般にということはほとんどのものが該当していくということでございまして、ですから、その上において、果たして、では例外は何かということで念頭にあるのはまさにホルムズにおける機雷掃海でございまして、これ以外のものは念頭にはございません。

http://www.kgemba.com/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E/1377/

機雷掃海の話を持ち出し、「武力の行使を目的としていわば自衛隊を海外派兵するということは一般に許されない」というのは絶対に許されないわけではなく、例外があると言い出すわけですね。
何が許されない武力行使を目的とした海外派兵で、何が許される武力行使を目的とした海外派兵なのか、具体的な線引きは全く明確にされていません。そもそも、法案条文上は武力行使を目的とした海外派兵が禁止されているとすら読めませんからね。

せめて、その辺を明確にするよう法案を修正すべきでしょうが、安倍政権は法案に明示することを拒絶します。

平和安全法制に関する特別委員会(平成27年6月1日 議事録)

安倍内閣総理大臣 つまり、これは憲法上の要請でございますから、憲法上の要請として、ここで再三答弁をさせていただいておりますように、武力行使を目的として自衛隊を海外に出す、派兵するということについて、これは一般には許されないというのが基本的な一貫した立場であります。
 繰り返し申し上げているとおりでございまして、同じ議論を実はさせていただいているんですが、その際、法制局長官からも答弁をさせていただきましたが、これは同じでございますが、いわば外国の領土、領空、領海に入っていくのは公海等とは全然要件が違うわけでありまして、まさにこれは一般に許されないという中に入ってくるわけでございますから、その中において、果たして、一般にの中においての外になる、例外に当たるものは何かと考えたときに、我々は、ホルムズ海峡しかないであろう、このように考えているところでございます。
 これは政府の見解であり、いわば憲法上の要請でございますから、既にこれは、法律にあえて書く必要はない、このように考えているわけでありますし、三要件については、三要件自体が法律に事実上書き込まれていると我々は考えているところでございます。

http://www.kgemba.com/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E/1377/

武力行使を目的とした海外派兵が許される「例外」とは何か、それを法律に書くつもりはないと言ってるわけですね。
「三要件については、三要件自体が法律に事実上書き込まれていると我々は考えている」とも言ってますが、「事実上」と言うように、安倍政権側の理解としても明示的に三要件が書かれるとは思っていないわけですね。

実際、こう指摘されています。

安保法案の欠陥を衝く/倉持麟太郎

<第3回>武力行使に歯止めなし 新3要件は法律に明記がない

 新3要件につき、第1要件の存立危機事態は、事態対処法3条4項に規定されているが、第2要件の存立危機事態を排除するのに、武力行使以外に“国民を守るために他に適当な手段がないこと”、第3要件の武力行使が“必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと”については、今回の安保法制において、明記されていないのだ。

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/162664/1

倉持氏の指摘では、第3要件は法案上に明記されていないということです。
つまり、冒頭の「今回の法案では他国の領域で武力行使を行うことは禁じられており」という武藤議員の発言はデタラメだということでしょうね。

戦争法案は他国での武力行使を容認している

実は審議の過程で戦争法案の粗が結構ボロボロと見つかり指摘されています。メディアが安倍政権に抑圧され、まともな報道ができてないだけです。

第189回国会 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第17号(平成27年7月3日(金曜日))

第17号 平成27年7月3日(金曜日)
○横畠政府特別補佐人 これも何度かお答えしているところでございますけれども、繰り返し申し上げます。
 従来から、政府は、いわゆる海外派兵、すなわち、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって憲法上許されないと述べてきております。
 これは、我が国に対する武力攻撃が発生し、これを排除するために武力を行使するほか適当な手段がない場合においても、対処の手段、態様、程度の問題として、一般に他国の領域において武力の行使に及ぶことは第三要件の自衛のための必要最小限度を超えるという基本的な考え方を示しているものでございます。
 その上で、政府は、その例外として、従前から、いわゆる誘導弾等の基地をたたく以外に攻撃を防ぐ方法がないといった場合もあり得ることから、仮に他国の領域における武力行動で自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としてはそのような行動をとることが許されないわけではないとしてきており、この趣旨は、昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解によって既に明らかにされているところでございます。

http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/029818920150703017.htm

安倍政権の答弁は、他国での武力行使は“一般に”禁止されている、しかし“例外”があり、それは憲法に違反しないし、他国での武力行使を禁止する条文で明記するつもりもない、というものです。“例外”も当初は、ホルムズ海峡での機雷掃海のみ、と答弁し、「誘導弾等の基地をたたく以外に攻撃を防ぐ方法がないといった場合」が追加されています。

現実問題として、安倍政権が強行している戦争法案は、他国領域での武力行使をフリーハンドで容認する、まさに「戦争法案」という他ありません。


安倍政権や自民党公明党を支持している人たちは、平和を売って戦争を買った、株価のために子どもの命を売った、と自覚してほしいものですね。