モラハラに関する話、あるいは、モラハラという言葉は被害当事者以外が加害者を非難する文脈で使用されるべきではない件

どうにも「モラハラ」という言葉を便利な罵倒語として利用している人がいるようですのでまとめ的に書いておきます。

定義のあいまいさ

名古屋離婚解決ネットにはこのように書かれています。

モラハラは暴力です

肉体的暴力ではないと言っても精神的暴力も暴力には違いありません。
そのため、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)の1条でも、「配偶者からの暴力」を次のように定義しています。
(1)配偶者からの身体に対する暴力
(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの)
(2)(1)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動
モラハラのような精神的暴力は法律上も暴力と定義づけられているわけです。

http://www.nagoya-rikon.jp/tisiki7.html

モラハラ」は「精神的暴力」であり、法律上も暴力と定義されている、とのことです。

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 (平成十三年四月十三日法律第三十一号)

(定義) 
第一条  この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項及び第二十八条の二において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO031.html

ここでいう「モラハラ」は、「身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの」に準ずる「心身に有害な影響を及ぼす言動」となっています。
殴る・蹴るといった物理的な暴力行為に「準ずる」言動ですから、普通に考えれば、大声での罵倒・暴言や脅迫といったそれ単独でも一般に問題視されるような言動を指すと言えるでしょう。
つまり、いやみや侮辱、からかい程度では、DV防止法上の「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」とは考えにくいと思います(判例を調べていませんのでなんともいえませんが)。

もし「モラハラ」をDV防止法の「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」と定義するなら、「モラハラ」と呼ばれうる言動はかなり制限されることになります。

しかし、もともとの「モラハラ」の定義は「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」といった意味とはだいぶん異なっています。

モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする

パワー・ハラスメントは、多くの場合、怒鳴ったり大声で責めたりなど、周りからみても明らかにやりすぎだというケースが多く、それを指摘するのは、それほど難しいことではありません。例えば、課長や先輩社員が、新人に対して、繰り返し必要以上に大声で怒鳴ったり、厳しく叱責したりするようなケースでは、そのパワー・ハラスメントを指摘することはそれほど難しくありません。
モラル・ハラスメントという言葉を提唱した、イルゴイエンヌの最大の貢献は、「いじめ」や「パワー・ハラスメント」という概念では説明できない、微妙な精神的な嫌がらせの特徴を、うまく捉えているからだと管理人は考えています。
それはつまり、モラル・ハラスメントが「静かに・じめじめと・陰湿に」行われることであり、それによって他人の人格や尊厳を傷つけることができるということです。

http://work-harassment.com/faq-morahara.html

マリー=フランス・イルゴイエンヌによれば、「怒鳴ったり大声で責めたりなど、周りからみても明らかにやりすぎだというケース」は「パワー・ハラスメント」であり、その「概念では説明できない、微妙な精神的な嫌がらせ」を「モラル・ハラスメント」となっています。
つまり、DV防止法上の「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」というのは、イルゴイエンヌの定義だと「パワハラ」に相当し、「モラハラ」とは言いにくいということになります。

「(「静かに・じめじめと・陰湿に」行われる)微妙な精神的な嫌がらせ」と「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」

イルゴイエンヌ定義の「モラハラ」と、DV防止法に規定される精神的暴力とでは、形態に随分と差があると言えます。
これを総称して「モラハラ」と定義することもできなくは無いでしょうが、これは少し大雑把過ぎる定義です。
本来なら、「(「静かに・じめじめと・陰湿に」行われる)微妙な精神的な嫌がらせ」をモラハラとし、「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」をパワハラと言った方が適切でしょう。
逆にこれらを総称してしまうと、次のような弊害が起こります。

以下、「(「静かに・じめじめと・陰湿に」行われる)微妙な精神的な嫌がらせ」を「狭義のモラハラ」、「狭義のモラハラ」と「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」を合わせたものを「広義のモラハラ」と定義します。

やたらと広い範囲の言動を「モラハラ」認定して、排除・糾弾の根拠とする手法

つまり「狭義のモラハラ」に該当しそうな言動を何でもかんでも取り上げて「モラハラ」認定し、「広義のモラハラ」の一部である「パワハラ」に対する規制を適用手法です。言ってみれば「モラハラ」のロンダリングを行うわけです。
「(「静かに・じめじめと・陰湿に」行われる)微妙な精神的な嫌がらせ」程度の“いやみ”や“侮辱”を「広義のモラハラ」だと認定することで、“いやみ”や“侮辱”が「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」(パワハラ)であるかのようにすりかえ、DV防止法違反だと主張するやり方です。

この論法を使う人の特徴は、自身の言動に対しては「モラハラ」であることをみとめない点にあります。

それも当然で、「(「静かに・じめじめと・陰湿に」行われる)微妙な精神的な嫌がらせ」を「(身体に対する暴力)に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」であるかのようにすりかえて相手を糾弾する行為、それそのものが「(「静かに・じめじめと・陰湿に」行われる)微妙な精神的な嫌がらせ」であるからです。

簡単に言えば、何でもかんでも「モラハラだ」と騒いで相手を精神的に追い込む行為がまさにモラハラである、ということです。

例えばこんな感じ。

千田有紀‏ @chitaponta
高卒で勤務経験もなく、子育ては無理という彼女に親権を押し付け、助けを無視し、子どもの誕生日に連絡もしなかった元夫。生きるための売春で性暴力のトラウマを再燃させ、解離性人格障害を悪化させた彼女に必要だったのは、養育費や社会からの援助で、元夫からの監視ではない。モラハラ思考そのもの。

https://twitter.com/chitaponta/status/842130302596141057

大阪の事件における元夫や私に対する「(「静かに・じめじめと・陰湿に」行われる)微妙な精神的な嫌がらせ」と言える言動です。

フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌは、著書『モラル・ハラスメント』のなかで、加害者が相手を不安に陥れるためによく使う方法について、次のように記しています。

•政治的な意見や趣味など、相手の考えを嘲弄し、確信を揺るがせる
•相手に言葉をかけない
•人前で笑い者にする
•他人の前で悪口を言う
•釈明する機会を奪う
•相手の欠陥をからかう
•不愉快なほのめかしをしておいて、それがどういうことか説明しない
•相手の判断力や決定に疑いをさしはさむ

https://allabout.co.jp/gm/gc/301547/3/

「相手の考えを嘲弄」「人前で笑い者にする」「他人の前で悪口を言う」「不愉快なほのめかしをしておいて、それがどういうことか説明しない」あたりに当てはまりますかね。

ところで名古屋離婚解決ネットにはこのように書かれています。

どんな人がモラハラをするの?

モラハラの加害者は、高収入・高額歴の方に多いです。
たとえば、大企業のエリートサラリーマンや医師、上級国家・地方公務員、高度専門職、政治家などです。対して被害者となる妻は専業主婦で無職という場合が多いため、被害者としては加害者に逆らってはいけない、自分が我慢しなくてはならない、と思い込んでしまうのです。

http://www.nagoya-rikon.jp/tisiki7.html

おや、大学教授である千田氏などは、このモラハラの加害者像にピタリと当てはまるではないですか。

まあ、私はこの手のモラハラ加害者像は信じないので、以前もこう書いているんですよね。
「モラハラ加害者の特徴」なるものの使用法、あるいは使用時の留意点
「モラ夫」という表現

モラハラ関係では「モラハラ加害者の特徴」が一人歩きし離婚などに際して相手を攻撃する手段としてのモラハラ加害者扱いに利用されているようにも思われます。「「モラハラ加害者の特徴」なるものの使用法、あるいは使用時の留意点」でも書いたように、「モラハラ加害者の特徴」をあくまで被害者自身の「気づき」を支援するツールに過ぎない点に留意し、被害者の支援者はじめ第三者が不用意に利用するのは控えるべきだと考えます。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130312/1363102014

不用意な「モラハラ」認定は冤罪と人権侵害の温床であると私は考えています。