バカでもわかる国際司法裁判所

国際司法裁判所というのは、国家間の法的な紛争を国際法に従って解決する国連機関です*1国際司法裁判所に紛争を付託できるのは国家だけです。
国際司法裁判所の管轄権は、国家が裁判所に付託するすべての問題、国連憲章や条約・協定が規定するすべての事項に及びます。当事者となる国家が裁判所の管轄権を受け入れる方式には、裁判所に付託することを規定した条約・協定に署名する方法(条約の条項)、予め裁判所の管轄権を受け入れる旨を宣言する方法(一方的宣言)、紛争当事国双方が裁判所の管轄権を受け入れに合意する方法(特別の合意)、の三つがあります。
裁判所の管轄権を受け入れる方式は、同じ国であっても紛争課題によって異なります。

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提訴しろというコメがあるがどこに提訴しろと?(笑)韓国は選択条項を受諾してないので国際司法裁への提訴を拒否できる。もっとも韓国が選択条項を受諾すれば日本が真っ先に提訴するのは「竹島問題」だろうけどね。

2018/01/18 08:35
b.hatena.ne.jp

こういう訳の分からないことを言う人がいますが、この人は同じ国でも紛争課題によって条約の条項として管轄権を受け入れているものもあれば、対象となる条約が存在せず管轄権を受け入れるかどうかをその都度判断できるものもある、ということを理解していません。

独島(竹島)問題

日本と韓国の間には、国境問題に関して国際司法裁判所に付託することを規定した条約が存在しません。したがって、紛争当事国双方が紛争当事国双方が裁判所の管轄権を受け入れに合意するか、双方が予め裁判所の管轄権を受け入れる一方的宣言をしていない限り、裁判は成立しません。

日本外務省のサイトでは、独島(竹島)問題に関して、このように説明されています。

(注2)ICJは,紛争の両当事者が同裁判所において解決を求めるという合意があって初めて当該紛争についての審理を開始するという仕組みになっています。我が国は,国際社会における「法の支配」を尊重する観点から,1958年以来,合意なく相手国が一方的に我が国を提訴してきた場合でも,ICJの強制的な管轄権を原則として受け入れています。しかし,韓国はこのような立場をとっていません。したがって,仮に我が国が一方的に提訴を行ったとしても,韓国が自主的に応じない限りICJの管轄権は設定されないこととなります。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/g_teiso.html

なお、日本外務省による上記説明は、日本は「法の支配」を尊重するからICJの強制的な管轄権を原則として受け入れているが、韓国はこのような立場をとっていないとして、韓国が「法の支配」を尊重していないかのような書き方をしていますが、「各国はその紛争を解決する手段を選ぶ主権と自由を有して」いるというのが国連の立場ですので、それ自体が問題とは言えません。

関係国は裁判所に事件を付託できる権利を持ち、裁判所の管轄権を承諾しなくてはなりません。つまり、問題になっている紛争解決のために裁判所の司法手続きの当事国となることに同意するということです。これは国際紛争の解決を律する基本原則であり、各国はその紛争を解決する手段を選ぶ主権と自由を有しています。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/g_teiso.html

また、強制的管轄権受諾宣言は相互主義のため、宣言を行っていない韓国が日本を提訴したとしても日本に応じる義務があるわけでもありません。ついでに言うなら、日本は強制的管轄権受諾宣言を、国際司法裁判所での南極海捕鯨事件裁判で敗訴した直後に改訂し、捕鯨に関する紛争を強制的管轄権受諾宣言から除外してもいます*2。日本が誇る「「法の支配」を尊重する観点」というのはその程度のものです。
ちなみにこの強制的管轄権受諾宣言をしているのは2018年1月現在73か国*3です。

ウィーン大使館条約

ウィーン大使館条約には、日本も韓国も加盟しています。そしてこのウィーン大使館条約には「紛争の義務的解決に関する選択議定書」というものが付随しています。その内容は次のようなものです。

第一条
条約の解釈又は適用から生ずる紛争は、国際司法裁判所の義務的管轄の範囲内に属するものとし、したがつて、これらの紛争は、この議定書の当事国である紛争のいずれかの当事国が行なう請求により、国際司法裁判所に付託することができる。

https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/vcdrp.htm

Article I
Disputes arising out of the interpretation or application of the Convention shall lie within the compulsory jurisdiction of the International Court of Justice and may accordingly be brought before the Court by an application made by any party to the dispute being a Party to the present Protocol.

https://treaties.un.org/doc/Publication/UNTS/Volume%20500/volume-500-I-7312-English.pdf

ウィーン大使館条約に関する紛争は、国際司法裁判所の義務的管轄の範囲内であるという内容の議定書です。これが裁判所に付託することを規定した条約・協定に署名する方法(条約の条項)にあたります。
この選択議定書に、日本は1962年3月26日に署名し、1964年6月8日に批准、韓国は1962年3月30日に署名し、1971年1月25日に批准しています。

したがって、ウィーン大使館条約に関する紛争については、日本は韓国を提訴することが出来、国際司法裁判所に事件を付託できるわけです。

まとめ

独島(竹島)問題については、日本と韓国が特別に合意しない限り(あるいは韓国も一方的宣言を行わない限り)、その紛争を国際司法裁判所に付託することはできません。
しかし、ウィーン大使館条約に関する紛争については、同条約に関する紛争を国際司法裁判所に付託する紛争の義務的解決に関する選択議定書に日本も韓国も署名しているため、いずれか一方が提訴すれば国際司法裁判所に付託することができます。

ソウルの大使館前の慰安婦少女像や徴用工像がウィーン条約に違反すると日本政府が本気で考えているのならば、日本は国際司法裁判所に提訴し付託することができるわけです。
韓国に徴用工像阻止へ働き掛け 政府「国際条約順守を」(2018/1/17 17:57、©一般社団法人共同通信社)

以上、バカでもわかる程度にわかりやすく書いたつもりですが、暗黒太陽には難しすぎて理解できなかったかも知れませんね。



*1:それ以外に国連機関に対して法律的問題について勧告的意見を与える役割も持っています。

*2:http://www.jsil.jp/expert/20160505.pdf

*3:http://www.icj-cij.org/en/declarations