「刑法改正20回」は「異常事態」か?

北朝鮮・中国問題研究家なる宮田敦司氏がこんなことを書いていました。

金正恩体制崩壊へのカウントダウン 治安悪化で刑法改正20回の異常事態

1/2(水) 5:59配信 デイリー新潮
(略)

若者の凶悪犯罪の増加

 北朝鮮では若年層の犯罪が増加して社会問題化している。北朝鮮にも刑法があるのだが、その刑法は2000年以降、細かなものを含めると20回も改正されている。これは異常事態だ。これだけ頻繁に改正されているということは、北朝鮮の治安が、法律が追いつかないほど急速に悪化していることを意味するからだ。
 頻繁な改正の背景には、青少年で構成された犯罪組織による強盗、窃盗、強姦などの急増がある。これは、社会への不満が若者の間で高まっていることを意味する。
(略)
取材・文/宮田敦司(北朝鮮・中国問題研究家)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190102-00554077-shincho-kr

では、2000年以降の日本での刑法改正の状況を見てみましょう。

(※以下の冒頭数字は2000年以降の改正回数連番で引用者による)
1.改正 平成13年 7月 4日号外法律第97号〔第一一次改正〕
2.改正 平成13年12月 5日号外法律第138号〔第一二次改正〕
3.改正 平成13年12月12日号外法律第153号〔保健婦助産婦看護婦法の一部を改正する法律附則三八条による改正〕
4.改正 平成15年 7月18日法律第122号〔第一三次改正〕
5.改正 平成15年 8月 1日号外法律第138号〔仲裁法附則一三条による改正〕
6.改正 平成16年 6月18日号外法律第115号〔国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律附則三条による改正〕
7.改正 平成16年12月 8日号外法律第156号〔刑法等の一部を改正する法律一条による改正〕
8.改正 平成17年 5月25日号外法律第50号〔刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律附則一七条による改正〕
9.改正 平成17年 6月22日号外法律第66号〔刑法等の一部を改正する法律一条による改正〕
10.改正 平成18年 5月 8日号外法律第36号〔刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律一条による改正〕
11.改正 平成19年 5月23日法律第54号〔第一四次改正〕
12.改正 平成22年 4月27日号外法律第26号〔刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律一条による改正〕
13.改正 平成23年 6月24日号外法律第74号〔情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律一条による改正〕
14.改正 平成25年 6月19日号外法律第49号〔刑法等の一部を改正する法律一条による改正〕
15.改正 平成25年11月27日号外法律第86号〔自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律附則二・七条による改正〕
16.改正 平成28年 6月 3日号外法律第54号〔刑事訴訟法等の一部を改正する法律三条による改正〕
17.改正 平成29年 6月21日法律第67号〔組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律三条による改正〕
18.改正 平成29年 6月23日号外法律第72号〔第一五次改正〕
19.改正 平成30年 7月13日号外法律第72号〔民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律附則一三条による改正〕

http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewEnkaku.do?i=0GpZz3wYxdHSJPKiChaaMQ%3D%3D

日本の刑法は2000年以降「細かなものを含めると」19回改正されていることがわかります。刑法改正20回は「異常事態だ」が、19回は異常ではないというのはさすがに無理のある主張です*1
宮田氏は2000年以降19回に及ぶ日本の刑法改正の状況も知らずに北朝鮮の「刑法改正20回」を「異常事態」と断じて、その原因を「青少年で構成された犯罪組織による強盗、窃盗、強姦などの急増」と決め付け「社会への不満が若者の間で高まっていることを意味する」と述べていますが、根拠としては極めて薄弱という他ありません。



*1:ちなみに「細かなもの」を除いても、日本の刑法改正は第11次から第15次の5回行われています。1907年制定の刑法が1995年までの約90年間に第10次改正までだったのを踏まえれば、2000年以降の改正ペースはかなり速いと言えます。