この件。
中国総領事館「中国人への援助?しないから神戸市でやって」
こんなことがあったそうです。
神戸市長殿
神保総保第1468号の御紹介をいただきまして、厚く御礼申し上げます。
中国国籍を有する○○○に対する保護又は援助制度の有無について、申し訳ございませんが、現在中国政府は海外定住の中国人を対象とする経済援助制度がまだ出来ておりませんので、貴市から必要な保護又は援護をして頂ければ有り難く存じます。
これに関して、神戸市議会議員の上畠寛弘氏(自民党)がツイッターで中国を罵倒しています。
うえはた のりひろ神戸市会議員 (東灘区選出) @NorihiroUehata @ChnEmbassy_jp 偉そうに言ってますが、中国大使館傘下の総領事館が、神戸市が生活保護を求めてきた中国人の存在を伝えたのに神戸市で保護をしろとはどういうことなのか!あなた方の自国民たる中国人の保護は中国政府、中国大使館の責任でしょう!よく他国の自治体に丸投げしますね!恥を知りなさい!@ChnEmbassy_jp pic.twitter.com/YRbBt8Pn3A
https://twitter.com/NorihiroUehata/status/1170700148369805312
2019-09-08 23:07:20
この件については法輪功系の大紀元が以前(2018/12)報じており、上畠市議についても言及されています。
「中国領事館が在日の生活保護を断る 神戸市の外国人生活保護コストは年間58億円(2018年12月06日 16時48分 )」
ちなみに法輪功系なだけあって、大紀元は極めて反中傾向の強いメディアです。
それはそれとして、上畠市議のツイートの内容は無茶苦茶です。
神戸市が生活保護を申請した中国国籍者について中国側に照会したのは基本的には扶養照会の一環でしょうから怪しむに足りませんが、それを教えてやったみたいな態度はまずもって論外です。
で、日本在住の外国人が困窮した際に生活保護を受けることが出来るというのは、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」という1954年の通知からすれば当然の運用でしかありません。
ネット上では、平成26年7月18日の最高裁判決が外国人の生活保護を違法としたかのように主張する人が大勢いますが、実際にはそれはデマに過ぎません。
参考:「外国人の生活保護は違法」は誤り ”最高裁の判決”がネットで拡散、厚労省の見解は?
また、そもそも平成26年7月18日最高裁判決には批判も多く、対象とされる範囲も限定的とも解釈されています。
参考1:永住外国人の生活保護に関する最判平26.7.18のレベルと誤り――主として行政法,民訴法論点から―― 斎藤浩
参考2:社会保障法判例 外国人への生活保護法の適用又は準用を否定した事例(生活保護開始決定義務付け等請求事件) 永野仁美
まあ、自民党はもともと生活保護に否定的な政党ですし、社会権に関する解釈も極めて狭いのでしょうから、こういう発言をする市議がいてもおかしくはありませんけどね(それで中国の人権問題を訴えるというのは失笑ものですけど)。
「あなた方の自国民たる中国人の保護は中国政府、中国大使館の責任でしょう!よく他国の自治体に丸投げしますね!恥を知りなさい!」(上畠市議)
まあ、中国に対して、海外定住の中国人を対象とした経済援助制度の整備を求めること自体は正当だと思いますけどね。
では、日本には海外定住の日本人を対象とした経済援助制度があるんでしょうか?
一応、国援法(国の援助等を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律、1953年)というのがありますが、困窮者に対する援護の内容は帰国費のみであり、それすらも実質的には機能していないと指摘されています*1。
例えば、フィリピンでは困窮邦人が「2010年で1,354人が駆け込んで」いるそうですが、1997~2006年度の援護実績はフィリピン以外の地域を含めて年間3~34件といった有様です*2。援護額については、2007~2012年度の国費貸付金債権の各年度発生額は1~2百万円に過ぎません*3。
2012年度の困窮邦人の帰国費申請件数はわずか21件で金額は200万円ですから1件当たり10万円程度といった状況です*4。
しかも、あくまで貸付であって帰国後に返済を求められ、本人が払えない場合は親族に督促がいく制度です。
<事例>
http://report.jbaudit.go.jp/org/h18/2006-h18-0082-0.htm
在カンボジア大使館では、平成12年9月にカンボジアからの帰国者に対して、160,650円を貸し付けている。帰国者から帰国届が提出されなかったため、外務本省は同年11月及び13年2月に帰国者の住所を調査した。しかし、住所が判明しなかったため、同年3月に親族の住所を調査した。その結果、帰国者の長男及び長女の連絡先が判明したことから、外務本省は同年5月に帰国者あての納入告知書等を帰国者の長男気付で送付した。長男は納入告知書等の受取を拒否したが、外務本省はその時点で督促等を行わず、納入告知書等の送付から3年半以上経過した17年1月に帰国者の長女に督促等を行った。その後、帰国者から電話で連絡があり、外務本省では、帰国者に督促等を行い、18年5月に全額が償還された。
日本の在外日本人に対する援護制度
http://www.soumu.go.jp/main_content/000361827.pdf
帰国費貸付金債権 国の援助を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律に基づき在外邦人を国が援助して帰国させるために領事官が外国において貸付けた帰国旅費貸付金に係る債権 海外滞在費貸出金債権 盗難、紛失その他やむを得ない理由により、海外での滞在に要する金銭等を一時的に失った在外邦人に対して、金銭等を調達するまでの間の滞在に必要な経費について領事官が外国において貸出した海外滞在費貸出金に係る債権
制度としては上記のようなものがありますが、海外で定住している日本人を対象としたものとは言えません。また、帰国することと帰国後にその費用を返済することが前提となっている以上、海外に長く定住し、日本国内で就業できる見込みもなく日本国内に頼れる親族もいない日本人には利用しようがありません。
で、上畠市議の発言「あなた方の自国民たる中国人の保護は中国政府、中国大使館の責任でしょう!よく他国の自治体に丸投げしますね!恥を知りなさい!」ですが、日本政府は自国民たる日本人の保護に責任を持っていると言えるでしょうかね?
中国政府は「現在中国政府は海外定住の中国人を対象とする経済援助制度がまだ出来ておりません」と言っていますが、日本にも海外定住の日本人を対象とする経済援助制度なるものは実質的にないですよね。
中国国内の香港やウイグルやチベットの人権問題を訴えるのは結構ですが、確たる根拠も示さず暴力事件を中共の自作自演呼ばわりしたり、香港デモやウイグル・チベットの人権問題と全く無関係な、困窮して生活保護を求めた在日定住中国人に対して、あたかも生活保護をすべきではないと主張するかのようなツイートは政治家としての見識を疑いますし、中国国内の人権問題を訴えながら、日本国内の人権問題は放置するとか、政治課題の優先順位も歪んでいるといわざるを得ません。
政治家なら自国の人権問題に取り組み改善して、その結果をもって、他国に人権問題に取り組まねばならないと思わしめる範となるべきでしょう。
日本の人権問題には興味が無いが、中国の人権問題は放置できないと思っているのならば、今すぐ議員を辞めて、香港のデモに加わるべきなんじゃないですかね。
*1:http://フィリピン.pw/philippine/kokuen/
*2:http://report.jbaudit.go.jp/org/h18/2006-h18-0082-0.htm
*3:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000070867.pdf、https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000070868.pdf
*4:https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/yosan_kessan/kanshi_kouritsuka/gyosei_review/h25/h24jigyo/pdfs/094.pdf