ちょっとした誤りの指摘と離婚後共同親権の利点について

こどもは二人で作るが、本当の意味での親はその二人とは限らない。共同親権について。 - 猫さえいれば・・・。なあんて、のんきな事言ってられないプアの怒り。
上記記事中に猫星人 (id:nekoseijin)氏の認識に誤りがありますので、訂正します。

平成29年の結婚と離婚の統計(厚生労働省HP)

(図略)
六十万人が結婚、二十一万人が離婚。
同じく厚生労働省HPより離婚原因 (H10年ですが)
(図略)

男女の申し立て比率を平均して、

「暴力」「異常性格」「生活費を渡さない」「精神的虐待」「家庭を顧みない」
「浪費」「酒を飲み過ぎる」などの理由が合計で約30%。

年度も違うし、ほんの参考の数値だけど、210000✖30%=63000 
一年におよそ63000人が虐待や家庭放棄の為に離婚している事になる。

http://nekoseijin.hatenablog.com/entry/2019/10/03/014840


まず、「六十万人が結婚、二十一万人が離婚」というのは人口動態統計からの数値ですが、「離婚原因 (H10年ですが) 」というのは司法統計からの数値です。人口動態統計にある離婚件数は全ての離婚件数が対象ですが、司法統計の「離婚原因」の対象は婚姻事件申立件数であって、裁判所を介さない協議離婚は含まれていません。さらに、婚姻事件申立件数は約5万件くらいありますが、そのうち最終的に離婚に至るのはそのまた半数程度の3万件弱です(調停不成立や取り下げが2万件以上あります)。

つまり、21万件の離婚のうち「離婚原因」の統計をとっているのは約3万件程度で、それ以外は統計上「離婚原因」不明です。

次に「男女の申し立て比率を平均して、「暴力」「異常性格」「生活費を渡さない」「精神的虐待」「家庭を顧みない」「浪費」「酒を飲み過ぎる」などの理由が合計で約30%」と言っていますが、この「離婚原因」の統計の基になっている調停申立書*1には、複数選択を認めていますので、合計したら過大評価になります。
さらに、上記で挙げている原因のうち「暴力」を除くものについては「極端に言ってしまえば、よくわからない場合には○を付けておく、くらいの感覚でも大丈夫」という弁護士もいるくらいで統計としての信頼度には疑問があります。

重複回答の影響を除くため「暴力」だけにしぼると、夫の申立てでは5%、妻の申立てでは30%になります。申立件数の夫婦比率は夫1:妻3ですから平均は25%程度です。

つまり、「離婚原因」の統計をとっているのは約3万件程度のうち、「暴力」を原因としたものはその25%である約7500件程度となります。


そういうわけで猫星人氏の「一年におよそ63000人が虐待や家庭放棄の為に離婚している事になる」という認識は誤りであり、ソースとしている統計に基づく限り、1年に約7500組が「暴力」のために離婚しているということになります。
まあ、さらに言うなら、その「暴力」も離婚を申し立てている側が主張しているだけで事実認定がされているわけではありません。申し立てられた側の言い分がこの統計上には表れませんので、事実、申し立てられた側による一方的な暴力だったのか、双方暴力を振るいあう状態だったのか、あるいは暴力と言えるものは無かったのか、その辺は全く不明で、1年に7500組というのも過大に見積もっている可能性はありますが。

ま、それはここでは考えないとします。

で、離婚のうち子連れ離婚が約3分の2とすると、14万件の離婚のうち「暴力」が原因なのが5000件ということになります。


猫星人氏は「配偶者を大事にしない、家庭を顧みない者に親権??」という認識から共同親権に反対しているわけですが、さすがに14万件中5000件で「暴力」が原因の離婚があるからという理由で、残りの13万5000人から親権を剥奪する現行制度が正しいとは私には思えません。

猫星人氏は「確かに間違った方へ子供をやってしまって結果的に可愛そうな事になった事件もあるし、そういうパターンもある」と認めつつ、「だからと言って、共同親権を認めてしまえば、この約31500組(※引用者 これは実際には5000組程度)の元夫婦にできた子供はどうなる?」と共同親権に反対しています。

まず、事実暴力的な配偶者と離婚した場合、海外の共同親権制度下でも共同親権が認められることはありません。
もっとも海外で共同親権を認めないような暴力的なDV事案というのは、刑事事件に相当する「殺人(未遂)」「傷害」「暴行」「脅迫」といったレベルのもので日本で言う“モラハラ”などは含まれはしないようですが。

ですから、実際に刑事事件に相当する「殺人(未遂)」「傷害」「暴行」「脅迫」といったレベルの暴力があるのであれば、弁護士や支援団体などの助力を得て立証して加害者に共同親権が認められないようにすれば良いだけの話です。

その立証の手間を省くためだけに共同親権を認めない現在の単独親権制度を維持した場合、「確かに間違った方へ子供をやってしまって結果的に可愛そうな事になった事件もあるし、そういうパターンもある」といった状況に陥ると、その子供を助ける手段が無くなります。

猫星人氏自身、こういっていますよね。

日本には助けを得られてないDVが多すぎる。
DVから逃れる事がどんなに大変か、理解できる人はどのくらいいるだろうか?

http://nekoseijin.hatenablog.com/entry/2019/10/03/014840

DV・虐待加害者が単独親権者となってしまうと、日本では子供を救済することが極めて困難です。虐待は家庭の密室内で起こることがほとんどですから、“家族”以外の者がそれを察知することは、アザなどの痕跡が残らない限り難しく、介入が遅れる可能性が高いわけです。

日本の現行制度は、親権者が非親権者を排除することが容易にできるようになっており、共同親権反対派はまさにそれを理由として共同親権に反対しているわけですが、この制度ではひとたび虐待親が親権者になってしまうと、非親権者となったもう一方の親ですら子供を助けるために介入することが非常に困難だという問題に直結します。

過去に何度か言及しましたが、被害児が死に至るまで2週間以上放置された大阪二児遺棄致死事件で、もし離婚後の父親が1か月に1回あるいは2週間に1回でも面会していれば餓死寸前の被害児を助けられた可能性が高いですし、それ以前に子どもを助けるための手段を採れた可能性もありました。
離婚後共同親権制度は離婚後も双方の親が子供にかかわることを求める社会意識を喚起し、その結果、親権者の孤立化や虐待の抑止にもつながるでしょうし、非親権者の協力も期待できるようになるでしょう。

全ての非親権者が虐待・DV加害者ではなく、むしろ虐待・DV加害者であることの方が例外的である以上、離婚後も育児に関する協力関係を促す共同親権を原則とすべきであり、例外的な虐待・DV加害者に対しては、全ての離婚を家裁関与とすること*2で立証と事実認定をした上で単独親権とする判断を下せばよいだけですね。

仮に離婚時に家裁が虐待・DVの事実・懸念を見逃したとしても双方に親権が残る以上、一方の親は同居であれ別居であれ、他方の親による子どもへの虐待に早期に気づくことができる環境を維持することができ、必要に応じ早期介入できます。

その点から見ても、虐待加害者が親権者となってしまうと他方の親による早期介入がほとんど不可能になる現行の単独親権制度よりも共同親権制度の方が優れていると思いますよ。