安易な政権批判よりも安易なリベラル・左翼批判しとけばウケると考える風潮の方がよほど危険

この件。
古市氏「リベラルや左翼は躊躇しないのか」橋下氏「強制は言語道断、恐ろしい」法的根拠なき新型コロナウイルス対策を批判(2/3(月) 14:01配信 AbemaTIMES)

“真面目過ぎる美少女を常識に捕われないはみ出し者が救う”という構図で語るのが好きな人たち

よく言われるのが“日本は真面目過ぎて国際法を過度に順守しようとするため、国際社会でたかられる”という自慰史観の下、“歯に衣着せぬ論者が日本的美徳である沈黙を破って正論をぶつける”という日韓関係や日中関係では特に顕著に現れる図式です。
多くの場合、前提からして間違っており、ぶつける“正論”も自称でしかないお粗末なものなのですが。

橋下徹氏や古市憲寿氏のような論者の場合も同じで、“日本は法治国家でガチガチすぎて緊急事態に対応できない”という図式を好み、冒頭の記事も同じです。
彼らに言わせれば、一応“日本は法治国家でガチガチすぎて緊急事態に対応できない”というのが政府批判のつもりらしいのですが、単純に国家権力を統制するための現行法を緩めろという主張にすぎません。

さて。

新型コロナウイルス感染症法上の「新感染症」または「指定感染症」と指定しておけば合法的に検査を強制できたことを無視する橋下氏

 「2003年にSARSが広がった時が最後の改正だが、当時、日本に来る外国人観光客は500万人で、中国からは47万人だった。それがビジット・ジャパン・キャンペーンによって、今や年間3000万人、中国だけでも1000万人だ。規模が全く違う。にも関わらず、法律は2003年で止まっている。このような感染症は徐々に感染力などがわかってくるものだが、大事なのは、そうした事がわからない状況下でどうするのか、ということだ。今回、その出だしのところで躓いたと思う。本当は最初の段階で、潜伏期間くらいは入国をちょっと待ってよ、発症しなかったら入ってどうぞ、というような措置を取るべきだった。ただ、それができないのは法的根拠が無いからだ。国会議員が2、3日くらい徹夜すれば法律は作れるのに、やらないよね。だけど今回、チャーター機の日本人には検査を受けさせ、ホテルに移動させた。法的根拠がないのにやっている。本当はやってはいけないことだけど、もし日本人にやったのなら、どうしてそれを中国人観光客に対してやらなかったのかと思う」。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200203-00010015-abema-soci

新型コロナウイルス感染症法上の「新感染症」と指定すれば法的に検査を強制できますし、「指定感染症」と指定するにしても政令で済み周知期間を考慮してもチャーター便の第1便が到着した1月28日*1までに法的根拠を準備することは可能でしたので、橋下氏の言説は間違いです。

「本当は最初の段階で、潜伏期間くらいは入国をちょっと待ってよ、発症しなかったら入ってどうぞ、というような措置を取るべき」「国会議員が2、3日くらい徹夜すれば法律は作れる」というのは無茶苦茶で、武漢市における原因不明肺炎について厚労省がプレスリリースを出したのは1月6日*2、その時点では、確定例は59例、死亡例なし、感染経路不明、ヒト-ヒト感染の証拠もない状況でした。1月7日に武漢市からの帰国者及び入国者に対する自己申告の呼びかけ*3が開始され、1月16日になってようやく日本国内で1例目の患者が発生し「現時点では本疾患は、家族間などの限定的なヒトからヒトへの感染の可能性が否定できない事例が報告されているものの、持続的なヒトからヒトへの感染の明らかな証拠はありません」という判断になっています。この1例目の患者は、1月6日に日本に帰国しています。

さて、橋下氏はいったいいつの時点で「潜伏期間くらいは入国をちょっと待ってよ、発症しなかったら入ってどうぞ、というような措置を取るべき」だったと考えているんですかね?
そもそも橋下氏自身が言っているように「日本に来る外国人観光客は(略)今や年間3000万人、中国だけでも1000万人」なわけですから、具体的な潜伏期間もわからないうちから「潜伏期間くらいは入国をちょっと待ってよ、発症しなかったら入ってどうぞ」という対応をどうやって取れというのでしょうかね。

「もし日本人にやったのなら、どうしてそれを中国人観光客に対してやらなかったのかと思う」というのも子供じみた主張にすぎず、そもそも1月28日時点で新型コロナウイルスを「指定感染症」とする政令が施行されていれば、日本人に対しても中国人に対しても同じ対応が取れました。
これは政令での指定タイミングが遅かったという安倍政権のミスです。

任意同行という強制が横行しているのに・・・

僕たち弁護士は、刑事訴訟法でそこをガチガチにやる。もし同じようなことを警察が尿検査でやったら、違法捜査・無効になってしまう。それと同じようなことをしろと平気で政治家や元官僚が主張している。言語道断だし、恐ろしいなと思った。僕だって“大阪のヒトラー”と言われたこともあったけれど、権力の使い方については、ものすごく慎重にやらないといけないと考えている。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200203-00010015-abema-soci

“任意”という名目で強制する警察のやり口が見えていないんですかね・・・。
繰り返しますが、感染症法上の「新感染症」または「指定感染症」に指定しておけば検体採取は合法的に強制できましたので、橋下氏の指摘はあたりません。

あと、橋下氏は「権力の使い方については、ものすごく慎重にやらないといけないと考えている」と言っていますが、橋下に関する週刊朝日記事の連載を停止させるために親会社に圧力をかけて停止させたのは、どうみても権力を慎重に使ったとは言えないでしょう。合法的に「ガチガチにやる」のならば、裁判所に訴えて記事の差し止めや名誉棄損などを訴えるのが正しいやり方でしたが、橋下氏は首長の立場を利用して朝日の取材を拒否するなどの圧力で連載を停止させる正しくないやり方をとっています。

橋下氏に便乗してリベラル・左派批判する古市氏

 古市氏も「僕はもっと冷静でいいと思う。じゃあ怖がっている人はインフルエンザの予防接種をしていますか?という話だ。既存の肺炎や風疹だってあるわけで、新型コロナウイルスの肺炎だけがものすごく怖いものなのか。少なくとも現時点では新型コロナウイルスとそれによる新型肺炎だけを怖がるのは、ちょっと行き過ぎなんじゃないか。政府もやるべきことをやっているし、決定的にダメなところは無いと思う。ただ、せっかく感染予防のために帰国した人たちをホテルに移したのに、相部屋というのは意味がないのではないか」とコメント、「むしろ怖いなと思うのは橋下さんの指摘のとおり、人命を掲げれば、何でも許されるのかということ。普段、リベラルや左翼の人は憲法の緊急事態条項導入などを批判しているくせに、いざ何か起きると人権を制限することに何も躊躇がない。それが不思議だし、すごく気持ち悪い」とコメントしていた。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200203-00010015-abema-soci

何度も言いますけど、検査自体は感染症法の「新感染症」または「指定感染症」に指定しておけば合法的に強制できました。日本国内で患者が発生した1月16日から10日以上も経ってから、新型コロナウイルス感染症を「指定感染症」に指定する政令を公布し、施行は2月7日とか、安倍政権の対応は明らかに遅く、「政府もやるべきことをやっている」という古市氏の評価は政権寄り過ぎます。

「むしろ怖いなと思うのは橋下さんの指摘のとおり、人命を掲げれば、何でも許されるのかということ」という主張もおかしく、同様に“人命を掲げて”憲法改正を主張した自民党に対してはスルーなのも不思議で、「すごく気持ち悪い」ですね。