新型インフルエンザ等対策特別措置法は新型コロナにも使えたけど、政府が使わなかったから使えない、というだけの話

安倍総理「新型コロナは『新型コロナ』だと正体がわかっている」」という増田に対して、以下の増田が反論しているんですが。

増田Aの反論
増田Bの反論

そもそもの事実として、日本政府は2003年のSARSに対して新感染症に指定しています。
時系列順に言うと、こんな感じ。

2002年11月16日、中国で重症非定型性肺炎が集団発生
2003年3月15日、WHOが症例の定義を発表し、SARS命名
2003年4月3日、日本政府、SARS感染症法上の新感染症に指定。
2003年4月16日、SARSの原因が当時知られていなかった新型コロナウイルスであることを特定。
2003年7月5日、SARS終息宣言。
2003年7月14日、日本政府、SARSを指定感染症とする政令を公布。
2003年10月16日、SARSを一類感染症とする改正感染症法公布(11月5日施行)
2006年12月8日、SARSを二類感染症とする改正感染症法公布(2007年4月1日、6月1日施行)

SARSに対して日本政府はまず新感染症として扱い、SARSが終息した後になって指定感染症に変更し、その3か月後に法改正で一類感染症とし、さらに2006年になって二類感染症へと変更しています*1 (これはSARSが一類から二類にランク落ちしたのではなく、一類が分割されて一類と二類になったという法改正。例えば、2003年時点で二類感染症であったコレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスは2006年の改正でそのまま三類に移行している*2)。

なぜ、日本政府が今回の新型コロナウイルスに対して同様の対応を取れなかったのかというと、単に日本政府がそのようにしなかったからというだけ。

多分、“今回の新型コロナウイルス感染症は既にウイルスが特定されているから新感染症に指定できない”という反論があるでしょうが、SARSの時は新感染症の指定こそウイルス特定前でしたが、ウイルス特定後は2003年7月5日の終息宣言までずっと新感染症扱いのままでしたから、理由になりません。

増田Aは、感染症法の条文を上げて今回の新型コロナウイルス感染症感染症法上の新感染症にはならないと主張しています。

第六条 この法律において「感染症」とは、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症をいう。
(抜粋)
9 この法律において「新感染症」とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=410AC0000000114#30

増田Aは、「広く知られている通り、新型コロナウイルスは罹患しても重篤になる確率が低い」し、「「病状や治療の結果が明らかに異なる」に該当しない」から新感染症ではないと主張していますが、間違いです。

条文にいう「当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤」というのは、重症化する確率ではなく発症・進行した場合の病状のことですから、重症化し死亡することのある今回の新型コロナウイルス感染症にも当てはまります。
また、SARSも含めて治療法は確立していませんから、治療法の確立している「既に知られている感染性の疾病」とは「治療の結果が明らかに異なる」とも言えます。
そして言うまでもなく「当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある」と認められます。

増田Aは、「まぁ咳が出て重篤な場合は肺炎で、対症療法をするコロナウイルスって、一般的に言われる「風邪」ですからね。」と言っていますが、個人の感想としてはそれでも良いと思いますけど、現実にはWHOが国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言している疾患ですから、政治の世界ではそれに相当する対応を求められるのは当たり前の話です。


増田Bは2002年の感染症法制定時の国会での議論を根拠に、今回の新型コロナウイルス感染症が新感染症ではないと主張しています。

上記の通り原因が分かっていない、一類感染症相当の重篤感染症が「新感染症」と定義される。
COVID-19は原因も分かっており、重篤度も一類感染症ほどでないので「指定感染症」となる

https://anond.hatelabo.jp/20200302225601

これも間違いで、SARSの時は原因ウイルスが特定された後も新感染症として扱っていました。「重篤度も一類感染症ほどでない」というのも増田Bが引用している直後の発言を見れば間違いだとわかります。

○小林(秀)政府委員 そもそも一類を分けるときには、感染力とか重篤度とかそういうもので一類をグルーピングしておりますが、それとあわせて、一類のほかの病気との比較でもって考えるものでありまして、重篤度が一番だとか感染力が一番だとかという判断をしているわけではございません。
 それは、総合的に判断をして一類を決めていると同じように、総合的に判断をして新感染症と定めるということになるわけでございます。

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=114204237X01419980527&spkNum=298&single

つまり、重篤度だけではなく感染力も含めて総合的に判断して新感染症か否かを決めるわけで、重篤度が低くても感染力が高ければ、一類相当として新感染症とされることもありうると政府側は回答しています。

なお、このやり取りは2003年5月27日のもので、この時点では後の法改正で一類に分割される感染症も、一類としてまとめて扱われていました*3SARSも当初は一類で分類され、一類と二類を分割する2006年の法改正で二類になったという経緯があります。ですから、新感染症は一類相当という2003年の認識を踏まえると、現時点で一類相当および二類相当であれば新感染症になりうるわけです。

したがって、新型コロナウイルス感染症を仮に二類のSARS相当だとみなしたとしても、2003年での議論を踏まえれば新感染症として判断することは可能ですし、おかしなことでもありません。

早い話、指定感染症に指定した1月28日の政令の時点で想定したよりも感染力が強力であるため新感染症として取り扱う必要があると政府が判断すれば、そのように対応することは出来る法律になっています。
安倍政権がそれをやらないのは、1月28日の時点で判断ミスを犯したことを認めたくないからで、法の不備ということにして判断ミスの責任を逃れようとしているだけのことでしょう。

あと、感染症法も新型インフルエンザ特措法も、それぞれ議論はあります。

新型インフルエンザ等対策特別措置法案に反対する会長声明
特別寄稿 感染症新法の問題点と今後のあり方について

それらの批判とは別個の問題として、法律的には対応できるという話です。



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