調べてみたら台湾の対応がめちゃくちゃ早かった

台湾が中国からの入国を早期に禁止した点(1月22日)が注目されがちですが、台湾衛生福利部の発表を見ると2019年12月31日に最初の通知を出しています。

因應中國大陸武漢發生肺炎疫情,疾管署持續落實邊境檢疫及執行武漢入境班機之登機檢疫 (資料來源:疾病管制署建檔日期:108-12-31更新時間:109-01-02)

この時点では詳細不明ながら武漢で肺炎が流行していることはわかっており、それを踏まえて、武漢からの入国者は少なくとも10日間、自身の健康状態に留意し、発熱・呼吸器症状が出た場合には感染症専門の電話で報告し渡航歴を医師に伝えるように、との通知を出しています。台湾版CDC(衛生福利部疾病管制署)が積極的に動いている印象です。
日本の厚労省武漢での肺炎を報じたのが2020年1月6日ですから、それより一週間も早く発表し、入国者自身に10日間の健康観察を求めるというのは極めて早いと言えます。

武漢發生肺炎疫情:

武漢直航入境的旅客請注意以下事項:

留意自身健康狀況至少10天
身體不適請撥打1922防疫專線戴上口罩儘速就醫
就醫時告知醫師相關旅遊史

https://www.mohw.gov.tw/cp-4250-50810-1.html

台湾当局は1月3日にも追加情報を発して、検疫措置の維持や入国時の症状申告要請、12月31日に出した10日間の自己観察要請の継続を求めています。
關注中國大陸武漢市不明原因肺炎疫情 持續維持現有登機檢疫等防檢疫機制(資料來源:疾病管制署建檔日期:109-01-03更新時間:109-01-03)


ところで韓国中央日報は2月25日にこう報じています。

防疫対策が支持率に大きな影響…蔡英文氏急騰、安倍氏急落

2/25(火) 12:00配信
(抜粋)
これは蔡総統が初当選し就任した2016年5月(69.9%)に続き2番目に高い支持率だ。今回の調査で蔡政権の防疫対策について回答者の75.3%が100点満点中「80点以上」の高い評価を下した。
先月22日、台湾政府は新型コロナウイルスの発祥地、中国武漢からの旅行者入国を禁止した。その後事態が更に悪化すると6日から中国人の入国を全面禁止した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200225-00000030-cnippou-kr

以前の記事での台湾に関する記載はそれを前提に書いたのですが、台湾当局のサイトを見るとどうも間違っていたようです。

因應中國大陸武漢肺炎疫情,指揮中心持續統籌各部會資源人力,全力守護國內防疫安全(資料來源:疾病管制署建檔日期:109-01-22更新時間:109-01-22)」にある通り、1月22日時点では、既にそれまでに強化した検疫措置を継続する旨の提示と再喚起を行っていますが、ここで入国禁止にしたというわけではなさそうです。

翌1月23日(武漢封鎖の開始日)に警戒レベルを上げていますが(「因應武漢肺炎疫情,中央流行疫情指揮中心疫情等級提升至第二級,春節期間各項防疫工作不放鬆,共同維護國民健康」)、湖北省の中国人入国を全面禁止にしたのは1月25日になってからです。

因應中國大陸新型冠狀病毒肺炎疫情,中央流行疫情指揮中心訂定陸籍人士來臺限制

資料來源:疾病管制署建檔日期:109-01-26更新時間:109-01-30
鑒於中國大陸新型冠狀病毒肺炎疫情之病例數持續增加,中央流行疫情指揮中心昨(25)日召集各部會研議中國大陸人士來臺之相關限制,並做成下列決議:

全面禁止湖北省陸人來台。
湖北省以外,觀光旅遊、社會交流、專業交流、醫美健檢交流暫緩受理,已經發入臺許可證者推遲來臺。但防疫交流、人道就醫、社會交流之團聚或隨行團聚、專業交流之駐點服務、投資經營管理(含陪同人員),經審查後獲准來臺者,須配合自主健康管理14天。
陸生即日起至2月9日暫緩來臺。
商務活動交流,除履約活動、跨國企業內部調動(含陪同人員)外,暫緩受理;已經發入臺許可證者推遲來臺。獲准來臺者,須配合自主健康管理14天。
陸配回臺(含湖北省),限制居住,自主健康管理14天。
小三通部分:全面暫緩陸人以小三通事由(含社會交流、藝文商務交流、就學、旅行)至金馬澎離島;已發入臺許可證者推遲來臺。
如有相關疑問,請洽免付費防疫專線1922(或0800-001922)。​

https://www.mohw.gov.tw/cp-4636-51211-1.html

ただ、この時点でもなお、湖北省に行っていた台湾人の帰国入国は14日間の自主的健康管理のみ課して認めています。

その後、2月4日に過去14日間以内に中国本土、香港、マカオに寄港したクルーズ船の受け入れを停止し(嚴守邊境,14天內曾停靠中港澳之郵輪不得靠岸)、2月6日に入国条件を厳格化しています。

有關自中港澳地區入境之規定,中央流行疫情指揮中心補充說明如下:
一、國人:
 自2月6日起,有中港澳旅遊史者,需居家檢疫14天。
 申請獲准至港澳入境者,需自主健康管理14天。
二、中國大陸人士:暫緩入境。
三、港澳人士:自2月7日起,入境後需居家檢疫14天。
四、外國人:自2月7日起,14天內曾經入境或居住於中國、香港、澳門的外籍人士,暫緩入境。
五、上述措施將視未來疫情狀況調整更新。

https://www.mohw.gov.tw/cp-4635-51367-1.html


こうしてみると、台湾当局も別に武漢での感染症拡大を受けていきなり強力な入国制限を行ったわけではなく、武漢で原因不明の肺炎が出ていることを軽視せず、まずは入国者個人に10日間の自主的健康管理を求めることから始め、事態が深刻化するにつれて、それに対応する措置の強化を行ってきたと言えそうです。武漢からの直行便に対する検疫措置は2019年12月31日から開始し、1月22日までに38便4625人の乗員・乗客を検疫し、新型コロナウイルス起因ではないものも含めて重度の肺炎患者をピックアップして対応しています。
1月25日に湖北省武漢からの入国を禁止した時、その26日前までの入国者に対する検疫も行っていたため、既に感染者が入国している可能性をかなり減らすことができていたことになります。

日本も1月6日の時点で武漢からの帰国者に対して自己申告を求める措置をとってはいますが、台湾のように10日間の自主的健康観察や感染症専門の相談窓口を示したりはしていません。

日本では、これまで上記肺炎と関連する患者の発生の報告はありませんが、武漢市から帰国される方におかれましては、咳や発熱等の症状がある場合には、マスクを着用するなどし、医療機関を受診していただきますよう、御協力をお願いします。なお、受診に当たっては、武漢市の滞在歴があることを申告願います。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08767.html

「咳や発熱等の症状がある場合」には病院に行けと言っているだけで、感染症として情報を集約するつもりも無ければ、感染症専門の医療機関を指定するでもありません。

台湾でも感染者数は増加しており、3月1日現在で40人となっています*1。中国からではなく、日本や中東を旅行した人から感染が広がっているものの今のところは追跡できているようです。このまま感染を封じ込められるか、それとも日本のように市中感染が広がるかはわかりませんが、少なくとも台湾当局が日本当局よりすばやく対応したことだけは確かと言えます。




ちなみに、日本の厚労省の対応はこんな感じ。

(12)厚生労働省
・1月6日、自治体、医師会、検疫所に対し、中華人民共和国湖北省武漢市における非定型肺炎の集団発生に係る注意喚起を実施
・1月17日、自治体、医師会、検疫所、航空会社に対し、新型コロナウイルスに関連した肺炎患者の発生に係る注意喚起を実施
・1月22日、航空会社等に対し、新型コロナウイルスに関連した感染症について、協力を依頼
・1月23日、自治体に対し、新型コロナウイルスに関する検査対応について、協力を依頼
・1月23日、自治体に対し、新型コロナウイルスに関連した肺炎患者の発生に係る協力を依頼
・1月23日、検疫所に対し、新型コロナウイルスに関連した感染症の発生に係る検疫対応について依頼
・1月23日、航空会社等に対し、新型コロナウイルスに関連した感染症の発生に係る協力を依頼
・1月24日、出入国在留管理庁に対し、新型コロナウイルスに関連した感染症の周知等の徹底について協力を依頼
・1月28日、新型コロナウイルス感染症を指定感染症及び検疫感染症と定める政令閣議決定

https://www.cas.go.jp/jp/influenza/corona_taiou2.pdf