なかった説と30万人説を並列に語る人々

今回の騒動の特徴

今回の元はこの話。

【中国ブログ】南京大虐殺の際、中国軍は何処で何をしていた?
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0522&f=national_0522_003.shtml

これに例によって否定論者が食いついて大騒ぎ。

今回の騒動の特徴としては、大きく2つ。

  • 1.「南京事件*1はなかった・捏造!」とガチな否定論を述べたのごく少数の特にイタイ人たちだけだった、と言う点。
  • 2.「虐殺があったのは確かだろうけど、30万人ってのもないよね」という”中立”意見が多数現れた点。

”中立”意見の分析

さらに「2」を細分すると、

  • 2−1.(南京事件の存在自体を否定し切れなくなって)「俺は中国の言っている30万人説を否定しているのであって、存在そのものは否定していない」というガチの否定論者からの転向型。
  • 2−2A.(中国は日本を敵視しているに違いないと信じて)「中国の主張する30万人説ってのは嘘に決まってる」という悪意のある差別論者型
  • 2−2B.(毒ギョーザ事件などで中国の発表は信頼できないと感じて)「中国の発表だから30万人説ってのも疑わしいんじゃない?」という悪意のない*2差別論者型
  • 2−3.(被害者ってのは被害を強調するもんだという先入観から)「30万人ってのも大げさなのでは?」という犠牲者に対する無神経型

こんな感じになると思う。
これら「2-1転向否定論者」「2-2A悪意のある差別論者」「2-2B悪意のない差別論者」「2-3無神経型」は、いずれも表層的には似たような主張をしているため、短文であればあるほど、見分けるのは困難になる。

とは言え「2-1転向否定論者」の場合は、あわよくば否定したやろうと目論んで仮面に過ぎない”中立”的表現を使っているだけなので、ちょっとコメントのやり取りをすると簡単にぼろが出る。

さて、ネットの「30万人はないよね」的意見に対して史実派が厳しい態度をとるのは、この「2-1転向否定論者」をよく見てきたからだと思う。
そして、厳しい態度をとってはいても、「30万人説を簡単に否定できない」という主張そのものは間違っていない。この史実派の主張に対して「否定論の幅を広げすぎ」とか「原理主義」とかいう指摘は的外れだろう。

史実派の主張は一言で言えば、「論拠のない主張はするな」ということである。
このため、論拠のない「南京事件なかった」というトンデモ説を非難するのと同様に、論拠のない「30万人はない」説を非難しているわけだ。

その意味で、史実派の態度は一貫している。

むしろ、「虐殺があったのは確かだろうけど、30万人ってのもないよね」と主張する人は、自らが「南京事件なかった」説を否定するのと同程度の論拠を持って「30万人」説を否定してみせるべきだろう。


まさかと思うが、「南京事件なかった」論と同じ論拠*3を使用したりはしないよね?


ろくな論拠もないのに30万人説を否定している人は、ろくな論拠もないのに「南京事件なかった」説を主張しているネトウヨを笑えない。

「2-2A悪意のある差別論者」に対して

詳しくは、CloseToTheWallさんの指摘を参照してください。
http://d.hatena.ne.jp/CloseToTheWall/20090603/p1

「2-2B悪意のない差別論者」も含めて、極めて適切に指摘されています。


「2-2B悪意のない差別論者」に対して

まあ、中国政府が信頼できないってのは、別に構わない。
でもそれは個別事象の真偽を判断する根拠にはならない。

市民団体が、日本政府の調査結果に対して「日本政府は過去にも調査で不正をやっているから*4、今回の調査結果も信用できない」とか言ってたら「どこのプロ市民だよ」とか言われるよね?
君らの主張はそれと同じ。


「2-3無神経型」に対して

「被害者は被害を強調するもの」と言うのは一般論としては正しいことが多いだろうけど、個別事象に対して具体的な論拠を持たない人が公の場でそのような発言をするべきでない、というのも一般論。


否定もしないが、支持もしない。

史実派は30万人説をどう捉えているか、というと、多分こういうことだと思います。

少なくとも私は、30万人説を否定もしませんし、支持もしません*5

*1:南京大虐殺」と「南京事件」の語の意味を勘違いして、「南京事件」が大虐殺主張から後退した表現と捉えている人もいたが、ここでは取り上げない。

*2:あるいは、悪意の少ない

*3:「20万都市で〜」とか「小銃弾の数が〜」とか、etc.

*4:タウンミーティングとかあったよね

*5:基本的に、です。応用的には30万人説を条件付で否定することはできますので、そのうち紹介したいと思います。