主張には同意するけど言うべき相手が違うと思う

2011年11月に行われた政策仕分けで生活保護が対象となったことについて、赤旗が批判しています。

政策仕分け 生活保護切り捨て迫る
医療機関・住む場所制限しろ」

 政府の行政刷新会議の「政策仕分け」は最終日の23日、生活保護の受給者の急増によって保護費が膨らんでいるとして、いかに削減するかを議論しました。

 仕分け人からは、「生活保護受給者は自立した個人といえないのに、医者を自由に選んでいいのか」「住む場所も、好き勝手にやらせているから問題が起きる」「家計管理能力が低いので保護費をアルコールやたばこ、不要不急のものに使いがち。そういった支出の分、保護費を減らせる」などの意見が続出。生活保護受給者について▽受診できる医療機関を制限する▽医療機関において価格の安い後発医薬品の使用を義務付ける▽住む場所を制限する▽最低賃金の適用を除外する―など、受給者の人権を侵害し、偏見を助長し、法の下の平等に反する施策を迫る暴論が相次ぎました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-11-24/2011112401_01_1.html

政府全体に対する批判としては真っ当なものだと思いますし、カッコ内の発言が記事から感じる文脈どおりに発言されたのなら好ましくはないとは思います。生活保護を受けること自体を蔑視するような風潮は改めるべきですし、公的な場で蔑視を助長するような表現を用いたのであれば指摘するべきなのは確かです。

一方で、現状の生活保護を受給者の問題ではなく制度の問題として捉え、改善に取り組む必要性は間違いなくあるでしょう。

例えば、「医者を自由に選んでいいのか」については、受給者の選択の自由の制限という側面ではなく、生活保護者の医療扶助という制度が医者側の安易な医療行為の原因となっている側面を指摘すべきで、それは確かに「政策仕分け」の中で指摘されてもいるわけです。

行政刷新会議 「提言型政策仕分け」評価結果一覧
B5−6

生活保護費の急増の要因は、その半分を占める医療扶助である。真に必要な方への医療水準は維持しつつ、以下に掲げる対応を含むあらゆる方法を通じて適正化に取り組むべき。
①指定医療機関に対する指導強化
後発医薬品の利用促進。また、その義務付けの検討
③翌月償還を前提とした一部自己負担の検討
さらに、医療機関モラルハザードが大きいことから、実態調査の仕組を構築し、不適切な診療を行っている機関は指定を外すなどの厳格な対応を行うべき。

http://sasshin.go.jp/news/2011/0070.html

もちろん、不適切な診療を行っていると判断されて指定医療機関が減ると、生活保護受給者が受診できる医療機関が減り、結果として選択の自由が奪われることになります。赤旗が指摘するようにそれはそれで問題ではありますが、かといって「不適切な診療」を放置することもまた問題であるわけですから、実効的な「指定医療機関に対する指導強化」の方法を考える必要があるでしょう。

後発医薬品の利用促進も政府方針ではあるはずですから、それ自体は非難されるべきものではありません。赤旗的に問題なのは、生活保護受給者だけが義務付けられるのは差別的、ということでしょう。その点については同意できますが、生活保護受給者の場合は非受給者に比べ医療費が扶助されていることは考慮すべきですし、制度的に何とかできないか検討すべき点ではあるでしょう*1

 医療費の増大が保護費急増の要因になっているとして、医療費削減の方策を議論。「医療費の抑制に一番いいのは自己負担を増やすことだ」との意見が出され、現行は無料で受けられる医療に自己負担を導入するなど、「あらゆる方策」で医療費を抑制するよう求めました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-11-24/2011112401_01_1.html

医療費負担についても、医療機関モラルハザードにより発生する過剰な医療行為を抑制する制度的な対応は必要で、そのひとつの案が受給者にも医療負担を求める事です。もちろん、医療負担させれば、それでよしとは言えませんから何等かの対応は必要ですが、検討そのものを批判するのはちょっと違うようにも思います。

 また、最低賃金や年金水準の低さを問うことなく、「生活保護費が年金や最低賃金より高い場合があり、就労意欲を阻害している」などとして、生活保護支給額の引き下げを強く示唆する提言をまとめました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-11-24/2011112401_01_1.html

これは赤旗の指摘がもっともなんですが、この仕分けのテーマが「生活保護の見直し(生活保護医療の見直し等)」である以上、最低賃金について指摘する事はできません。生活保護のあり方を考えるなら、「生活保護費が年金や最低賃金より高い場合があり、就労意欲を阻害している」というのは確かに大きな問題ですから、言及せざるを得ないでしょう。

政府全体の対応に対して、生活保護費よりも最低賃金や年金を上げるべきと指摘するならわかるんですが、生活保護に関する政策仕分けの委員たちにそれを求めるのは筋違いでしょう。

なお「生活保護支給額の引き下げを強く示唆する提言」とありますが、実際には「求職者支援制度」や「就労に向けた能力開発や就業紹介」など結構色々と全体を見た提言をしています。

生活保護基準(支給額)については、自立の助長の観点を踏まえ、基礎年金や最低賃金とのバランスを考慮し、就労インセンティブを削がない水準とすべき。社会保障審議会生活保護基準部会においては、こうした方針を反映していただきたい。
あわせて、求職者支援制度などいわゆる第二のセーフティーネットの充実により、生活保護化の防止を図るとともに、NPOや社会企業家などとも連携しつつ、自立・就労支援を強化すべき。また、制度の適正な運営や検証に必要なデータを的確に把握する仕組を整備すること。加えて、稼働可能な受給者については、就労に向けた能力開発や就業紹介を生活保護と一体的に進めるために必要な体制の構築を厚生労働省内及び関係省庁が連携して早急に検討すべき。

http://sasshin.go.jp/news/2011/0070.html

また、生活保護を食い物にしている不正行為に関しても以下のような提言が出ています。

生活保護費が本人に届かなくなるようないわゆる「貧困ビジネス」に対しては、実効ある規制が必要である。住居・食事等を一体的に提供する事業については、新たに届出制の対象として、立入検査や行政処分の対象とすべき。さらに、許可制を含めた強い参入規制の可否についても検討すべき。

http://sasshin.go.jp/news/2011/0070.html

こういった点も、ちゃんと報道すべきだと思います。

*1:例えば、後発医薬品利用であれば扶助するが、それ以外なら費用負担が発生するとか。ただし、実務処理上の煩雑化が課題ですが。