2007年版は以下です。
慰安婦と軍票|誰かの妄想
高収入説再検証・根拠資料「関東軍女子特殊軍属服務規定」
これは歴史修正主義者であった故・小室直樹氏が従軍慰安婦高給説に利用*1した資料ですが、小室氏は直接「関東軍女子特殊軍属服務規定」なる資料にあたったわけではなく、孫引きです。「関東軍女子特殊軍属服務規定」の現物はおそらく日本には残っていないでしょう。
元ネタは「従軍慰安婦110番―電話の向こうから歴史の声が」(明石書店、1992年)に記載された元兵士たちによる電話での証言です。
このうち、1992年当時78歳だった元軍医の電話での話として、以下の記述があります。
「軍女子特殊軍属服務規定」は分厚い規定書で、詳細な規定が網羅されていました。関東軍後方部隊3100部隊の衛生部の所轄でした。いわゆる、慰安婦の取扱い規定で、女子特殊軍属というのは、「朝鮮ピー」のことです。この中には給与規定もありました。女性たちの月給は、800円とありました。日給がおよそ70円だったということです。その他、被服、寝具、化粧品なども貸与する書かれていました。この書類は、敗戦で逃げるときにみんな燃やしてしまいました。
http://ameblo.jp/scopedog/entry-10035492983.html
歴史修正主義者がこれを取り上げ、従軍慰安婦高給説に利用したわけですが、実際には上記記載はただの誤記で、実際には「年800円、月70円」の意です。実際には同書の証言の解説部分に「給料は年800円」と記載されています*2。
小室氏らは、故意か偶然か、誤記部分をそのまま自説に都合のいいように利用し従軍慰安婦高給説という都市伝説の流布に利用したわけです。
これは単純な誤記ないし証言者の誤解ですが、ある程度の戦前の知識*3や簡単な計算ができれば*4すぐに誤記だとわかる内容です。
「年800円、月70円」の価値
詳細時期が不明ですが、おそらく関東軍特殊演習の1941年から敗戦の1945年の間でしょう。
再び「陸軍、海軍の階級別 月収・年収一覧表(1943年) - Transnational History」から1943年の陸海軍階級別月収・年収を参照してみますと、月70円は少尉ないし曹長クラスの給料となります。ただし曹長は叩き上げのベテランですので、新任という面を考慮すれば給与面では士官学校出の少尉と同等の待遇だったと言えます*5。もっともその後も出世することが確定している新任少尉と比較して給与面で同等と言っても高給だとは言えません。
エリート士官や看護婦*6などと違ってごく短期間しか働けないことを考慮すると、従軍慰安婦が優遇されたとは言いがたい金額です。
昭和6年の政府の家計簿調査によると、都市部勤労者世帯の1か月の平均収入は86円、食料費の支出は25円でした。
http://homepage3.nifty.com/~sirakawa/Coin/J059.htm
*1:「日本国民に告ぐ」ワック、2005年
*2:経緯については、こちらを参照してください。http://ameblo.jp/scopedog/entry-10035492983.html
*3:公的機関が天皇が直接任命する親任官よりも高い給料を公式に設定すると本気で信じたのでしょうか?
*4:月800円、1日70円が本当だとすれば、1ヶ月は11日しかないことになり、不自然です。年800円であれば、大体月70円くらいになり、こちらの方が自然です。
*5:ちなみに、引用先の「陸海軍人給与(昭和18年)」について、准尉や兵曹長の方が少尉よりも高給になっていますが、これは准尉や兵曹長が叩き上げのベテランで勤続年数も長いことに対応しているためと、士官の場合、加俸と言う形式で優遇されているためでしょう。
*7:「関東軍女子特殊軍属服務規定」の現物は残っていないと思われますが、金額設定があまりに官僚的であるが故に真実性が高いように思います。
*8:今でもあまり変わってはいませんが