安倍政権の靖国参拝強行に関する古森義久氏の嘘を指摘しておく

靖国参拝で東南アジアは日本を擁護」と歪曲報道を流している産経新聞の記者・古森氏ですが、今回もまた飽きもせずデマを流しています。

嘘その1

 ところがそうではないのである。東南アジア諸国からは、政府レベルでの今回の首相の参拝への非難は1月7日の現在にいたるまでまったく出ていない。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

はい。ここから嘘です。
まず、シンガポール外務省は2013年12月29日の時点で、以下のように述べています。

Singapore regrets the visit by Japanese Prime Minister Shinzo Abe to the Yasukuni Shrine.

http://www.mfa.gov.sg/content/mfa/media_centre/press_room/pr/2013/201312/press_20131229.html
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140104/1388839425

シンガポール政府の公式サイトに外務省報道官の発言として “regrets”としています。言うまでもなくシンガポールは東南アジア諸国の一つです。

ちなみに、「親日」台湾はそれよりも早く、2013年12月26日、安倍首相が靖国参拝した当日に以下の公式見解を出しています。

日本安倍晉三首相於本(102)年12月26日參拜靖國神社,中華民國政府重申歷史不容遺忘,至盼日本政府及政治人物正視史實並記取歷史教訓,切勿做出傷害鄰近國家國民情感之舉措。

http://www.mofa.gov.tw/Official/Home/Detail/c1cf1d39-730a-43b0-85f6-f3ea4a4b163c?arfid=88ce0e14-af13-4a76-8015-83fe91b55db0&opno=fe15c741-bf77-468b-bb7d-0f7eff7b7636
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140107/1389101881

日本政府は歴史を直視し近隣国家の感情を傷つけるようなことをするな、と言っているのですから非難という以外にありません。

嘘その2

 中国や韓国のように政府の公式声明として糾弾した国は東南アジアでは皆無なのだ。民間でも安倍参拝非難はほとんど出ていない。この事実は日本側としても正確に認識しておくべきである。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

上記の通りシンガポール政府が公式に批判していますので、古森氏の言はデタラメです。民間についても、例えばタイが1月7日付けで以下の批判を示しています。

安倍首相の靖国参拝「無神経」=タイ紙が痛烈批判

 【バンコク時事】タイの英字紙バンコク・ポストは7日付の社説で、安倍晋三首相が昨年12月末に靖国神社を参拝したことについて「無神経」と痛烈に批判、「必要のない攻撃的な行動で、あらゆる近隣諸国の神経を逆なでした」と主張した。
 社説は、首相が「中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と発言したことに触れ、「誠意のない説明だ」と指摘。参拝すれば近隣諸国を傷つけ怒りを買うことは最初から分かっていたはずで「中国や韓国の反発など何とも思っていなかったようにみえる」と非難した。
 さらに首相が中韓両国について発言しながら、旧日本軍から大きな被害を受けた東南アジア諸国に言及しなかったことも問題点に挙げた。社説は、第2次大戦を生き抜いたタイ人の多くが「自国の過去の犯罪に無神経に敬意を払う安倍氏に衝撃を受けている」としている。(2014/01/07-14:46)

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201401/2014010700506&g=pol

フィリピン系アメリカ人向けのニュースサイトでは「China slams Japanese minister for notorious shrine visit」というタイトルの記事が出ています。靖国神社を「悪名高い神社(notorious shrine)」と書いていることから、靖国参拝に対して批判的スタンスをとっていると言えるでしょう。

嘘その3

 繰り返しとなるが、安倍首相の参拝の12月26日から10日以上が過ぎた1月7日までに、政府が公式の声明や言明でこの参拝を非難したアジアの国家というのは東南アジアでは皆無である。インドやパキスタンを含む南西アジアでも同様なのだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

パキスタン政府も12月27日時点でこう言っています。

Responding to a question regarding the visit by the Japanese Prime Minister to Yasukuni, the Spokesperson stated that countries should refrain from actions that hurt the sentiments of other countries in the region and evoke reactions that could jeopardize regional harmony.

http://www.mofa.gov.pk/pr-details.php?prID=1635
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140109/1389282521

内容は台湾と同じく、近隣国家の感情を傷つけるようなことをするな、ですから非難ですね。

インドは1月6日付けで以下の報道がありました。

インド外相「日本は歴史学習を」 靖国参拝で公明代表に

 【ニューデリー共同】インド訪問中の公明党山口那津男代表は6日、クルシード外相とニューデリーで会談した。クルシード氏は安倍晋三首相の靖国神社参拝に絡み「日本は歴史的にいろいろ経験し、振り返って正しくないこともある。学習して先に進むのがベストだ」と述べ、中国や韓国の反発を踏まえた慎重な対応を求めた。
 山口氏は「もっと慎重に、いろいろな影響を最小限にすることが政治家には必要だ」と重ねて参拝に苦言を呈した。

http://www.47news.jp/CN/201401/CN2014010601001786.html

嘘その4

 ラモス氏はフィリピンの大手紙「マニラ・ブレティン」へ「アジア・太平洋の冷戦」という論文を寄稿し、中国などが安倍首相の靖国参拝を非難していることを踏まえたうえでの見解を示した。論文では、中国の政府や官営メディアの安倍首相への非難を紹介したうえで、次のように述べている。
 「第2次世界大戦での日本の占領下で苦しんだ国民として、フィリピン人も最近の中国人たちと同じように(日本への)憤怒や敵意を爆発させるべきではないのか? 確かに私たちも過去には苦い思いを抱いている。しかし私たちは今後のより良き将来を怒りの継続によって危うくしたり台無しにしたりすることは決して望んでいない」
 つまり、日本の首相の靖国参拝に対して、中国のような「憤怒や敵意を爆発」させはしない、と述べている。ラモス氏は、「よりよき将来のために」過去の戦争の歴史からくる怒りなどを保ち続けることはもうしないのだ、と強調する。だから日本の首相の靖国参拝も特に糾弾はしないというラモス氏の姿勢は明確な「未来志向」である。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

古森氏が引用している部分ですが、実際の内容はこうです。

As a people who suffered terribly under Japanese occupation during WWII, shouldn’t Filipinos be likewise aggrieved and bitter like the Chinese seem these days? YES, WE STILL FEEL BAD ABOUT ALL THAT – BUT TODAY WE WOULD NOT WANT OUR BETTER FUTURE TO BE ENDANGERED OR COMPROMISED BY CONTINUED RESENTMENTS.

http://www.mb.com.ph/cold-war-in-asia-pacific-last-of-two-parts/

“a people who suffered terribly under Japanese occupation”は「日本の占領下で苦しんだ国民」と訳され、“terribly(非常に、 恐ろしく)”にあたる部分は消え去り、“ shouldn’t Filipinos be likewise aggrieved and bitter like the Chinese seem these days?”は「フィリピン人も最近の中国人たちと同じように(日本への)憤怒や敵意を爆発させるべきではないのか?」と意味が改変されています。
“Shouldn’t Filipinos be likewise aggrieved and bitter like the Chinese seem these days?”は直訳するなら、「我々フィリピン人は最近の中国人たちと同じように心を傷つけられ、苦しんでいるわけではないのでしょうか?」となるでしょうか。とにかく古森氏の訳の「(日本への)憤怒や敵意を爆発させるべき」が原文のどこから来たのかが不明です。
そして強調されている“YES, WE STILL FEEL BAD ABOUT ALL THAT”も、古森氏により「確かに私たちも過去には苦い思いを抱いている。」と改変されています。“FEEL BAD ABOUT ALL THAT”が「過去には苦い思いを抱いている」になってますからひどいものです。
“BUT TODAY WE WOULD NOT WANT OUR BETTER FUTURE TO BE ENDANGERED OR COMPROMISED BY CONTINUED RESENTMENTS.”は割りと正確に「しかし私たちは今後のより良き将来を怒りの継続によって危うくしたり台無しにしたりすることは決して望んでいない」と訳されていますが、前段が改変されていますので意味のとり方が変わってきます。

古森氏訳では、「フィリピン人も日本の占領下で苦しんだ」→「フィリピン人も中国人のように怒りを爆発させるべきか」→「怒りを爆発させることにより未来を台無しにしたくない」という流れにされていますが、原文では「フィリピン人も日本の占領下で苦しんだ」→「フィリピン人は中国人のように傷ついていないのか」→「いや傷ついている」→「しかし、怒りを爆発させることにより未来を台無しにしたくない」という流れです。
つまり原文は、フィリピン人も靖国参拝に傷つけられているが、それに対して怒りを示した場合に日本から報復されることを恐れていることを暗示しているわけです。古森訳では
“shouldn’t Filipinos be likewise aggrieved and bitter”という自問と“YES, WE STILL FEEL BAD ABOUT ALL THAT”という回答部分が、全く改竄されてそれがわからなくなっています。

ついでに言うなら、マニラ・ブレティンは12月30日の時点で“Analysis: Visit to a war shrine ”という記事を掲載していますが、これもかなり安倍首相に対し批判的な内容です。

嘘その5

 だから靖国問題も表面の動きだけを見ず、その背後や水面下にある政治の戦い、相手の政治力を弱体化しようとする意図を見抜かなければならない、というのである。中国が靖国非難をする際の「戦争美化」や「軍国主義復活」といった糾弾の言葉だけでなく、背後の政治的な意図や戦略を読め、とも強調するわけだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

原文で強調されているのは以下の部分のみです。

YES, WE STILL FEEL BAD ABOUT ALL THAT – BUT TODAY WE WOULD NOT WANT OUR BETTER FUTURE TO BE ENDANGERED OR COMPROMISED BY CONTINUED RESENTMENTS.

http://www.mb.com.ph/cold-war-in-asia-pacific-last-of-two-parts/

「背後の政治的な意図や戦略を読め」などとは強調されていません。

嘘その6

日本を擁護するインドネシアシンガポールの報道
 東南アジア諸国の安倍首相の靖国参拝への反応が中韓両国とは異なり冷静であることは、1月4日付の「産経新聞」でも詳しく報道されていた。
 読売新聞記者としてインドネシアやインド、米国などの駐在特派員を務め、2013年12月に産経新聞に移ったばかりのベテラン記者、黒瀬悦成氏による報道は、ベトナム、インド、インドネシアなどでも政府レベルでの靖国参拝批判はまったくないことを伝えていた。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

ここでも、シンガポール政府が公式に批判していることは全くスルーしています。サブタイトルでシンガポールに言及しながらシンガポール政府の反応に言及しないのですからひどいものです。

嘘その7

 産経新聞の同報道によると、注目されたのはインドネシアで最も影響力のある新聞の「コンパス」が12月28日の社説で「靖国問題で自らを被害者と位置づける中国と韓国の主張は一面的な見解だ」として日本への理解を示したことだった。
 コンパス紙の社説は、東シナ海での日中間の緊張が高まっているこの時期の参拝は「適切なタイミングではなかった」としながらも、今回の参拝は、戦死者の霊に祈りを捧げ、日本国民が再び戦争の惨禍に苦しむことのないように取り組む決意を伝えたものだとする「安倍首相の見解」を紹介していたという。
 産経新聞の同報道によると、コンバス紙の社説は「靖国神社には、現在は戦争犯罪者と見なされている数百人だけでなく、戦争の犠牲となった約250万人の霊も祀られている」と指摘し、国に命を捧げた人々のために参拝することは日本の指導者として当然だとする安倍首相の立場にも言及した。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

「コンパス」の社説は日本側の主張・事情にも触れているというくらいでそれに同調してはいません。「日本の指導者として当然だとする安倍首相の立場にも言及した」というのも「コンパス」紙の意見というより、以下の通り「安倍首相によれば」という安倍首相の言い分を伝えたに過ぎません*1

安倍首相によれば、国のために命を捧げた人々に敬意をあらわし、彼らのために参拝することは日本の指導者として当然であるという。

http://honnesia.doorblog.jp/archives/35250022.html

嘘その8

 さらに黒瀬記者はシンガポールの「ストレート・タイムズ」紙の論調を伝えていた。それは以下のような骨子のものだった。
 「安倍首相が参拝に踏み切ったのは、これまで摩擦を避けようと終戦記念日や春秋の例大祭で参拝を見送ったにもかかわらず、中韓両国が強硬姿勢を崩さず、冷え切った中韓との関係に改善の見込みは少ないと見切ったためだ」
 つまりストレート・タイムズは、中韓の日本敵視政策が逆に参拝の呼び水になったという見方をしているのである。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

ストレート・タイムスは1月3日に“Sadly, Yasukuni remains a festering sore”というかなり批判的な社説を書いていますが、古森氏はじめ産経新聞などはスルーしていますね。