産経新聞と古森義久氏による不都合情報トリミングの共同作業

既に指摘済みのことですが、安倍首相靖国参拝強行(2013年12月26日)に対し、シンガポール政府は12月29日、遺憾であると表明しています。

中国・韓国以外から非難されることを想定していなかったであろう産経新聞ですが、事実を否定することは出来ず、共同配信とは言え一応報道しています。

【首相靖国参拝シンガポールが遺憾表明

2013.12.29 18:40
 シンガポール外務省の報道官は29日、安倍晋三首相の靖国神社参拝を「遺憾だ」とする声明を出した。シンガポールは、日本とも中国とも常に同じ距離を保つ外交方針を取っており、日中対立で明確な立場を示すのは極めてまれだ。
 声明は、尖閣諸島竹島をめぐる中韓との対立を念頭に「最近の一連の出来事によって、地域の緊張が高まっている」と指摘。こうした状況下での参拝は「さらなる反発感情を引き起こす可能性が高い」とした。
 シンガポールは、2006年8月に当時の小泉純一郎首相が参拝した際も、遺憾とする声明を出している。
 旧日本軍は1942年、英国植民地だったシンガポールを占領。抗日運動を抑え込むため多数の中国系住民を殺害したとされる。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131229/asi13122918410002-n1.htm

しかし、越年するとシンガポール政府の遺憾表明を卑小化しようと試みます。

【首相靖国参拝】冷静な反応目立つ東南アジア諸国

2014.1.3 21:05 (2/2ページ)[アジア・オセアニア
(略)
日本の「軍国主義化」を非難する中韓のように、先の戦争の文脈で参拝そのものを批判したのは、これまでのところ、台湾と、中国系の人口が大半を占めるシンガポールだけで、一部で主張されるような、靖国問題を含む歴史認識問題で「日本がアジアで孤立する」といった事態は想定し難いという事実が改めて浮き彫りとなった。
(略)
(黒瀬悦成)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140103/asi14010321060004-n2.htm

“冷静な反応目立つ東南アジア諸国”というタイトルで、中国・韓国以外の東南アジア諸国靖国参拝を非難していないという主旨の記事で、シンガポールによる非難に一応触れてはいますが、シンガポール政府による公式発表であることがわかりにくい上、「中国系の人口が大半を占める」などとつけることで、中国の影響を受けているかのような印象操作を試みています。
私自身は、最初にこの記事を読んだときシンガポール政府による批判に触れていないと解釈してしまいました。
卑小化されているものの、シンガポールに触れているだけまだマシかもしれません。
次にこの記事をひいた古森氏は、シンガポール政府が批判した事実そのものを消してしまいます*1

靖国参拝で日本が孤立」は歪曲報道だむしろ日本を擁護する東南アジア諸国

2014.01.08(水) 古森 義久

太平洋戦争の激戦地、東南アジア諸国の反応は?

 靖国神社と一体化して語られる日本の軍事行動の肝心の舞台となった東南アジア諸国はどうだろうか。靖国神社が日本の対外的な軍事行動を象徴すると言うのならば、東南アジアこそ日本の首相の靖国参拝に最も激しく反発するはずだ。
 ところがそうではないのである。東南アジア諸国からは、政府レベルでの今回の首相の参拝への非難は1月7日の現在にいたるまでまったく出ていない。
(略)
 繰り返しとなるが、安倍首相の参拝の12月26日から10日以上が過ぎた1月7日までに、政府が公式の声明や言明でこの参拝を非難したアジアの国家というのは東南アジアでは皆無である。インドやパキスタンを含む南西アジアでも同様なのだ。
(略)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

古森氏は「政府レベルでの今回の首相の参拝への非難は1月7日の現在にいたるまでまったく出ていない」と断言し、虚偽を述べています。ご丁寧にも「繰り返しとなるが、安倍首相の参拝の12月26日から10日以上が過ぎた1月7日までに、政府が公式の声明や言明でこの参拝を非難したアジアの国家というのは東南アジアでは皆無である」と事実に反することを二度も繰り返し強調し、読者を騙そうと試みています。

古森氏はシンガポール政府による非難の事実を知らなかったのか、というと、それはまずありえません。

 東南アジア諸国の安倍首相の靖国参拝への反応が中韓両国とは異なり冷静であることは、1月4日付の「産経新聞」でも詳しく報道されていた。
 読売新聞記者としてインドネシアやインド、米国などの駐在特派員を務め、2013年12月に産経新聞に移ったばかりのベテラン記者、黒瀬悦成氏による報道は、ベトナム、インド、インドネシアなどでも政府レベルでの靖国参拝批判はまったくないことを伝えていた。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39618

上で引用した黒瀬悦成記者の記事を取り上げ「1月4日付の「産経新聞」でも詳しく報道」などと言っています。「1月4日付の「産経新聞」」にはシンガポールが批判したことに辛うじて触れています。黒瀬記者の書き方が悪いのか、古森記者の読み方が悪いのか、頭が悪いのか、根性が悪いのか、どうかわかりませんが、とにかく、共同配信から黒瀬記事、黒瀬記事から古森記事へと至る過程で、シンガポール政府が公式に安倍参拝強行を非難した事実は削除・隠蔽されてしまいます。歴史修正の完成です。

2週間前のことも修正する産経。

*1:ちなみにこの古森記事は様々な事実に反するデマが書かれており、それについては別記事で指摘していますhttp://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140109/1389283516