とりあえずダメだししときます。

自称「現実主義」と言わざるを得ないほどなんですよね、これ。
河野談話検証で手詰まりとなった日韓両国 - 日はまた昇る
みなさん!現実主義って用語、誤解してませんか? - 日はまた昇る

本人が書いている内容自体に矛盾や不整合があったりとひどいものなんですが、わかりやすい点を指摘しておきます。

国益の定義の不整合

2本目の記事のこの部分で「国益」を定義しているんですけど、「例えば」で例示している内容が定義に沿っているとはとても言えませんね。

国益という用語は、national interestの日本語訳なんだけど、僕は「国力を増大させる方向へ役に立つもの、利益」と考えている。
次に国力の定義だけど、こんな感じ。
国力は、軍事力、経済力、技術力、文化力、情報力、人口、領土、資源などからなる国の総合的な力であり、他国に対し、自国の意思に沿うように影響を与える力のこと。

つまり、国益というのは、他国に対する影響力を高める方向に繋がるものを国益と考えている。
例えば、慰安婦問題でいえば、

1.朴槿恵大統領が外訪して日本の非難を行う という行動は、日本の国益を阻害している(マイナスの国益)と考えるし、
2.アメリカが韓国に慰安婦問題で対話を促す という行動は、アメリカを経由して日本の意向(対話する)を韓国にきかせようとしているので、日本の国益に沿う(プラスの国益)と考えるわけ。

http://thesunalsorises.hatenablog.com/entry/2014/07/01/000826

この例示の「1」である「朴槿恵大統領が外訪して日本の非難を行う」と言う行動が、日本の“国力(軍事力、経済力、技術力、文化力、情報力、人口、領土、資源など)”の何を損ねるんでしょうか?
“日本が慰安婦問題を否認し誠意ある対応を拒んでいる”と韓国が外国に対して訴えることで、日本の軍事力も経済力も技術力も文化力も情報力も人口も領土も資源も損なわれません*1。そもそも「あらゆる価値観を排除して国際関係を客観的に分析しようとする」「現実主義」を標榜するのならば、慰安婦問題のような人権問題での非難・指摘など国益の評価に加えるべきでないんですよね。

the_sun_also_rises氏のおかしなところは、日本が慰安婦問題を無視するのは「現実主義」的に日本の国益に適うと判断する一方で、韓国が慰安婦問題を取り上げるのは「現実主義」的に日本の国益を損なうと、同一の問題の影響を対象国ごとに変えている点で、まあ要するにダブルスタンダードです。
言うまでもなく、韓国が慰安婦問題を取り上げることが日本の国益を損なうのならば、日本にとっては慰安婦問題を解決することが日本の国益に適うわけであり、日本が慰安婦問題を無視するのは日本の国益に適うのであれば、韓国が慰安婦問題を取り上げても日本の国益には影響がないと判断するのが当然です。

例示の「2」についても韓国と対話することが日本の国益になるのならば、慰安婦問題を解決させることが日本の国益に沿うというのが「現実主義」的な判断になるはずなんですよね。

要するに、the_sun_also_rises氏の脳内日本は韓国と対話したいけど慰安婦問題で謝りたくない、という2つの欲望を取捨選択できないために行き詰っているだけです。「現実主義」的に考えるなら慰安婦問題で謝ってしまい韓国と対話できるようにした方がいいという判断も出てくるんですが、それはthe_sun_also_rises氏の“価値観”では認められないわけで、それを正当化するために1本目の記事で勝手な前提を設定しているわけです。

勝手な前提

国際関係における現実主義は、世界は無政府状態であるという考えを基礎に置き、国際関係の行為主体は国家以外になく、無政府世界における国家の至上目標は生き残りであるために安全保障が最優先となり、そのためにパワーが用いられ、国際的な様々な事象が発生する、という考え方である。あらゆる価値観を排除して国際関係を客観的に分析しようとする点に特徴があり、国際協調や国際法を重視する理想主義に対して批判的である。軍事力や国益を重視するが、好戦的であることを意味しない。
現実主義 - Wikipedia

http://thesunalsorises.hatenablog.com/entry/2014/07/01/000826

用語の使い方が粗雑であるのはWikipediaなので許容するとして、国際関係論における「現実主義」を説明する文章としてはまあ理解できる内容です。ここに「国家の至上目標は生き残りである」という「現実主義」における前提が述べられているにも関わらず、the_sun_also_rises氏は韓国の国益を以下のように決め付けます。

韓国は、慰安婦問題を解決しないことが韓国の利益になっている。「人道」という錦の御旗でいつでも好きなときに日本に対して非難を浴びせられ、日本からの譲歩を勝ち得る材料となるからだ。解決すると、その外交カードを失う。そんな合理的な判断があり、日本に対し、日本が飲めないとわかっている要求をつきつけている。それは韓国の立場からすると、当然のことだと思う。

http://thesunalsorises.hatenablog.com/entry/2014/06/29/205019

日本に対して非難を浴びせることは、国際関係論の中では通常(「現実主義」の立場では特に)「パワー」とは呼ばれませんし、他国を非難することが国益にもなりません。「日本からの譲歩を勝ち得る材料」というのも一体韓国は慰安婦問題で何を日本から得たと言えるんでしょうか?少なくとも韓国の軍事力、経済力、技術力、文化力、情報力、人口、領土、資源のいずれに資していないことは明らかでしょう。では、「慰安婦問題を解決しないことが韓国の利益になっている」というのは、国際関係論での「現実主義」でどう説明できるんでしょうか?
the_sun_also_rises氏は自分で「僕は「国力(軍事力、経済力、技術力、文化力、情報力、人口、領土、資源など)を増大させる方向へ役に立つもの、利益」と考えている。」と言っているにもかかわらず、韓国だけは全く国力の増大に資さない、「慰安婦問題を解決しないこと」を追い求めている存在と決め付けているわけです。
これ、将棋で言えば、相手は王将よりも飛車を大事にするという前提で思考するようなもので、独りよがりのへぼ将棋としか評しようがないんですよね。

少なくとも国際関係論の「現実主義」で思考するのならば、この「慰安婦問題を解決しないことが韓国の利益になっている」という前提はありえません。

結局、韓国が悪いと言いたいだけで、

そういう露骨な主張を、学術用語“風”の言葉で装わせて、差別感情を正当化する論調に仕立て上げているだけと評さざるを得ません。

ネット上には簡単に惑わされる人も多いですし、そもそも嫌韓感情を共有している人からは自らの差別感情を正当化してくれる都合のいい言説として歓迎されるでしょうが、これって割と典型的なダメな科学の手法なので注意してほしいと思います。ダメな科学の見分け方に沿うなら、学術用語と称するものを多用するのは権威付けを狙う行為であって「センセーショナルなタイトル」での注意点に該当するでしょうし*2、韓国だけは特殊な国益を求めているという前提は適切な対照群を置いていないという点で「対照群がない」の注意点に該当するでしょう。
日本にとって「現実主義」的に考えるならば、中国との対立を前提とした対中包囲網を想定して韓国を自陣営に引き込むための障害となる慰安婦問題を解決させるか、アメリカのパワーに対抗することを想定して中国・韓国との協力体制をとるための障害となる慰安婦問題・領土問題を解決させるか、いずれにしても慰安婦問題を解決させることが国益に適うと言えます。

the_sun_also_rises氏の場合はそもそも中国や韓国が嫌いだという個人的感情が先にあり、それを正当化するための理屈をつぎはぎしているに過ぎず、いわば本人が一番自らの「価値観」に振り回されていて「あらゆる価値観を排除」した思考ができていないと言えますね。

1.the_sun_also_rises氏は韓国が嫌いだから、日本が慰安婦問題で謝罪することを認めたくない

2.だからといって、日本が原因で慰安婦問題が解決しないとも認めたくない

3.なので、慰安婦問題が解決しないのは韓国のせいであってほしい

4.「慰安婦問題を解決しないことが韓国の利益になっている」としてしまえ

こういう逆算をした結果、彼の論理では「慰安婦問題を解決しないことが韓国の利益になっている」と前提せざるを得なかった、というわけです。
いろんな意味で「現実主義」とは言えない思考で、「みなさん!現実主義って用語、誤解してませんか? 」というタイトルに対しては「お前だよ!」と返したくなります。

*1:間接的な影響はありえるでしょうけど、ほとんど無視できる微々たるものでしょう。

*2:一般的でない用語を不適切に多用して説明をごまかす手法と言え、新興宗教や詐欺で良く見られる手口ですが、「「ダメな科学」を見分けるための大まかな指針」に直接は含まれていません。「センセーショナルなタイトル」が一番近いと思いますが、そもそも「「ダメな科学」を見分けるための大まかな指針」自体が、ある程度の科学リテラシーのある人向けだということでしょう。